私の工場経営ノウハウ(3) うまくいった?話2/3
続きです。
❷2億の赤字から2億の黒字にした話:私が技術課長だった時です。半導体パッケージ基板事業は大きくなってきましたが、開発部のやり方は相変わらずでした。安定して生産できる前に量産立上げが来てしまうのです。毎度の見切り発車。デザインレビュー会議や工場認定制度で安定生産できるまで量産受注しないと決めても、量産受注伝票が入ってします。営業と開発は本社組織、製造と技術、品証は100%子会社の工場ですから、完全に工場がコントロールできません。一方、仕事量については回収過どころか回収不足を発生させるという恐怖感に襲われ、対応してしまいます。特にしんどかったのは、マトリックス面付けのCSPシート基板を立上げたときでした。この頃は、半導体パッケージも板チョコタイプに半導体を搭載、封止してダイサーカットしたため、基板は耐熱性のあるポリイミドフィルムに銅箔を接着したもので、回路は配線パターンというより、銅箔に10~20ミクロンの絶縁溝パターンを形成するような設計でした。フィルムのうねりを抑える効果や実装性能を得るためでした。ところが、製造する側は、ちょっとした化学反応で溝はめっきでブリッジ(ショート)や、めっき析出不足(ワイヤーボンドミスの原因)が発生します。開発は、無電解厚付け金めっきは電気めっきの給電線が不要なので設計自由度が増す上、当社の金めっき液は非シアン系で環境にやさしいなんて言ったので試作から大口量産受注で垂直立上げ、製造は混乱し、めっき段階で製造ロット全滅を繰り返しました。それでも納期対応しないと、顧客の半導体出荷に間に合わず、その先の顧客の製造に影響がでて、エンドユーザーに何度も乗り込まれました。もう、現場作業者は怖くて作業ができません。そこで、製造課長と技術課長だった私、品証課長は事務所をそのめっき室の隣にもっていき、異常あるときは5分以内に現場に3人同時に急行して現地・現物確認した後、応急処置の指示書を手書きして品証課長の承認サインをもらい、製造課長が再稼働させるということを毎日やりました。この間20分程度です。現場の不良品、作業状況を3課長が直接現場で見て作業者からヒヤリングし、その場で暫定対策をすることで、納期遅延防止と原因究明、対策が集中的にできました。それでも辛い日々は続き、何度も辞表を書こうとしました。結局、めっき薬液補充時のケミカルショックやローディングファクタ制御不足、めっき治具の不備など連続稼働の量産設備で発生する問題ばかりで、ビーカーで小片を作っている開発者には思いもよらない現象だったのです。
量産不良は撲滅でき、他の液処理設備にも横展開でき、製造は強くなりましたが、それ以上に回収時間は上がり、不良や歩留損もなくなり大幅収益改善しました。これが、月2億円の赤字を月2億円の黒字にした話です。
ここで得た教訓は、開発試作と量産は別物であり、量産のための技術が必要で、新製品は量産部隊が引っ張らなければ立ち上がらない場合があるということです。絶対に守るべき納期と物量が設定された量産の緊張感とスピード感が、開発チームでは越えられない壁を突破して行けるのかも知れません。
当時の非シアン無電解厚付け金めっきの話を少々紹介します。金1gが入っためっき液の価格は金2gの価値がありました。めっき液用薬剤とその調合コストが高いのです。量産ではめっき液材料を自動補充して建浴時の金の量の何倍かを消費します(ターン数で表示)が、めっき液を暴走させると数100リットルの液を金回収に回して、建浴し直しです。ここで作業時間のロスに加えて、金の2倍の薬液を廃棄し金を回収しても金の価格に相当する歩留損を発生しているのです。基板の不良では、金めっき工程までに使った材料や加工費が全部ロスします。こんなことを繰り返していたら、いくらお金があっても足りません。歩留損、不良損金のリスクをある程度単価に乗せても売れる機能価値があったのです。だから、不良率を小さくすると儲かりました。私たちは地獄から天国に行ったのです。束の間でしたが。それからの会社生活はいつもハイリスク、ハイリターンの繰り返しでした。それが会社の強みだったのかも知れません。おかげでギャンブルは会社の仕事以外やりませんでした。