進撃をやめたクワガタ
昼下がりの一幕、臨時で駅の管理のお仕事をしていた
目の端っこで捉えたのは黒い虫
ゴキかなと思ったけど、別物で、それはクワガタだった
ひっくり返ってバタバタともがいてた
一瞬助けようかと思ったけど埃に塗れていたし、時間にも10分ぐらい遅れているので後回しにした
あれこれしていたらすっかり忘れていて、飲み物を買いに行こうとして目に入り、ああそういえばとなった
適当なペンで掴ませてやり、ひとまずは窮地を脱する
そのまま地面に放置でもよかったがこれも何かの縁、デスクまで持っていった
そのまま漫画に耽って2巻ぐらい読み終えた後、ふと目をやる
こいつ動いてない
さっきはあんなにも生にしがみついていたのに、危険のないエアコンの効いた快適な環境(虫にどこまで気温がわかるかは知らんが)にきて、電池が切れたかのように固まってる
それ自体は別にいいも悪いもなんとも思わなくて、ふと思い出したのは進撃の巨人
主人公は何かに向かって現状を打破するために死に物狂いで進み続ける
一度安寧を手に入れたかと思いきや、また何かに向かって動き始める
まるでそれこそがアイデンティティであるかのように
生命の使い方として、それもまた一興
さて翻ってクワガタよ、一度は捨てたその身、どう残りの儚き生を扱うか
返事は要らぬし結末も知らない
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