【女性が損する制度改正とその対策】シングルマザーは「共同親権」に要注意!
女性をめぐるお金の制度が大きく変わりはじめました。知らずにいると大損するかもしれません。このシリーズでは、女性が気をつけておかなければいけない法律や制度改正について解説していきます。
77年ぶりの民法改正「共同親権」の登場
1947年に民法が改正されて以来、離婚した時の子どもの「親権」は、父と母のうちのどちらか(単独親権)になっていましたが、2024年5月に民法が改正されて「共同親権」制度が誕生しました。
2026年から離婚する夫婦が「共同で親権を持つ」か、「父と母のどちらか片方が親権を持つ」のかを選択できるようになります。
参照元:法務省民事局「民法等の一部を改正する法律の概要 」https://www.moj.go.jp/content/001419099.pdf
そもそも「親権」とは何か?
親権は「監護教育(子どもの世話や教育すること)」と「子どもの財産管理」の2種類。
「子どもの財産管理」とは、子どもの貯金や相続した不動産などの財産、養育費などのこと。
親権を持つと、子どもの財産のすべてを自由にできるため、父と母のどちらが「親権を持つか」が裁判で争われているのです。
「家父長制」から女性を解放した1947年の民法改正
「家父長制」とは家族内で男性が絶対的な権威を持ち、父親が家族の意思決定や資産の管理を支配すること。
その権威は長男のみに継承され、次男や三男などの長男以外の男性や、母・妻・娘など女性は、自分の意思で結婚したり、自分の財産を持つことができませんでした。
個人の人権を尊重する1947年の民法改正で、意思決定は個人の自由に。
財産分割も兄弟姉妹平等となり、女性も相続で自分名義の財産を持つことができるようになりました。
これまでの親権は「母親が持つ」ことが多かった……でも
「離婚」というと「シングルマザー」のイメージが強いのは、離婚の時に母親が子どもを連れて家を出るケースが多く、家庭裁判所が母親を「親権者」として認定してしまうからです。
母子世帯と父子世帯、それぞれの「お金の事情」を比較します。
母子世帯と父子世帯で収入格差がある
ひとり親の生活は「母と子」「父と子」で格差があります。
母子世帯ひとり親の平均年収:272万円
父子世帯ひとり親の平均年収:518万円
母子世帯ひとり親がパートやアルバイトの仕事に就くことが多く、父子世帯ひとり親が正社員で仕事をしている人が多いことが要因。
養育費も離婚した父親から養育費をもらっている母子世帯は28.1 %。
平均月額は50,485円。
離婚した母親から養育費をもらっている父子世帯は8.7 %。
平均月額は26,992 円。
厳しい生活を送るひとり親が多いことがうかがえます。
月々の養育費をもらう取り決めをしなかった理由は「相手と関わりたくない」「相手に支払う能力がないと思った」ですが、母子世帯では「相手に支払う意思がないと思った」、父子世帯では「自分の収入等で経済的に問題がない」という理由も挙げられていて、母子世帯と父子世帯の経済格差のようなものが感じられます。
参照元:厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要」
片方の親だけが親権を持つことのデメリット
ひとり親の子育てのデメリットは「離婚したことで子どもの成長に深刻な影響が出る」こと。
離婚後の親子交流ができないことも多く、子どもの養育費の滞納も多いのが
問題になっています。
子の養育の在り方の多様化
現状では養育費・親子交流は取決率も履行率も低調
その一方で、現在では離婚した後に再婚する、また離婚して再再婚する。再婚した親同士に連れ子がいるなど、「結婚・子育ての形」は多様化しています。
今回、「離婚後も子どもに会いたい」「離婚しても、元夫婦で一緒に子育てしたい」などのニーズを取り込んだ「共同親権」が作られました。
同時に、不払いになりがちな子どもの養育費を「差し押さえ」に近い形で徴収する制度も導入を予定されています。
共同親権のデメリット
離婚した親同士で頻繁に話し合いを続ける共同親権制度の大きなデメリットは「虐待・DV」。
一方の親による子どもに対する虐待や、一方の親による他方の親に対するDVが離婚後も継続する可能性があります。
共同親権はデメリットの方が多いのでは?
「共同親権」を選択すると、進学・就職・引っ越し、ワクチン接種といった生活の大切な決定は、離婚後も夫婦で話し合う必要があります。
離婚して関係が悪化しているのに、頻繁に会って話をしなければいけない。
双方の意見が合わなければ家庭裁判所に判断を仰ぐことになる面倒な制度です。
「親に会いたくない」「離婚した親に進学や就職を決めてほしくない」といった子どもの気持ちは反映されるのでしょうか。
ひとり親が豊かになれない「共同親権」
今でも養育費は不十分
離婚した後、子どもの養育費を支払う親は少ないのが現状です。
母子世帯の養育費の平均月額は50,485円。
父子世帯の養育費の平均月額は26,992 円。
子どもを公立大学を卒業させるのに必要な教育資金が1,000万円以上必要とされていますが、この金額では難しいのではありませんか。
足りない分は、国や自治体のサポートに頼らざるを得ません。
今回の制度改正で養育費の回収が強化されることになっていますが「収入がないので支払えません」とする親が増えるかもしれません。
児童扶養手当やひとり親控除制度などにも影響が出る
これまで、ひとり親が子どもを養育している家庭には「児童扶養手当」や「ひとり親控除制度」といった国のサポートがありました。
住宅手当や医療費助成、教育費補助といった自治体独自のひとり親支援制度など大きな見直しが迫られるかもしれません。
これらの支援は「ひとりで子どもを育てるのは大変だから」という前提で作られたもの。
もし「離婚後も両親が協力して子どもを育てる」ことが前提になれば「支援は必要ないのでは?」と見なされる可能性があります。
2026年までにお金のサポート制度を作れるのか?
「共同親権」を選択できるようになる改正民法は2026年までに施行される予定ですが、あと2年では、ひとり親家庭への経済的サポートの仕組みが整わない可能性もあります。
離婚する時に「共同親権」を選択すると「単独親権」を持つひとり親が受けられる経済的サポートが受けられなくなるかもしれないことを、頭の片隅に置いておくことをおすすめします。
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ここでは、FPこみなみ(AFP認定者)が、独自の目線で、お金に関する話題について解説しています。あくまで個人的見解で、日本FP協会の見解ではないことをご容赦ください。(写真:Yuka Shimamura)
日本FP協会公式サイト https://www.jafp.or.jp/
【執筆者】
小南由花(FPこみなみ)
AFP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)・終活アドバイザー・福祉住環境コーディネーター2級。
身体障害者の夫と二人暮らし。
夫の勤務先の倒産で破綻寸前になった家計を、ファイナンシャルプランニングで切り抜けたことをきっかけに、50歳から勉強をはじめる。
2017年(52歳)でAFP(提案書作成研修を修了した2級FP技能士)資格を取得しリスキリング。
現在、宅地建物取引士の資格取得を向けて勉強中。
朝日新聞出版「デジタル版知恵蔵」や「FP Woman」などで執筆。
日本年金機構「わたしと年金」エッセイにて令和5年度厚生労働大臣賞を受賞。
日本FP協会大阪支部運営委員としてFP相談のキャリアを積んでいる。
ライフプランニングの講師としても活動中。
終活アドバイザー協会会報「ら・し・さ通信」2023年秋号に寄稿したエッセイ「2冊のエンディングノート」
https://shukatsu-ad.com/wp-content/uploads/2023/09/tsushin-42-hp-2023-autumnpdf.pdf
「わたしと年金」エッセイ厚生労働大臣賞受賞作品https://www.nenkin.go.jp/info/torikumi/nenkin-essay/20231130.files/01.pdf