すれ違い
44歳3児のシングルマザー、ミソノです。
今、私のお腹にやってきてくれた4人目の子、ミカゲちゃん。(note上の胎児ネームです)
ミカゲちゃんは、お付き合いをしている彼、シクロさん(47歳、未婚)との間に授かりました。
シクロさんが将来住むであろう離れの片付けに来てくれないことを私は不満に思っていた私は、ある晩の電話で、私の焦る気持ちを伝えることにしました。
「離れの件やねんけど、水道の工事とか部屋の工事するなら、雪が降ったらできなくなるし、業者さんが空いてるかどうかも分からないから、見積もりだけでも早めに来てもらう方が良いと思ってるんやけど、どんな風に考えてる?」
「俺一人が住むだけなら部屋は四畳半一つあれば良いし、お風呂さえ使えるようになったら、トイレは汲み取りでも良いと思ってるから、そんな焦らなくてもいいと思ってた」
「え?一緒に住むんじゃないの?」
「なんで?ミソノさんは三人娘もいるから母屋に住んで、俺だけが一人で離れに住んだらいいと思ってた」
「それだとミカゲちゃんが夜泣きした時とか手伝ってもらえへんやん。おはようからおやすみまで、父親として関わってほしいよ」
「関わらないわけじゃないやん。でも狭い離れに大人2人と赤ん坊が住んで、母屋に娘さんが三人だけで住むって、だいぶいびつじゃない?」
「長女はもう成人してるし、下の2人も自分のこと自分でできるから全然問題ないと思うけど」
「そやけど俺はそんないびつな形の家族の中に入って、やっていける気がしない」
「……(シクロさん、何が言いたいんだろう)」
長い沈黙の後、彼はこう言いました。
「今回はやめときませんか」
「…堕ろせ、っていうこと?」
「こんないびつな家庭に産まれた子を、健やかに育てられる気がしない」
「別にそんないびつじゃないと思うよ、シングルマザーが付き合っている人の子を身籠るのはよくある話だし」
「俺がそんな環境に耐えられる気がしない」
「そんなに自分が大事なの?」
「当たり前やん」
「そうなんや。私は自分よりお腹の中のミカゲちゃんを大事に思ってる。ホルモンバランス変わってつわりでしんどくても、守ってやりたいって思って、体を労ってる。この年で授かったのだから、若い時以上に気を遣って大切に10ヶ月育てたい。そして産まれた後もどんなに大変でも、何としてでも育ててみせるって思ってるよ」
「そうか、女の人は強いな」
「私はもう覚悟を決めたから」
シクロさんはすぐに答を出せませんでした。
私はゆっくり考えて、と言って電話を切りました。
離れに一緒に住むのか、はたまたシクロさんが1人で住むのか、という認識の違いから、堕ろす堕さないの議論に発展するとはちょっと予想外でした。
確かに言えることは、シクロさんには親になる覚悟がないということです。
赤ちゃんを育てた経験がないのですから当然かもしれませんが、家庭を持つことに対する想像力もありませんでした。
それはシクロさんの生まれ育った家庭に大きな原因がありました。シクロさんは自分の育ってきたあの場所が家庭というものならば、そんなものは要らないと考えている人でした。彼の壮絶な生い立ちを思うと、彼の思考や発言に納得できます。
私はシクロさんに一般的な父親像を求めていません。シクロさんがシクロさんらしく、シクロさんのできる範囲で、父親になっていってくれたらいいなと思っています。
不思議なご縁で私はシクロさんと出会い、愛し合う関係になりました。私たちは共に、毒親生まれ独親育ちだからこそ、深く共感して共鳴しました。
私は三人の娘を産み、自分が母親となることで、私と毒親との因縁を乗り越えきた経験があります。その毒親も昨年他界して、私の中ではすっかり終わったものになりました。
シクロさんは今でも毒親の因縁に囚われているように思います。親になることで、親の苦労を知るでしょう。そして苦労以上に大きな喜びがあるでしょう。自分を一番大切にしているシクロさんですが、ミカゲちゃんはもしかしたら自分以上に大切に思える存在になるかもしれません。ミカゲちゃんに愛をそそぐことで、きっと幼少期のシクロさんが癒されると思います。私自身がそうであったように。
ミカゲちゃんが奇跡的な確率で私のお腹にやってきてくれたことは、大きな意味があるように思えてなりません。
シクロさんが父親になれる最初で最後のチャンスだとも思っています。今回を諦めたら、次回なんてありえません。
妊娠が発覚した日、「この子の顔が見れたら嬉しい」と言ったシクロさんの気持ちは確かに本当だった思います。
現実的に家族の形態を考えた時に、うまくやっていく自信が持てず「今回はやめときませんか」と言ったシクロさんの気持ちもまた本当です。
私はシクロさんがいなくても1人でも産む覚悟はできています。シクロさんがシクロさんのペースで親になることについて考えて、出してくれた結論を尊重しようと思います。