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金融所得課税

 2024年4月の日経新聞に「厚生省、保険料に金融所得の反映検討 国保など対象」という記事が掲載された。また、9月には自民党総裁選が行われ、その争点の一つとして「金融所得課税の強化」が挙げられている。今回は、金融所得課税の現状の課題と、なぜ総裁選の争点となっているのかを考察したい。まず、4月の厚生省の検討内容を踏まえ、投資に関わる税金について整理しておく。

 株式や外国株、投資信託で得た売却益は、特定口座(源泉徴収あり)の場合、申告不要または確定申告を選べるが、多くの人は申告不要を選択している。また、配当金や分配金についても、申告不要を選択することができる。申告不要を選んだ場合は、金融機関が納税処理を行い、自動的に所得税15%、住民税5%が控除される。確定申告を行った場合は、損益通算や配当控除の適用により、所得税・住民税の税率が低くなることがある。
ただし、自営業者など国民健康保険の加入者が確定申告を行うと、その申告内容が保険料の計算対象となり、国民健康保険や介護保険の保険料が上がることがある。後期高齢者医療制度も同様である。

 今回の厚生省の検討では、申告不要を選んだ場合でも、国民健康保険、介護保険、後期高齢者医療制度の保険料に金融所得が反映されるようにする、つまり申告不要・確定申告のいずれを選んでも社会保険料は変わらないようにするという、公平性の観点からの提案がなされている。

 確かに、高齢者の医療費や財産を考えると、この必要性は理解できる。具体的には、高齢者の医療費は現役世代の約4倍かかっており、その8割が税金や現役世代からの負担でまかなわれている。一方、高齢者の約3割が金融資産を2000万円以上保有していることを考えると、支払い能力のある高齢者に対する負担を増やすことが妥当とされ、こうした検討が始まっている。保険制度は「みんなで助け合う」という精神で成り立っているため、金融所得に対する課税が年齢に基づく区分ではなく、金融資産の保有状況に基づいて決定される可能性が高い。
しかし、検討課題として残るのは、会社員への対応である。現在、会社は従業員に代わって社会保険料を支払っているが、株や配当金などの利益を含める場合、会社がどのようにして従業員の金融所得の情報を得るのかという問題が生じる。この事務作業は非常に煩雑であり、現実的に難しいため、会社員は対象外となる可能性が高いと考えられている。

 そうなると、対象となるのは誰か。おそらく、配当金生活を送っている人やFIRE(早期リタイア)を達成した人、あるいは2000万円以上の金融資産を保有している人々が対象になる可能性があると推測される。ただし、NISAなどの非課税所得は、保険料の賦課対象外とする方針で検討が進められているので安心してよいだろう。

【修正】
さて、総裁選の争点の一つである「金融所得課税の強化」について述べる。この政策は、岸田政権でも示されており、3年前にも他の候補者がその必要性を訴えていたものである。金融所得課税の強化を推進しようとしている候補者は、年間所得1億円以上の富裕層に対する課税を強化したいと述べているが、具体的な内容については専門家の意見を踏まえ、慎重に進めたいとしており、詳細な議論には踏み込んでいない。
一方で、別の候補者は「『貯蓄から投資へ』という流れに逆行するような金融所得課税の議論は、今は行うべきではない」と反対している。

争点である「金融所得課税の強化」は、財務省が進める政策で、所得税の格差を是正するものである。所得税は累進課税制度に基づき、所得が多いほど高い税率が適用され、年収が4000万円を超えると税率は45%になる。一方で、株式に関する税金は一律20.315%であるため、4000万円以上の所得がある人で株式投資で利益を上げている者が相対的に得をしている。この差を埋めようとするのが「金融所得課税の強化」であり、2025年から導入予定である。いわゆる「富裕層ミニマムタックス」とも呼ばれている。
具体的な内容は、【合計所得金額】+【特定口座の配当・株式売却益】-3.3億円に対して22.5%の税率を適用し、申告不要で支払った税金分を差し引いた金額が新たに課税される仕組みである。なお、NISA口座は課税対象外である。
この新制度の対象者は、日本国内では200〜300人程度とされており、大多数の人に直接の影響は少ないとされている。しかし、所得格差の是正を目的とする「金融所得課税の強化」は、今後3.3億円や22.5%という基準が引き下げられる可能性があるため、その動向を注視していく必要がある。


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