あれから夏は、彼女の不在と共にやってくる。
毎年、6月。夏が始まる季節。彼女に会うため、高尾へ行く。
空の青、湿った空気、虫の音、世界が今年も夏が訪れることを告げている。
7年前のあの夏、私たちは、彼女を失った。
彼女を見送った日は梅雨らしくシトシト降り続けていて、
会場に入りきれない人たちが、傘をさして並んでいた。
誰かが煙草を買いたいと言いだし皆でコンビニに寄り、
各々ジュースや酒を買い、涙として流れた水分を補った。
雨を見ては「彼女が泣いているね」と私たちは言ったし、
翌日晴れれば「天国で彼女と神様が出会えたかな」なんて私たちは話した。
でもそれらは、私たちが私たちのために勝手にこしらえた物語で、
本当は彼女と全く関係ないし、彼女に伝わることもない。
つぎの夏が来て、高尾へ行った。
彼女と仲の良かった4人で、冷たい石の前で彼女の愛唱歌を口ずさんだ。
雨上がりの夕方、空には虹がかかり、
「彼女が見守っていてくれてるね」などと話したが、
そんなのも私たちが私たちのために言い聞かせる言葉でしかなく、
虹は直ぐに消えたし、彼女は不在のままだ。
また夏が来て、高尾へ行った。
「天使になって、天国でもモテて、神さまをたぶらかしているのかな」、彼女の元カレが言った。
「ほんと人たらしだったからな〜」、私の親友である、彼女の妹は答えた。
飛び切りの美人でもなく、アイドル級の可愛さを持っているわけではないけれど、
彼女はとにかく、よくモテた。老若男女、出逢った全ての人が、彼女に恋してた。
私たちは今も、彼女に片想いしたままだ。
それからまた夏が来て、高尾へ行った。
大勢で集まって彼女の思い出話をして楽しかったけれど、
これ以上に彼女との思い出は増えないと気付き、やがて寂しくて泣いた。
いつのまにか私は、彼女がこの世から去った年齢になっていた。
仲間たちも等しく、年を重ねていた。
すこし年取ったみんなが揃っているのに、彼女だけがいなかった。
彼女は、記憶の中にしかいなくって、若くて清らなかなままだ。
そうやって夏が来るたびに高尾へ行くけれど、あいもかわらず彼女はいない。
何度会いに行っても、彼女がもう世界から失われたことを知らされるだけである。
BGM:ひこうき雲
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