第2次トランプ政権で連邦の大麻合法化は実現できるのか?
こんにちは!
大分久しぶりの投稿になります。先月、Northwestern Universityで3年間学んだデータサイエンス修士課程(MS Data Science)を無事修了し、長らくノートをお休みしていました。また気が向いた時に更新できればと思います。
今回は第2次トランプ政権の発足を受け、「連邦の大麻合法化が実現できるか?」についてデータを基に考察していきます。
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連邦の大麻合法化の現状
アメリカでは、2025年1月現在、39州で医療用、24州と首都ワシントン・DCで嗜好用の大麻が合法化されています。しかし、連邦では「規制物質法(Controlled Substance Act)」のSchedule 1に分類されており、違法の状態が続いています。このSchedule 1という分類は、大麻を「医学的価値がない」とするもので、医師が処方できない薬物として最も厳しい規制を受けています。結果として、州法では合法化されている州でも、医師は大麻を「推奨」することはできても、保険適用などで「処方」することはできません。
バイデン政権下では、大麻のSchedule 1からSchedule 3への変更を目指す動きがありましたが、手続きが遅れており、いまだ実施されていません。また、2020年と2022年に民主党が下院を掌握していた際、連邦の嗜好大麻合法化を目指した「MORE Act」という法案が下院で可決されましたが、上院では審議されることなく2度否決されました。このように、州での合法化が進む一方で、連邦では違法のままです。
3年以上前に連邦の大麻法案を解説した記事を投稿しており、今日までほとんど状況は変わっていないので是非ご参照ください。
フィリバスター制度:連邦の大麻合法化の最大の障壁
上院には「フィリバスター」と呼ばれる制度があり、これが連邦での大麻合法化における最大の障壁となっています。この制度では、上院議員が法案の採決に進むこと自体を阻止できる仕組みがあり、議論を終結させて採決を行うには、全上院議員の60%以上の賛成が必要です。そのため、過半数ではなく、さらに多くの支持が求められるのです。この制度により、前述の下院で可決されたMORE Actも、上院では審議さえされませんでした。
以前フィリバスターについては詳しく解説していますので是非ご参照ください。
下院では過去にMORE Actが可決された実績があることを考えると、今後の選挙で民主党が過半数を取り戻せば、再び可決される可能性は高いと言えます。一方で、連邦での大麻合法化の行方を大きく左右するのは上院です。そこで今回は、新たに発足した上院議員たちの大麻政策へのスタンスを詳しく見ていきたいと思います。
NORMLの評価基準
1970年から大麻の法改正に取り組んでいる非営利団体のNORMLは、議員の大麻政策に関するスタンスを評価する「Grade」を公開しています。その評価基準は大まかに以下の通りです:
連邦の大麻合法化にはGradeが「A」の議員がフィリバスターのハードルを超える60人以上が必要になる形です。
このGrade評価は、議員の大麻に対する姿勢を把握し比較するうえで最も有効な情報といえます。そのため、NORMLのサイトなどからウェブスクレイピングで収集したデータを基に考察を進めたいと思います。
分析結果:上院の現状
*今回の分析に使用したデータは、2025年1月17日時点のものです。詳細を確認されたい方は、こちらから自由にダウンロードしてください。
現在、上院は50州から2名選出され、定員は100名ですが、そのうち共和党が52名、民主党および無所属が47名を占めています。残る1名は空席で、これはオハイオ州選出のバンス氏が副大統領に就任したことによるもので、この席には共和党のハステッド副知事が新たに就任することが決まりました。また、無所属の議員2人は民主党と連携するので民主党員としてカウントしています。
全体のA評価数
NORMLの評価でAの議員はわずか34名で、フィリバスターを突破するために必要な60票との差は大きい状況です。この60票は最低限であり、同じA評価の議員間でも政策内容に意見の相違が生じるため、採決時にはさらに多くの票が必要となる可能性があります。実際、共和党版の連邦の嗜好大麻合法化法案のThe States Reform Actを草案し、NORMLからA評価を受けてるナンシー・メイス下院議員は、2022年のMORE Actについて「連邦政府に権限を与えすぎる」との理由で反対票を投じています。
所属党別のA評価数
民主党議員のうち、A評価を受けている議員は32名で、A評価の大部分を占めています。一方で、共和党ではA評価の議員がわずか2名しかおらず、この偏りは共和党が全体的に保守的な政策を支持する傾向を反映しています。また、親大麻の民主党内でも全ての議員が大麻合法化に肯定的なわけではなく、3割以上にあたる15名(全47名中)が連邦での合法化を支持していないのが現状です。
民意と議会のギャップ
2024年のGallupの調査ではアメリカ人の68%が連邦での嗜好大麻合法化を支持しており、嗜好大麻が合法化された州に住むアメリカ人の割合は54%に達しています。しかし、上院議員でA評価を受けているのは全体の34%にとどまり、大麻政策において民意が十分に反映されていない状況が浮き彫りとなっています。
大麻合法州出身議員のA評価
嗜好大麻が合法な24州出身の上院議員47名のうち、A評価を受けているのは28名(60%)にとどまっています。つまり、合法州出身の上院議員であっても、大麻合法化を積極的に支持しているとは限らないのです。
各議員の任期終了年
連邦での大麻合法化を進めるためには、既存の議員を説得するか、新たに親大麻派の議員を当選させるかの二択しかありません。以下は、各議員の任期終了年ごとのデータです。
2027年と2029年に任期を終える議員では、共和党議員が再選を目指さなければならない数が多く、A評価の議員も少ないため、これらの選挙でA評価議員を増やせる可能性は比較的高いといえます。
しかし、現在のA評価議員は34名にとどまり、フィリバスター防止に必要な60名まで26名も不足しています。この差を埋めるのは非常に困難であり、連邦での大麻合法化が実現するのは、早くても2030年代以降になる可能性が高いです。
結論:トランプ政権で連邦の合法化の実現は現実的か?
トランプ大統領とバンス副大統領は、NORMLの評価基準でC評価にとどまっており、上院の状況を踏まえると現時点では連邦での大麻合法化が実現する可能性は非常に低いと考えられます。前述の通り、筆者の見解ではトランプ政権下での実現は難しく、早くても2030年代以降になると考えています。
トランプ大統領は最近、大麻政策において親大麻派と見られる行動をいくつか示しています。例えば、フロリダ州で嗜好大麻合法化を問う住民投票に賛成票を投じたり、陰謀説を唱えつつも連邦の大麻合法化に賛成の立場を取るロバート・ケネディ・ジュニアを厚生長官に任命したことが挙げられます。また、親大麻派として知られるマット・ゲイツ氏を司法長官に指名しましたが、最終的にゲイツ氏は女性問題で辞退しました。
一方で、第1次政権下では、大麻に対して厳格な姿勢を取るジェフ・セッションズ氏を司法長官に任命し、議会で可決された州法による医療大麻保護を無視する形で連邦政府が大麻の取り締まりを行えるとの解釈を示しました。さらに、ゲイツ氏の辞退後には、フロリダ州司法長官時代に医療大麻に反対していたパム・ボンディ氏を司法長官に任命するなど、政策の方向性が大きく揺れていることがうかがえます。
これらの行動を見る限り、トランプ大統領の大麻政策には一貫したスタンスを示しているとは言い難い状況です。トランプ大統領はビジネスパーソンなので、経済的なメリットや共和党への利益が認められれば、スタンスを変更する可能性があります。その場合、トランプ大統領に忠誠を誓う共和党の上院議員が大麻合法化に賛成する動きも期待できるかもしれません。そのため、彼の政策の動向には引き続き注目が必要です。
連邦での大麻合法化を進めるには、民主党基盤を超えて共和党基盤でも支持を広げることが不可欠です。そのためには、前述の共和党版の連邦の大麻合法化法案であるThe States Reform Actなど、超党派の政策を基に妥協点を模索する議論が求められます。また、合法化に消極的な民主党議員や合法州出身の議員に対しても、効果的なロビイング活動が必要です。
これらの取り組みは地道で時間がかかるものであり、短期的な成果を期待するのは難しいかもしれません。しかし、大麻合法化を進めるためには、このような地道な働きかけを続ける以外に道はないのです。
本日は第2次トランプ政権での連邦の大麻合法化の実現できるか、についての考察を紹介しました。
また次回をお楽しみに!
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