河野竜生の先発には何が足りないのか?

フォックストロットの野球語りたいラジオ4/9原稿)
今日も、と言っていいだろう。
河野竜生は先発で五回を投げきれず、三回で7安打1四球5失点の内容でマウンドを降りて負け投手になった。
2019年にドラフト一位で入団してからというもの、河野くんは先発で試合を作れずに苦しんでいる。
昨年見せたリリーフでの内容は文句のつけようがない完璧なものだっただけに、そのポテンシャルは決して低くない。
ではなぜ河野くんの先発はいまいち安定しないのか。今日はそのことについて考えてみたい。

河野くんの成績のうち、結果がはっきりと差になっている中継と先発、その特性の違いから読み解いていこう。

まず誰にでもわかることだが、先発は最低でも5イニングを投げ抜くことを要求される。球数はおおよそ100球前後、
失点をゼロにすることもまあ求められるが、それよりも必要なことは試合を壊さないようにクリエイトすることだ。
対してリリーフは一般的には1イニング、球数は20球前後。長いイニングを投げなくて良い代わりに、完璧な投球を求められる。
前者に求められるのは投球、投げる球のクオリティももちろんだが、3巡以上も相対する相手打者を自在に討ち取るための技術、
それを実行するための体力が必要だ。
リリーフに必要なのは何はなくとも相手打者を完璧に討ち取るための強さだ。それは球速だったり、変化球だったり、制球だったり、
駆け引きだったり、度胸だったり、人によって様々だけれど、名リリーフ、名ストッパーと呼ばれる選手たちには必ずどれか突出した「強さ」がある。

河野くんはリリーフで突出した成績を残したが、それはなぜかというと、彼の特徴であるところの癖のある二段モーションから放たれる直球のキレにある。
河野くんのストレートには球速以上の威力があり、それは二段モーションのタイミングの取りづらさや、サウスポーとしての腕の角度等と相まって
ウイニングショットと呼べるクオリティがある。これを登板直後からフルスロットルで投げられるパワーも河野くんのリリーフでの成績を担保する要素の一つ。
河野くんが現在持っている投球スタイルは短いイニングで最大出力を取り出して、相手に対応する隙を与えずに制圧する、というやり方。
もともと持っている高い能力をそのままぶつけていく、正面突破型と言っていい。メンチ切ってタイマン張るというか。
河野くんはそこに「強さ」がある投手だ。
しかしこの強さ、働く場所がリリーフから先発になると途端に脆さになる。
河野くんの直球のキレ、二段モーションの癖の強さ、正面突破のパワータイプ、といった各種特徴は、先発に回って長い回を投げようとすると、
そのまま「イニングが進むにつれて低下する球威」「何度も対戦すれば慣れる」「素直すぎる勝負」という裏返しの特徴になる。
僕は常々河野くんの先発時の課題は「立ち上がり」と「5、6回」と言っているが、その根拠がこの強さの裏返しだ。
立ち上がりの難しさというのはどんな先発ピッチャーでも逃れられない永遠の課題であると言っていい。
が、河野くんはそれに加えて「素直な勝負をしたがる」という特徴がついてまわる。
イニングを稼いでいくためには能動的にアウトを取りに行く戦略が必要だ。
それは内外の投げ分けや変化球と直球の落差だったり、相手の裏を描くということとイコールだが、
河野くんの場合はそこの丁寧さがまだ投球の中に足りない。
気持ちの面で打たれたくない、抑えたいという気持ちが前面に出るタイプであるが故に、
とどめの場面で素直な勝負をするための仕掛けが多い。
持っている球の質は悪くないのに、出てくる結果がついてこないのは、その球を活かすための引き出しが少ないからだと言える。

例えば上沢はキレの良い直球を見せ球にしてフォークで空振りを取ったと思えばカットボールで詰まらせたり、
カーブで目線を変えてタイミングを崩したりと、相手の意図の裏を書く投球の引き出しをいくつも持っている。
宮西もストレートとスライダーのギャップを上手に使って、マトを絞らせない投球をしたかと思えば、
スライダーの曲がりを微妙に使い分けて、一つの球種を二つにも三つにも見せる技術がある。
今河野くんにあるのは「ストライクゾーンで勝負できる球」以外に有効な武器がない。
「相手が振りたくなるような球筋の差」や「打ったと思ったら詰まるような芯の外し」、
「インサイドを意識させた上でのアウトサイドでのとどめ」といった1球種の強さに頼らない投球の組み立てがあれば、
全力で腕を振る以外の勝負の仕方も見えてくる。全力で腕を振る以外の勝負ができれば、先に述べた裏返しの特徴の発生を抑え込める。
要所で力を入れるだけにすればイニングも稼げるようになり、投球そのものに余裕も出てくる。
正面突破が悪いのではない。正面突破を多用することは相手の対策も取りやすいのだから、
あの手この手でその裏をかくということが今求められているということなのだ。
先発の椅子をどうしても手に入れたいのならば、もっと狡賢く、相手に嘘をつける投球を身につける必要がある。

投手はマウンドの上ではエゴイストでいい。だが、エゴを通そうとするのならばそのエゴの大きさに見合った圧倒的な力が必要になる。
「正面突破」というエゴの一番最大の通し方は、「誰にも負けない球速」「絶対打てない変化球」だ。
それを手に入れるのか、それとも賢く立ち回るのか。河野くん自身が自分の可能性をどう見積もって成長していくのかを見守りたい。

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