第15話 いざ物件探し!③~不動産営業同行編~
【登場人物】
〇藤堂さおり(32歳)・・主人公
大学職員として勤務している。夫の啓補は警視庁勤務。
気が強く、はっきりと言うタイプ。地図が好き。初めての住宅購入に向けて、不動産業者だけの話では納得いかず、FP事務所に相談へ行くが・・。
〇神崎勘太(36歳)・・祐天寺うぐいすFP事務所所長
CFP認定者、1級FP技能士、宅建士。「脱カモ」サポートをモットーに、龍太と二人でFP事務所を切り盛りしている。
〇藤堂啓補(34歳)・・さおりの夫。
警視庁勤務。素直で人を信じやすく、そのせいで営業マンのトークに乗せられやすい。基本的におっとりした性格。
〇神崎龍太(36歳)・・祐天寺うぐいすFP事務所 勤務 宅建士。
不動産業界での経験を活かしながら、勘太のサポートをしている。無口で勘太とは体型含めて正反対。
〇皆川 ・・・不動産Rの営業マン
前回までのあらすじ。
主人公の藤堂さおりと、夫の啓補。夫の啓補が気に入って一気に購入しようとしていた建設予定のマンション。そんな展開に不安なさおりは自身のクレジットカードの特典だったFP(ファイナンシャルプランナー)の無料相談をきっかけに、その物件の調査依頼をしたところ、災害に弱い危険な立地であることを理由に購入をやめるように勧められた。案の定、その建設予定地は後日台風で冠水してしまった。それがきっかけで、2人はここのFP事務所の住宅購入サポートプランのトライアル契約を申し込むことに。それから、事務所の所長の勘太から住宅購入にあたり様々なレクチャー後、いよいよ物件探しが始まった。さおりや啓補が気に入った物件は、再建築不可だったりと中々うまくいかない。そんなとき不動産Rから物件紹介の連絡がきた。不動産業界経験のあるFP事務所の龍太同行のもと、物件回りが始まった。
第15話 いざ物件探し!③~不動産営業同行編~
10日ほど経った土曜日。まずFP事務所で龍太と会い、その足で、3人で不動産業者Rの支店へ向かった。そこには、営業マン皆川がにこやかに対応し、改めて簡単に条件を確認するとすぐに車で内見に行くことになった。以前にショールームを見たときはマンションとだけ希望条件を出していたが、電話がかかってきた際に、追加で中古の戸建てという条件も追加で伝えていた。
皆川は、私と啓補以外に、龍太が同行していることに、怪訝な顔をしていたので私が今相談しているFP事務所の方です、と正直に紹介した。最初はやりにくそうな雰囲気を出していたが、気を取り直したようだ。
皆川は、車に乗せると、
「ご希望に添えるものかわかりませんが、いくつかご紹介できるかと思うので、この車で数件見て回りましょう」
「ありがとうございます。車で一気に回れるから楽だなぁ」
啓補は、少しVIPな気分になり、機嫌がいい。確かにここ3か月、実際に歩きながら、物件を見て回った。最近は冬になり、寒い日がつづいていたこともあり、暖かい車の中で一気に数件物件を見れるのは少しうれしかった。
「まず、こちらの物件です、ご希望の予算内ですと、どうしてもご希望のイメージよりも狭くなるかもしれません」
最初の物件は、予算以内であったが、鉛筆のように細長い戸建て住宅で、3階建ての住宅であった。
「これで延べ面積は70㎡なのか。なんだかずいぶん狭く感じるわ」
「階段の面積も入るから、マンションより実際の面積は狭く感じられるかもしれませんね」
移動中も龍太は特になにも私たちに何も言ってこない。
ただ、1件目の内見を終えて、停めてあった車へ向かいながら
「まわし・・か」と小声でつぶやいた。
「えっ 何か言いました?」
すかさず龍太に聞いた。
「あ、いえ、内見すべて終わったときに事務所でお話しますよ」
ほとんど無口の龍太が初めてちゃんと会話してくれた気がする。それだけで少しホッとした。前回の打ち合わせ時もただ黙って座っていただけで、ほとんど一言も発しなかったから、不動産に詳しいとは聞いていたけれど、正直少し不安ではあった。
次の物件も多少は面積広くはなったが、同じような鉛筆のようなかたちをした狭小の住宅で、新築というのもあり、1件目の物件より500万ほど高く、予算額ちょうどくらいだ。ただ駅からは1件目の物件より5分ほど遠い。
「こちらは、弊社が扱っている物件というのもあり、仲介手数料はいただきません。」
「えっ 仲介手数料ないんだ。それは大きいですね。」
そんなこともあるのかと驚きながらも、少なくない金額の仲介手数料が発生しないのは魅力には聞こえた。
しかし、やはり物件が資料に記載している75㎡よりも狭く感じる。嫌というほどではないけれど、前のめりになる気持ちにもならなかった。
「なかなか、ご希望の予算だとこのような物件が中心にはなりますが、次の物件は予算オーバーとはなりますが、ご参考までに」
3軒目の物件は、まさに二人が求めたいたような広さにゆとりがあり、築年数も10年以内で希望どおりだった。しかし物件価格は予算を1千万ほど超えている。
「自分たちの希望どおりだけど、予算大きく超えているわね。やはりこのくらいかかってしまうものかしらね」
「そうだね。なかなか厳しいものだね」
「ご希望のエリアは、人気エリアというのもありますので、この広さだとこれくらいはかかってくるかと。」
もう1件内見したが、これも同様に広さは希望通りだが、先ほどと同じく予算を1千万円程超えていた。
少しがっかりしながら仕方ないと諦めて、車に乗り、不動産屋の店舗に戻る途中、皆川の携帯がなった。
急きょ車を脇に止めて、皆川は電話に出ると
「えっ、あの物件キャンセルが出たんですか!?たしか、都立大学駅から徒歩7分の、中古の戸建のやつですよね」
私たちもつい聞き耳をたてていた。
「わかりました。ちょうど、いま他の内見終わったところなので、お客さんにお話ししてみますね。ありがとうございます。お疲れ様でした」
「藤堂さん、ラッキーです。たった今、ご希望に近い広さと価格、価格は少しだけ予算超えていて、物件としては築20年以上ですが、リフォーム済みなので、綺麗な内装となっています。もしよければ内見していかれますか」
「ぜ、ぜひ。せっかくですから」
皆川の少し迫力ある雰囲気の問いかけに、啓補は、前のめりになって答えた。
その物件は、確かに希望通りで、広さも自分たちの希望通りであった。築年数が30年を超えているとのことだが、リフォームしたばかりで、外壁塗装もしてあるため、綺麗ではある。さおりは緑道沿いなのは気になったが、落ち着いた雰囲気の場所で、物件自体は気に入った。同時に龍太の意見を聞きたいと思ったが、あれ?いない。2階でリビングやキッチンをみているときに、その場にいないことに気がついた。どうやら、1階にまだいるようだ。
しばらくたって、手を払いながら2階へ追いついて来た。渋い表情をしている。何だろう。
「こちらの物件人気ですぐに決まったのですが、ご契約予定の方が融資がおりなかったとかで、急遽本日キャンセルになったんですよ。もしお気に召されたなら、申込順にはなりますでお早目にご決断ください。」
「わかりました。一両日中に連絡します」
啓補は、多摩川の新築マンションのショールームの時とおなじように紅潮した顔になっていた。でも私はむしろ龍太がどんな風にコメントするのか気になっていた。ていうか、同行しているのに結局同行中はほとんど何も話さなかったじゃない!
皆川と別れてから、2人はFP事務所で打ち合わせすることになった。
(第15話終わり) 次回は9月13日(日)に更新予定です。
※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
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