アメリカのオピオイド危機とExit Drug としての大麻
こんにちは!
本日はアメリカのオピオイド危機とExit Drug(出口ドラッグ)についてご紹介します。現在医療大麻が合法な州では危険度の高いハードドラッグの乱用・中毒や、過剰摂取による死亡事故を減らすためにExit Drugとして、カンナビスが活用されています。Exit Drug としてのカンナビスの実態を詳しく見ていくことで、カンナビスやその他の薬物が社会にとってどのように貢献できるか詳しく見ていきたいと思います。
本稿を読まれる前に、予備知識として「カンナビスの効能【人体編】と【カンナビス編】」、「アメリカの大麻研究の実態」を読まれることをおすすめ致します。
*本ノートは日本語で詳細なカンナビスの情報を少しでも多くの方にお届けしたいがために、無料で掲載しております。少しでも「チップ」という形でご支援頂けるのであれば本ノートを続けるモチベーションにも繋がりますので、サポートが可能な方は是非よろしくお願い致します。
カンナビスが「ゲートウェイドラッグ(入り口ドラッグ)」としてレッテルを貼られているのをご存知の方は多いと思います。「ゲートウェイ」というのは「入り口(Gateway) 」としてカンナビスを利用したものがその後その他のハードドラッグに手を出してしまう理論のことです。カンナビスは1930年頃から、stepping-stone theory(飛び石理論)、escalation hypothesis(エスカレーション仮説)、progression hypothesis(進行仮説)などとレッテルを貼られ、War on Drugs政策の全盛期の1980年代頃にRober DuPont 氏によってGateway Drug として世間に広まりました。(DuPont氏 は後に反カンナビスを掲げていたJeff Session元司法長官のアドバイザーにもなりました)
【参照:Stages and Pathways of Drug Involvement. Denise B. Kandel(著)、Marijuana Effects on Human Behavior. Loren L. Miller(著)】
前稿で記載した通り、1944年のアメリカ初の大規模なカンナビス研究 The Laguardia Commission Report 、その後1972年のThe Shafer Commission、Drug Policy Alliance 等でも否定されていますが、未だ「ゲートウェイドラッグ」としてのレッテルが日本のメディアを始め、保守的な意見としてあります。
アメリカのオピオイド危機
NIDA(アメリカ国立薬物乱用研究所)のサイトにあるオピオイド死亡者の統計をご覧下さい。下記のグラフからわかる通り、2017年に7万人が全薬物のoverdoes (過剰摂取)によってで死亡し、1999年から死亡者数が4倍以上膨れ上がっています。
全ドラッグ(合法・違法)の過剰摂取による死亡者数
オピオイドの過剰摂取による死亡者数は下記グラフが示している通り、近年急激に増えており、2017年の約7万人の内全体の67%にあたる4.7万人が命を落としています。
オピオイド(合法・違法)の過剰摂取による死亡者数
中でもモルヒネより80~100倍強力の合成オピオイドであるFentanyl(フェンタニル)系による死亡者数が急激に増え、オピオイド関連の死亡者の約60%の2.8万人が命を落としています。(下記グラフ黄色ライン)
全ドラッグ別(合法・違法)の過剰摂取による死亡者数
これらのグラフを見ていると、一見、薬物常習者がただ単に増えたような印象を受けますが、亡くなった人の内、80%は医者から処方された薬によって初めてオピオイドを経験し、その後、ヘロインやフェンタニル等、より強力なオピオイドを求め、亡くなっています。医者が処方してる薬が後にオピオイド中毒をもたらしてしまう本当の「ゲートウェイドラッグ」になっている事実があります。
50歳未満の死亡原因の1位がドラッグの過剰摂取というとても悲惨な状態になっており、アメリカのオピオイド危機は1980~90年代のエイズ危機を超える、アメリカ史上最悪の健康危機(Epidemic)となっています。
オピオイドとは何か
オピオイドはOpium poppy(阿片ケシ) というケシの花由来の薬物(合法・違法)全般を指します。医療の現場では痛み止めに使われておりますが、副作用として患者に多幸感を与え、身体的・精神的な依存度が高く、過剰摂取によって死亡するリスクもあります。
阿片ケシ(アヘンケシ)。
アヘン戦争の「アヘン」もこちらの花から抽出しています。
(DEA Musuem より)
Poppy Seed(ケシの種)はパン、ベーグルやその他の
料理にも使用されています。(DEA Musuem より)
NIDAのサイトにはオピオイドについて以下のように説明しています。
【原文】
“Opioids are a class of drugs that include the illegal drug heroin, synthetic opioids such as fentanyl, and pain relievers available legally by prescription, such as oxycodone (OxyContin®), hydrocodone (Vicodin®), codeine, morphine, and many others.”
“All opioids are chemically related and interact with opioid receptors on nerve cells in the body and brain. Opioid pain relievers are generally safe when taken for a short time and as prescribed by a doctor, but because they produce euphoria in addition to pain relief, they can be misused (taken in a different way or in a larger quantity than prescribed, or taken without a doctor’s prescription). Regular use—even as prescribed by a doctor—can lead to dependence and, when misused, opioid pain relievers can lead to addiction, overdose incidents, and deaths.”
【和英】
「オピオイドは、違法薬物であるヘロイン、フェンタニルなどの合成オピオイド、およびオキシコドン、ヒドロコドン、コデイン、モルヒネなど、処方によって合法的に入手可能な鎮痛剤を含む薬物の総称です。」
「すべてのオピオイドは化学的に関連しており、身体および脳の神経細胞上のオピオイド受容体と相互作用します。 オピオイド鎮痛剤は、一般的に短期間の服用や医師が処方しても安全ですが、鎮痛に加えて多幸感をもたらすため、誤用される可能性があります(服用方法、服用量、医師の処方箋なしの利用、など)。 定期的な使用は、医師が処方した場合でも、依存症を引き起こす可能性があり、誤用されると、オピオイド鎮痛剤は中毒、過剰摂取、死亡につながる可能性があります。」
【参照:NIDA】
以前ご紹介した人体に存在するカンナビスのEndocannabinoid System (エンド・カンナビノイド・システム。以下ECS)と同様にオピオイドにも Endogenous Opioid System (エンドジニアス・オピオイド・システム。以下EOS)があります。
EOSはECS同様、体内には受容体とそれらを活性化させる内因性の成分が存在し、また外因性の成分(モルヒネに含まれるアルカロイドオピエート)によっても活性化させることができます。
EOSについて、European College of Neuropsychopharmacologyは下記の通り説明しています。
【原文】
“The opioid system controls pain, reward and addictive behaviors. Opioids exert their pharmacological actions through three opioid receptors, mu, delta and kappa whose genes have been cloned (Oprm, Oprd1 and Oprk1, respectively). Opioid receptors in the brain are activated by a family of endogenous peptides which are released by neurons. Opioid receptors can also be activated exogenously by alkaloid opiates, the prototype of which is morphine, which remains the most valuable painkiller in contemporary medicine.”
【和訳】
「オピオイドシステムは、痛み、報酬、および習慣性の行動を制御します。 オピオイドは、遺伝子がクローン化されたミュー、デルタ、カッパの3つのオピオイド受容体(それぞれOprm、Oprd1、Oprk1)を通じて薬理作用を発揮します。 脳のオピオイド受容体は、ニューロンによって放出される内因性ペプチドによって活性化されます。 オピオイド受容体は、現代医学で最も価値のある鎮痛剤であるモルヒネを原型とするアルカロイドオピエートによって外因的に活性化することもできます。」
【参照:European College of Neuropsychopharmacology】
画面左下の印=β-endorphin, Enkephalins, Dynorphinsは
オピオイド・ペプチド(脳のオピオイド受容体に結合するアミノ酸配列)
画面右下印=Mu, Delta, Kappa はオピオイド受容体。
(Neurology より)
オピオイド危機の原因としてNIDAは下記の通り説明しています。
【原文】
“In the late 1990s, pharmaceutical companies reassured the medical community that patients would not become addicted to prescription opioid pain relievers, and healthcare providers began to prescribe them at greater rates. This subsequently led to widespread diversion and misuse of these medications before it became clear that these medications could indeed be highly addictive.”
【和訳】
「1990年代後半、製薬会社は患者が処方オピオイド鎮痛剤で依存しないことを医学界に伝え、医療提供者はより高い割合で処方を開始しました。 これにより、これらの薬物が実際に非常に中毒性が高いことが明らかになる前に、これらの薬物の流用と誤用が広まりました。」
【参照:NIDA】
アメリカのオピオイド危機の始まりはBillionaire(資産が10億ドル以上)のSackler 一家が所有する、Purdue Pharma社の下記のOxyContinのCMが発端と言っても過言ではありません。このCMをはじめ、Purdue Pharma は長年組織的に医者・消費者に誤解を与え、結果、その後大変多くの死者を出し、現在Sackler 一家は2,000以上の訴訟を法廷で争っています。
【参照:The Guardian、LA Times、Time Magazine、Kaiser】
オピオイド危機とSackler 一家についての詳細は是非PBS が放送した下記のドキュメンタリーを視聴されることをオススメ致します。
オピオイドは手術などの急性な痛みに対しては有効ですが、慢性的な痛みに対しては身体的・精神的依存、より強力な薬を求める特徴、禁断症状(嘔吐、不眠、発汗、精神不安、下痢、など)、過剰摂取による死亡、などとてもリスクがあります。NIH(アメリカ国立衛生研究所)は以下の通り、リスクを説明しています。
【原文】
“Opioid addiction is characterized by a powerful, compulsive urge to use opioid drugs, even when they are no longer required medically. Opioids have a high potential for causing addiction in some people, even when the medications are prescribed appropriately and taken as directed. Many prescription opioids are misused or diverted to others.”
“Opioid addiction can cause life-threatening health problems, including the risk of overdose. Overdose occurs when high doses of opioids cause breathing to slow or stop, leading to unconsciousness and death if the overdose is not treated immediately. Both legal and illegal opioids carry a risk of overdose if a person takes too much of the drug, or if opioids are combined with other drugs (particularly tranquilizers called benzodiazepines).”
【和訳】
「オピオイド中毒は、オピオイド薬が医学的に不要になった場合でも、オピオイド薬を使用する強い衝動が特徴です。 オピオイドは、薬が適切に処方され、指示通りに服用された場合でも、一部の人々に依存症を引き起こす可能性が高いです。 多くの処方オピオイドは誤用されているか、他の人に流用されています。」
「オピオイド中毒は、過剰摂取のリスクなど、生命を脅かす健康上の問題を引き起こす可能性があります。 過剰摂取をすぐに治療しない場合、高用量のオピオイドにより呼吸が遅くなったり止まったりすることもあり、意識不明や死につながります。合法および違法のオピオイドは、人が薬物を過剰に摂取した場合、またはオピオイドが他の薬物(特にベンゾジアゼピンと呼ばれる精神安定剤)と併用された場合、過剰摂取のリスクを伴います。」
【参照:NIH】
それではカンナビスがこのオピオイド危機に対してどのように役に立っているかご紹介します。
Exit Drug としてのカンナビス
医療大麻が合法な州では、カンナビス をExit Drug、つまり「オピオイドの乱用や中毒から救うためのゲートウェイドラッグ」として活用され、実際にオピオイドの過剰摂取が抑えられたり、オピオイドの過剰摂取による死亡者数を減少させるなどの結果が得られています。
癌以外の慢性の痛みで大麻を併用する事でオピオイドの使用を抑える事が分かったシスチマテックレビューが公表されています。2,440の論文から厳しい調査基準に満たした9つの論文が選定され、大麻を併用する事で64-75%がオピオイドの使用減少、32-59%が「完全な使用停止」に成功しています。
確かにカンナビスに含まれるTHCには精神作用の副作用はありますが、過剰摂取による死亡リスクや死亡例はありません。さらに、オピオイド程強力ではありませんが、カンナビスの成分にも痛みを緩和する効果があるので、慢性疼痛患者に対し比較的安全に効果が得られるとともに、身体的な依存性がないと言われているので、服用をやめた後も禁断症状は限られています。
医療大麻が合法な州でのオピオイド患者の統計を下記の通り引用します。
【原文】
“In states with medicinal cannabis laws, fatal opioid overdoses drop by an average of 25%. This positive effect grows the longer the law has been in place. For instance, there is a 33% drop in mortality in California, where compassionate use has been in place since 1996. This finding was replicated by Columbia’s school of public health, using a completely different analysis strategy.”
“When a state legalizes cannabis, prescription opioid hospitalizations decrease by 23%.”
“Cannabis is opioid-sparing in chronic pain patients. When patients are given access to cannabis, they drop their opioid use by roughly 50%. This finding has been replicated several times from Ann Arbor to Jerusalem.”
【和訳】
「医療大麻が合法な州では、致命的なオピオイドの過剰摂取は平均25%低下します。 このポジティブな効果は、法律が施行されている期間が長くなるにつれて大きくなります。 たとえば、1996年以来医療大麻が合法的に使用されているカリフォルニア州では、死亡率が33%低下しています。尚、この発見は、コロンビア大学の公衆衛生学部によって、まったく異なる分析戦略を使用して再現されました。」
「州が大麻を合法化すると、処方オピオイドによる入院は23%減少します。」
「大麻は慢性疼痛患者のオピオイドの使用を少なくすることができます。 患者が大麻へのアクセスを許可されると、オピオイドの使用が約50%減少します。 この発見は、アナーバーからエルサレムまで何度も再現されています。」
【参照:JAMA、Columbia University、University of Michigan-Ann Arbor、Hebrew University、NY Times、NBC News、CNN、Newsweek、Boston Globe、Boston 25 News、Alternet】
日本のオピオイド事情
モルヒネなどのオピオイドは世界的にも広く利用されており、当然日本でも処方されています。また、アメリカで問題を起こしている、Purdue Pharma の OxyContinも医者が処方することができます。
しかし、麻酔医の獨協医大の山口重樹教授によると、「日本では製造メーカーも処方箋を出せる医師も、対象となる症状も、薬を販売する薬局や薬剤師も、いずれも厳しく管理され、何重にもチェックされる仕組みが存在するため、今のところ日本でアメリカのようなオピオイドが乱用され、危機を招くような恐れはないだろう」と述べています。
規制の厳しい日本でアメリカのようなオピオイド危機を防いでるのは日本の隠れたとても大きな功績です。
【参照:Blogos】
しかし、カンナビスは日本の大麻取締法によって、医療目的も含めて使用が厳しく制限されております。そのため、日本でオピオイドを服用している人がアメリカのようにカンナビスを利用して、オピオイドの使用を減少・脱却を試みることができません。
実際にVice Japan が日本で末期の大腸ガンを患っている患者さんにインタビューし、オピオイド系のアヘンチンキとカンナビスを服用されています。
こちらの患者さんのカンナビス利用は主に食欲促進が目的ですが、日本でもオピオイド系の薬とカンナビスを同時に服用している患者がいるのは事実です。
7:35~ から大腸ガン患者さんのインタビュー (Vice Japanより)
カンナビスのその他の Exit Drug 例
カンナビスはオピオイドのみならず、その他のハードな薬物依存にも活用できるポテンシャルがあります。
ジャーナリストであるKatie Herzog さんはご自身の体験談としてカンナビスが彼女のアルコール依存に対してとても有効であった事を勇気を振り絞って、BuzzFeedに記事として投稿しています。
また、122人のクラックの中毒者に行った研究では平均30ヶ月で対象者の89%がカンナビスを服用することでクラックの使用量を抑えることができました。
実際にNIH(アメリカ国立衛生研究所)はカンナビスのオピオイドの代替としての利用の研究に300万ドル投資することを発表し、他にもNIDAは合成カンナビスがオピオイド依存に加え、アルコール、メタンフェタミン(覚醒剤)、薬物の再発、物質使用障害、等に活用するための研究に投資しています。
【参照:Marijuana Moment、CNN、New Scientist、The Recovery Village】
カンナビス以外のExit Drug
カンナビス以外にも様々な薬物が「Exit Drug」として使用されている例があります。
実際にコカイン中毒を脱却するためにメタンフェタミン(覚醒剤)を使用したり、依存度の高いうつ病の薬から脱却するためにマジックマッシュルームやLSDなどのサイケデリックの使用の研究が進められております。
【参照:Baylor College of Medicine、Psilocybin with psychological support for treatment-resistant depression: an open-label feasibility study、Heathline、The Recovery Village】
筆者の薬物に対する意見
世界では何千年前から各地域の先住民が向精神薬を医療・文化・嗜好の目的で使われていた歴史があります。
アマゾン地域ではAyahuasca やKambo、中国の山岳部のアヘン、アメリカ先住民のPeyote、南米の先住民にとって神聖なコカの葉、世界各地域で使用されていたカンナビスやマジックマッシュルーム、など様々あります。
しかし、中でもアルコールは西洋を中心に広く嗜好品として利用されてきた歴史があります。それ故にアルコールは向精神薬としての害は科学的に十分立証され、毎年300万人以上(全死亡原因の5.3%)命を落としているのにも関わらず、世界の多くの国で嗜好品として合法です(イスラム系諸国を除き)。
20種類のドラッグの総合的な害を表したグラフ(Lancetより)
アメリカではアルコールで毎年8.8万人が死亡しており、全ドラッグの過剰摂取による死亡者数を超えてるのにも関わらず、オピオイドだけが危機として捉えられているのはバイヤス以外の何ものでもありません。
オピオイドやアルコールによる死亡者数を少しでも減らすためにも「Exit Drug」として他の薬物の代替品は社会にとって間違いなく必要です。
また、複合的に最もダメージを与えるアルコールを解禁している時点で、その他の向精神薬をバイヤス無しで見ることが今の社会に求められています。
本日はアメリカのオピオイド危機とExit Drug としての大麻をご紹介しました。
また次回のノートをお楽しみに!
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