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投資にも当てはまるパレートの法則(80:20の法則)について(福井強のマクロ経済分析レポート vol.8)

 パレートの法則、別名「80:20の法則」とも呼ばれる法則は、1896年にイタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが論文で提唱した「物事を構成する要素が全体に占める割合は偏りがあり、複数要素のうち一部で全量の大部分の割合が占められている」という考え方に基づいて経験的に観察された人間社会の一つの法則のことです。これを一般的に例えて言えば、「アウトプット全体の8割はインプット全体の2割の要素から生み出される傾向がある」ということになります。ちなみに「80:20」の数値に絶対的な意味はなく、集団内の個人業績(例えば売上)や評価が一部に集中する傾向を端的に表す例として用いられています。

 全世帯が保有する金融資産に対しても、この法則が成立していることが世帯別の金融資産額の推計データから読み取れます。具体的に見てみると、野村総合研究所が発表した『借入金を差し引いた純金融資産保有額別の世帯数と資産規模の推計値(2021年)』(図参照)によれば、全世帯数の22%を占める純金融資産3,000万円以上の世帯が全世帯の金融資産の約6割を保有しています。さらに純金融資産1億円以上5億円未満の富裕層と5億円以上の超富裕層を合わせた全体の約3%にあたる世帯が全世帯金融資産の約2割を保有しています。このような富の偏在は、社会の不公平による結果とみるよりは、パレートが発見した人間社会に見られる普遍的な傾向の結果であるということになります。

 世帯の純金融資産額(ストック)は、累積的な投資収益を除けば、基本的に世帯収入(フロー)に大きく依存すると考えられます。つまり、収入が高い世帯ほど、貯蓄に回せる金額が大きくなる傾向があり、低所得世帯はなかなか貯蓄を増やすことができないことになります。ちなみに令和5年の家計の金融行動に関する世論調査(サンプル数7500世帯)によれば、世帯年収が1200万円以上の世帯は全世帯の5.5%に過ぎませんが、全世帯が保有する金融資産の約2割を保有していると推定されています。もちろん、高所得世帯であっても、消費や借り入れが過多であれば、必ずしも多額の純金融資産を保有することはできません。結論として、投資で資産を築きたい個人は長期的に世帯収入を向上させるよう自主努力をする一方で、所得から一定の割合を半ば強制的に貯蓄して投資資金に充当し、それをできる限り高い税引き後のリターンで複利の威力を活かすために長期的に投資運用していくことが肝要です。そのために、個人投資家はまず少額投資非課税制度(新NISA)を利用することを考えるべきでしょう。

 さらに毎年の投資活動の成果についても、『80:20の法則』が成り立つことが知られています。つまり、年間の投資リターンの大部分がごく限られた銘柄や戦略からもたらされる傾向があるということです。例えば、システム・トレーディングでトレンドフォロー戦略を運用する場合、年間の収益の大半はトレンド相場が出現した一部のマーケットからの利益で占められることがよく知られています。そして、それがどのマーケットや銘柄で起こるのかは事前にわからないことが多いため、分散投資が必須になります。また、時系列で見た場合にも、『80:20の法則』が成り立ち、投資利益は毎年着実に生み出されるのではなく、年によって偏りがあり、毎年の投資収益をプロットした棒グラフは凸凹のある形状になります。トレンドフォロー戦略の例のように、相場にトレンドが生じなければ大きなキャピタルゲインは挙げられないので、投資運用は長期にわたって行われるべきであり、単年度の投資リターンは余り気にかけないようにすることが賢明です。

(出所:野村総合研究所)

執筆:福井 強(ふくい つよし)
個人トレーダー(フランス・パリ在住)。1984年慶応義塾大学経済学部卒業。1990年コロンビア大学ビジネススクールにてMBAを取得。明治安田生命(旧明治生命)、JICA(旧OECF)を経て、1993年より2020年まで世界銀行勤務。世界銀行では投資管理局グローバル債券デスク・ヘッド、G7債券ポートフォリオ・マネージャーとして金利およびクレジット・ポートフォリオ戦略の立案、実施に従事した。米国証券アナリスト(CFA)。訳書に『ザ・トレーディング』(アレキサンダー・エルダー著/FPO)とその旧版にあたる『投資苑』(パンローリング)がある。

※本レポートの内容の完全性、正確性、有用性等に関して一切保証するものではありません。投資によって発生する損益は、すべて投資家の皆様に帰属します。投資に関する最終決定は、ご自身の責任においてご判断ください。当該情報に基づいて被ったいかなる損害についても、情報提供者及び当社は一切の責任を負うことはありませんので、ご了承ください。

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