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第17話 不動産業界と消費者との情報格差


【登場人物】

〇藤堂さおり(32歳)・・主人公 
大学職員として勤務している。夫の啓補は警視庁勤務。
気が強く、はっきりと言うタイプ。地図が好き。初めての住宅購入に向けて、不動産業者だけの話では納得いかず、FP事務所に相談へ行くが・・。

〇神崎勘太(36歳)・・祐天寺うぐいすFP事務所所長 
CFP認定者、1級FP技能士、宅建士。「脱カモ」サポートをモットーに、龍太と二人でFP事務所を切り盛りしている。

〇藤堂啓補(34歳)・・さおりの夫。
警視庁勤務。素直で人を信じやすく、そのせいで営業マンのトークに乗せられやすい。基本的におっとりした性格。


〇神崎龍太(36歳)・・祐天寺うぐいすFP事務所 勤務 宅建士。 
不動産業界での経験を活かしながら、勘太のサポートをしている。無口で勘太とは体型含めて正反対。

〇不動産会社G 花積亮介(36歳)・・勘太の高校の同級生、親友


前回までのあらすじ。


主人公の藤堂さおりと、夫の啓補。ある日夫の啓補が気に入って一気に購入しようとしていた建設予定のマンションがあった。そんな展開に不安なさおりはFP(ファイナンシャルプランナー)の無料相談をきっかけに、その物件の調査依頼をした。災害に弱い危険な立地であることを理由に購入をやめるように勧められ、実際にその建設予定地は後日台風で冠水してしまった。それがきっかけで、2人はここのFP事務所の住宅購入サポートプランのトライアル契約を申し込む。それから、事務所の所長の勘太から住宅購入にあたり様々なレクチャー後、物件探しをスタート。気に入った物件は、再建築不可だったりと中々うまくいかない中、不動産Rから物件紹介の連絡がきた。不動産業界経験のあるFP事務所の龍太同行のもと、数件物件回りをしたところ、最後のキャンセルが急にでたリフォーム物件を2人は気に入ってしまったが、龍太の説明で新耐震基準を満たしていないと思われる物件だとわかる。今後の二人の物件探しはどうなるのか?


第17話 不動産業界と消費者との情報格差


「そういえば、2件目の物件の話になったとき、「この物件は仲介手数料無料ですよ」と言っていたけれど、そういうことってあるんですか。ネットで検索したら、そういうこと謳っている不動産会社のサイトとかもありましたけど」
それを聞いて龍太がこたえた。
「ああ、2件目の物件はR不動産が管理・販売している物件だからですよ。他の業者でも『仲介手数料無料』をうたっている会社ありますけど、物件価格にその分上乗せしているか、売主側からそれ相応の仲介料を貰っているか、どちらかですよ。どちらにしてもお客側が自由に物件を決めて、無料になる話ではないです。不動産会社もボランティアでやっているわけではないですから。」
「やっぱりそうなんですね。やっぱり不動産業者って、ニコニコして対応してくる割に腹黒いっていうか、やっぱりひと癖、ふた癖あるわね。好きになれないわ」
勘太は思わず吹き出しながら、
「そういうもんです。こちらの龍太から話があった通りやけど、この不動産業界でまず「掘り出し物」というのは存在しない。なぜなら、不動産屋自体が自ら家を買えるから。」
「それってどういうことですか?」
「たまにね、『この物件は掘り出しものですよ』なっていう営業マンいるでしょ。それ、ありえないから。だって、現在のレインズなんかの制度上、あっ、レインズのことは後で話しするけれど、お得な物件なんて買えない。新築の場合は完成した時点でがっつり利益が乗っている。仲介手数料もいらないくらいに。もし中古で掘り出し物が出たら、情報を先に入手した不動産屋が先んじて利益を確保するために手に入れて、適正価格にして、売りに出すからね」
「業界以外の人は、掘り出し物があったときに、すぐはわからない仕組みってことなの?」
「そう、さっき言ったレインズというのは不動産流通標準情報システムのことで、つまり流通する物件の情報を、不動産会社間でリアルタイムに共有・交換することができるサービス。不動産取引している不動産屋ならほぼ皆このシステムを使っていますよ。だから、一般消費者と不動産会社との間では、物件を探すうえで圧倒的な情報格差が前提にあるってこと。それなのに」
「それなのに、まだ何かあるの?なんだか腹立ってきたわ、やっぱり。」
「おかしいよな。それなのに、不動産屋は一般消費者と同じように家が買える。例えば、自分は昔証券会社で証券マンをやっていたけれど、証券マンが個別株など有価証券を買うことは、厳しく制限されとるんですよ。商売柄、これから株価がアップ、ダウンする情報を事前に入手して購入まで普通にできてしまえば、市場の公正さがなくなる、という観点からなんでしょうけど。だけど不動産業界はそれがない。だから、いい物件が出てくれば市場に出す前に自分で買うし、同じ不動産業者に横流しにすることができちゃうからね」
「うわーそういうことか。じゃ、簡単にカモにしやすいわけね。これだけ私たちと不動産会社では前提の条件が違うのだから」
「そうだね。株とかなら、係わりたくないならかかわらないままで過ごせるけど、家って、皆どこかには住むからね。借りるにしても買うにしても。だから生きていたら不動産会社と関わらないわけにはなかなかいかない。そこが何とも厄介ですわ」
「そうね。だから客観的なアドバイスをしてもらえることは大切ね。色々教えてくれて今日は本当にありがとう」
「いえいえ、不動産業者については、下手に警戒しすぎてもね。進むものも進まなくなるし、まぁただの取引相手と割り切るに限りますよ」

帰宅してから、これからのことを話し合い、勘太と龍太が自分達側に立って、動いて、アドバイスしていることもわかったし、これからも購入を決断するまでサポートしてもらいたいという気持ちは共に一致していた。トライアル期間後もサポートしてもらうことに決めた。決めたら、腹が据わるというか、住宅を買うんだ、という覚悟が固まった気がした。

これからについては、これまでと同様にサイトで気になった物件があれば、勘太から住所を教えてもらい、まずは物件現地へ夫婦2人で足を運び、気に入った場合は、龍太や勘太、に内見の同行をお願いするという流れで、物件を見て回った。
 それから、3か月ほどは、様々な物件を見ては、チェックシートを確認し、実際に自分たちにとってどこがネックか、2人で話し、だいたい週に1回ペースで1~2件は見て回った。二人にとっては、毎週物件も見ながら、その街も見て周るということをしていくうちに、物件探し自体は以前よりも苦ではなくなってきた。私が地図をみることが好きなことも後押ししているのだろうな。
 そして、最近は気になった物件の時は、内見希望を勘太に伝え、勘太のFP事務所と提携している不動産会社Gの営業マン、花積亮介を紹介され、一緒に時々同行することとなった。花積は同行の際に、物件の見方や、率直な感想を話してくれるが、押し売りのようなものは一切なく、なんだかそれが新鮮だし、心地よかった。
また、不動産会社Gが仲介した場合の手数料については、物件価格の2%―30万(今回のFP事務所支払い分の割引)か、固定額49万8000円のどちらか、選択できる旨も説明があった。
うぐいすFP事務所にサポートをお願いした場合の、仲介手数料が割引になる話は事前に聞いてはいたけれど、実際の金額を聞くと、その割引額は大きいなとも感じる。

(第17話終わり) 次回は9月27日(日)に更新予定です。


※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。



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