vol.41「社会保険の適用拡大」
ご存じという方も多くいらっしゃると思いますが、今、日本の社会保障制度は改革の真っただ中にあります(令和2年改正年金法)。今回2024年10月からの改正も、その流れの中で行われるという理解が必要です。もともと日本の社会保障制度の改革は叫ばれていたわけですが、このままでいくと日本の人口減少は確実であり社会保障費の拡大が見込まれています。また、今の40歳代以上の方は就職氷河期世代とも呼ばれますが、ここの世代で「非正規雇用」の方が増えてしまっていて、この層の方々に将来の年金を増やしてもらいたいという背景もあり、非正規雇用・短時間労働者(一部のパート・アルバイト)の方への社会保険への加入が義務化されていきます。具体的には、
・2016年10月~:従業員数501人以上の企業で義務化
・2022年10月~:従業員数101人以上500人未満の企業で義務化
・2024年10月~:従業員数51人以上100人未満の企業で義務化
という流れであり、今回2024年10月より従業員数51人以上100人未満の企業で働く一部のパート・アルバイトの方で社会保険の加入が義務化されます。「一部の…」としたのは、ここには対象者の枠組みがありまして、以下です。
・週の労働時間が20時間以上
・所定内賃金が月額8.8万円以上(年間1,056,000円。これが106万円の壁)
・2か月を超える雇用の見込みがある
・学生ではない
上記の「短時間労働者の対象要件」自体は、(変更の議論はあったが)変わっていないので、単純に「働く企業の規模で、もっと小規模企業にも対象を広げます!」という意味ですね。ただ、今回の改正が扶養内のパートで影響が大きいといえることがあります。それが、「最低賃金の上昇」なんです。
最低賃金の全国一覧を貼っておきます。
例えば、東京都でみると、これまでは、1,113円/hでした。これが10月から1,163円/hです。そうするとどうなるでしょうか。
・最低賃金1,113円×19.5時間×4週間=86,814円/月<これは年間でいうと、106万円
つまり、この状態で51人以上100人未満の企業で働いていると、8.8万円未満なので、社会保険は未加入でOKでした。ただ、これが10月以降は最低賃金が上昇します。そうなるとどうなるか…。
・最低賃金1,163円×19.5時間×4週間=90,714円/月>これは年間でいうと、106万円
となって、社会保険加入の義務が出てくるのです(50人未満の企業では、社保加入義務は以前と同様に130万円の壁となる)。つまり同じ働き方をしているのに、社保加入によって手取りが15%(健康保険5%+介護保険1%+厚生年金9%)くらい下がる可能性があるということですね。
もちろん、社会保険に加入するメリットもあります。健康保険分野でいえば現物給付である、「傷病手当金」や「出産手当金」などがもらえるということでしょうし、公的年金部分でいうと、そもそも将来の老齢年金が増えるということもあるでしょうし、障害厚生年金や遺族厚生年金がもらえるということもあるでしょう。
ただ、わざわざ現役時代の手取りを15%も下げてまで、将来の年金を増やすということにメリットを見出しにくい背景もあるのです。詳細な計算は割愛しますが、そもそも社会保険って何かというと、上記の掲載のとおり、
・社会保険料=健康保険料+介護保険料+厚生年金保険料
であって、厚生年金の部分だけでみると将来もらえる年金を増やすということにメリットがあると思うのですが、健康保険料は掛け捨てなので、その分を加味すると、負担からみるリターンは過少ともいえなくもないです。
大事なことは、こうした社会保険保障の制度は今後もどんどん改正されていく可能性が高いということであり、そういう変化に対応していくアドバイスが求められるということでしょうか。これを自分1人で勉強して実務経験を得てとなると、専門で仕事をしていないとなかなか難しいと思います。だからこそ、担当者というのは必要になるんですよね。僕のクライアントはみんな賢い。