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調達力・購買力の基礎を身につける3

(1)-1 リバースオークション<基礎知識>

近年ITツールの発達により登場してきた調達手法にリバースオークションがあります。

リバースオークションは、独自のソフトウェアやweb上で実施されることが多いため、電子リバースオークション(Electric Reverse Auction)の頭文字をとってe-RAと呼ぶこともあります。

調査データによっても異なりますが、米国ではリバースオークション使用企業が50%強におよび、総支出の3~5%の削減実績があります。今後も拡大が予想されています。

通常のオークションが売り手からの提示に応じて買い手が購入価格を競い合うものに対して、リバースオークションではまず売り手が購入したい製品・仕様を提示し、サプライヤー側が販売価格を競い合うものです。

・ 対象となる購入品を選定

・ 適合するサプライヤーを選別

・ 調達条件を定義

・ 開始入札価格・終了時間を決め、リバースオークションを実施

上記のプロセスを経ることになります。

リバースオークションの特徴として、多くのシステムに採用されているのはサプライヤー同士を競わせる仕組みです。サプライヤー側は、現在何位か、そして最安値企業はいくらを提示しているか、を知ることができます。

一般的にリバースオークションでは終了時間間際に各社値下げしてくることが多く、コスト低減に有効だとされます。

しかし、リバースオークションを使うだけで価格を下げることができると考えるのは間違いです。あくまでも、業務プロセスを効率化するものとして使われるべきで、コスト低減のための魔法の杖ではないことは認識されるべきでしょう。

(1)-2 リバースオークション「私の経験」

「全然使えないじゃないか!」

私が設計者と話していたときに、設計者があきれてこう言ったことがあります。

リバースオークションを実施し、その結果最も安価であったサプライヤーから購入した製品が不具合を生じさせたことがありました。その不具合対策会議を実施していたときのことです。

確かに見た目の価格は安かったのです。

しかし、その杜撰な生産管理は驚くべきものでした。次から次に不良品が納入され、「価格が安いから購入しましょう」と言ったバイヤー(私)の立場はありませんでした。

そのサプライヤーはISOを取得しているとのことでしたが、品質保証体系の実態はめちゃくちゃ。

例えば、その製品は多くの部品からなる複合部品でしたから、誤って組み立てなような施策(誤組み対策)が必要でした。そこでそのサプライヤーは誤組み対策として、間違えやすい「R」と「L」など部品にシールを貼って認識する、と言っていました。が実際の現場で作業していたのはその「R」を読めない外国人労働者でした(どうやって日本まで来たのだろう)。

そこから私たちはそのサプライヤーから購入することを急いで止め、元のサプライヤー製品に再度切り替えました。

元のサプライヤーがよい顔をしてくれるはずもなく、また関係部門の手間も莫大なものになり、トータルのコストとしては以前よりも上がってしまいました。

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(1)-3 リバースオークション「リバースオークションの使い方」

私のミスは必然でした。

リバースオークションを使っただけでコスト低減が簡単にできるわけではありません。サプライヤー調査や綿密な精査などをすっ飛ばして、画面上の情報だけを見て判断していたのですから。

そもそも業務プロセスをおろそかにせず、ちゃんと整備した後に、交渉代理システムとしてリバースオークションを使用するべきだったのです。

どのようなサプライヤーを選定するか、は注意を要します。サプライヤーが新規だった場合は、当然のごとくフェイストゥフェイスのときと同じように厳密な調査・ヒアリングが必要となってきます。

加えて、リバースオークションは結果がはっきりと分かるため、最安値のサプライヤーにきちんと注文書を発行せねばなりません。「ためしにやってみただけ」では、次回以降誰も参加しません。

また思うに、リバースオークションに適した商材があります。それはいくつかの条件を満たしたものです。

① 仕様や取引条件が明確化できるもの

② 現行の価格が高いと分かっているもの

③ いつでも切り替えることのできるもの

④ 同じような製品を持つサプライヤーが多数存在すること

カスタム品をリバースオークションにかけようとする人がいますが、①のようにサプライヤーとバイヤー企業が共同してコンセプトから創り上げてゆくものは適合するとは思えません。また、②現行のコストが高いという認識・事実がなければ、わざわざリバースオークションを実施する必要もありません。③切り替えることが事実上困難(重要機能を要す部材など)であればコスト低減は絵に描いた餅に終わってしまいます。④参加企業がなければ、現行サプライヤーとの関係強化に力を注ぐべきです。

このように考えると、現状ではリバースオークションが有効なのは一般材(事務用文房具・旅券)に限定されるであろうと思います。

ただし、一般材は誰も手を付けていない領域であるために、コスト効果は大きいはずです。多くのリバースオークション導入成功企業も、まずは一般材から始めています。

否定的なことも書いてきましたが、リバースオークションは非常に有効なITツールであることは繰り返し述べておきたいと思います。ただ、同時に繰り返すと、ITツールだけでは業務を劇的に改善することはできず、業務プロセスの整備と実施が最初にあり、それらを効率化することにその存在目的があります。

2016年6月24日講義写真

(1)-4 リバースオークション「雑感」

バイヤーが「市場価格を知る」というとき、どうやって知ればいいでしょうか。材料やDRAMのように日経新聞に日々の市況が載っているものは分かります。しかし、それら以外はよく分かっていないのが実情ではないでしょうか。

リバースオークションは市場価格を知ることができるツールと言えなくもありません。自分たちが購入しているレベルが市場と比較しても十分に安価かどうかを確認することもできます(あまりに安かったら現行サプライヤーの価格を硬直させてしまいますが)。

私はリバースオークションをサービスとして持つ人たちと話すとよく次のような会話をすることがあります。バイヤーにリバースオークションを提案すると「自分が買っているものは十分に安い」と言われる、というのです。もちろん、自負もあるのでしょうが、そもそも市場価格を知らずに言っているのだとすれば放漫と言えなくもありません。

ですから、リバースオークションにやや批判的なことを書きつつも、分野によっては市場価格を知るツールとして十分利用可能ではないかと私は思います。

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(2)-1 BPO<基礎知識>

調達・購買分野におけるBPO(Business process outsourcing)とは、調達機能の一部あるいは全てを外部の業者に委託してしまうことを指します。

一般的に調達・購買分野のBPO対象となる業務は下記のようなものが考えられます。

・ サプライヤーの情報収集

・ 業界、市場調査

・ システム運用・保守

・ 見積りの入手、コスト交渉

・ 在庫の管理、保守部品の管理

・ 発注処理(各種データ入力処理)

BPOの進んだ米国では、契約業務を委託することもあるようです。また、中小企業の中で調達・購買部門をそもそも持っていないところは、調達代行業者に一任してしまうこともあります。

BPOとして請け負う企業は、スケールメリットを生かした調達を行い、自らの調達スキルを発揮し、委託元企業に対して利益を還元します。

ただ、日本では調達・購買分野のBPOが進んでいるとは言えず、これから拡大・発展が望まれる分野です。

(2)-2 BPO「私の経験」

「調達部門って机を叩いたりして交渉するんでしょ?」

こう友人から尋ねられたことがあります。なるほど、調達部門に対する世の中のイメージはおそらく「脅しとハッタリで買い叩く仕事人」なのでしょう。

私はそのとき明確に否定しませんでした。というのも、あるべき姿から言えば多方面の知識が必要である調達業務もですが、現状では多くのバイヤーがそのイメージどおりだからです。

私はその後に、とある会社の役員の方が「調達・購買部門の人数は今の2割程度でいい。あとの8割は無駄な人員だから、中国にでもアウトソーシングすればいい」と仰っているのを聞いて衝撃を受けました。

バイヤーは自分たちの仕事にそれなりの価値があると思っているのですが、社内から見てもこの程度の評価しか受けていないのですね。

机を叩く交渉をするだけならば、給料が十分の一の外国人を5名ほど雇って、5名で机を叩いて交渉した方がずっといい。これはジョークでしょうか?あながち否定できないように思います。

確かに、バイヤーの業務のほとんどが外注できるのではないかと思えます。未だに注文書を手書きで発行しているところもありますし、納期の催促もFAXです。一見頭を使う業務に見えながら、「脅しとハッタリ」だけの交渉をやっていたりします。

それでは、なぜ日本では調達・購買部門のBPOが進まないのでしょうか?おそらくそこには二つの理由があるように思えます。

① BPO提供のベンダーに調達・購買部門経験者が少ない

② 調達・購買部門が自部門をブラックボックス化している

①に関しては、私は必ずしも調達・購買経験者がいる必要はないと考えています。しかし、現状ではどうしてもシステム傾倒になってしまっているように感じられます。調達・購買業務の現実がよく分かっており、困りごとをバイヤーと共有することができるベンダーが求められています。

それ以上に問題は②です。どうしても、自部門の仕事を守りたいという気持ちが働くためか業務のプロセスがブラックボックス化されています。業務プロセスが不明確なので、一体どこの部分をBPOの対象にしてよいか分からないのです。また、経営層においても、調達・購買業務を効率化し、より高度な戦略構築業務を望まれていないときが多く、手付かずのまま放置されています(経営層が放漫という意味ではなく、重点的に考えていないことが多い、という意味です)。

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(2)-3 BPO「BPOの発展」

とはいえ、BPO対象とできる領域は多いはずですし、最近は各サービスも充実してきています。調達・購買代行を請け負う企業もどんどん増えてきています。

同時に、日本においてもバイヤー業務をプロフェッショナル化しようとする動きもでてきました。企業は、内部のバイヤーを育成するか、あるいは調達業務を外部のプロに委託しようとするはずです。

間接業務を外部委託してゆくという方向性は今後も変わることはないでしょう。調達・購買業務も、今後はどんどんプロセス整理がなされ、外部に委託したほうが効率的なところと、自社内で戦略的にオペレーションするところが区別されてゆきます。

各バイヤーにおいては、今後は自分のライバルは自部門の中にだけいるのではなく、世界に存在するということを認識しなければなりません。ルーチンワークばかりやっている人の業務は当然BPO対象となります。

各バイヤーが自分(3)-1 ERP<基礎知識>の業務にいかに付加価値を持たせてゆくか。これは、これまで以上に意識せねばならないことです。

BPOの発展とは、各バイヤーの存在価値を問われることでもあるのです。

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(3)-1 ERP<基礎知識>

ERPとはEnterprise Resource Planningの略で、企業の経営資源を一元で統括する統合基幹業務システムのことです。

これまで部門毎に管理していた情報を、一つのシステムで統合管理してしまうことにより、一層の効率向上を実現します。営業部門の受注から、生産工程の計画、調達・購買の発注・検収・支払い、などといったプロセスを一つのシステム内で管理し、部分最適から全体最適の実現を目指すものです。

ERPパッケージには有名なソフト・ベンダーが存在し、多くの企業では既に導入しています。ただし、ERPパッケージの導入によって、逆に業務が煩雑化してしまったという例もあります。

ERPパッケージによって業務を効率化させるためには、何よりも事前準備と、業務プロセスの整理が必要となります。

(3)-2 ERP「私の経験」

「こんなのどこに置くんだ!」

一つの電話で青ざめたことがあります。電話は、製品の受入れ検査担当者からでした。その受入れ担当者は、ある製品が千個も納入されたことを私に告げました。製品は、一つ5,000円もするオプト部品でした。

私は「その千個はちょっと前に納入されたはずじゃなかったのですか?」と訊いてみました。以前、その製品の千個を発注した記憶はありましたが、記憶ではもうその千個はだいぶ前に納入されているはずでした。

「いや、あの千個じゃない」と担当者。

「しかし、そんな多量の発注は覚えがありません」と私は言いながら、冷や汗が出てきていました。
「お前が覚えていなくても、実際千個は納入されている。こんなのどこに置くんだ!」

私は訳がわからないまま「すみません」と謝るのがやっとでした。

実は、その当時、私の会社ではERPのパッケージソフトを導入している真っ最中で、類似のトラブルが毎日のように起きていたのです。
「手書きの発注書とオサラバできる。これからはシステムで発注が可能だ。空いた時間はもっと有効に使えるだろう」と導入担当者は語っていました。これを導入すると、発注が簡略化でき、しかもそれが社内の生産計画とリンクしているということで、導入前は非常に期待感をもって迎えられました。

中長期の生産計画を把握し、在庫量から調べ、その製品ロットに応じた注文書が随時発行される仕組みでした。一旦価格とロット数量を決めてしまえば、あとの手間はかからない。業務効率化を狙ったものでした。

しかし、導入されると莫大な登録時間が要されてゆきました。半導体部品など、基板搭載部品はただでさえ多量な種類があります。しかも、以前登録された海のものとも山のものとも分からない部品群。

ロットを登録しようとすると、「これはリール品だからこの単位では購入できない」とサプライヤーから指摘されました。と思えば、「1個単位で購入するのはかまわないが、それによって搬送が煩雑になってしまう。それは受入れ検査時に混乱しないか」といった意見や質問が次々に出されました。

おまけに調達部門からも、「これじゃぁ紙の伝票の頃がよかったな」という素直な感想まで出る始末。

私が前述したトラブルもこのような導入初期段階で生じました。最小ロットは10個なのですが、1,000個まとめ発注での交渉を実施した部品があったのです。しかし、ERPでは工程に合わせて10個単位での発注が出るだけで、1,000個同時に発注がかかることはできませんでした。

そこで私は、その部品のデータベース上の最小ロットを1,000個に変更したわけです。 すると当然注文書は1,000個になり、大幅なコスト低減が可能でした。私も大きな成果を得ることができていたのです。

しかし、私はそのすぐあとに「7個だけ必要」な案件があるとまでは知りませんでした。 いや、ERPを導入するということは、そういう案件があることすら知る必要はないのかもしれません。処理は自動的に実施してくれるはずですから。

早い話が、7個しか必要でないはずのその部品が1000個発注されることになってしまったのです。そこからは前述の通りです。

ERPで自動的に発注されたとはいえ、当時の私はこっぴどく怒られました。993個×5,000円ですから約5百万円を無駄にしてしまったので当然ではありましたが。

そこから連日のように商社や知り合いのブローカーに電話をして、なんとかその部品を引き取ってくれるように頼みまくりました。なんとか売れたのですが、合計で30万円ほどにしかならず、私がERPに対して持つ印象は「最悪」からスタートしたのでした。

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(3)-3 ERP「ERP導入の前に」

自分の失敗例だけで、ERPやITツールの可能性を否定するわけではありません。ただ私が言いたいことは、ERP導入の仕方次第では業務改悪をもたらすということであり、業務のやり方が例外だらけでプロセス整備のなされていない領域に導入しても意味がないということだけです。

こういう当たり前のことが分からずに、システムを導入しただけで「全てが解決する」と考えることは根本的に間違っていたと思います。

まずは業務プロセスを整備すること。そして、現在の業務プロセスはERPに適合するのか、しないのか。しないのであれば、業務プロセスを変更することができるのか。といったことを入念に検討していかねばならなかったのです。

それに、ERP導入時はその時点の業務プロセスを見直す、いいきっかけにもなります。それを見直さず、バカな仕組みをそのままシステム化してしまったら、バカが加速するだけです。

業務をERPに合わせていくという考えも必要です。完全なシステムなどないのですから、各部門が勝手に要望を出していくと、結局は莫大な改造が必要になり、その結果できあがったシステムは以前より醜悪になっていることなどよくあることです。

「カラダ(業務)に服(ソフト)を合わせる」のではなく「服(ソフト)にカラダ(業務)を合わせる」という覚悟が必要になってきます。

私の例では、コスト低減目的で都度発注量を増やすのではなく、生涯トータルのボリュームを背景に、一度の発注数量に関わらず発注単価が下がるような交渉をすべきでした。それがそのERPのシステムに合ったやり方だったからです。

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(3)-4 ERP「雑感」

システムの話になると、「システムのことなど全く分からない」というバイヤーと、「機能はほとんど使いこなせる」というバイヤーに分かれます。

確かにERPパッケージソフトは操作がややこしいのですが、難しくはありません。有名なソフトでしたら、解説書も売っているでしょうし、それらを一冊読むだけで確実に調達・購買業務は変わります。

これまで注文書を処理していただけのバイヤーが、ERPを使いこなせたら、「自分が注文しているものは、組み込まれて、このお客さん向けの製品に使われていたのか。納期は3週間後と要求されているが、ライン投入は1ヵ月後じゃないか」などといったことが、さすが統合基幹業務システムというだけはあって一目で分かります。

こういうことを理解していると、例えばサプライヤーとの納期調整で自社内の事情を伝えることもできるでしょう。それに、自分の業務がどのように社内外とつながっているかを知ることができて非常に嬉しくなってきます。

試してみてください。

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(4)-1 共同調達<基礎知識>

共同調達とは、その名の通り他社と共同で製品を調達することです。昨今、新聞紙上でも「共同調達により○○億円の低減を達成」と報じられることもよくあります。

一社のみでは少ない購入量だったとしても、二社・三社と購入量をまとめることで、サプライヤーに対して影響力を行使しようというものです。

グループ企業間や提携企業同士で必要とする各製品の需要をまとめ(場合によっては発注も一本化し)、量を背景としたコスト低減交渉、ならびにサービス向上の交渉を可能とします。

もちろん、共同調達を開始しただけで、すぐにコスト低減が可能となるわけではありません。そこには、当然これまでバラバラに購入していたサプライヤーを選択し、集約するというプロセスが必要になってきます。

サプライヤーには、コスト低減のコミットの代わりに、発注を集約することが約束されます。

自動車・IT産業のように、日本の企業間のみではなく海外のパートナーとも共同調達が開始される機会が多くなるでしょう。

なお、共同調達には、副産物もあります。ある企業が、ビジネスパートナーと共同調達を開始したときに聞いた話です。「最も共同調達でよかったことは、ビジネスパートナーが類似製品をいくらで購入しているか、そしてその調達手法を知ることができたこと。これは、バイヤーにとって非常に勉強になった」とのことでした。

(4)-2 共同調達「私の経験」

「何だ!このコストは!」

私はその当時接していた営業マンに失望しかけたことがあります。

それはかつて私が勤めていた企業が他社と共同調達を開始したときでした。

まずは、両社でどれほど共通の部品を購入しているかを調査することになりました。私が当時担当していたのはチップの電子部品でした。

品目をざっと見ていたとき、多くの共通調達品が目に留まりました。共同調達をするくらいですから、共通部品が多いのは当然でした。

ただ、私の担当部品は、いつも営業マンと話していて「これ以上絶対に安くならない底値」だと常々聞かされていたものばかりでした。だから、私は当初は共同調達で本当にメリットが出せるか懐疑的でした。

しかし、結果的には大きく裏切られることになります。

共同調達しようとしていた他社は、なんとその三分の一ほどの価格で購入していました。私が購入していた金額が高かったかというよりも、他社の購入金額が安かったのですが、「日ごろの営業マンの言葉は一体何だったんだろう」と非常に落胆したことを覚えています。

共同調達を開始した後は、当然ですが他社並みの安いコストに合わせることになりました。共同調達の効果は三分の二のコスト低減、というわけです。また、同時に、私の方が遥かに安く購入できていた部品もありました。

本来は、他社間の契約は自由に行われるもので、共同調達を実施しようとしているパートナーといえども自社の購入価格をダイレクトに伝えるのには問題があります。それでも、なんらかの形でパートナーの購入レベルは分かるはずです。

加えて、同じ製品に対するアプローチの仕方も異なり、大変勉強になることがありました。ヒートシンクの価格を査定する際、私(というよりも私の企業)は製品仕様から複雑に計算し理論コストを割り出す方法をとっていたのですが、他社はなんと製品重量に係数を掛けるだけでコストを算出していました(!)。

しかも、そちらの方が実勢価格に近いのです。それに、誰でも計算しやすい。

自分のコストアプローチの方法論についても考えさせられる経験でした。

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(4)-3 共同調達「雑感」

共同調達は現場のバイヤーが開始できるものではありません。しかし、近年は共同調達というトピックに注目が集まっていることもあり、近い将来にどこの企業も実施する可能性があります。

その際に、発注量をまとめてコスト低減につなげることはもちろんのこと、共同の調達・購買組織の内部を垣間見ることができます。文化の違いは非常に興味をそそると思います。これまで自分たちが絶対と思っていたもの(見積りの査定から、サプライヤーへの接し方まで)を見直すよい機会にもなります。

なお、量をまとめてコスト低減する、と書きましたが時間が経つにつれて非常に難しくなります。最初は強制的にでも統一させられた発注サプライヤー先も、しばらく時間が経つにつれて、バイヤー企業間で発注先がバラバラになってゆきます。2社以上を横断し購買戦略を浸透させ各部門に守らせることは容易ではありません。

また、共同調達を開始するにあたって、システムが統一されていることはほとんどありませんから、両社を合算した調達総量の把握は困難を極めます。

日ごろから自社が、どのサプライヤーに何をどれだけ購入しているか、という支出分析の必要性を改めて強調しておきます。

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(5)-1 ベンチマーク<基礎知識>

ベンチマークをする、とはもともとハード・ソフトウェアの性能を比較評価することを指します。特定製品と比したときに、開発した製品のどの機能・性能が優れているか劣っているかを客観的に評価することです。例えばパソコンであれば、プログラム・ソフトを一定条件で作動させて、各マシンを比較します。

製造業の調達・購買部門においてもこのベンチマークの考え方は有効です。バイヤーは自分の調達しようとするものに対して、次のようなものをベンチマーク(指標)とすることにより自社を改善し最適な調達・仕様を実現してゆきます。

(1) 自社の競合他社が調達している製品

(2) 過去の成功事例

(1)は多くの場合、比較対象は業界トップ、あるいは市場評価の高い競合他社の製品となります。競合他社の製品を購入し、それを分解することにより各部品において自社との差異を明らかにしてゆきます。

・調達先サプライヤーはどこか(輸入品か国内品か)

・調達ボリュームはどのくらいか

・仕様はどのくらい異なるか(他社と比較してオーバースペックになっていないか)

(2)では、過去に自社内で調達・仕様の両面において高い成果を上げた製品との比較です。これも(1)と同じ観点での比較を実施します。

・調達先サプライヤーはどこか(輸入品か国内品か)

・調達ボリュームはどのくらいか

・仕様はどのくらい異なるか(過去品と比較してオーバースペックになっていないか)

・成功したVA・VEアイテムはあったか

これらを自社製品の改善につなげてゆきます。このベンチマーク比較は、調達・購買部門でなくても設計部門が独自に調査している場合があります。その際は協同で実施することになりますので、バイヤーは調達の側面から参画することになります。

ただし、ベンチマーク比較時に仕様やコストを下げすぎてしまうと、それを組み込んだ完成品の魅力が落ちてしまうことがあります。最終的にはお客に高付加価値を提供し買ってもらう、という前提を忘れてはいけません。

(5)-2 ベンチマーク「私の経験」

「ウチの品質基準は厳しいから」

ベンチマークを設定し、比較しようという試みは特別なことではありません。どこの企業でも、設計者であれば実施していることです。携帯電話メーカーであれば他社の製品を分解したり、テレビメーカーでも他社のテレビを分解したりしています。

しかし、このベンチマーク比較をしようとすると常に一種のむなしさがつきまといます。「あっ他社ってこんなに簡略化しているんだ」とか「こんな安いサプライヤー(だけど品質は劣る)を使っているんだ」とかいう発見はたくさんあるのですが、社内の誰かは常に同じことを言うからです。

「ウチの品質基準は厳しいから」

なるほど他社がそのようなコスト低減手法を採用していることは分かった、だけど「ウチではそんな仕様簡略化はできない」「ウチではそんな品質レベルを受け入れられない」というわけです。

これまで「ウチの品質基準は厳しい」と言っている人しか見たことがありません。どんな企業の設計者・バイヤーと話してもそう言います。だから、おそらくどこの企業でも、自社が世界で最も品質基準が厳しいと思っているのでしょう。

私が最も困ったのも、この「ウチでは無理」症候群の人たちでした。自社を特別と思うことは自尊心の裏返しなので決して悪いことではありませんが、そのような思い込みを持っていれば突破口を開くことができるはずはありません。

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(5)-3 ベンチマーク「ベンチマーク比較を成功させるために」

ベンチマーク比較では二つの勢力がぶつかります。「仕様を削ったり、サプライヤーを見直したり、調達国を見直してコストを安くしよう」という勢力と「そんなことをすると品質レベルが落ちてしまう」という勢力です。

前者が強ければ、ベンチマーク比較結果が製品に反映されるでしょうが、結果としてお客に魅力のないものを提供しかねません。コストが抑えられればよい、という考えだけでどんどん仕様を削って、他社の模倣製品を生産してもいかなる付加価値も生まないからです。

逆に、後者が強ければ、そもそもベンチマーク比較する意味は喪失します。加えて、他社動向を無視して生産することは自社だけ時代に取り残されるという結果を生んでしまいます。

おそらく、その解決策は前者と後者が「客に魅力のある製品を提供する」という一点で意識を集中させることです。

たいていの場合、「自社が想定している価値」は、「お客が感じる価値」をだいぶ超過しています。「そんなところに気を遣わなくても客は誰も気づかないだろう」という感想を持ったことのある人は多いと思います。最近は家電製品にも様々な付加機能がありますが、それを使いこなせている人はいません。10のうち7つの機能しか客が使えず、残りの3つに価値を感じないのだとしたら、まさにこの3つが過剰品質です。

まさにその過剰品質がプロのこだわりであるのですが、「自社が想定している価値」をできるだけ「お客が感じる価値」の輪に狭める必要があります。これを達成できた製品が市場の呼ぶ「安くて良いもの」です。

自部門の軸だけを持っていれば、そこには部門間の軋轢が生じます。しかし、両者が「お客への価値提供」という軸を持っていれば、軋轢はぐっと減るはずです。「この部品を削除してもお客への価値は変わらない」という発言が可能になり、「この耐久レベルを減じてしまうと、お客が感じる価値は下がってしまう」という発言にも、単にコストだけではない次元の話ができるはずです。逆に、「この仕様を追加することで、客に提供できる価値は代価以上になる」という提案にもコストアップという観点以外からの考察もできます。

安くするだけならば、誰にでもできます。「せっかく安くできる仕様を提案しているのに、設計が言うことを聞いてくれない」というのもたやすい話です。重要なのは、自社製品が現在持つ魅力を減じさせずに、客に価値を提供できるかというところです。

ただただコストを下げることだけに盲目にならず、客への提供価値向上という意識も持ってベンチマーク比較を実施して下さい。

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(5)-4 ベンチマーク「雑感」

ベンチマーク比較とは、自社のみでコスト低減アイディアを考えるのではなく、他社製品を調査しアイディアを「拝借する」ということです。優秀な企業は、お客が価値を感じないところ(見えない箇所や、めったに使わないところ)には、見事なほど手を抜いている(安価品を使っている)ので感心させられるときがあります。ぜひ、調査してみて下さい。

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(6)-1 サプライヤー「協力会」<背景・基礎知識>

サプライヤー協力会とは、特定企業に納入するサプライヤーを構成員とする任意団体のことです。バイヤー企業と協力会は、コミュニケーションを密にすることにより共栄と持続的な発展を目指してゆきます。

有名なところでは、トヨタ自動車の持つ二つの協力会である、協豊会(部品サプライヤー)・栄豊会(設備・物流サプライヤー)や松下電器の協栄会などがあります。

かつては、日本企業の閉鎖的取引関係の象徴と思われてきたこの協力会ですが、近年は動きが二分化してきました。

世界的な競争が激化する中、多くの企業は協力会を中心とするサプライヤー構成から、よりオープンな調達構造へと変換しています。持ちつ持たれつの関係を脱却し、積極的に協力会外・系列外のサプライヤーとの取引を拡大しています。

一方でトヨタ自動車は、グローバルな拡大においては、自社のことを知りぬき長期的なパートナーシップを持ったサプライヤーが重要度を増すとして、むしろ協力会との関係強化に乗り出しています。自動車産業の場合、各社に特有な開発システムをサプライヤーが熟知している必要があり、系列強化の方に動く方が得策と考えたわけです。

かつては、企業のトップ同士が「勉強会」と称した宴会やゴルフを繰り返していた協力会活動も近年はより戦略的な思考が求められています。

(6)-2 サプライヤー「協力会」<協力会の是非>

金融機関すら護送船団方式と決別を余儀なくされた現在、サプライヤー協力会という任意団体がそもそも必要なのかという議論があります。かつては、系列崩壊と言われより自由でオープンな取引関係の模索が行われていました。それで上手くいったところもあります。逆に、協力会や系列との取引を崩したことで後々に大きな禍根を残してしまったところもあります。

協力会・系列に関しては様々な研究がなされていますが、一言で説明するならば「サプライヤーの協力で成り立っているような産業では一般的に協力会・系列取引が有効だ」ということになります。冒頭で説明した自動車産業のように、開発段階からサプライヤーの力を借り、納入にいたっては生産を同期化させたJIT(Just In Time)を要求する場合は協力会・系列は有効だというわけですね。

自動車産業以外はどうでしょうか。バイヤー企業やサプライヤーの置かれた経済・景気状況もあるため一概に是非を問うことはできないのが本音のところで、いくつかの論文を見ても、「協力会・系列が良い影響をもたらすときもあれば、悪い影響をもたらすときもある」というに留まっています。

これはサプライヤー戦略にも通じるのですが、そのサプライヤーとの関係によって、求心力を高め密な取引を行うかドライな取引に徹するかが決定します。

上記の説明では大企業の説明になっていたかもしれません。一方で、地場産業と付き合いの深いバイヤーもいます。地域社会への貢献という必要性から、定期的にトップ同士の情報交換を実施しているところもあります。また、市況によってモノの確保が困難な製品を扱うサプライヤーに対しても定期的に情報交換会を行っている場合もあります。

自社の長期的なロードマップを考慮し、発注側として最適なサプライヤーとの関係を構築してゆくことが大切です。

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(6)-3 サプライヤー「協力会」<雑感>

私は、やや協力会に批判的ですが、評価もしています。正直、協力会が果たしてきた役割は非常に大きかったと思います。あれがなければどれほどのゴルフ場が潰れたかわからない。冗談です。

通常では短期的に利益の出ないプロジェクトや製品の開発を行おうとすれば、やはり長期的な関係に立たねば成り立たないからです。そういうときにはやはり協力会・系列のサプライヤーに依頼するしかありません。

現在、株主の要求に応えて短期的な利益を求める経営者が多くなったと報じられています。もちろんその流れは否定しません。損益を度外視せよとは言いません。ただ、その中にあって協力会・系列の強化に動く企業の存在が興味深く思えてなりません。

(7)-1 JIT<基礎知識>

JITとはJust In Timeの略語です。トヨタ生産方式の一手法として広く知られています。要するに、「必要なものを、必要なときに、必要な数量だけ調達し、生産し、在庫量を最小化すること」です。

バイヤーとしてのJITの取り組みは、サプライヤーに対してリードタイムの短期化と在庫量の削減を目指すことになります。このJITが非常に進んでいるのが、自動車産業と一部の電機メーカーです。

自動車メーカーは、自社製造ラインとサプライヤー製造ラインを同期化しているところが多く、理論的には両社の在庫量はゼロです。自動車産業の場合は、自動車メーカーの生産ラインの情報を逐一提供することによって、サプライヤーはそれに沿って自社の生産品目を変えつつ納入しています。

ただし、このJITと言っても一般メーカーにはなかなか真似できるものではありません。通常は、JIT生産方式のうち自社で活用できる要素を見つけながら、

・ 自社工場の近くに倉庫を持ち、そこからJIT納入する

・ 高額品のみに特化してサプライヤーと重点改善活動を行う

などの工夫が必要になってきます。

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(7)-2 JIT「JITと現実」

最初にはっきりと申し上げなければならないのは、「多くの業界にとって『必要なものを、必要なときに、必要な数量だけ調達』することは幻想である」ということです。真のJITとは自動車産業や一部の特殊な業界のみで実現する、というくらいに考えておいてください。だからこそ倉庫機能を持つ商社が存在意義を発揮してきました。

これまでほとんどの企業における完全JIT化の試みは、サプライヤーへの短納期化の押し付けに終始してきました。自動車産業のように、バイヤー企業の生産ラインとサプライヤーの生産ラインが一対になっているような業界は特別です。しかし、一般のメーカーはそうではありません(実は、自動車産業であってもそんなに簡単なものではありません)。

「必要なものを、必要なときに調達する」という理念は素晴らしいのですが、そもそも下記の構図が成り立っていればJITという概念すら必要ありません。

考えてみれば当然ですよね。生産タイミングに合わせて発注して、そのとおりに納入され組み立てが開始されれば在庫量もゼロになります。このために必要なのは生産の平準化です。そして、月次の生産計画とサプライヤーへの伝達です。しかし、たいていの企業では生産量のバラつきや突発的な生産があるために(これは自動車産業も一緒)、在庫をたくさん抱えてしまうことになります。あるいは、短いリードタイムで発注せざるをえないときが多々あります。

こういうことが起きる(どこだって起きる)ので、矢印下部のサプライヤーのリードタイムを短くする、という方向に進んできました。これが専用ラインであれば、サプライヤーもなんとか追従する方向となるでしょう。しかし、汎用生産ラインであればそうはいきません。

結局のところ、調達・購買領域におけるJITとは「こちらが恣意的な生産変動をしたとしても、なんとかそれに合わせて納入してもらうようにサプライヤーのリードタイムを短縮する」という方向に進むことになります。

私は「JITとは幻想である」と書きました。JITという言葉を否定したように思われるでしょうが、そうではありません。JITから学ぶことは、その調達における「在庫ゼロ化」という結果ではなく、中心にある思想だからです。その前提は、「必要なものしか作ってはいけない」という確固たる信念に立脚しています。不要なものがもし発生しているとすれば、そこには必ず改善の余地があります。「こういうもんだよね」という諦観に流されるのではなく、「何が悪いのか」「どういう手法であるべき姿に近づくことができるのか」ということを一つ一つ考え、解決策を模索し、検証してゆく地道な「生き様」がそこにはあります。

売ったものしか、お金は入ってきません。こんなことは当たり前です。しかし、多く企業ではその当たり前のことが、その「こういうもんだよね」という諦観によってまかり通っています。例えば、通常以上の営業利益をもたらす製品を開発したところで、売れる以上の量を生産してしまっては、全く意味がありません。そういう当たり前のことを、当たり前として認識し、理想に向かって愚直な努力を繰り返すことです。「なぜ」と繰り返し問うことも、表面上であれば誰にだってできます。しかし、その繰り返しにより、一人一人のバイヤーや生産管理の担当者が真の原因を見つけ、自発的に改善を実現するレベルに達する必要があります。JIT生産から学ぶことは、まさに個々人の成長手法と言ってよいでしょう。

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(7)-3 JIT「雑感」

最も重要なのは「考える癖」を付けることだと思います。人に流されるのではなく、「何が正しいか」を自分なりに持っていれば常に同じことが言えます。常に同じことが言える、ということはとてもすごいことです。

表面的な理解であれば、ちょっと状況が変わってきたら応用が利きません。深く理解していれば、状況が変わろうとも問題に立ち向かうことができます。深く理解する、ということは自分で考え、自分なりの言葉で頭の中に体系付けるということです。

JITとはだいぶ離れているように感じる人がいるかもしれません。しかし、JITをはじめとするトヨタ生産方式が最も目指していることは自律的かつ自立的なビジネスマンを育てることだと私は確信しています。

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