vol.31「60歳時点で申請したら500万円以上得する!?」
日本年金機構によると、2024年4月分からの年金額は、2023年度から原則2.7%の引き上げになっています。年金額が増えることはうれしいですが、昨今の物価高による家計の負担は大きく、少しでもお得に老後資金を貯めたいと考えている人は多いでしょう。そこで今回は、60歳以降の賃金が減少した方が利用できる「高年齢雇用継続給付」と、退職金のお得な受け取り方をご紹介します。制度を知っていると知らないでは500万円以上もの差が出ることもありますから、参考にしてみてください。
高年齢雇用継続給付とは、60歳以降の賃金低下を補う制度です。
厚生労働省「ハローワーク インターネットサービス」によると、高年齢雇用継続給付は「高年齢雇用継続基本給付金」と、基本手当を受給し60歳以後再就職した場合に支払われる「高年齢再就職給付金」とに分かれ、雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の一般被保険者が、原則として60歳以降の賃金が60歳時点に比べて、75%未満に下がった状態で働き続ける場合に支給されます。
高年齢雇用継続基本給付金の支給対象期間は、被保険者が60歳に達した月から65歳に達する月まで、高年齢再就職給付金については、60歳以後の就職した日の属する月(就職日が月途中の場合はその翌月)から、1年または2年を経過する日の属する月まで(ただし65歳に達する月が限度)です。
支給額は、60歳時点の賃金と比較した低下率に応じた支給率を基に計算します。例えば賃金の低下率が61%以下の場合の支給率は15%で、支給対象月に支払われた賃金額に支給率を掛けた額が給付されます。
なお支給限度額が設けられていて、厚生労働省によると、2023年8月1日以降は37万452円です。賃金が支給限度額を上回る場合は、高年齢雇用継続給付は支給されません。支給限度額は、「毎月勤労統計」の平均定期給与額の増減を基に変更されます。
60歳の時点で賃金が30万円だった人が、60歳以降は18万円に下がった場合を例に、いくらもらえるかシミュレーションしてみます。この場合は賃金が60%まで下がったため、1ヶ月あたりの賃金の15%に相当する以下の額が支給されることになります。
・18万円×15%=2万7000円
仮に同条件が60歳から5年間続くとすると、合計支給額は162万円です。この制度を利用するかしないかで、定年後の5年間で162万円の差が出ることが分かります。
退職金の受け取り方には、一括で受け取る「退職一時金」と、年金のように数年に分けて受け取る「退職年金」、そして「一時金受け取りと年金受け取りの併用」の3つの方法があります。
退職一時金として受け取ることの大きなメリットは、退職所得控除を受けられることです。国税庁によると退職所得控除額は、以下のように勤続年数に応じて異なります。
・勤続年数20年以下:40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
・勤続年数20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
退職所得控除を受けるには、退職前に「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出する必要があります。提出しないと、退職金等の支払金額の20.42%の所得税額および復興特別所得税額が源泉徴収されます。つまり「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合は408万4000円が源泉徴収されるため注意が必要です。
60歳以降の再就職や再雇用で賃金が低下する場合は「高年齢雇用継続給付」を利用することで、賃金の低下率に応じた給付金が受けられるケースがあります。また退職金を受け取る際は、定年前に「退職所得の受給に関する申告書」を提出することで、退職所得の控除が受けられ退職金の手取り額を最大化できます。
今回の例では、高年齢雇用継続給付で162万円、「退職所得の受給に関する申告書」の提出で約390万円、合計約552万円の差が出ることが分かりました。
いずれの場合も、賃金と退職金の額は人によって異なるため、お得になる金額は個々の状況によって異なります。しかし定年後にもらえる金額に500万円以上の差が出ることもあるため、60歳で定年を迎える方は「高年齢雇用継続給付」の対象になるかどうかの確認と「退職所得の受給に関する申告書」の提出を必ず行いましょう。