調達力・購買力の基礎を身につける6
(1)-1 戦略をいかに立てるか<基礎知識>
(1)-2 戦略をいかに立てるか「私の経験」
「こんな戦略にどんな意味があるんだ!」
そう怒られたことがあります。調達戦略会議の席上のことです。
当時の私の上司は設計部門出身でした。その上司に私の調達戦略を説明したところ、「全く意味のない戦略だ」と言われました。私だけではありません。ほとんどのバイヤーに対して、同じ指摘がなされました。
別に、その年のバイヤーが手抜きをしたわけではありません。例年通り戦略資料を作成していたつもりでした。つまり、それまでバイヤーが自己満足していた資料は、第三者的に見れば全く意味を持たないものだったのです。
なぜでしょうか。今思えば、その指摘は正しいものでした。
たいてい調達・購買部門が「戦略」と呼ぶものは次のうちどちらかでしょう。
(1) 現状の継続をただ肯定し、それがさも考え抜かれた戦略にのっとっているかのように示されたもの
(2) 自社の現状を全く無視し、妄想を示したもの
(1)は最も見られるパターンです。現状のシェアをそのまま移行させ、将来の調達戦略としているもの。A社、B社、C社のシェアが50%:20%:30%だとしたら、そのまま将来のシェアとしてしまう。これはラクではあるのですが、そもそもの戦略の意味を喪失しています。現状を否定することは言い辛いのでしょうが、これではそもそもの目的を果たしていません。まさに、私の例はこの(1)でした。
(2)はときに調達・購買部門の独りよがりとして出てきます。そもそも調達戦略といえども、他部門と完全に独立して存在するようなものではなく、協調して作り上げられるべきものです。「ここのサプライヤーは安いのに、設計者が知らない」と言うのは、単純にそのバイヤーに情報提供力がなく、協調性を欠いていることを表しています。
(1)-3 戦略をいかに立てるか「戦略の構築のために」
戦略を構築するためには、まずその戦略の目標を部門で共有します。その後、自社の調達分野を購入高や技術の先進性によって4つの分類を行います。自社製品で分類するか、あるいは部品軸か。この分類は企業によって異なってくるでしょう。
①特命購買方式・・・購入数や購入金額が大きく、特定のサプライヤーからしか調達できない領域です。この場合は、特命購買方式を採用します。早い話、見積り依頼先を1社に絞り込んで、そのサプライヤーと戦略的な関係を構築します。仕様の作り込みや、原価企画、品質の熟成などを早期から合同で実施します。特定のサプライヤーしかできない仕様なのに、無理に競合を実施しようとするバイヤーがいますが、それは無理というものです。競合他社は当て馬として使われるだけの結果になります。それよりも、両社で高いコスト目標を共有し、それに向かって協同していく方が得策です。
②徹底競合・・・バイヤーが最もやりやすい領域です。購入数・購入金額が大きく、しかも複数のサプライヤーからも購入できる領域では、相見積りにより徹底競合を実施します。ここでは、サプライヤー間の品質・技術力が同等であることが前提のため、事前のチェックが欠かせません。
③取引関係重視・・・取引額は大きくないものの、特定のサプライヤーからしか調達できない領域です。ここではサプライヤーとの取引関係を重視します。例えば、少量生産の製品や、ライフサイクル末期の製品に使うものが想定できます。標準部品で代替できない場合がほとんどでしょうから、ドラスティックな調達構造変化を目論むと、急遽生産を中止されたり値上げを申請されたりします。バイヤーがサプライヤーに対して弱い領域であり、安定調達を第一とします。
④都度最適選定・・・どこからでも調達でき、購入数・購入金額も大きくない領域です。ここでは、力を入れても実りは少ないため、都度最適なサプライヤーから調達します。例えば、早期調達が可能なサプライヤーや、その時点で最安値のサプライヤーなど。その都度最も求められている内容に対して適合したサプライヤーを効率的に選択してゆきます。
こう分類してゆくと、全ての領域を一括して戦略を構築することができないということが分かります。戦略とは、全てにまんべんなく力を入れるものではなく、目的達成のためにより力を入れるところと、確信犯的に力を抜くところを決めることでもあるからです。
そして、この分類のあとに各サプライヤーのシェアがざっと計算できることになります。競合体制を構築できる領域が少なく、いくつかのサプライヤーの寡占になってしまうことが分かれば、新規サプライヤーを探すことになるでしょう。サプライヤーの数が多すぎて、管理ばかりに手を取られているのであれば、サプライヤーの数を減らすことにもなるでしょう。
そのようにいくつかをシミュレーションし、サプライヤーを並び替えたりして、その時点での最適案を模索します。重要なのは、繰り返しですが「どの場合に戦略の目標に最も近づくのか」ということです。コストを低減することが目的であれば、そのサプライヤー配置にしたときに果たしてコストは下がっているのか。違う配置の方がより下がりはしないか。それは現実的か。などなど。多面的に考えてゆきます。さらには上手くいかなかったときの代替案もいくつか考えます。
このように考え、いくつかの評価を受けてゆくと調達・購買部門としての戦略ができあがります。そうすれば、現実的で目的のはっきりしたものとなっているはずです。
ここまでくれば、社内の関係部署にも自信を持って説明できるはずです。社内を説得し、納得してもらい、全社一丸となった活動が実施できるはずです。
多くの場合、企業の中で同一領域を担当しているバイヤーは一人しかいません。その一人が「なぜあなたはその部品を、そのサプライヤーから、その方法で調達しているのか」という質問に答えることができなければ情けないことです。各設計者はその領域の一部には関わるでしょうが、領域全体を見渡すことができるのはバイヤーしかいません。
確信を持って、自分の担当領域の戦略を語れるようになって下さい。
(1)-4 戦略をいかに立てるか「雑感」
バイヤーの中には悪い癖を持っている人がいて、戦略を難しく語ろうとする人がいます。ビジネスモデルがどうだとか、プロダクトライフサイクルマネジメントがどうだとか。そこには、設計者が分からないような、事務系特有の用語で逃げようとする意図が私には感じられます。
他部門にも分かりやすい言葉で語らねば、いつまでたっても理解は得られません。私の師匠は「小学生が分かるかどうかでその人の説明力を測ることができる」と言っていました。「横文字・カタカナではなく、ひらがなを使え」とも。
それに倣って言うのであれば、調達戦略にはひらがなが必要です。クリアで分かりやすい戦略。
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(2)-1 開発購買をいかに進めるか<基礎知識>
(2)-2 開発購買をいかに進めるか「私の経験」
「いまさら間違っていたなんて言えませんよ!」
設計者から怒鳴られたことがあります。部品の見積りを見せたときでした。私から見れば、別に高いとも思えずリーズナブルと判断できました。以前購入したレベルと比しても問題があるように思えません。そこで、設計者に対して「このくらいのコストになりそうだ」と報告したところ、彼は急に怒り出すのです。「そんなコストのはずはないでしょう。もっと安いはずです」と。私は反論しましたが、聞いてもらえません。
話をしてゆくと事情が分かりました。その当時、開発購買推進というスローガンの中で、その名の通り「開発購買課」というセクションが設立されていました。そこが窓口となり、各設計部門と仕様の打ち合わせをすることになっていたのです。私たち現場のバイヤーは、その下流でサプライヤーからいかにより安価に調達するかを考えろ、と言われました。
問題は、その開発購買を推進するメンバーがサプライヤーと直接やり取りをしない人たちだったことです。設計者は「開発購買課から『こういう仕様にしてくれ』と要求があった」と言います。「そうすれば、理論上コストが下がるから」とも。
しかし、理論上コストが下がることと、実際の見積りの価格が下がることは別のことです。サプライヤーが置かれた状況もあります。材料の市況もあります。コストテーブルで計算したら下がるかもしれませんが、そもそもその下がった価格で売るかどうかはサプライヤー次第です。しかも、私の例で言えば単純な理論コストの積み上げの間違いがありました。
そういうことを設計者に伝えましたが、もう設計者の予算はありません。「もう予定原価が間違っているなんて言えないですよ」と。開発購買課に苦情を言っても「その理論コストで調達してくるのがキミたちの仕事だ」と言うだけ。私はサプライヤーに何度も足を運び、そのときだけは無理をお願いし、なんとか「理論コスト」に合わせた後、設計者には「今後、開発購買課の言うことは一切聞かず、私に相談してください」と依頼しました。
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(2)-3 開発購買をいかに進めるか「開発購買の問題点」
開発購買、という言葉に対していくつかの誤解が生じているように感じます。その中で、代表的なものが次の二つです。
(1) 開発購買は、専門のセクションが実施するものだ
(2) 開発購買によって原価が下がればそれだけで成果である
まず、(1)ですが、開発購買という名のついたセクションを作らねば開発購買は実施できないという考えは思い込みです。また、開発購買というものが新しい取り組みだという考えも同様に思い込みです。
そもそも、日々の調達活動から得られた情報を設計部門にフィードバックし製品仕様に盛り込む、ということはバイヤーであれば当然やらねばなりません。それを特別なセクションしかできないと思い込み、現場のバイヤーと分離することは愚の骨頂です。多くの組織で見られる開発購買の失敗は、開発購買セクション(たいてい年配者や設計出身者が多い)のやることが現場と乖離していたり、反していたりすることにあります。ちゃんと見積り書を入手し交渉するところまで実践できない人を開発購買に参加させてはいけません。
また、現場のバイヤーが開発設計の上流に参加していくことは難しくないことです。設計部門と定期的なミーティングを開こう、と提案するだけで可能になります。多くのバイヤーは自ら開発設計段階の情報を入手しようともしていませんので、そのような会議で現在進行中の開発品を知り情報交換するだけです。
重要なのは、開発購買ということは特別ではなく、日々の業務で実践せねばならないと認識することです。現場のバイヤーがサプライヤーの最適仕様を伝え、それと社内の要求仕様との合致点を模索してゆくことです。
次に(2)に関して。どうしても開発購買というと、原価が下がることばかりに注目されがちです。私も主な目的としての認識は持っています。しかし、そもそも開発購買の目的は「目標原価達成」だけではなく、QCDに優れた「魅力ある製品作り」にもあります。
開発購買を進めてゆくと、標準化活動に携わることになります。これは、社内で基準を持ち、できるだけ同一の部品を使ってゆこう、という活動です。確かに、設計者各人がバラバラな部品を選定していたら種類は膨らむ一方です。実際に、同仕様の部品を様々なサプライヤーから調達している例もあります。そのような際には部品の標準化活動は有効でしょう。さらに、どちらを使っても大差のない部品には、このような標準化活動は推進されるべきです。
しかし、行き過ぎるとそのお題目だけが一人歩きすることになります。標準部品と認定されたものを使うことだけが正義とされ、それを選ばなければ悪とされ出します。ここでは、そもそもお客に対して「魅力ある製品作り」を行おうという意識は消えています。
そもそも製造業はお客に買ってもらえる製品を作らねば成り立ちません。お客の求めるものは日々進化し、要求レベルは高くなっています。ある自動車メーカーでは一時期使用部品を可能な限り限定しました。しかし、その結果、市場に対する魅力度が低下し、現在では部品種類を拡大する方向に進んでいます。
(2)-4 開発購買をいかに進めるか「開発購買の進め方」
開発購買を進めるとは、まず設計部門の参謀になることです。市場の動向を調べ、サプライヤーや各種資料から見えてくる他社動向を知り、新たなサプライヤーと出会い、コスト低減のノウハウを学び、その全てを社内に注入することです。
その活動の果てには、きっと調達・購買部門が頼られることになります。開発設計の会議にも呼ばれるようになります。設計者の意識も変わってきます。
地道な行動の積み重ねのあとに、気づけば「開発購買ができていた」と認識されるようなものだ、と私は確認しています。
開発購買実現のために
・ 設計部門と定期的なミーティングを持ちましょう
・ 業界、他社動向調査を定期的に実施しましょう(業界紙の購読は欠かせません)
・ サプライヤーの株価、決算状況を確認しましょう
・ コスト低減の成功事例を共有化しましょう
・ 設計部門で実施される仕様会議に積極的に参加しましょう
どれも特殊でないことばかりです。
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(3)-1 サプライヤーへの通知・発注手続き<基礎知識>
(3)-2 サプライヤーへの通知・発注手続き「私の経験」
「もう、お金を払ってもらわないと困りますよ」
営業マンからこう言われて、こちらが困ってしまったことがたくさんあります。
RFxの過程で、営業マンがしつこく「ウチの価格どうですか?」と訊いてくるので私は常に「いいんじゃないですか?」と答えていました。結果が出たら連絡すると言っているのに、「どうですか?」などと探りを入れることはどこかアンフェアな雰囲気を感じます。それはつまり「他社と比べて高ければ、安くします」と言っているわけで、そんなことであれば最初から安い見積りを提示して欲しい。ベストの見積りを提示しているのであれば、他社の動向を気にすることすらないはずです。
それで、結局発注お断りの書面を受け取ってしまうと、「なんですか、これは」と怒りだしてしまう。そんなサプライヤーが何社もありました。「お分かりの通り、お断りの書面です」と申し上げても、「以前お聞きしたときは『いいんじゃないですか』と言われたでしょう!もう、設計も進んでいて、お金を払ってもらわないと困りますよ」と、さも自分たちが受注するのが当然だという風に騒ぎ出します。
こういう人には、「それは受注前活動ですね」と言って常識を教え込むほかありません。口頭での対話だけで見切り発車して社内を動かすような営業マンに付き合う必要性があるのか判断に迷います。
しかし、重要なのは「明確に通知するまでは発注先決定ではないこと」「発注先が決定したら速やかに書面を通知すること」をサプライヤーに認識させることです。「こちらも各プロセスを明確するから、そちらも曖昧なまま自分たちが受注したかのように勘違いするな」と伝えましょう。曖昧さは常に誤解を生みやすくします。
発注先決定の書面を注文書に代えることが見受けられます。これは特に問題ありません。しかし、発注先サプライヤー決定から実際の発注までに時間がかかってしまうような種類のものであれば提示してあげるべきでしょう。フォーマットに特に決まりはありませんが、単なる受注前活動か、正式に受注したのかではサプライヤーの姿勢もおのずと異なってきます。
もちろん、将来に大幅な変動が見込まれ、下手に書類を提示すると自社に不利になることも考えられます。例えば、発注先としてA社に決定しようとしているが、今後仕様変更が見込まれ、その仕様であればB社の方が安価になる可能性が高い、など。そのときは「発注先決定通知を遅らせた方がよい」という判断もあるでしょう。それは、バイヤーの臨機応変な判断に拠ります。
ただし、そのような場合を除けば、基本は明確化することであり、書類を提示することを忘れてはいけません。「あの競合結果って結局どうなったんでしょう?」とサプライヤーに訊かれている場面をよく見ます。確かに「断る」という行為は気持ちの良いものではありませんが、書面できちんとお断りをし、どこが弱かったのかを教えることはサプライヤーの将来の改善につながることは忘れない方がよいでしょう。
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(4)-1 急な値上げ・生産中止にいかに対応するか<基礎知識>
(4)-2 急な値上げ・生産中止にいかに対応するか「材料値上げ、生産中止狂想曲」
会議から戻ってくると書類の山。それも全て生産中止資料の束。私はそんな時期を過ごしたことがあります。「昨今の厳しいコスト要求に応えるべく」云々という文面の後に「受注の少ない製品に関して生産打ち切りと致したく」と続く書面をずっと処理していました。
そういうサプライヤーは「厳しいコスト要求に応え」てくれていないときがほとんどだったのですが、それはいいとして、ほとんどの場合は「新しい製品が出たから古い製品なんてもう作っていられません」ということです。たいていはその文章が発行された3ヵ月後までに保守用まとめ発注(ラストバイ)をせよ、と指示されます。以降は、その製品を調達することは諦めろ、というわけです。私は、そういう書類を受け取っては、社内の需要数を調べて、それを基に価格を交渉し、納期について打合せし・・・ということを繰り返していました。
何十回と経験した生産中止の処理の過程では、需要数を提示忘れた設計者から「せめて回答猶予は2ヶ月ほしい(だから、回答忘れた)」とか「すぐに生産中止させる調達・購買部門が悪い」とかいうクレームが相次ぎます。散々でした。
ときに「契約書で生産永続を死守させよ」というアドバイスをする人がいますが、現実的には何の役にも立ちません。契約など、しかるべきところに訴える場合にのみ効果があるもので、それ以前は紳士協定に近いものです。せいぜい「生産中止にするのであれば、半年前に教えてください」と指示するくらいです。中には「受注が落ち込んでおり、50%コストをアップさせてくれないと生産継続は難しい」という脅しのような連絡をしてくるサプライヤーまでいます。
それを抑え込んだと思ったら、次は値上げ申請をしてくるサプライヤーたち。「バイヤーなんてサプライヤーが頭を下げてくる前で偉そうにしているだけでしょう」という他部門の思い込みとは全く異なった現実にぶつかっていました。
営業マン:「ご存知の通り、最近の材料市況は上昇する一方でして」
私:「何の材料がいくら上がったんですか?」
営業マン:「鉄です。鉄が上がってどうしようもなくて」
私:「じゃぁ、この製品の使用量は?」
営業マン:「・・・」
私:「想像するに、この使用量は3キロくらいですよね?市況の上がり方から見ても、この値上げは過剰なのでは?」
営業マン:「・・・」
「よし、一件解決」と思えば、次は「樹脂材料が上がった」と言ってくるサプライヤー。私は一体何なんだろう、と嘆いていました。