日本で大麻取締法の改正がなぜ進まないのか
こんにちは!
本日はアンケートで最も人気があった「日本で大麻取締法の改正がなぜ進まないのか」についてお話させて頂きます!
本稿は「大麻」をテーマにした「社会」の話が中心で、今までの記事の中では一番長くなっておりますので覚悟して下さい。
本稿を読まれる前に、予備知識としてアメリカの大麻史【前編】&【後編】「人権問題としての大麻規制」と「アメリカの大麻研究の実態」を読まれることをおすすめ致します。
*本ノートは日本語で詳細なカンナビスの情報を少しでも多くの方にお届けしたいがために、無料で掲載しております。少しでも「チップ」という形でご支援頂けるのであれば本ノートを続けるモチベーションにも繋がりますので、サポートが可能な方は是非よろしくお願い致します。
日本で大麻取締法の改正を進めるに辺り、日本とアメリカの事情を比べてどのようなハードルを乗り越えなければならないかを詳しく見ていきたいと思います。
日米の法治体制の違い
アメリカはイギリスの植民地から独立した背景もあり、建国当初から中央に力を集中させるのではなく各州、市、地方自治体がそれぞれの地域の要望に沿って運用される「合衆国制」の社会システムになっており、「行政を地方に委ねる」ことが建国の礎にあります。実際、アメリカの憲法の修正第10条に「この憲法が合衆国に委任していない権限または州に対して禁止していない権限は、各々の州または国民に留保される」と明記されています。各州がそれぞれの国のように運営し、州知事を筆頭に州議会があり、また各地域を運用している市長や市議会(Board of Supervisors、City Council、など)などの地域自治体があります。
カンナビスなどの取り締まりを行う「警察権」は各州・各地域の自治体にあり、連邦政府は重犯罪や州をまたぐ犯罪でない限り、立ち入ることはありません(それでも連邦政府は過去に度々カンナビス の取り締まりを実施したことがあります)。
【参照:National Center for Constitution Studies、PBS、Justia US Law、Britannica】
各自治体が取り締まりのルール(州法や条例)作りの権限を持っている社会システムになっているため、1991年のサンフランシスコ 市の条例「Measure P」のように、一つの市が「市民が医療目的に利用したカンナビス の取り締まりを行わない」ことを決定できるわけです。
また、小さな団体からマジックマッシュルーム(日本では幻覚キノコと呼ばれている)の非犯罪化を成し遂げた例もあります。2019年6月にマジックマッシュルームの非犯罪化を成し遂げたカリフォルニア州・オークランド市の非営利団体、Decriminalize Nature Oakland(自然の非犯罪化・オークランド)に属しているLarry Norris博士はPodcast でどのようにして非犯罪化法案を成し遂げたかを詳しく述べています。Norris博士は元々マジックマッシュルームの同好会に属しており、その小さなグループから法改正に向けた社会活動を初めたことがキッカケで、日本では考えられないスピードで自身が生活するオークランド市で非犯罪化を成し遂げる事ができています。
【参照:VICE News、US Department of Justice、CBS SF Bay Area】
アメリカの法治体制を表した図(Wikimedia Commons より)
1996年にカリフォルニアが州で初めて医療大麻を合法化したことにより、今度は初めて「連邦」と「州」の法律齟齬が生じました。法律上、連邦法のControlled Substance Act でSchedule 1 の薬物として指定されているカンナビスを連邦政府は取り締まる権限がありますが、州法を尊重しそれを行使していないだけの緊張状態が現在でも続いています。オバマ大統領が嗜好用大麻が初めて合法になったコロラド州とワシントン州の状況を受け、特定の基準を満たしていれば(合法的なカンナビスを子供の手に渡さない、州の境界線を越えない、管理において十分な予算の確保、など)連邦政府が取締をしない立場を取り、「州政府に委ねる」ことを認めました。しかし、前司法長官のジェフ・セッションズ氏のような究極的に反カンナビスな政権が誕生し連邦法が行使されれば、合法の州に住んでいるとはいえ、カンナビス業界全体にいる関係者や消費者が取り締まりの対象になり、犯罪者になってしまう可能性があります。連邦政府と州政府の法律齟齬によって国民にこれらのリスクが残っているので、以前記載した通り、ニュージャージー州のコーリー・ブッカー上院議員(民主党の大統領候補の一人)らがカンナビスをControlled Substance Act の規制対象から外す「Marijuana Justice Act」を再度議会に提案しています。カンナビスがControlled Substance Act の対象から外されることで、Schedule 1のカテゴリーからも除外され、お酒やタバコのように連邦政府の取締の対象から外れます。これはカンナビスに限った事ではありませんが、アメリカの合衆国制では州政府や各地方自治体に強い権限があるので、カンナビスの「合法化」や「非犯罪化」に踏み切った地域から他の州は学ぶことができます。そのため、他の州の成功事例・失敗事例を検証して自分たちの州や自治体でどのようにカンナビスを運用するかは有権者が決められるので、民意が反映しやすい社会システムになっています。さらにカンナビスを様々な理由で服用している他州や外国の人達がカンナビスの使用が法律で守られてるSanctuary(聖域)として旅行・転住することも可能にしています。
「行政を地方に委ねる」という思想は「州」と「地域自治体」の関係にも反映されています。
実際、カリフォルニア州では2018年1月から嗜好大麻が解禁されましたが、州の商業利用のカンナビス免許の申請者は、各自治体のすべての規制と条例を遵守しなければなりません。そのため、カリフォルニア州の3分の2の地域では(法整備ができていないこともあり)未だディスペンサリー(大麻ショップ)を開くことが禁止されています。
ちなみに薬物使用の「非犯罪化」や「合法化」の法案は有権者の所属党を問わないため、多くの票が集まります。実際1996年の大統領選挙でカリフォルニア州を制したクリントン大統領への投票数より、同時期に行われた医療大麻合法化を掲げた「Proposition 215」への賛成票数の方が上回りました。
【参照:California Cannabis Portal、Marijuana Business Daily、The Emperor Wears No Clothes – Chapter 6. Jack Herer(著)、Vox 】
一方、日本は「中央集権国家制度」で各都道府県の警察権はアメリカと真逆で「中央」の警察庁にあります。警察庁のページを下記の通り引用します。
「国の警察行政機関として、内閣総理大臣の所轄の下に国家公安委員会(委員長は国務大臣、委員は5人)が置かれ、さらに、国家公安委員会の管理(大綱方針を定め、それに即して監督すること)の下に警察庁が設けられています。警察庁(長は警察庁長官)は、広域組織犯罪に対処するための警察の態勢、犯罪鑑識、犯罪統計等警察庁の所掌事務について都道府県警察を指揮監督しています。」
【参照:警察庁】
警察権が「中央」にあり、各都道府県警察を指揮監督できるとても強い権限を持っているため、アメリカのように各地方自治体によってカンナビスの取り締まりを行わない「非犯罪化」は国会などで承認されないと法律上できない仕組みになっています。
また、警察以外にも「特別司法警察職員」として厚生労働省管轄の「麻薬取締官」(通称:マトリ)は薬物犯罪のみを取り締まる権限を持っていますが、こちらも同様に「中央」に権限があるので、国会の承認を経ての法改正を成し遂げなければなりません。
【参照:参議院、ポリスNaviチャンネル、日本と愉快な仲間たち】
麻薬取締官と警察官の違いについて弁護士ドットコムのサイトに分かりやすく記載されていたので、下記の通り引用します。
「麻薬取締官の使命は『薬物汚染のない健全な社会の実現』です。警察とちがい、薬物犯罪のみを取り締まります。麻薬取締官が薬物事犯を逮捕することができるのは、刑事訴訟法190条が規定する『特別司法警察職員』としての権限をもっているためです。法律によって、犯罪を捜査する権限が特別に与えられています。」
【参照:弁護士ドットコム】
日本では2019年に、成田賢壱氏が新宿区議選で「構造改革特区」という制度を利用し、「医療大麻の特区」に向けて立候補しました。この法律で「医療大麻特区」を作ることは可能ですが、様々なハードルがあります。
「構造改革特区」の実現するためには、地方創生推進事務局、関係省庁、関連する法令などを改正、地方公共団体の承認を経て認定申請、内閣総理大臣、などから一連の承認フローを通らなければなりません。
「行政を地方に委ねる」アメリカでは地方自治体が警察権を持っているため、それらの承認フローは一切必要がなく、各地域での非犯罪化・合法化が進んでいる形になっています。実質、アメリカは医療大麻は33州、嗜好大麻は11州で合法化されているのにも関わらず「中央」の連邦法で未だ違法になっている事を考えると、草の根運動が盛んではない日本でもまだ進まない理由が伺えるかと思います。実際、デニス・ペロン氏の最初の選挙運動から1991年にサンフランシスコでカンナビスの医療目的の使用を非犯罪化する法案「Measure P」が実現されるまでに実に13年かかっています。
【参照:Buzzap、首相官邸、内閣府地方創生推進事務局、埼玉県庁、内閣府、リラックス法学部】
アメリカで進むカンナビス の非犯罪化や合法化への流れは国家体制の仕組みが大きく関わっており、日本で同じように進まないのはやむを得ない事情かもしれません。アメリカのように「行政を地方に委ねる」ことを基本理念にした国家体制を望むのであれば、道州制のような抜本的な改革が必要になります。
カンナビスの普及度合いの違い
日本もアメリカも法治国家である以上、有権者は投票によって自分たちの代表として政治家を決めます。当然、有権者は国によって文化、宗教、生活習慣、貧富の差、人権問題、などによって価値観は全く異なります。
アメリカは以前ご説明した通り、1910年にメキシコ革命が起きた際、メキシコから沢山の難民・移民を受け入れました。ヘンプは以前からアメリカで普及していましたが、メキシコ人が愛用していた嗜好品「マリファナ」はこれを機にアメリカ中に普及しました。ニクソン、レーガン、父ブッシュ、などの政権時代にWar on drugs 政策(薬物戦争政策)取り締まりが強化されたにも関わらず、カンナビスの愛用者は増加の一途を辿ります。
カンナビスは違法とはいえ、アメリカ全土に普及しており、多くの市民にとって馴染みのある嗜好品でありました。
アメリカと日本の生涯大麻経験率に大きな乖離がある(厚生労働省より)
アメリカの医療大麻合法化の原動力はCompassionate Use(生命に関わる疾患や身体障害を引き起こすおそれのある疾患を有する患者の救済を目的として、代替療法がないなどの限定的状況において未承認薬の使用を認める制度)ですが、カンナビスがそもそもCompassionate Use として使用されたのもアメリカ人が簡単にブラックマーケットで手に入れられる(もしくは容易に栽培できる)植物であったからです。1980年代にAIDS危機(Epidemic)が起きた際、カンナビスを摂取することによって痛みや副作用が緩和されることが明らかになったのも、すでにカンナビス が市場に普及していたからだと言えます。
一方、日本は1万年前の縄文時代から戦前までカンナビスが様々な用途として利用されていましたが、戦後GHQによって1948年に大麻取締法が制定されました。70年以上経過した現在も厳しい取り締まりが行われており、カンナビスはアメリカ人ほど身近な存在ではありません。日本は2016年にCompassionate Use 制度を導入されましたが、アメリカのような寛容さは無く、その上カンナビスを使用する機会も日本人は少ないため(メディアが重犯罪者のように扱うこともあり)「医療大麻」でさえ進展する土壌がそもそもありません。
また、国際条約に定められている規制薬物の中で世界で最も多く利用されているのがカンナビスですが、日本では世界でも珍しく、全薬物関連の逮捕者のうち70%以上が覚せい剤によるものであり、嗜好薬物の傾向が異なっています。(アメリカは全薬物の逮捕者の内40%~50%がカンナビスです)
覚せい剤が日本で最も多くの逮捕者を出している(Nippon.com より)
【参照:Compassionate use of drugs and medical devices in the United States, the European Union and Japan、Compassionate use and hospital exemption for regenerative medicine: Something wrong to apply the program for patients in a real world、Drug War Facts、厚生労働省】
国際条約の壁
以前ご紹介した通り、日本はアメリカと共に1961年の麻薬に関する単一条約(Single Convention on Narcotic Drugs)、1971年の向精神薬に関する条約(Convention on Psychotropic Substances)、1988年の麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(United Nations Convention against Illicit Traffic in Narcotic Drugs and Psychotropic Substances)、など世界各国と薬物に関する様々な国際条約を結んでいます。カンナビスを「合法化」することはこれらの条約に違反することになります。長年、オランダなどのカンナビスに寛容な国でも「合法化」ではなく「非犯罪化」で運用しているのはこれらの条約に配慮しているためです。ウルグアイは2013年にカンナビスを世界で初めて合法化しましたが、これは国際条約を違反(放棄)した形になります。2018年にはOECD国で唯一カナダも同様にこれらの国際条約に違反して合法化を成し遂げましたが、そもそもアメリカがまだ「連邦法」として国際条約に違反していないのに、日本の政治家の立場からするとリスクを犯してまで国際条約を違反し、日本でカンナビスを合法化するのはとても無理な話です。
【参照:Vox】
日米のメディアの構造の違い
メディアのあり方の真髄は「建国の父」の一人で、アメリカの独立宣言を起案したトマス・ジェファーソン第3代大統領の下記の発言にあります。
【原文】
“The basis of our governments being the opinion of the people, the very first object should be to keep that right; and were it left to me to decide whether we should have a government without newspapers or newspapers without a government, I should not hesitate a moment to prefer the latter. ”
【和訳】(世界日報の和訳を一部引用)
「私たちの政府の根底は人々の意見であり、これを維持することが第一の目的であるべきだ。 新聞をなくして政府を残すべきか、政府をなくして新聞を残すべきか、そのどちらかを選ばなければならないとしたら、私はためらうことなく後者を選ぶだろう 」
【参照:Online Library of Liberty、世界日報】
政府が市民を抑圧・迫害する歴史は文明が始まって以来、現在に至るまで世界中で繰り返されています。メディアは本来、政府や権力の暴走を防ぐための監視機能を果たす役割が根底にあり、そのために市民に情報を提供する立場でなければなりません。そのメディアのあり方について、日米で大きく異なる点は「放送法」と「認可権」にあります。
アメリカは「放送法」に該当するFederal Communications Commission(米連邦通信委員会、以下FCC)の「Fairness Doctrine(公平原則)」の効力を1987年に無くし、2011年に正式に廃止されました。実際、FCCのホームページにも「憲法修正第1条および通信法は、当委員会による放送事項の検閲を明示的に禁止しています」と明記され、政府とメディアの独立が法律で保障されています。
Fairness Doctrine が2011年に正式に廃止された(CommLawBlog より)
アメリカでFairness Doctrine が廃止されるキッカケになったのは1979年にペンシルベニア州・スリーマイル島の原発事故です。この原発事故自体は死傷は出ておらず、被害も限定的と言われていましたが、原発責任者が「原発の専門的な知識を持った人がメディアにいない」と混乱を避けるために情報提供を限定したことにより、メディアと対立しました。その結果、メディアは原発責任者から提供される情報が少ない中、事故に対する恐怖を煽る内容の報道を繰り返す結果となってしまいました。
これを受け、アメリカ政府はPresidential Commission on the accident at the Three Mile Island(スリーマイル島事故の大統領委員会)を結成し、調査の後「一般市民の知る権利が守られていなかった」と結論づけました。
【参照:総務省「放送法」、NHK、Washington Post、Media Research Center、Report Of The President’s Commission on The Accident At The Three Mile Island. Stanford University、New York Times、Federation of American Scientists】
これをキッカケにアメリカは「放送法」に該当するFairness Doctrine を廃止し、それと同時にFCCが放送局の「認可権」の緩和を実施しました。その結果、各メディア媒体は自由に報道(人種差別やテロなどを助長する内容は除き)することができるようになり、且つ、放送局の「認可権」が緩和されたことで多チャンネル放送のネットワークが構築されました。視聴者は自分の好みや政治的傾向に合ったチャンネルを選択することができ、メディア側も提供するコンテンツを視聴者に合わせて自由に構成することができます。アメリカに「専門チャンネル」が無数にあるのは「放送法」と「認可権」 から開放された「情報の民主化」がなされた事が根底にあります。広告主にとっても専門性の高いチャンネルが多数あるので競争によって広告費が抑えられ、宣伝するメディア媒体の選択肢も増えます。
「情報の民主化」がされたアメリカでは連邦法でSchedule 1 の規制薬物の対象になっているカンナビスについての報道を自由に行うことができ、国民はそれによって知見を深めることができます。実際、CNNが2013年に重度のてんかんをカンナビスで治療している少女を特集した「Weed」のドキュメンタリーを全米で放映し、現在の「医療大麻」の広まりに大きく貢献しています。ちなみにWeedのドキュメンタリーは大変好評で現在第5段まであります。
さらに、ローカルのテレビ局が全国放送のテレビ局よりも視聴率・信頼度・ニュースの価値が上回っているため、放送局の影響力が分散されています。
【参照:FCC、Washington & Lee University, School of Law、Dr. Sanjay Gupta、CNN】
*余談ですが、バーニー・サンダース上院議員(兼民主党大統領候補)が2016年に出版した著書「Our Revolution」で述べていますが、アメリカは1983年に全米の大手50社がメディアの90%をカバーしていましたが、大規模な合併と買収の結果、現在は6つの企業のみが国民が見たり、聞いたり、読んだりするメディア媒体の90%を支配しています。 この6社とは、Comcast、News Corp、Disney、Viacom、Time Warner、CBSです。これらの企業は各チャンネルの独立性を尊重する方針であるとはいえ、民間企業がコントロールを持ち過ぎており民主主義の大きな脅威のため、サンダース議員はGoogleやFacebookを含む大手メディアの解体を掲げています。
6社がアメリカのメディア媒体の90%を支配している
(Exposing The Truth より)
一方、日本は報道の中立性を義務付ける「放送法」が1950年に制定され、現在も残っています。また、放送局の「認可権」に関しては長年新規参入企業を一切認めていないので大手テレビ局の独占状態が今も続いています。
賛否のある「放送法」の第四条には下記の通り記載されています。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
【参照:放送法】
嘉悦大学教授の高橋洋一氏が日刊ゲンダイで分かりやすくメディアの既得権や電波オークションの重要性について下記の通り述べています。
「テレビ局が既得権化している理由は、地上波放送事業への新規参入が実質的に不可能になっていることにある。
総務省の認可を受けた場合にしかテレビ放送事業はできない。『放送法』によって免許制度になっているわけだが、このことがテレビ局を既得権まみれにしている最大の原因だ。はっきり言おう。『電波オークション』をやらないことが、テレビの問題なのだ。電波オークションとは、電波の周波数帯の利用権を競争入札にかけることだ。
日本では電波オークションが行われないために、電波の権利のほとんどを、既存のメディアが取ってしまっている。たとえば、地上波のテレビ局が、CS放送でもBS放送でも3つも4つチャンネルを持ってしまっているのもそのためだ。
電波オークションをしないために利権がそのままになり、テレビ局はその恩典に与っている。テレビ局は『電波利用料を取られている』と主張するのだが、その額は数十億円程度といったところだ。もしオークションにかければ、現在のテレビ局が支払うべき電波利用料は2000億円から3000億円は下らないだろう。現在のテレビ局は、100分の1、数十分の1の費用で特権を手にしているのだ。
つまり、テレビ局からすると、絶対に電波オークションは避けたいわけだ。そのために、放送法・放送政策を管轄する総務省に働きかけることになる。」
「電波オークションによって放送局が自由に参入して競争が起これば、質の高い報道や番組が生まれるはずなのだ。おかしなことを言っていたら人気がなくなるし、人気があれば視聴者を獲得しスポンサーも付く。そうやって放送局が淘汰されれば、放送法など必要ないはずだ。
繰り返すが、電波オークションをやると一番困るのは既存の放送局だ。だから、必死になって電波オークションが行われないように世論を誘導している。
総務省はその事情を知っているから、『放送法』をチラつかせる。『テレビの利権を守ってやっているのだから、放送法を守れよ』というわけだ。それはテレビ局も重々承知。言ってしまえば、マスコミは役所と持ちつ持たれつの関係になっている。」
【参照:高橋洋一 新聞テレビが絶対に報道しない「自分たちのスーパー既得権」】
放送法は元々ラジオの限られた電波の周波数を各局に割り当てなければならなかったところから始まった経緯があり、現在は全く必要がない上、利権構造が生まれやすい仕組みになっているため、民主主義を脅かす(既に脅かしている?)とても重要な問題です。その上、「放送法」(と公職選挙法)の影響で民主国家で最も大切な「選挙」の直前に報道が規制される時点で日本のメディアは「権力への監視役」を十分に果たしているとはとても言い難いです。
【参照:J-Wave News】
また、日米の放送局の「認可権」の違いについては日刊ゲンダイで下記の通り述べています。
「米国はFCC(連邦通信委員会)、英国はオフコム(Ofcom=情報通信庁)と言いますが、いずれも政府から独立した監督・規制機関です。ところが日本は直接、総務省が監督する。この制度を変えない限り、政府による放送局のコントロールはなくなりませんよ」神保哲生氏
「独立した電波監理委員会は米国のFCCに相当するものだったが、日本政府は、これをわずか3カ月でお払い箱にしたのだ。政府のメディアコントロールへの、並々ならぬ執着が分かるというものだが、要するに『政府に弱い放送局』という力関係はいまだ戦前と変わらないということだ。」日刊ゲンダイ記者
「放送局側にとっても、免許自体が『既得権』になっているので、その分、政治からの介入に甘んじているところもある。今回のことをキッカケに、制度をいじるいいチャンスだと思うのですが、どうもメディアの側にそうした問題意識は希薄です」神保哲生氏
【参照:日刊ゲンダイ 放送局「許認可権」政府支配の陳腐…欧米では独立機関が監督】
アメリカのFCCの委員長を任命するのはアメリカ大統領ですが、この任命を有効にするためには上院議会で承認されなければなりません。大統領の権限だけでは任命ができないので、権力の分立が成立する仕組みです。
一方、日本では総務省のトップを務める総務大臣は首相が任命し、国会の承認を必要としません。その上、総務省は政府の管轄下にあるので、与党は自分に好意的な総務大臣を選び、放送局の「認可権」を持っている総務省の手によってメディアをコントロールできる利権絡みの構造が成立してしまっています。
アメリカの放送局の「認可権」は独立機関のFCCにある
(Timberline APより)
日本の放送局の「認可権」は政府の管轄下の総務省にある(UK info より)
政府と利害関係にあるメディアは、政権のプロパガンダを広めるツールとして利用される事を可能にし、これは民主国家において「報道の自由」が脅かされるとても重大な問題です。前述の「放送法」4条の有無はまだ議論の余地はあるかもしれません。しかし、政府と独立できていないメディアは「権力の監視役」機能を十分に果たせていません。「地上波」で報道されるニュースとネットニュース(特に海外)の内容に大きな乖離があると感じてしまうのはこれらが根本にあります。
そのため、政府は全国の警察や麻薬取締官を監督している国家公安委員会や厚生労働省、メディアの認可権を持っている総務省と連携することが可能で、薬物犯罪を犯した芸能人などを重犯罪者のように扱い、自らの成果を誇張することができます。アメリカでは過去にニクソン政権がそのように取り締まったことを以前のノートで紹介しています。
日米の「大麻」への関心が大きく異なっている事を表した、Google Trends (2019年9月26日時点)のグラフをご紹介します。(2004年以降分)
日本で「大麻」は芸能人の逮捕でメディアに取り上げられた際、
一時的にトレンドします。
アメリカで「Cannabis(大麻)」は長年順調に関心が増しています。
日本は2010年までは世界の「報道の自由度」ランキングで過去最高の11位でした。しかし、福島第一原発事故のあった2011年以降や第二次安倍政権が誕生してからその報道の自由度ランキングは下落し続け、現在はG7国の中で最下位の67位に推移しており、自由度を5段階に分けた3段階目の「顕著な問題」レベルに転落した状況にあります。
「報道の自由度」ランキングを発表している「国境なき記者団」は日本について下記の通り述べています。
【原文】
"The world’s third biggest economic power, Japan is a parliamentary monarchy that, in general, respects the principles of media pluralism. But journalists find it hard put to fully play their role as democracy’s watchdog because of the influence of tradition and business interests. Journalists have been complaining of a climate of mistrust toward them ever since Shinzo Abe became prime minister again in 2012. The system of “kisha clubs” (reporters’ clubs) continues to discriminate against freelancers and foreign reporters. On social networks, nationalist groups harass journalists who are critical of the government or cover “anti patriotic” subjects such as the Fukushima Daiichi nuclear disaster or the US military presence in Okinawa. The government continues to refuse any debate about a law protecting “Specially Designated Secrets,” under which whistleblowers, journalists and bloggers face up to ten years in prison if convicted of publishing information obtained “illegally.”
【和訳】
「世界第3位の経済大国である日本は、一般的にメディア多元主義の原則を尊重する議会制君主国です。しかし、ジャーナリスト達は、伝統とビジネスの利害関係のため、民主主義の番犬としての役割を完全に果たすことは難しいと感じています。ジャーナリスト達は、2012年に安倍晋三が再び首相になった時から、彼に対する不信感を訴えてきました。『記者クラブ』のシステムは、フリーランスや外国人記者を差別し続けています。ソーシャルネットワークでは、政府に批判的なジャーナリストや、福島第一原発事故や沖縄の米軍の存在などの『反愛国的』な問題についてに取り上げるジャーナリストが、ナショナリストのグループから嫌がらせを受けています。『違法』に入手した『特別に指定された秘密』の情報公開によって最高10年の刑が課される法律から内部告発者・ジャーナリスト・ブロガー等を保護する法案を議論することを政府は拒否し続けています。」
【参照:Reporters Without Borders】
日米の市民団体・自治体の構造の違い
日米の「市民団体」と「自治体」の関係が大きく異なることも大麻取締法改正が進まない大きな理由です。
「市民団体」は自分たちの利益向上・生活向上などのために団結して運動を起こしたり社会の上層部などに訴えかける事により社会を動かす事(社会運動)を目的とした団体です。NPO、NGO、宗教団体なども市民団体に含まれます。
一方、「自治体」は自治の権能をもつ団体・組織・集団です。地方政府・地方自治体など、一部の権能を統治する機関です。
【参照:Weblio 市民団体、Weblio 自治体】
アメリカの「市民団体」と「自治体」については30年以上研究する岡部一明教授の著書にとても詳しく書かれていますので、下記の通り一部引用します。
「アメリカの自治体は、市民が設立する。その地域の住民が住民投票で『つくろう』と決議して初めて自治体ができる。逆に言うと、住民がつくると決めなければ自治体はない、ということだ。実際、アメリカには自治体のない地域(非法人地域、Unincorporated Area)が面積の大半を占め、約一億人が自治体なしの生活をしている。無自治体地域では、行政サービスは通常、州の下部機関である郡によって提供される。それでも最低のサービスは保証されるが、警察や消防が遠くの街(郡庁所在都市など)から提供されるのは不安だし、地域の発展を直接自分たちでコントロールしたいということで『自治体をつくる住民運動』が生まれ、住民投票を経て自治体が設立される。」
「情報公開、住民投票、陪審制、NPOなどいろいろなアメリカの市民参加制度が日本に紹介されてきたが、長くアメリカに暮らし調査をしてきた私としては、その自治体制度に最も大きな衝撃を受けた。アメリカの自治体はその存立の基本からして市民団体に近い。すでに『ある』のでなくて、市民が自由意志で結成するものなのだ。」
【参照:岡部一明】
アメリカはイギリスの植民地から独立した「市民革命」が原点にあり、世界で初めて「民主主義的憲法」ができた国と言われています。その背景もあり、市民団体が自らの行政の運営を構築している体制です。前述の岡部一明氏はアメリカの市民団体について下記の通りとても重要な事を述べています。
「アメリカでは、営利を目的にしない事業・活動を行なう市民グループ に容易に非営利法人の資格が与えられ、税制優遇、寄付促進、郵便料金割り引きその他の支援手段がとられる。大学や病院、教会から環境保護団体、小さな地域 住民団体まで全米には100万を超えるNPOがある。これらは連邦・州政府あわせたよりも多い職員を雇い、アメリカのGNPの7%(計算によっては15%)を占め、その予算総額は、世界第8位の国家の予算規模に相当する(1992年当時)。政府でも企業でもない非営利セクター(第三セクター、独立セクター、ボランティ ア・セクター、慈善セクター、篤志セクター、さらには「見えないセクター」などとも呼ばれる)が、アメリカでは確固たる分野を形成している。NPO制度は、市民が自由に公共目的の組織をつくり周囲の地域なり階層なりに直接サービスする新しい『公共』システムを生みだした。社会全体で一元的・計画的に公共サービスを提供しようとすれば代議制選挙と官僚制が必要になる。しかし、市民活動が自由に組織されてそれが分権的に多様な公共サービスを提供すれば中央の代議制と官僚制は必要性を減じる。ここでは市民は、単に投票するだけでなく直接に『公共』 に参加する。必要と思う『公共』活動を直接に組織する。少数派は少数派なりに自身の活動を行なう。多数決によって少数派が封じられない。社会には多様な価 値観と活動が保証、促進される。直接民主主義、参加、多元主義を生み出す新しい『公共』の出現である。」
【参照:岡部一明 アメリカではなぜ市民運動が根づくのか】
アメリカでは市民団体の存在がとても大きいため、カンナビスの合法化などを訴える団体が全米中に多数あります。それらの市民団体の社会活動のお陰で、今の医療用大麻や嗜好用大麻の合法化をはじめ、様々な地域でのハードドラッグを含む全ての薬物の非犯罪化運動が起きています。何より、「市民団体」そのものが「自治体」を構成してく社会システムであるため、各団体の社会運動が地域社会そのものを形成していきます。
【参照:Drug Policy Alliance、ACLU、Washington Post、Marijuana Moment】
日本は戦後にアメリカから「民主主義」が導入されましたが、「市民革命」として勝ち取ったアメリカの「民主主義」とは大きく異る事が伺えます。また、「中央」が大きな自治権を持っている日本と「市民団体」が「自治体」を作るアメリカとは大きく異なります。
また、佛教大学の犯罪社会を研究する山本奈生准教授も日米の市民団体の活動の違いを大麻問題とからめてとても分かりやすく解説している動画がありますので、是非チェックしてください。
*山本先生は「アソシエーション」と述べておりますが、「市民団体」とほぼ同義語だと思って下さい。
日米の英語の理解の差
アメリカは連邦法で公用語を設けておりませんが、英語が公用語のように浸透しています。そのため、アメリカで生活しているアメリカ人は当然母国語レベルの英語の読解力があります。
「科学の公用語」と呼ばれる英語は世界の全論文の80%~98%で使用されていると言われています。さらに、インターネットに蓄積されている全情報の約55%は英語で掲載されています。
そのため、英語が公用語の国や英語の理解力が高い地域の人は、様々な視点の研究内容やニュース、社会情勢などを深く理解することができます。カンナビスに関して多用な視点を持つことで、合法化や非犯罪化の法案の票にも当然反映されます。その上カンナビスに関して知見の深い有権者は仮に法案が通らなくても、市民団体に合法化・非犯罪化の意見を反映し、社会に訴えることができるとてもポジティブな循環になっています。
【参照:CNN、山久瀬 洋二、Harrow House University、Research Trends、Unbabel、W2techs】
知識というものは力です。知識をつけるためには情報が必要です。カンナビスに限らず様々な情報を得るためのプラットフォームはほとんど英語で掲載されています。英語は現代社会の「情報の黒船」であります。
日本人の英語の理解力は、G7国の中で最下位の49位で、「低い習熟度」のカテゴリーに入っています。そのため、カンナビスに関する最新情報も浸透しにくくなっています。さらに前述の通り、日本のメディアは政府と利権構造が成立してしまっているため、「フィルターのかかりにくい」メディア媒体である「インターネット」を最大限に駆使できないのは大麻取締法の改正にとってとても大きな障害です。
【参照:EF EPI】
世界のカンナビス研究が乏しい
以前にも記載しましたが、アメリカではSchedule 1 の規制薬物に指定されているため、カンナビスを研究すること自体が大変困難な上に、臨床試験のフェーズIIを通る事は事実上不可能です。前述に記載の通り、アメリカの「医療大麻」はCompassionate Use としての利用を解禁している形ですが、従来の医学的な根拠を持って解禁している訳ではありません。「医学的価値が無い」とされているSchedule 1 に指定されている時点で医者はカンナビスを処方することができず、医療業界ではカンナビスの医学的な価値は正式に認められていません。
その上、以前にも記載しましたが、カンナビスは長年、嗜好利用の目的が中心であったため、長年のCrossbreeding(交配)活動により以前と比べ、偏ってTHCの含有量が多くなり、CBDの含有量が減ってしまいました。DEAが1995年に押収したカンナビスのTHC含有率は平均4%でしたが、2014年にはそれが平均12%にまで上昇しています。高THC低CBD含有率のカンナビスを長期間摂取している人はPsychosis (精神病)を誘発する可能性が高まる事を指摘している研究も沢山あります。こういった品種の「カンナビスの害」に焦点を当てれば、以前と比べてリスクが高まっているのは事実です。
日本では麻薬取締官を統括している厚生労働省の「ダメ。ゼッタイ。」のページにもこれらのネガティブな側面だけに焦点を当てた注意喚起が記載され、日本のメディア媒体もそれにならって国民に広めていることもあり、大麻取締法の改正が進展しない要因になっています。
また、THCが発見されたのが1964年であることを考慮すると、以前ご紹介したアメリカの政府がカンナビスの研究結果をまとめた、The Laguardia Committee Report (1944年)やThe Shafer Commission (1972年)の研究ではTHCの成分を十分に考慮したものではなかったので、現代の高THCのカンナビスに当てはまらない部分も出てきてしまいます。(上記の研究は心理的・社会的なカンナビスの影響も調査しており、それらの側面では現代でも十分当てはまると考えられます。)
【参照:Nature、Changes in Cannabis Potency over the Last Two Decades (1995-2014) - Analysis of Current Data in the United States、The contribution of cannabis use to variation in the incidence of psychotic disorder across Europe (EU-GEI): a multicentre case-control study、Adverse Health Effects of Marijuana Use】
大麻取締法の改正のためにやるべき事
大麻取締法の改正やその他の薬物の非犯罪化を求めるのであれば、(臭いことを言うと)国民が「民主主義」に参加することが何よりも大切です。共感する候補者がいればその人に投票すること(いなければ白票として投票)、市民団体に関わって社会運動を継続的に起こすこと、そして時には自ら立候補すること、は全て「民主主義」に参加することです。
女優のジェニファー・ローレンス氏がオハイオ州の高校生に向けたスピーチでは「民主主義」において大変重要な事を下記の通り述べています。
【原文】
"I remember when I was turning 18 and I was about to vote for the first time my brother explained to me the suffrage movement— the suffragettes, the women who picketed and fought for my right to vote and he told me that to be a woman and not to vote would be a slap in the face to all of the women who fought and picketed for that very right."
【和訳】(筆者が簡素に訳しています)
「私が18歳になった時、私が初めて投票しようとしていた時、兄が女性参政権運動や婦人参政権論者について教えてくれた。兄は女性として投票しないことは、私が投票できる権利のために戦った全ての女性に対する侮辱(平手打ち)である事を教えてくれた。」
日本は、第二次世界大戦終戦前までは、女性、破産者、貧困により扶助を受けている者(例外として、軍事扶助法による扶助がある)、住居のない者、6年以上の懲役・禁錮に処せられた者、華族当主、現役軍人、応召軍人には選挙権は与えられていませんでした。
【参照:百瀬孝、長尾英彦、NHK、アジア歴史資料センター】
戦後、アメリカによって現代の「民主主義」が導入され、日本国憲法や公職選挙法によって20歳以上(現在は18歳以上)の全ての国民に投票権が与えられました。その背景にはアメリカ史の独立戦争、南北戦争、女性参政権運動、後の公民権運動、など、「自由」のために戦った多くの人達の犠牲を決して忘れてはいけません。
また、NFLの試合前の国歌斉唱で膝をついて、警察の度重なる黒人種への暴力行為に対する不満を表していた元サンフランシスコ 49ersのコリン・キャパニック選手が2016年の大統領選挙で投票しなかったことをアピールした事について、人気スポーツアナリストのスティーブン・A・スミス氏はその怒りを顕にしています。政権に対する不満を表現するためにも最低でも「白票」をしなければなりません。「白票」をすることによって政府には「不満を持っている有権者」としてアピールすることができ、それらの不満を聞き入れてくれる政治家が増えてきます。逆に投票をしなければ、政治家は「有権者」として見てくれないので、いつまで立っても政治家は見向きもしてくれません。
【参照:National Women’s History Museum、世界史の窓、Excite ニュース】
日本は高齢化社会であり、法改正に必要な「投票」に行く人数・投票率が高いのは圧倒的に50代以上の高齢者です。これらの有権者層の情報源は主に昔からの地上波テレビや新聞になります。これらの媒体では医療大麻などカンナビスに関する新しい情報は扱われにくく、情報源にフィルターのかかっていない情報が手に入りにくくなっています。若い世代がいくら頑張ってSNSで議論したとしても、当選を目的としている政治家は結局若い世代より、高齢者の意見を取り入れる傾向にあります。
日本の有権者の年代別比率(和から株式会社より)
日本の参議院選挙の年代別投票率(和から株式会社より)
大麻取締法やその他の法改正を求める皆さんにとって是非見て欲しい動画があります。トランプが大統領に当選した翌日のオバマ大統領のスピーチです。「移民1.5世」の日系アメリカ人の筆者は2016年は民主党の予備選挙ではサンダースに投票し、大統領選挙の本戦ではヒラリーに投票していたので、トランプが大統領に就任した時は落胆しましたが、このスピーチでとても勇気をもらったのを覚えています。特に印象的なところが下記の部分で、民主主義の根底の部分を指していると思いました。
【原文】
"To the young people who got into politics for the first time and may be disappointed by the results, I just want you to know, you have to stay encouraged. Don't get cynical, don't ever think you can't make a difference. As Secretary Clinton said this morning, fighting for what is right is worth it. Sometimes you lose an argument, sometimes you lose an election.
That's the way politics works sometimes. We try really hard to persuade people that we're right and then people vote. And then if we lose, we learn from our mistakes, we do some reflection, we lick our wounds, we brush ourselves off, we get back in the arena, we go at it. We try even harder the next time.
The point though is is that we all go forward with a presumption of good faith in our fellow citizens, because that presumption of good faith is essential to a vibrant and functioning democracy. That's how this country has moved forward for 240 years. It's how we've pushed boundaries and promoted freedom around the world. That's how we've expanded the rights of our founding to reach all of our citizens. It's how we have come this far."
【和訳】(ログミーBiz から引用)
初めて政治の世界へ飛び込み、結果に失望した若者たちへ知ってほしいことがあります。希望を持ち続けてください。皮肉を言ったりせず、また自分たちが未来を変えることができないと考えないでください。今朝、正しいことのために闘うことは価値があることだとクリントン氏が言っていました。議論に負けることもあれば、選挙で落選することもあるのです。
これが、1つの政治のやり方です。私たちは正しいと思った方向へ人々を一生懸命説得しようとします。そして投票が行われます。もし落選した場合は、間違いから学び、そこからなにかを反映し、傷を癒し、奮い立たせ、舞台へ戻っていくのです。それに向かっていきます。次はもっと一生懸命に取り組むのです。
つまり、同胞の市民への信義誠実の原則を前提に誠意を持って前進するということです。なぜなら信義誠実の原則を前提にすることは、力強く、機能する民主主義に欠くことのできないものだからです。このようにして、この国は240年間前進してきました。そうして境界を拭い去り、自由を世界中へ促進してきました。このようにして、全市民へ基本的な権利を拡大して行ったのです。こうやって私たちはここまで歩んできました。
【参照:Washington Post、ログミーBiz】
日本の大麻取締法の改正を求めている人は、アメリカでSchedule 1 の規制薬物として登録され、日米が結んでいる様々な国際的な麻薬条約でも禁止され、社会運動を継続的に起こす市民団体の欠如、日本メディアでの取り上げられ方、社会のスティグマ、さらに日本で医療目的の研究でさえ許されないこの法律と向き合っていかなければなりません。当然これらの運動を広めるためには医療従事者のみならず、法律家、政治家、犯罪・薬物社会学者、依存症の専門家、人権活動家などの専門知識を持った人たちと市民団体が連携し、社会運動を継続的に起こさなければならないとても高度なリテラシー、資金力、努力、団結力が求められます。
筆者の考察する今後のカンナビスの行方ですが、まずはアメリカでSchedule 1の規制薬物から外されることは数年以内に間違いなく起こります。というのも、アメリカの33州で医療目的、11州で嗜好目的のカンナビスが解禁されているので(2019年9月時点)、多くのアメリカ人はカンナビスを合法的に服用できる州で生活しています。しかし、Schedule 1 に登録されているが故に研究をするのが大変困難なのはカンナビス推進・反対、リベラル派・保守派に関係なく、一般常識として社会にとってとても大きな健康リスクです。進歩主義の民主党のAlexandria Ocasio-Cortez下院議員や同党の上院院内総務を務めるChuck Schumer上院議員などを始め、多くの政治家は実際にカンナビスやその他の薬物をSchedule 1から外すための法案を議会に度々紹介しています。また、2020年の民主党の有力な大統領候補者は全員カンナビスをSchedule 1 から外すことを公約にしています。
【参照:Tom Angell、Kyle Jaeger、Governing、DISA、ProCon、Leafly、Lifehacker】
以前ご紹介した通り、カンナビスをSchedule 1からの「カテゴリーの変更」もしくは「Controlled Substance Act から外す」事はアメリカらが草案した様々な国際条約を自ら違反することを意味し、この条約の尊厳が失われ、他の国々も後を追う形で解禁される可能性が高まります。これらの国際条約は今後改正される可能性は非常に高く、実際、WHOはカンナビスのカテゴリー変更を推奨しており、2020年3月にカンナビスのカテゴリー変更を問う投票がウィーンのヴィエナで行われる予定です。
前述の通り、オランダ、ポルトガル、スイスなどがカンナビスの「合法化」ではなく「非犯罪化」の姿勢を崩していないのはこれらの国際条約に配慮しているためです。
【参照:Biju Panicker、Marijuana Business Daily、Thrillist】
日本の大麻取締法の解禁の流れの最初のステップとして、Compassionate Use としての「医療大麻の合法化」か、刑事罰を撤廃した「非犯罪化」の2つの方向性がありますが、筆者は国際条約に考慮したカンナビス だけではなく「全ての薬物の非犯罪化」をまず第一歩として掲げるのが現実的だと考えています。(もちろん、嗜好用大麻も同時に解禁すべきという意見もありますが、こちらは国際条約を違反していること、アメリカの連邦法でまだ解禁されていないこと、社会運動がほぼ皆無の日本の状況を踏まえるとハードルが高いと感じます。)
アメリカではサンフランシスコでAIDS患者の副作用の緩和を目的とし、まずは医療大麻の「非犯罪化」が行われ、その後にCompassionate Use として「医療大麻の合法化」がされてきた歴史があります。しかし、前述の通り、日本はアメリカのようにカンナビスが普及しておらず、日本版のCompassionate Use 制度は導入されたばかりで、そもそも「ゼロリスク神話」がある日本の医療業界でまだ「医学的な価値」が正式に認められていない(Schedule 1に登録されている限り)カンナビスを促進する事はとてもハードルが高いです。
一方、国連とWHOは2017年の共同宣言で正式に薬物問題のみならず、売春・HIV伝染の非犯罪化、同性愛の容認等を実施するよう各国に勧告しています。刑事的ではなく、健康・人権問題として薬物問題などを扱うアプローチは国際社会の流れに沿っているので国際条約を違反する「合法化」と比べて外交的な障壁もありません。日本で薬物依存症の患者を診ておられる国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦博士も、このアプローチを意識する事の重要性を訴えています。WHOは2014年にも「全ての薬物の非犯罪化」を実施するよう世界に勧告しています。
また日本は全ての薬物の検挙者の内、70%以上が覚醒剤という珍しい国で、その再犯率が約65%という事も問題視されています。「全ての薬物の非犯罪化」を実施することで、この問題に向き合っていくこともできます。
薬物戦争の被害者や薬物依存患者を救うために「全ての薬物の非犯罪化」をする事は国際社会では称賛されるアプローチです。WHOらの共同宣言を下記の通り引用します。
【原文】
Support States to put in place guarantees against discrimination in law, policies, and regulations by:
Reviewing and repealing punitive laws that have been proven to have negative health outcomes and that counter established public health evidence. These include laws that criminalize or otherwise prohibit gender expression, same sex conduct, adultery and other sexual behaviours between consenting adults; adult consensual sex work; drug use or possession of drugs for personal use; sexual and reproductive health care services, including information; and overly broad criminalization of HIV non-disclosure, exposure or transmission.
【和訳】
法律、政策、規制による差別から守るため、各国に下記を実施する事を推奨します:
人々の健康や公衆衛生の面でマイナスな結果があることが証明されている懲罰法の見直しや廃止。これらには、性別の表現、同性の性行為、姦通、および同意した成人間の性的行為を犯罪化・禁止、大人間の合意の上の性労働、個人利用の薬物の使用・所持、性と生殖に関するヘルスケアサービス(情報提供を含む)、 そしてHIVの非開示・暴露・伝染に対する厳罰化等が含まれます。
【参照:WHO】(原文・和訳は筆者が省略)
さらに薬物依存を長年取材するジャーナリストのJohann Hari 氏は下記のTED Talk で「薬物依存の逆はシラフではなく、コネクション(関係性)」と依存症の治療についてとても重要な事を仰っています。
薬物の使用が犯罪として扱われている事で、薬物依存の方は家族や友人はもちろん医者にも自ら相談できず、ハードドラッグなどをオーバードース(過剰摂取)した際にも「捕まってしまうかもしれない」という恐怖で必要な助けを合法的に呼べる保障がありません。また、逮捕された後は犯罪歴によって仕事もろくにつけなくなってしまい、周りから「犯罪者」として扱われてしまうので更に孤独になり、薬物との「コネクション」を求めてまた依存してしまう負のスパイラルに陥ってしまいます。
ポルトガルは2001年に全ての薬物の非犯罪化を遂行した際、今まで9割の予算が薬物の取締のために使われていたのを大幅に方向転換し、全予算の9割を薬物依存の治療やサポートに割り当てました。医療業界のサポート体制が整い、科学を元にした啓蒙活動も行われ、必要に応じて病院が患者にピュアなヘロインを提供するハームリダクションのサービスなども整え、大変目覚ましい成果を上げました。また、薬物依存症の方を企業が雇用した場合、政府が1年間の年俸の50%を支払う政策を取り入れ、薬物依存症の方の社会復帰・薬物依存の脱却を全面的にサポートしています。
【参照:The Guardian、Drug Policy Alliance、Drug Policy Alliance、Drug Policy Alliance、Kurzgesagt 、World Politics Review】
また、薬物を20年以上研究するマイアミの貧困地域出身で、自身も薬物を売買・服用し、軽犯罪を犯した経験のあるコロンビア大学のCarl Hart 博士はTED Talk で下記の通り述べております。
「違法薬物を服用している人の80〜90%は中毒者ではない」
「囚人の圧倒的多数は、犯罪を犯した時は薬物中毒でもなく(お酒や薬物に)酔ってた状態でも無かった事はFBIの統計で明確に現れている」
「薬物依存症患者に薬物(覚せい剤・クラック)の代わりに『報酬』(お金)の選択肢を与えたら、薬物依存症患者でも大半は薬物を選択しない」
「貧困と犯罪は薬物問題と独立している」
*改めて申し上げますが、筆者は薬物の使用を一切推進しておりません。
アメリカが連邦法でカンナビスを合法化したら、それが国際条約の基準になる可能性は十分あります。国際条約でカンナビスが解禁されればグローバリゼーションの波は必ず押し寄せてきます。塩崎恭久厚生大臣(当時)も日本で大麻の研究を認めない理由の一つに国際条約によって規制されていることを答弁で述べています。その結果、農業大国のアメリカは日本の販売網を中国に奪われないように先に貿易国として日本にカンナビスの解禁を迫ってくる可能性があります(CIAの要望に沿って制定された特定秘密保護法やカジノ法案などのように)。その時になれば日本の大麻業界がMonsanto社レベルのような巨大企業が業界を圧巻し、ルールを定め、ヘンプ(麻)業者もTPPのように脅かされる可能性があります。
実際、カナダでは大麻業界で時価総額世界一のCanopy Growth社はブラックマーケットの大麻の取締・刑罰強化、大麻の自家栽培・屋外栽培の禁止、ディスペンサリーの締め出しなどを支援しており、長年活動家達が推進してきた大麻の非犯罪化・犯罪歴の抹消・自家栽培の権利などの思想と逆行してしまっています。
また、アメリカでは大麻業界の金融システムへのアクセスを許可する法案(カンナビスはSchedule 1に登録されているため、銀行業が行えない)が先日、下院議会で通り、これから上院議会で審議される予定です。しかし、この法案では犯罪歴の抹消や差別的に取り締まられた被害者への賠償が含まれていません。そもそもこの業界を作ってきた逮捕された人達はその逮捕暦によって合法的な大麻業界への参加ができていません。この法案が通れば巨大企業が参入し(銀行業にアクセスできるため)、さらに彼らの業界への参加が難しくなるので多くの人権市民団体や政治家が反対しています。
【参照:Jodie Emery、CBC、National Post、Vice、The Globe and Mail、Macleans、Vox】
アメリカからの大麻合法化の波を待つことは「大麻」と「経済」に焦点を当てた解禁になります。そのため、日本で最も多く検挙者を出している覚せい剤などで捕まった人達の犯罪歴の抹消、薬物依存の治療、社会復帰のサポート、の実現には繋がりません。
日本で大麻取締法の改正を実現するには前述の通り、様々な障壁があります。当然、今日明日で実施できるものではありません。そもそもSchedule 1 として指定され、国際条約でも規制薬物として扱われている植物がアメリカや世界中で解禁されている事は奇跡的な事です。それらの奇跡が起きている背景には紛れもなく「民主主義」に積極的に参加している国民や市民団体の並々ならない努力のお陰です。
最後に「社会運動はどうやって起こすか」をとても分かりやすく表したTED Talk をご紹介致します。
大麻取締法の改正や全ての薬物の非犯罪化を求める皆さんにも是非「民主主義」に参加し、こちらの動画の「1人で踊っている裸のリーダー」の「最初のフォロワー」になって欲しいと切に願っています。
本日は日本で大麻取締法の改正がなぜ進まないのかをご紹介しました。
また次回のノートをお楽しみに!
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