アメリカの大麻研究の実態
こんにちは!
本日はアメリカのカンナビス研究についてご紹介します。このカンナビス研究の実態を詳しく見ていくことで、カンナビスの位置づけがお分かり頂けるかと思います。
本稿を読まれる前に、予備知識としてアメリカの大麻史【前編】&【後編】、「人権問題としての大麻規制」、カンナビスの効能【人体編】と【カンナビス編】を読まれることをおすすめ致します。
*本ノートは日本語で詳細なカンナビスの情報を少しでも多くの方にお届けしたいがために、無料で掲載しております。少しでも「チップ」という形でご支援頂けるのであれば本ノートを続けるモチベーションにも繋がりますので、サポートが可能な方は是非よろしくお願い致します。
アメリカのカンナビス研究の実態をご説明するに辺り、その歴史を一部ご紹介します。
アメリカ初の大規模なカンナビス研究 The Laguardia Commission Report
以前もご紹介しましたが、カンナビスは1850~1942年まではUnited States Pharmacopeia(アメリカ薬局方)に登録されており、医師が処方できていました。FBNの長官のハリー・アンスリンガーが1937年にMarihuana Tax Act(マリファナ税法)により、大麻に重税を課して規制した際、American Medical Association(アメリカ医師会。以下AMA)は猛反対しました。それに対しアンスリンガーは、1937年~1939年までの間にAMAに属している医者を違法薬物を投与していたという理由で3000人以上逮捕する強行策に出ます。脅迫に屈したAMAは1939年にアンスリンガーと和解し、その結果、その後1939~1949年までの10年間での逮捕者数は計3人に激減しました。これがきっかけでアンスリンガーはAMAに大きな影響力をもつ存在になってしまいました。
カンナビスの規制が科学的根拠に基づいていない、ということで反対していた政治家も多数おり、当時のニューヨーク市長のフィオレロ・ラガーディアもその内の1人でした。ラガーディア市長はカンナビスが連邦法で規制された後、アメリカ初の大規模なカンナビス研究に取り組み、5年以上の歳月を経て1944年にThe Laguardia Commssion Report を発表しました。この研究はThe New York Academy of Medicine(ニューヨーク医学アカデミー)らの医師が1938~1944年までの5年以上の間、カンナビスの医学的、心理的、そして社会的影響を調査したものです。その論文内容の結論を下記の通り一部引用します。
【原文】
“The practice of smoking marihuana does not lead to addiction in the medical sense of the word.”
“The use of marihuana does not lead to morphine or heroin or cocaine addiction and no effort is made to create a market for these narcotics by stimulating the practice of marihuana smoking.”
“Marihuana is not the determining factor in the commission of major crimes.”
“The publicity concerning the catastrophic effects of marihuana smoking in New York City is unfounded. “
【和英】
「マリファナを吸う習慣は医学的意味では中毒につながらない。」
「マリファナの使用はモルヒネ・ヘロイン・コカインなどの中毒につながらず、そしてマリファナ喫煙の習慣があることによってこれらの麻薬のための市場を創造することはない。」
「マリファナは、主要犯罪の決定的要因ではない。」
「マリファナ喫煙の壊滅的影響に関する事例はニューヨーク市では見つかっていない。」
【参照:The Laguardia Committee Report 1944】
この貴重な研究では、アンスリンガーがカンナビスを規制する理由として上げている「中毒性」、「ゲートウェイドラッグ論」、「犯罪の増加」、「暴力的になる」という事を否定しています(これらは現代でもカンナビスが規制される理由として挙げられています)。この論文が発表された後、アンスリンガーやホワイトハウスの人達はレポートの内容を参考にするどころか、ラガーディア市長、ニューヨーク医学アカデミー、レポート内容、などを痛烈に非難し、この研究に携わった医者などは彼の許可がなければ今後一切カンナビスの研究を認めず、それを破ったものは監獄すると宣言しました。
憤慨したアンスリンガーは、自分が影響力を持つAMAに反論のレポートの提出を要請し、1944~1945年の間「Gutter Science(ドブ科学)」と呼ばれる研究結果を事前に決定するバイアスな手法に基づく反論のレポートを作成し、発表しました。それは「隔離された軍の中でマリファナを吸うと、その人は白人兵士や白人将校を軽蔑するようになる」という内容でしたが、治験者は35人中34人が黒人であり、結果ありきのレポートでした。(AMAの言い分としてはレポートの治験者の人種構成はマリファナ使用者の人種統計に基づいてるとのこと)これにより、5年以上取り組まれたアメリカ初の貴重な大規模なカンナビス研究が闇に葬られました。
また、アンスリンガーのカンナビス規制がいかに科学的根拠に基づいていないかを証明するエピソードがあります。
アンスリンガーは「新聞王」のウィリアム・ランダルフ・ハーストと一緒に「イエロー・ジャーナリズム」(発行数を増やすために人目を引く見出しを使用するジャーナリズムで、事実報道というより扇情的である)と呼ばれる手法で「マリファナを吸うと暴力的になる」と主張し続け、それを理由に厳しく取り締まりました。しかし1948年に、ソ連の共産主義の脅威が迫っている時、強く反共産主義の議会に向けて「マリファナを吸うとその人は暴力的ではなく平和的になり、平和主義者にまでなってしまう。共産主義者たちは、アメリカの戦う男たちの戦意を弱めるためにマリファナを使う。」と今までと180度逆の主張をし始め、数年間に渡りこの方向転換されたメッセージを繰り返します。このエピソードからいかに科学的根拠が無視され、人権的な理由に加え政治的な理由でもカンナビスが規制されていた事が分かります。
*ちなみにこの同じ頃の1948年のアンスリンガー全盛時代にGHQに押し付けられ、今の日本の大麻取締法が制定されました。
【参照:Jack Herer(著) "The Emperor Wears No Clothes”、The Laguardia Committee Report, 1944、Mary Barna Bridgeman、Counter Punch、PROHBTD、Timewise Medical、Drug Policy Alliance、Marijuana Business Daily、The Reefer Madness Museum、PROHBTD、大麻取締法】
フィオレロ・ラガーディア元ニューヨーク市長(Greendorphineより)
スケジュール1に指定されたカンナビス Controlled Substances Act(規制物質法)
ニクソン政権では現在もカンナビスが規制されているControlled Substances Act(規制物質法)が1970年に制定されます。この法律は1~5(1が最も厳しい規制、5が最も緩い規制)のレベルで薬物を分類(スケジュール)しそれぞれ下記の3項目を基準にしています。
・乱用の可能性
・医療用途
・安全性と中毒の可能性
【参照:DEA】
それぞれの薬物がどのレベルに分類されているかを示している図がNo Drug Warのサイトにありましたので、ご紹介します。(この分類ではアルコールとタバコは免除されています)
それぞれのスケジュールに分類されている薬物(No Drug War より)
カンナビス(マリファナ)はヘロインと同じ、最も厳しい「スケジュール1」の薬物に指定されています。他のスケジュール2~5との一番大きな違いは、スケジュール1だけが「医学的価値が無い」とされ、研究が承認されるプロセスがとても難しく、医者が患者に処方することもできません。現在、医療大麻が合法な州では医者はカンナビスを「推奨」はできますが、「処方」はできません。
ニクソン政権がカンナビス研究に取り組んだ The Shafer Commission
過去のカンナビスの研究が乏しいことは政府も認めており、アメリカ公衆衛生局の保健次官補 Roger Egebergがカンナビスのスケジュール1への分類は一時的なものとし、研究結果を揃えてからスケジュールの再分類をすることをニクソン政権に推奨します。それを受け、ニクソンは研究チームの13人中9人を自分が任命し、同じ共和党派のメンバーで構成されたThe Shafer Commission の研究チームを結成します。当時のペンシルベニア州知事の共和党のRaymond P. Shaferをカンナビスの研究チームの会長に任命し、2年間に及んだ研究を1972年に発表します。
Shafer州知事のチームがまとめたカンナビス研究の正式名称はNational Commission on Marihuana and Drug Abuse ですが、世間一般にはThe Shafer Commission(シェイファー委員会)として知られています。2年間の研究の末、当委員会は、論文の題名を”Signal of misunderstanding(誤解の合図)” とし、「カンナビスは身体的な依存性が無く、ゲートウェイドラッグでもなく、身体的または生理学的に有害ではない」と満場一致で結論付けました。この結果は前述の1944年に発表された「The Laguardia Commssion Report」を支持している内容でした。
論文に記載されている内容を下記の通り一部記載致します。
【原文】
“Against this draconian legal background a presidential commission has unanimously decided to recommend that all criminal penalties for the private use and possession of marijuana should be abolished…. It is obvious the authorities are now going to find it very difficult to hold the line against pot in [the] future.”
【和英】
「この厳しい法的背景から、大統領委員会は、マリファナの個人的な使用および所有に対するすべての刑事罰を廃止することを満場一致で推奨することを決定しました… 当局が、将来マリファナ規制に反対することを禁じることが非常に困難になっていくことは明らかです。」
【参照:The first report of the National Commission on marihuana (1972): signal of misunderstanding or exercise in ambiguity.、NORML、PROHBT、Scientific American】
アメリカ政府の2度目の貴重かつ大規模なカンナビスの研究結果で、またしてもその有害性を否定されたにも関わらず、ニクソン政権は以前のノートで記載した通り、反戦左翼やカウンターカルチャーのムーブメントの市民を抑圧するためにカンナビスを取り締まるアジェンダがありました。実際にニクソンがカンナビスに対して特に厳しい姿勢を崩さなかったことがホワイトハウスの音声テープに残っています。下記に音声テープの原稿の一部をご紹介します。
【原文】
“By God we are going to hit the marijuana thing, and I want to hit it
right square in the puss, I want to find a way of putting more on
that.”
“As far as legalizing them is concerned, I think we've got to take a strong stand, one way or the other.”
【和英】(筆者がニュアンスを訳しています)
「マリファナは神に誓って厳しくつぶしてやる。徹底的に叩きのめしてやる。」
「合法化の話になれば、我々はどんなことがあろうと強固な立場を取らなければならない。」
【参照:1971年5月13日10:30-12:30の音声テープ原稿、Green Entrepreneur】
ニクソンは白人至上主義のJames Eastland上院議員などのアドバイスにも従い、カンナビスをスケジュール1の薬物に残したまま今日に至ります。
【参照:The Atlantic、The University of Texas at Austin】
The Shafer Commission をまとめた
Raymond P. Shafer(右)元ペンシルベニア州知事(NY Times より)
アメリカのカンナビス研究の4つの問題点
National Academy of Sciences(米国科学アカデミー)が2017年に発表した大規模なカンナビス研究の最終章で、アメリカのカンナビス研究の問題点がとても分かりやすく洗い出されています。この論文の最終章の「Challenges and Barriers in Conducting Cannabis Research」という項目にカンナビス研究の問題点を下記4点にまとめています。
【原文】
1. “There are specific regulatory barriers, including the classification of cannabis as a Schedule I substance, that impede the advancement of cannabis and cannabinoid research.”
2. “It is often difficult for researchers to gain access to the quantity, quality, and type of cannabis product necessary to address specific research questions on the health effects of cannabis use.”
3. “A diverse network of funders is needed to support cannabis and cannabinoid research that explores the harmful and beneficial health effects of cannabis use.”
4. “To develop conclusive evidence for the effects of cannabis use on short- and long-term health outcomes, improvements and standardization in research methodology (including those used in controlled trials and observational studies) are needed.”
【和英】
1. 「大麻がSchedule Iに分類されていることで、規制上の障壁があり、それが大麻およびカンナビノイド研究の進歩を妨げている。」
2. 「大麻使用の健康への影響の研究に取り組むために必要な大麻の量、質、種類を得るのは研究者にとって大変難しい。」
3. 「大麻の有害・有益な健康への影響を調査するための多様な資金提供者のネットワークが必要。」
4. 「大麻の短期および長期の健康への影響について決定的な因果関係を導き出すためには、研究方法論(対照試験および観察研究で使用されるものを含む)の改善および標準化が必要である。」
【参照:National Academy of Sciences. “The Health Effects of Cannabis and Cannabinoids: The Current State of Evidence and Recommendations for Research.” & Challenges and Barriers in Conducting Cannabis Research】
今回はこれらの4つの問題を詳しく見ていきたいと思います。
問題点その1 カンナビス研究の承認フロー
スケジュール1に指定されている大麻やカンナビノイドの研究を行おうとする研究者は、NIDA(米国立薬物乱用研究所)、FDA(米国食品医薬品局)、DEA(米国薬物取締局)、機関審査委員会、州政府、州の健康診断委員会、研究者の所属機関(大学、企業、自治体)などの一連の審査プロセスを通った上で、さらに資金提供者を募る必要があります。
政府の複数の協会・団体の厳しい審査を通る事自体ハードルが高く、非常に時間もかかるのでイスラエルや欧州各国と比較しても、アメリカのカンナビス研究は乏しくなっています。実際に、前稿でもご紹介したアメリカ出身のEthan Russo博士がアントラージュ効果の画期的な研究を発表したのはイギリスの機関からでした。Russo博士はアメリカの厳しい審査があるが故に22年以上も不本意ながらアメリカを離れ、イギリスやチェコでの生活を強いられていることを昨年12月のEmerald Cupのトークイベントでも述べています。
カンナビスの研究を求め、アメリカを22年以上離れた生活を送る
チェコ在住のEthan Russo博士(ICCI より)
問題点その2 研究用のカンナビスの品質
カンナビスがスケジュール1の薬物に指定されていることもあり、供給元をコントロールするためにもアメリカでカンナビスを研究する際は、NIDAが提供するカンナビスを使用しなければなりません。その研究用のカンナビスは1968年以降半世紀もの間、ミシシッピー大学が独占的にNIDAに提供しています。当然、ミシシッピー大学だけが供給するカンナビスでは市場に出回っている豊富な種類のカンナビスは無く、実際に合法地域で販売されているカンナビスとあまりにも成分が異なっていることが様々な研究結果で明らかになっています。前稿でもご紹介したSteep Hill社のReggie Gaudino博士らの研究チームも、連邦政府が提供するカンナビスが市場に出回っているカンナビスと大きく異なる事を説明している論文をまとめています。下記の通り論文の一部をご紹介します。
【原文】
“Our results demonstrate that the federally-produced Cannabis has significantly less variety and lower concentrations of cannabinoids than are observed in state-legal U.S. dispensaries. Most dramatically, NIDA’s varieties contain only 27% of the THC levels and as much as 11–23 times the Cannabinol (CBN) content compared to what is available in the state-legal markets.”
【和英】
「我々の研究結果は、連邦政府によって栽培された大麻は、合法州のディスペンサリー(カンナビス薬局)で取扱されるものより圧倒的に種類が少なく、カンナビノイド濃度が低いということを示しています。最も劇的なことに、NIDAの品種は合法州市場のものと比べ、通常のTHCレベルの27%しか含まず、尚、カンナビノール(CBN)の含有量は11〜23倍もあります。」
【参照:Compromised External Validity: Federally Produced Cannabis Does Not Reflect Legal Markets】
THCはある一定期間経過した後CBNというカンナビノイドに変化します。NIDAが提供するカンナビスは長期間保存されることもあり、その時間の経過とともにTHCの成分が減り、CBNの成分が急激に増えている事が明らかです。それに加え、NIDAから送れられてきたカンナビスにカビなどが生えていたと証言する研究者もいる程です(ミシシッピー大学の言い分としては土などにも元々カビが生えているので直接カンナビスにカビが生えていたわけではないとのこと)。
また、NIDAの提供するカンナビスは市場に出回っているEdible(食用)、Concentrates(濃縮物)、オイル、ワックス、肌用、などの形態のものをほとんど提供していないのでこれらの分野の研究もまたさらに限られてきます。
これらは当然、カンナビスの研究に大きな支障になります。NIDAは研究用のカンナビスを今後増やしていくことを発表していますが、限られた供給元では豊富なカンナビスの種類をカバーしきれないので大きな課題になります。
尚、2016年からNIDAは他の機関もカンナビスを提供できるように開放しましたが、過去3年間でどの機関も承認されていないので、ミシシッピー大学の独占状態は現在も続いております。
【参照:NIDA、PBS、Tom Angell、The Stranger、Mercury、Vox、LA Times、PROHBTD、Leafly、Stat】
左=市場で取り扱われているカンナビス
右=政府(NIDA)が提供する研究用のカンナビス
(Freedom Leaf より)
問題点その3 カンナビス研究費の財源
前述したNational Academy of Sciences の論文にカンナビスの研究費について詳しく記載されておりますので、下記の通りご紹介致します。
【原文】
“In the United States, cannabis for research purposes is available only through the NIDA Drug Supply Program. The mission of NIDA is to “advance science on the causes and consequences of drug use and addiction and to apply that knowledge to improve individual and public health,” rather than to pursue or support research into the potential therapeutic uses of cannabis or any other drugs. As a result of this emphasis, less than one-fifth of cannabinoid research funded by NIDA in fiscal year 2015 concerns the therapeutic properties of cannabinoids. Because NIDA funded the majority of all the National Institutes of Health (NIH)-sponsored cannabinoid research in fiscal year 2015, its focus on the consequences of drug use and addiction constitutes an impediment to research on the potential beneficial health effects of cannabis and cannabinoids.”
【和英】
「研究目的のカンナビスは、NIDA Drug Supply Programを通じてのみ入手可能です。NIDAのミッションは「薬物使用および中毒の原因と影響に関する科学を進歩させ、その知識を個人および公衆衛生の向上に応用すること」であり、大麻や他の薬物の潜在的な治療的使用に関する研究を追求または支援することではありません。この結果、2015年度にNIDAによって資金提供されたカンナビノイド研究の5分の1未満しかカンナビノイドの治療特性に関係していません。NIDAは2015年度に米国国立衛生研究所(NIH)が支援するカンナビノイド研究の大部分に資金を供給したので、それが薬物使用および依存症の結果に焦点を合わせることは大麻およびカンナビノイドの潜在的な有益な健康影響に関する研究に対する障害を構成する。」
【参照:National Academy of Sciences. Challenges and Barriers in Conducting Cannabis Research】
NIDAは薬物乱用に焦点を当てた研究をする組織のため、この組織が支援するカンナビスの研究は医療利用などのポジティブな用途に特化した研究がほとんどされて来ていません。薬物を25年以上に渡り研究するコロンビア大学のCarl Hart博士によると、これまでの主要な 嗜好薬物に関するすべての研究の90%以上はNIDAが資金を供給しており、いかにこれまでの研究にバイアスがかかっていたかが伺えます。前述のNational Academy of Sciences が発表した論文の項目を見てみると、カンナビスの効能に関して11章ある中、医療効果に焦点を当てたのは1章のみで、他の10章はカンナビスの害に焦点を当てたものでした。National Academy of Sciencesは彼らの研究にも偏りがあることを認めております。
【参照:Carl Hart、Tom Angell、Civilized Life】
コロンビア大学のCarl Hart博士(コロンビア大学より)
問題点その4 研究デザインの欠如
アメリカでカンナビスの研究をするには、摂取方法が治験者に受け入れられ、ほとんどの研究現場で実施可能で、標準化できる、ということが条件です。
しかし、カンナビスにはそれらを困難にする下記の問題があります。
・カンナビスは吸引による摂取方法が一般化されているが、タバコさえ経験したことの無い人にとっては特に受け入れられない。
・スケジュール1の薬物に指定されているカンナビスを治験者に摂取させられる環境を整えるのが容易ではない。
・カンナビスは人によって効き目に差があるので、摂取量をコントロールすることが困難。
・Placebo (偽薬)を活用した実験では、THCの副作用(精神作用)により、治験者のBlind Test(盲目化)を確保しづらい。
・カンナビスの成分の配合バランスを長期的にコントロールした上で研究するのは大変困難。
さらにこれは全ての薬物に言えることですが、長年スケジュール1に指定されている薬物は、標準化されたデータ(例:摂取頻度、摂取量、最初に摂取した年齢、各成分の含有量、など)が不足しているため研究を検証するのが困難です。今後はカンナビスを研究する上である程度標準化された研究デザインのモデルが必要になります。
【参照:Challenges and Barriers in Conducting Cannabis Research、Drug Abuse、Vox】
(Elsevier より)
今後のカンナビス研究の可能性
前述の通り、カンナビスの研究が進まない最も大きな要因がスケジュール1の薬物に指定されていることです。今の仕組みでそのスケジュール1からカンナビスを外すためにはバイアスの無い研究成果をアメリカで多く上げる必要があります。しかし、スケジュール1に指定されているが故に研究すること自体が大変困難であるため負の連鎖になっている状況です。まさに「鶏が先か、卵が先か」状態になっているのが今のアメリカのカンナビス研究の実態です。
その中でも今後のカンナビス研究において下記の通りいくつかポジティブな面もあります。
・カンナビスをControlled Substance Act の規制対象から外す「Marijuana Justice Bill」をコーリー・ブッカー上院議員などが再度議会に紹介した。
・DEA がカンナビス研究用の供給量を今の年間約1000 ポンド(約453キロ)から5倍以上の5400 ポンド(約2450キロ)に増やす可能性がある。
・WHOが2020年3月の投票で半世紀に及んだ大麻禁止条約を解除するかもしれない。
【参照:Science Times、Cory Booker、Wikileaf、Forbes、Tom Angell、Knowmad Institut】
コーリー・ブッカー上院議員らが議会に提出した
「Marijuana Justice Bill」についての動画
アメリカで今後のカンナビス研究を進めるためには「スケジュール1からスケジュール2への変更」か「Controlled Substance Actそのものから外すこと」の2つの主な方法があるかと思います。
カンナビスが「医療利用の可能性がある」スケジュール2に変更されることで研究がしやすくなり、医者も処方できる薬になります。しかし、今の医療大麻の法制度は、従来の医療制度に沿うように構築されていないので、「スケジュール2」のカンナビスを処方する制度を広めるのには時間がかかります。さらに1961年の麻薬に関する単一条約(Single Convention on Narcotic Drugs)、1971年の向精神薬に関する条約(Convention on Psychotropic Substances)、1988年の麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(United Nations Convention against Illicit Traffic in Narcotic Drugs and Psychotropic Substances)などの国際条約でもスケジュール変更がされていないことを前提に結んでいるものもありますので、それらの見直し及び解釈の変更も必要になります。
一方、Controlled Substance Act の規制対象から外す事はカンナビスをアルコールやタバコのように管理することを目的にしますので、全く別のアプローチになり研究・医療用途が一気に進む可能性があります。その場合、カンナビスを今後どのような制度で運用していくか様々な国内外の法整備が必要になります。カンナビスが社会全体でどのように浸透し、管理していくべきかを真剣に考え無くてはならない時に来ています。
カンナビスの未来像を描いた法整備が必要である(Times Now より)
本日はアメリカのカンナビス研究の実態をご紹介しました。
また次回のノートをお楽しみに!
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