龍神様の雲
土曜日の午後、おそらく龍神雲といわれるものを見ました。
実は月曜日に、母が腎機能不全で入院してしまいまして。
炎症を起こしたのか毒素が尿として排出されず、かといって透析治療を施そうにも体力がもたないだろうということで、お医者さまからは「もういかほどもあとがない」といった主旨のお話がありました。
翌火曜日の夜中に病院から連絡があって「今すぐ来てください」と呼び出されました。「もしかしたらこれが最後かもしれませんから、できればご家族皆さんでお越しください」と、お電話で。
心拍数は40前後を行き来し、不整脈のような鼓動が弱々しく不規則に続いていました。声をかけながら小一時間ほど傍にいたでしょうか。その晩は、なんとか持ち直してくれ、付き添っていたとしても何も変わらんから今夜はお引き取りくださいってことで自宅に戻ったのですが、以来ずっと小康状態が続いていましてね。水曜日、木曜日、金曜日と、いつ逝ってもおかしくない中、母は点滴でかろうじて生きながらえています。
恐らくこの点滴もお医者さんの配慮なのでしょう。わたしらが(特に息子のわたしが)母の死を受け容れる準備をするための、わずかな延命措置とでもいいましょうか。そうやって、なんだかやたらと気が重い日々を過ごしつつも、心の中でいろいろなことに折り合いをつけてきた一週間でした。
というわけで土曜日の午後も、「早く行かなきゃ」、「もしかしたら今日が最後かもしれない」などと思いながら、ただただ病院への道を進むことに集中していた時、ふと、夏のように真っ青な空を見上げたんです。
「あっ」
わたし的には、完全に龍に見えました。それは立派な雄々しい龍のカタチ。
背や尾にあたる部分もちゃんとあって、グッと頭と前身をもたげて、なんだったら前脚のようなシルエットさえありました。記憶が定かではありませんが、玉を握っていたかもしれない。
で、あ、写真撮んなきゃ! ってパチっと一枚だけ撮ったんですが、電線が邪魔だなぁ、建物が被ってるなぁ、などと思い、もう一度撮り直そうとしてたら、フワッと跡形もなく消えかけていました。
この龍神雲というのは、龍神さまが近くで見守ってくれている証。吉兆なのだそうです。
励ましや導きのメッセージともいわれています。
やまない雨はないよ、明けない夜はないよ、なんて感じなのかしら。
母はきっと数日後には旅立ってしまうでしょう。
体に孔をあけて、管を繋いで、胃瘻や腸瘻で無理矢理生かしたとしても、きっと本人は喜ばない。点滴だけではたいしたカロリーは摂取できず、いうなれば水分を補給しながら断食をしているような状態です。
本来は点滴さえも病体に負荷をかけてしまうのでお医者さんはあまり推奨しないっていいますよね。
そもそも、ここから劇的に病状が回復したとして、以前のように自ら食事を摂ったり、ましてや立って歩き出すなんてことなど絶対に見込めないわけで。
なんだか、わたしには、この龍神雲が、「心を平らかにしてすべてを受け止めなさい」と諭してくれているように感じました。
もう、そんなに頑張らなくていいさ。お前が気を病んだってどうにもならんことだってあるさ。母ちゃんに今まで育ててもらったことを感謝しながら前を向きなされ、って。
龍神雲には、人生を新たなステージに進めてくれるという意味もあるのだそうです。新しい何かを始めてみてもいいかもね。
ともかく、今日も母を見舞ってきました。
声をかけても反応は薄いのですが、顔色は前より多少よくなっていました。
明日も会いにいこう。その翌日も、翌々日も。
わたしが会いにいったからって、どうなるわけでもないんですけれどね。
悔いのないよう、できることはやっておこう。それがたとえ自己満足であってもかまやしない。最後まで寄り添ってあげよう。
思いがけず姿を見せてくれた龍神さんに感謝しながら、今、そんなことを考えています。
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