失敗なんてヌルッと忘れてしまえ
ドクターXじゃないですが、わたし、失敗したことがないんです。
例えば、新しいお仕事が始まると、クライアントの期待値を遥かに上回る結果を出してきましたし、それが一年二年続いて安定期に入ったとしても、周囲の方々が想定される以上に〝新しい企画〟をバンバン織り交ぜて、その都度、関係者の皆さんの度肝を抜いてきた自信があります。
そりゃあ、チーム全体でいえば、小さなミスはなんぼでもあったとは思いますけどね。
ミスが大問題になっちゃう時って、たいていは仕事がシステム化され、ルーティンワークになり、誰が見ても「え? なんでそんな凡ミスやらかしちゃてんの?」って不安にさせてしまうからです。
常に新しいチャレンジをかまして予測不可能な状況を作っておけば、多少の「マズったな」は目立たないし、仮に判断ミスやボタンの掛け違いがあってもそれほど顕在化しません。もちろん小さなミスが後々大きな問題とならぬよう、二重三重の安全装置は施しておきます。仮にAさんがミスっても、次にバトンを受け取るBさんがフォローアップできる工程を予め組み入れておくとか、スケジュールに余裕を持たせて各パートで徹底チェックをする時間を確保するなど、何事も周到に構えておけば大丈夫です。たいていは。
ただ、過去に一回だけ会社に大損害を出しちまったことがあります。
それは、とあるアパレルメーカーさんのVI(ビジュアルアイデンティティ)を担うお仕事でした。簡単に申し上げるとブランドロゴを刷新するデザイン業務。ウチは、ブランドロゴを制作しつつ、そのロゴ使用に関するガイドライン、ロゴが入ったパッケージデザイン、ロゴの開発ストーリーブック(ブランドブック)など、いくつかの印刷物が紐付けて制作させていただくというものでした。
ロゴ自体は、なかなかステキなデザイン案が選ばれて、トントン拍子に決まったんです。で、そのロゴ開発をベースとした刷りもの系の制作も無事に納品。その際、制作物の一つにカウントされていた商品包装用のビニールケースにミスが見つかったんです。ロゴのショルダーとしてデザインされていたステートメント(スローガンメッセージ)に「スペルミス」が発覚したのでした。
ステートメントというのは、例えば、日立さんなら「Inspire the Next」、LAWSONさんなら「マチのホットステーション」、大成建設さんなら「地図に残る仕事。」なんかがそれにあたりますね。ウチのデザイン提案では、ブランドロゴに添える形でステートメントをイタリア語で綴ったんです。もうホントあくまでも飾り。
この時わたしは海外出張でして。言い訳するつもりはまったくないのですが、ひと通りのチェックを済ませ、現場の最終報告を受けて印刷所にGOを出し、「じゃあすみませんがあとはよろしくお願いします」と、機上の人になりました。
陣頭指揮を執ってくださったSさんは当時わたしの先輩。「わたしクン、あとは私たちに任せて。気をつけていってらっしゃい」とニコニコ顔で送り出してくれたんで、安心して次の案件に頭を切り替えていました。
ところが帰ってきたら、社内はドタバタ騒ぎ。
「なんで報告の電話をくれないのよ」と愚痴をこぼしたら、Sさんを筆頭にチームメンバーが「出張に専念してほしくて」「契約を控えている時にこういう話題は不味いかなって」「とにかくすんませんでした」と平謝り。
まぁ、それ以上仲間を詰めても意味がないんで、速やかにクライアントへお詫びをするとともに、印刷所さんへ最短での刷り直し、仕切り直しを依頼しました。
包装用ビニール袋とはいえ一枚単価3.5円だったかな。印刷コストは材料費込み20万枚で70万円です。実は他にもコストは発生していて、工場のラインを空ける調整作業が必要だったり、特急の配送費用をどうするかなどでかなり揉めたのですが、印刷会社さんも「私どももチェックが甘かった」として型代などを負担してくださり、結局ウチからの支出は80万円ほどに落ち着きました。プロジェクト全体の総予算で、粗利は30〜40%ほど確保していたので、さすがに80万円が無くなったところで赤字にはなりません。が、それでも本来の利益を大きく目減りさせてしまったことには違いなく、翌年からそのクライアントさんとのお取引が途切れてしまったことも含め、苦い思い出となりました。
でもですね。そういうことは忘れてしまうのが一番です。
それぞれがあえて口に出さずとも、ほろ苦い記憶としてとどめておけるなら、それを糧に次また頑張ればいい。わたしはむしろタイトロープな仕事の中で得た成功体験、難局を切り抜けられたポイント、新たに獲得できた人的リソースやパイプなどを分析しておいて、次につなげる準備に時間を割くのがいいと思います。
なんでミスったんだろう? どこでやらかした? 誰があのミスの張本人? そもそもなんでイタリア語でスローガン作るんだよ、などなど。ウジウジ考え出したらキリがありません。考えたって、どうせ「次はこうこうこうして気をつけよう」的な、自縄自縛の慎重論しか生み出さないんで。
それに、イヤなことはサッパリ忘れてしまうからこそ、わたしはこうして「わたし、失敗しないので」などと自信満々に嘯いていられるのです(笑)。
あ、でも、、、そういえば、ついこないだもスペルミスがあったばかりだし、大事な仕事で誤植が発覚して、急遽配本をストップさせ、印刷所で訂正シールを貼りまくったことも思い出しました。クライアントさん、元請けさん、代理店さん、スタッフ総勢数十名を巻き込んで、数日間にわたって修正作業。。このnoteでも書きましたよね。
あと、遡ればもっと若い頃に、お客さんのところへ色校を届けに行く電車の中で居眠りこいて、網棚に忘れちゃったことなんかも。あれも一部で大問題になって、すんげー叱られたっけなぁ。。(おいおい、けっこーやってんなぁ 汗)
いや、たぶん、あれは夢です、幻です。
なにしろ、わたし。失敗しないので。