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ライフプランニングの価値~ファイナンシャルプランナー進化論⑦~
当社のファイナンシャルプランナーにとって最重要、というより、存在や業務のど真ん中にあるのがライフプランシミュレーション(以下ライフプランニング)という分析ツールになる。
現状の家計状況を詳細にヒアリングし、未来予測が出来る分析ツールで、当社では分かりやすい表やグラフを活用して50~70ページほどのレポートにまとめている。
外資系生命保険会社を退社した後、起業する間に、実は5ヵ月ほど友人の保険代理店で保険営業として働いていたのだが、その時に「営業」という立場からも、ライフプランニングの有用性について改めて認識が出来た。
友人の会社はいわゆる「乗合保険代理店」といって、複数の生命保険会社の商品を取り扱いしていたので、前職の生命保険会社専属営業(いわゆる直販営業)と比べて、圧倒的に提案のハードルが低かった。
例えば医療保険を検討されているお客様には、保険会社ごとの保障内容の違いや保険料を比較してもらい、お客様の希望にあった商品を選んでもらうことができる。
当時は40社以上の保険会社の商品を取り扱う、保険ショップが全盛であったのも納得である。
日本人の生命保険加入率はとても高く、多くの方が何かしらの生命保険に加入しているので、切り替えのメリットを訴求して、営業するのが一般的と言える。
一方で、商品内容と価格だけ見ればメリットがありそうな提案でも、切り替えに応じてくれない顧客も一定数存在することを再確認することができた。
まず、大前提として、その保険の担当営業パーソンを信頼していること。
そのうえで、
①保険会社の営業パーソンと親族関係であったり、直接的間接的に仕事やプライベートでのつながりが強い。
②担当の保険営業パーソンがライフプランニング分析表をしっかり作りこんで、その保険が何故必要で、なぜその保障額・保障期間・保険料なのか、満期保険金や貯まった解約返戻金を何に使うのかが明確になっている。
②はまさに外資系生命保険会社のトレーナーとして新人に教えていた、保険営業の王道中の王道であった。
ただし、生命保険業界でトップセールスになるには、②の営業スタイルが必ず必要かと言うと、そうは言い切れないという印象を持っている。
なので、生命保険会社の新人営業パーソンが必ずと言っていいほど教わり、かつ顧客にとっても価値が高いものであるにも関わらず、ライフプランニングが世の中に浸透しきれていない、と感じている。
もっと言えば、生命保険業界だけでなく、住宅メーカーや不動産会社、銀行や証券会社でも、ライフプランニングの有用性は誰もが認めている。
顧客の現状と未来を詳細に分析することで、顧客満足度を上げるだけでなく、信頼関係の構築や、不安の解消に繋がる。
それでも生命保険業界と同じように、浸透しきれていないのはなぜか。
理由は諸々あると思うが、ライフプランニングは事業者側も顧客側も、相当なエネルギーと時間が必要であるということ。
そして、「やってみないと、その有用性を理解するのが難しい」という特徴のあるライフプランニングの価値を顧客に訴求していくことの難しさもある。
事業者が顧客利益と会社の収益、社員の労働時間、という様々な要素に気を配りながら事業を営む以上、浸透しないのも頷ける。
それでも、事業者と顧客の間に立つ我々が手間や労力を費やしても、ライフプランニングに拘るのには、理由がある。
その理由をまとめてみた。
【①未来予測を立てることで、現状を変える動機付けになる】
以前の記事でも書いたが、私が29歳の時に、まさにこの効果の恩恵を受けて、人生を変えるきっかけになった。
妻が子供たちを留学させたい、とか、世界一周旅行をしたい、という夢をかなり現実的に考えていたので、それをライフプランに落とし込み実現させる為に計算をすると、指揮命令下にある私の小遣いのシェアは下がり続け、大好きなビールは52歳まで発泡酒、という現実を知ることになった。
このままでは嫌だ、という思いからリスクをとって外資系生命保険会社に転職しようと思ったきっかけの一つであったことは間違いない。
(余談だが・・・亭主関白であったら、そのルートもたどらず、サラリーマンで満足していたかもしれないので、強権政治は結果的に良かったのだと、妻には感謝している。ほんとうです。言わされてないです。)
【②起こりえる未来の課題やリスクに気付き、事前に手を打つことが出来る】
いくら詳細なライフプランニング分析表を作ったとしても、もちろん、人生はその通りにはならない。それでも、実務経験のあるファイナンシャルプランナーが作れば、お金に関してはもっとも可能性の高い予測を作ることが出来る。
そこから、資産の減少や枯渇の可能性、リスク許容度を図ることで、今どの程度資産形成やリスクマネジメントをすればいいのか、収入はどの程度上げる必要があるのか、など改善の手を早めに打つことが出来る。
だからこそ、ライフプランニングを実施したクライアントからは「もっとはやく相談に来ればよかった」という感想を頂くことが多い。
【③どの程度「使っていいか」ということが分かり、思うような豊かな人生を歩める可能性が高まる】
2020年に世界的にヒットしたビル・パーキンス著「DIE WITH ZERO」という本がある。
人は平均寿命に向かい資産額が増大していく。本来お金を使い人生を謳歌できるはずの若い時に使えず、使う体力も気力も衰えていく老人がお金を抱えていることへのアンチテーゼと言っていい。
ライフプランニングは一見「お金をどのように貯めるか」「いかに資産を増やすか」ということを分析するツールのように見られることもあるが、しっかりとした資産形成を行いつつ「どれだけ使っていいか」も分析できる。
「人生はお金を貯める為のものではなく、謳歌すべきものである」「お金は幸せになる為の手段の一つでしかない」というのは私も100%同意だ。
【④配偶者がいる場合は、夫婦間で価値観と人生観の共有の機会を作れる】
ライフプランニングは結婚している方(婚約中でも)であれば、ご夫婦同席が原則だと思っている。
どんなに仲の良い夫婦でも、価値観や人生観、子育ての考え方、何に(家・車・服・食事・旅行等の思い出)お金を使いたいかという考え方が全く一緒、ということはない。
ライフプランニングを実施する過程で、お金に対する価値観の共有や、叶えたい夢をお互いに知ることができて、夫婦間のストレス軽減と、幸せな夫婦生活に間違いなく貢献できる。
また、「お金」や「将来」というものに対して、時間を使って夫婦でしっかり向き合うことに、第三者のファイナンシャルプランナーが介在することの価値は大きい。
【⑤現状の家計状況を把握し分析することで、人生を左右する大きな買い物(保険・住宅・資産運用)での失敗を防ぎ、検討し得る最善を見出せる。】
ここはこの記事の前半で述べた通り。
保険はそのご家庭で加入すべき保障額と、払っても問題ない保険料(積立と掛捨ての割合も)。住宅は人生トータルでみた場合の費用や住宅ローンの適切な組み方。資産運用も、どの程度のリスクをとっていいのか、どのような手法がより自分に合っているのか、検討することが出来る。
このように、人生を大きく好転させるポテンシャルを秘めているのがライフプランニングだと思う。
ライフプランニングの価値を世に広めていくこと、これこそが我々の大切な使命だと思っている。