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vol.34「遺族厚生年金の見直しについて正しく理解する」

 社会保障審議会(厚生労働大臣の諮問機関)の年金部会(第17回)において、来年の国会に提出される年金改革に盛り込まれるであろう「遺族厚生年金の見直し」について、その方向性が示されました。今日はその内容を見ていくことにしましょう。

 まず、そもそも年金というのは、時代に合わせて法改正を繰り返し、「100年安心」の制度設計を保つようにされています。前回の年金制度の法改正は2020年であり、次期年金法改正は2025年に行われるわけですが、今回の「遺族厚生年金の見直し」は、その改正に盛り込まれる「素案」がでてきていると考えましょう。なので、2025年改正に盛り込まれるものとしてはいくつかあり、国民年金保険料の45年納付案(おそらく見送られる)などもあったのですが、その一つとして、「遺族厚生年金の見直し」があるということです。つまり、現状は「案」であり、これで決まりというわけではありません。あくまで方向性です。

 それでは、社会保障審議会の年金部会にて示された「遺族厚生年金の見直しについて」の資料を見つつ、解説していきます。

https://a23.hm-f.jp/cc.php?t=M115210&c=3351&d=53eb

 まず重要なことは、今回見直しが考えられているのは、「遺族厚生年金」です。遺族基礎年金ではありません。最初に安心してほしいことは、40歳以上の方にはほぼ影響がない改正といえますし、厚生年金を納付している全員に影響があるかというとそうではなく、若年層の「子のない配偶者」に該当する方が影響ある改正となります。また、「施行日前に受給権が発生している遺族厚生年金については、現行制度を維持」と書かれていますから、現状、遺族厚生年金を受給されている方も影響ありません。

 そもそもなぜ改正されていくのか、その背景を理解しましょう。ご存じの方も多いと思いますが、遺族厚生年金には明確に「男女差」があるのです。ここの理解が出発点です。

 そもそも、遺族厚生年金は非常に古い考え方をしていて、主たる生計維持者を「夫」と捉えていて、「その夫と死別した妻が就労して生きていくことは困難ですよね。なので、(稼得能力のない)妻に対しては国が生活を保障しますよー」という考え方に立っていて、30歳未満の場合には5年の有期給付、30歳以上の妻であれば無期限給付という形態となっています。一方、「夫」は、「別に、妻と死別しても、就労して生計を立てることができますよねー」という、「男なら働け!」的な考え方で(時代背景からそう読み取れる)、 55 歳未満の夫には遺族厚生年金の受給権が発生しないのです。また、受給権取得当時の年齢が40歳以上65歳未満である中高齢の寡婦のみを対象とする加算があり、これは男性にはありません。これらが「男女差」という話であり、この男女差を解消していきましょうというのが今回の改正の背景です。

 今、若い世帯(20代、30代の世帯)では女性の就業も進んでいますし、共働き世帯が増えてきています。今の40代、50代などですと、まだまだ専業主婦世帯があるケースもあって、世代間で、遺族年金への考え方(国の制度を前提としたライフスタイル)、国の制度の捉え方も異なってきていると考えるといいかもしれませんね。

 また、(こっちのほうが重要だと思うが)そもそも遺族年金の支給要件に男女差があるというのは、受給権が認められない男性遺族のみならず、女性の保険料拠出者への差別的な意味も含んでしまいます。なので、ここは男女平等にしたほうがいいということです。そのため、「20代から50代の子のない配偶者」に該当する方は、「男女差をなくして配偶者の性別に関係なく給付しましょう」という形になるのですが、ここを「配偶者(死別した男女とも)5年の有期給付とする」という形にすることで検討されています。

 整理しましょう。ポイントは、「20代から50代の子のない配偶者の扱い」が変更するのみであり、「20代から50代の子のある配偶者」、「高齢期の配偶者」は現行通りとなります。

<現状>20代から50代の子のない配偶者の扱い
・妻受給権(夫死亡):30歳未満は5年有期給付    
           30歳以上は無期給付

・夫受給権(妻死亡):55歳未満は受給権なし。55歳以上で受給権が発生するが60歳まで支給停止

→<改正後>妻受給権(夫死亡)、夫受給権(妻死亡)ともに、5年間の有期給付(妻については、時間をかけて段階的に移行)

<現状>20代から50代の子のある配偶者の扱い
・妻受給権(夫死亡)、夫受給権(妻死亡)とも:子が18歳到達年度末まで遺族基礎年金・遺族厚生年金を受給可能

→<改正後>変わらず、現行通り

<現状>高齢期の配偶者
・妻受給権(夫死亡)、夫受給権(妻死亡)とも:高齢期の配偶者に発生する遺族厚生年金は無期給付

→<改正後>変わらず、現行通り

 ここで押さえたいのは、「これまでは子のいない30歳以上の妻(妻受給権・夫死亡)は無期給付だったのに、これが5年の有期給付になる」という改正点であり(男性側はもともとなかったものが5年有期給付になるだけであるが)、この部分をもって(あと中高齢寡婦加算の廃止もあるが)「改悪」と評されているわけです。ただ、本当にそうでしょうか。

  そもそも、遺族基礎年金では「子のある配偶者、もしくは子の生活の安定を図る」が目的であり、遺族厚生年金では「遺族の生活を保障する」ことが目的です。ここに明確な違いがあるのですが、遺族年金は、今後はあくまで「子」を中心として考えるという整理をするといいのだと思います。そのため、遺族厚生年金は、(子のない世帯においては)男女ともに配偶者の死亡直後の激変に際して生活を保障するための給付として整理し、有期給付とする(もちろん、段階的に有期給付へ移行)という形にしましょうよ、ということ。つまり、「子のない世帯」においては、遺族厚生年金は生活立て直し資金としての位置づけになり、子があるケースでは「生活の安定」が目的として、ここは現状を維持するということです。非常に、わかりやすい整理だと思いませんか?

 また、(この情報は初めて公開されましたが)今回の改正案で、「20代から50代の子のない配偶者」における5年有期給付が示されましたが、やはり、無期給付の遺族厚生年金と比べれば受給期間が短くなることから、(まだ案ベースですが)配慮措置を講ずることが考えられています。それが、以下のようなものです。

・現行制度の離婚分割を参考に、死亡者との婚姻期間中の厚年期間に係る標準報酬等を分割する「死亡時分割(仮称)の創設」を検討する。これにより、分割を受けた者(配偶者:もちろん男も含む)の将来の老齢厚生年金額が増加することになります。

・現行制度における生計維持要件のうち収入要件の廃止を検討する。現状は、妻が850万円以上だと遺族厚生年金を受けることができませんね。これを廃止しましょうということ。なので、夫年収1000万円、妻年収1000万円というパワーカップルも有期給付の遺族厚生年金の受給対象者になる。

・現行制度の遺族厚生年金額(死亡した被保険者の老齢厚生年金の4分の3に相当する額)よりも金額を充実させるための「有期給付加算(仮称)の創設」を検討する。これは何を言っているかというと、4分の3ではなく、4分の4(=1)にするということで、遺族厚生年金の年額は増えるということですね。これにより、配偶者と死別直後の生活再建を支援するという意味があります。

 また、この5年の有期給付にしていくこと(または男女差解消)の観点からも、中高齢寡婦加算も段階的になくなるということも示されていて、これは、老齢基礎年金・老齢厚生年金が数年かけて60歳受給から65歳受給開始に引き上げられた形のイメージに近いかと思います。

 個人的には非常に現実に即した形でいい改正だと思いました。やはり、女性の社会への進出は、諸外国に比べても日本は出遅れていますし(もちろんジェンダーギャップも)、こうした一つ一つの制度を見直して、男女平等を作っていくことで、女性も働きやすい社会へどんどん進んでいくといいと思います。

 今回は長くなりましたが、つらつらと書かせていただきました。
 本日も1日頑張りましょう!

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