『諦めないで。どうせ分かってもらえる。』
「どうせ分かってもらえない。」
と、関わりを諦めてしまう自分。
納得しなくても、納得したふりをする。
そんな自分を見つめてみた。
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場面は2歳。
レンガの狭い部屋。
兄がいる。
とても寒いし、お腹がすいている。
母はいるようだが、父はいない。
僕は部屋の片隅で、大きな目を見開いたままカタカタと震えていた。
寒い。
喋ると怒られるから、ずっと黙っていた。
それが、いつもの日常。
ある日。
急に男の人が部屋に入ってきた。
その人が僕の手を引いてどこかへ連れていこうとする。
そこに母も兄もいたが、目を合わせてはくれなかった。
怖くて訳も分からず、泣いて暴れた。
男は金の入った袋を母に渡し、
僕は、売られた。
連れていかれたのは、教会の隣にある建物の中。
…僕はここで大きくなる事になる。
名前も貰った。
『ブライアン』
と。
7歳の時、初めて“仕事”をしてお金を貰った。
そう。
“仕事”。
“見てきたものを正確に伝える。”
…ここは簡単に言うと“何でも屋”。
“情報を売っている組織”だった。
教会から仕事の依頼が来る事もあるし、政府からも。
もちろん、同業者からも。
表向きは孤児院であった。
施設内では、18人の人がいた。
寒くない。
ご飯も食べられるようになった。
ベッドで眠る事ができる。
周りの人も優しかった。
誰も僕を殴らない。
これだけで、ここは天国のように思っていた。
少しずつ環境にも慣れ、大きくなっていった。
言葉を教えて貰った。
絵の描き方も教えて貰った。
護身術・防衛術を教えて貰った。
馬や動物の扱い方も教えて貰った。
叱られる事もあったけど、怖くはなかった。
そして、仕事をしていく事を教えて貰った。
役に立てる喜びを教えて貰った。
感謝される事もあった。
小さい頃はただ、見てきたものを伝える事。
仕事では正確さを求められた。
尾行や、身辺調査。
他には、人探し。
10歳を過ぎた頃に、人の捜索を頼まれ探すが、対象者が路地裏で亡くなっていた。
仕事は悲しい事も多い。
事実に泣き崩れる人もいた。
探している人を遺体で見つける時は自分自身もショックであった。
もっと早く見つけてあげれば助かったのかな?
そんな思いに苦しむ事もあったが、仕事はイヤではなかった。
自分が“そこにいてもいい”という、“存在してもいい”という理由になるから。
そして、“そこ”にいれれば、寒くないから。
お腹がすかないから。
それ以上の悩みなんかない。
自分にもあまり関心がなかった。
欲も無かった。
性格も穏やかで、もの静かだった。
大人になると、少し大きい争いの情報収集をする事もあった。
仲間との会議。
緊張感もあった。
「俺たちは兵ではない。まずは無事に帰ること。」
そう言われていた。
家族のような仲間。
気の許せる友もいた。
見たくない状況を見たり、言いづらい報告もした。
様々な経験をした。
28歳の時、仕事から戻ると組織の家が燃えていた。
隣にある教会もいつ火の手が上がるか分からない。
逃げ惑う人達の中に仲間の姿はない。
仲間はどこに行った…?
そんな事を考えている時、
数人の男に囲まれた。
抑え込まれ、連れていかれそうになる。
慌てて逃げようとした時に腹に怪我をおった。
しばらく走ったが、動けなくなり…持っていた小刀で自分の首を切った。
それは、組織の中での約束。
“情報は何があっても渡してはいけない。拘束されそうになったら…分かるね?”
あの時、売られ…絶望の中でいた自分に、食事・寝床・仲間を与えてくれた組織への恩返しだった。
そうして、ブライアンは人生を終えた。
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ブライアンは、
『“字を教えて貰った”
これは人に手紙で伝える方法。
“絵の描き方を教えて貰った”
これは見てきたものを描いて伝える方法。
“仲間もできた”
これは言葉でコミュニケーションを取る方法。
すべて、「人に情報を伝える為の手段」
君はすべて持ってる。』
『上手い、下手ではない。持っているのは、他の人は知らない情報だから。それを自分なりの方法で相手に伝えるんだ。あらゆる手段を使って。』
『諦めないで。どうせ分かってもらえる。』
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私は、彼を知ることで諦めずに自分の意思を伝えていこうと思う事が出来るようになった。
そして、気がつけばひとつの手段として…見えた友人の前世も絵で描いて伝える事も出来るようになっていた。
自分が伝えたい思いを諦めずに伝えるという事。
自分の持ってる情報を諦めずに伝えるという事。
ささいな事かもしれないが、私は少しずつ“私らしく”に近づいていけるんだと思う。
そう。
『諦めないで。どうせ分かってもらえる。』