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医療費控除とセルフメディケーション
年金同様、待ったなしの「国民医療費」問題。毎年のように過去最高額を更新し続け、今や年間46兆円を超え(2022年度)、国の財政を圧迫しています。
政府はセルフケアを推進し、国民医療費を削減する試みを続けていますが、「税制優遇」という切り口で注目されているのが、「セルフメディケーション税制」です。
医療費に関する税制優遇というと、今までも「医療費控除」がありました。
このセルフメディケーションは、従来の医療費控除とは何が違うのでしょうか。まずは医療費控除から見ていきましょう。
医療費控除
1年間でかかった医療費(実際に医療機関で支払った額の合計)が10万円を超えた場合、その超えた部分を所得から差し引ける、という制度です。
(所得が200万円未満の人は所得の5%を超えた部分)
ポイントは
①本人だけでなく、生計が同じなら親族単位で申告できる
②大部屋が空いていない際の個室差額ベット代など、健康保険適用外の部分も合算対象となる(個人都合は除く)
③出産関係では多くの項目が合算対象となる(検査費、不妊治療費用など)
④病院だけでなく、介護老人福祉施設などでの支払も対象となる
⑤薬局で購入した風邪薬、花粉症の薬、ケガをしたときの絆創膏なども対象
⑥民間の医療保険給付金や健保組合などから補てんされた金額は差し引く
①の親族は、扶養家族かは問われません。共働きの夫婦の場合でも、合算すれば控除対象になる可能性はあります。また仕送りしている別居中の親の医療費も合算対象になります。
②の差額ベット代は健康保険の対象外ですが、「医師の指示」「空きがなかったため」という場合は控除対象になります。
③の出産費用は通常分娩費用でも控除対象。また緊急で利用したタクシー代は、高速代も含めて控除対象になります。
また出産以外でも、先進医療やレーシックなど、公的医療保険対象外でも治療目的なら控除対象となります。
その他にも意外なものが控除対象になっていたりするので、所属している健康保険組合や税務署に確認してください。
⑥の医療保険ですが、医療費総額から差し引くのではないことに注意が必要です。
・入院して窓口で支払った医療費が7万円
・その入院により受取った民間保険金が15万円
・その入院以外でかかった医療費12万円
この年の医療費控除は7万円+12万円-15万円-10万円=▲6万円だから、受けられない…は間違いです。
この場合、入院費は保険金でまかなえているのでゼロとしてカウントされますが、それ以外の12万円が控除対象です。
つまり12万円-10万円=2万円が控除額となります。
セルフメディケーション税制
セルフメディケーションは医療費控除の特例です。
10万円を超えなくても、対象となるOTC医薬品の年間購入額が12,000円を超えた場合、その超えた部分が確定申告することによって控除を受けられる制度です。
※OTC医薬品:医療用から転用された特定の医薬品
対象となる医薬品は厚生労働省のウェブサイトから見ることができます。
※2022年には対象市販薬が大幅に拡大され、現在4,000品目以上が認定されています。
この制度、誰でも利用できるわけではなく、一定の条件があります。
・所得税、住民税を納めている。
・1年間(1~12月)に健康の維持増進および疾病の予防への取組を行っている。(特定健康診査、予防接種、定期健康診断、健康診断、がん検診)]
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注意点
確定申告が必要
医療費控除もセルフメディケーションも、確定申告をする必要があります。セルフメディケーションの場合、対象となるOCT医薬品だという記載のあるレシートを提出しなければなりません。別に領収書をもらった場合には、その旨薬局に記載してもらう必要があります。
併用不可
医療費控除とセルフメディケーションの併用はできません。OCT医薬品購入以外にも、入院や手術などがあり医療費が合計10万円を超えた場合は、従来の医療費控除を受けたほうが節税効果は高い可能性があります。
FPとしてよくご相談を受けるのは、やはり出産関係。妊娠、出産のある年は医療費控除を受けられる可能性が高くなります。年初から薬局での風邪薬やケガの絆創膏代などでも、きちんとレシートをとっておくといいかもしれません。
出産や歯の矯正などがない場合、よほどのことがない限り医療費が10万円を超えることはないと思います。健康と節税のメリットを同時に得られるセルフメディケーション税制。去年分のレシートの合計額が12,000円を超えていれば、確定申告に挑戦してみてはいかがでしょうか。