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例え話

ふだんのメールのやりとり、あるいは打ち合わせなんかで、「あちゃー、たぶんこれ、絶対伝わってねぇー」ってことがありますでしょ。そういうときについつい多用しちゃうのが例え話。ご自身の経験論から似たような例を引いてきてみたり、逆にお相手の得意なフィールドに寄せて投げかけたりと、どなたもわりと使っている場面は多いと思います。

それでお相手の反応を見て、腑に落ちてもらえた時は、なかなかどうしてこれがうれしい。

例え話は、話が長くなっちゃうある種の脱線行為ではあるのですが、気の利いた比喩表現が切れ味よく決まると、クドクドと説明を厚化粧するよりよっぽど時短効果が高いです。
また、たいていはそこで相互理解が深まりますし、イメージの共有に齟齬があった場合も糺したり軌道修正することができます。何より会話のキャッチボールが活発になり、話がトントン拍子に進むきっかけになり、話し手の要領のよさや知的レベルがアピールできるという副産物も。ドライになりがちな報告、連絡、相談に、ちょっとした彩りを添えられるということですね。

例えば(と、さっそく使ってみます 笑)、こないだクライアントさんとのオンラインミーティングで、同席していた編集者さんが引き合いに出したのが、最近始めたSUP(スタンドアップパドルボード)の話題でした。

超インドア派だった彼女がSUPを始めたなんて、それだけでも驚きだったんですけれど。事前に準備しておくこと、知っておくべきマナーやルール、前もって携えておくべき心構え……etc.、それらが意外とわんさかあって、新たな趣味を始めてみよう! というモチベーションの阻害につながっていたというのです。

で、このことを例えに、もっと新しい読者(新規会員)を意識したコンテンツ制作に努めるべきだ、というのが彼女の論旨でした。

なるほどなるほど。確かに最近のこのメディアの記事傾向は、中・上級者向けのハウツーネタが多かった。ついウッカリ初心者さんを置き去りにしていたかもしれない。わたしたち書き手の方も、号を重ねるごとに知識と経験を積み増していきますからね。どうしても一度どこかのタイミングで触れてきた基本のキは、誰もが知ってる当たり前のこととみなして、あらためて二度三度とクローズアップしてこなかったんです。
クライアントさんもこれには大きく頷かれ、定期発信できる初心者向けのコーナーを設けることになりました。

また、たまたまなんですが、クライアントさん側のご担当者の一人として出席された新任上長さんが、やはり最近SUPを始められたとかで。その日のミーティングは大いに盛り上がり、今度皆さんで奥多摩あたりに遊びにいきませんか? なんて話になりました。よかったよかった。やさしい世界。


一方、こちらは厳密にいうと「例え話」とはちょっと違うんですが。
知り合いのWebディレクターさんに、美大出身の、とても絵がお上手な方がいましてね。もともとグラフィックデザイナーだったのが、コミュ力と企画力を発揮されてディレクター職に就いたものですから、「例えば……こうゆうことですよね?」なんて、打ち合わせの場でサラサラ〜っとサムネールやイラストにしちゃうんです。(こういうスマートな方って結構多いっすよね)

いつもロルバーンのリングノートを持ち歩いている氏は、会議の席上で話が煮詰まってくると、何やら机の上に視線を落としてカキカキし始めるのです。
で、わたしがクライアントさんを相手に大枠を話し終えると、「今わたしさんが仰っていたことを絵にしちゃうとこんな感じです」と絶妙なタイミングで指し示すわけです。

「おぉ! なるほど。じゃあそれでいきましょう!」

編集者やデザイナーは、仕上がりのイメージを頭の中で思い描くのはお手の物。ですが、お客さんに同じものを想像していただくのって意外と難しいものです。それを「例えば」といって、その場でイラストとして視覚化しちゃうんですからすごいすごい。話が早い。


とはいえ、この手の例え話は「的確であること」が前提です。
本当に伝えたいこと(本論)と合致せず、微妙にズレていたら、それこそ「いらない子」になります。
順序立てて簡潔にできないネタ、込み入ったネタ、下品なネタだったりもふさわしいとはいえませんね。お相手の業種業態を理解した上で、「そうそう!」と合いの手を入れていただけるようなお話なら、「ちゃんと我々を理解してくれている」という副次効果も得られます。

また、「お相手を見て」やらないとマズイ時もありますね。
万が一、ピントから少しでも外れた例え話をしちゃって、そこに対して「ん? それってどういうこと?」とツッコミが入ったり、「君の認識は前提からして間違ってますよ」と否定されそうになったりしたら、肝心の「本論の評価や可否」まで脅かされかねません。

こういう誤謬を装った論点ずらしは、わりかし営業の現場で作為的に起こり得ます。例えば、企画の中身うんぬんではなく、企画を進めることそのものに難色を示されているとか、そこまで予算はかけられないとか、責任を取りたくないんでやりたくないとか、ハナから話を聞く姿勢がない方がお相手の時は厄介です。
ド下手な例え話でツッコミどころを与えてしまうと、企画自体にダメ出しされるきっかけを与えてしまうことにもなります。そういったセンシティブな場面では、いかに場を和ませようと思って発したものだとしても、不用意な例え話はしないほうが賢明かと思います。

もちろん、例え話は文章でも使えます。
この複雑なテーマを読者に伝えるためには、どうしたら平易に解説できるか。
あれこれ効果を考えて、自説に添えてみるのも楽しい作業です。

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