負ける気がしないときって
つい、一昨日だったかしら。
知り合いのライターさんが本を上梓されたようで。
出版社さんから創刊前の刷り上がりが一冊ウチに届いていたんですよ。
数日後、書店に並ぶはずのその方の本を一足早く拝見できる。編集者やってると、こういう役得がわりかしあって、ささやかな幸せを感じます。
この方、ご自身で書籍を著わす傍ら、雑誌でもご自身のページをご担当されていたりして。編集も書きもこなされるベテランジャーナリスト。
どちらかと言うと、わたしら現場の職人に近しいんで、作家さんとはお呼びせずに、親しみを込めてライターさんとしてお付き合いさせていただいています。
あ、ウソウソ。お付き合いさせていただいてますって言っても、つい何ヶ月か前にお会いして、意気投合して、今度こうこうこういうお仕事がありましてね、ご興味はありませんか、ギャラは安いけどお願いできませんかって感じで、以降何度かやりとりをさせていただいているという間柄。古くからのお友達みたいに言ってすみません。出会いはごく最近です。
って思っていたら……さにあらず。
こないだ企画が具体的になってきたので、あらためてご機嫌伺いのメールを差し上げたんですよ。したらば、そのライターさんから驚きの一言が。
わたしってばウッカリ失念していたのですが、ライターさん曰く「私ね。わたしさんと会ってるんですよ〜。かれこれ6〜7年前に遡るでしょうか。覚えていないかもだけど」と仰るんです。え、マジっすか?
それは随分と前に、わたしがとある著名人さんのインタビューに臨んだある日のことでした。「はじめまして、本日はお忙しいところご協力ありがとうございます〜」などと、著名人さんと談笑してたそのすぐ隣に、奇しくもくだんのライターさんがいらしたんだそうで。
言われてみれば、確かにいらっしゃいました。記憶が定かではないんですが、当然ご説明やご挨拶もあったはず。でも、たぶんですが目の前の仕事に手一杯であんまし余裕がなかったんでしょうな。
所属事務所の偉い方なのかなぁ。それともマネージメントをされているお付きの方? とても品があって、物腰柔らかで、わたしと著名人さんの会話にも自然にすんなり交わられていたので、それ以上、あんまり深く考えませんでした。
ホント、穴があったら入りたい。
周りがまったく見えてなかった自分にイエローカードです。
実はそのライターさん、わたしがインタビューをお願いした著名人さんのフォトブックを制作するために、張り付きで数日間にわたって同行されていた同業の方だったんです。つまり、そこにいる目的こそ異なれど、わたしとおんなじ編集兼ライターさん。
ちと、ややこしいので喩え話で説明します。
最近話題のタレントさんのもとに雑誌社の取材チームがやってきて、その取材風景を『情熱大陸』のクルーがつぶさに追いかけている感じ。と言えばわかりますかね。
タレントが「とある著名人さん」で、雑誌社の取材チームスタッフが「わたし」。「くだんのライターさん」は『情熱大陸』のディレクターかな。なんだか、ちょいと不思議な関係性と立ち位置の二人の編集兼ライターが、とある著名人さんを媒介にして同じ空間にいたんです。
「ええええ〜なんですと〜」
「そうなんですよ〜、面白いご縁ですね」
もうね。偶然にも程があって。
その話をお聞きして一気に距離が縮まりました。
こりゃあ例の企画をビシッと通して、このライターさんとの協働で絶対いいページにしなきゃアカン。そう強く思いました。
ま、でも。こういう風に。
アレコレいろんな綾や導きがあって、根拠はないのに成功の匂いしかしないお仕事って、たいていはうまくいくもんです。トントントンって話が進むのもまたいい兆し。心配だった曇り空がロケ当日にはカラッと晴れ渡ったり、難航しそうなキャスティングがヌルッと見事に嵌まったりとね。何かが起こりそうな時は、必ず小さな〝しるし〟みたいなのがあって、それを見逃さずにコツコツ積み上げていくと、なんだか物事が悪くない方へ向かう〝流れ〟が生まれていく気がします。見過ごしたら勿体ない。
しかし、過去にお会いした人のご尊顔をろくに覚えていないのは、こういう仕事をする者にとって致命的すぎる。猛省案件ですよまったく。
記憶力を維持するサプリでも飲もうかしら。ホントに気をつけないと。
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