夫婦は運命共同体
私は夫が嫌いだ。
夫はとんでもない暴君で、わがままで、怠け者で、人をアゴで使うことに長けていて、自分は何一つできやしない。
「亭主関白」とは、出来の悪いわがままな夫のことを指す言葉だと思う。
貞淑な妻であれ?
女は家庭を守るもの?
知らんがな。
昔の美徳は、現代社会には通用しない。
なんせ、私は言いたいことは言う方だし、やりたいことはやるほうなんだもの。
ということで、クラウドソーシング経由でWEBライターを始めてまる二年が経った。
義母と同居している我が家は、日中、長時間家を空けることがためらわれる。
義母には見守りが必要なためだ。
ところで、うちの夫氏はそろそろ61歳になろうかというところ。
もともとあまり頑丈ではないので、もう外で働く気は無いらしい。
ちなみに私はぴっちぴちの36歳。
※ここ笑うところ
我が家には小4の長男と小1の長女がいる。
食べ盛り伸び盛り、お金がかかるのはこれからという二人の子供。
さらに、義母に年金は入ってきているものの、ここ数年介護やら入院やらで、なんだかんだ入ってくるお金よりも出ていくお金が圧倒的に多い。
なんだこれは。
なんなんだこれは。
私としては「私が働かないと!家計を支えていかないと!」と、思わざるを得ない。
ところが、夫氏は大変世話の焼ける人物で、精神疾患持ちでもあるため、一人で外出させることができない。
その割に、出たがりであちこち行きたがる。
なんだこれは。
なんなんだこれは!!
そんなこんな、私は必要に迫られてWEBライターを始めたのだ。
ただ、まあもちろん当然楽しいから続けているのだけど。
問題はここから。
そんな夫氏だが。
私に「働いてほしい」とはいうものの「クラウドソーシングなんて信用できない!ネットの仕事なんか怪しいに決まっている!」という立場。
まあ、一般的な考えかも知れない。
とにかく疑り深い彼は、詐欺、不正、情報流出、ネットで晒される…このようなことを人一倍恐れた。
そのため、私が「在宅でクラウドソーシングを使って働きたい」と話したときも全力で否定。
ちょこっと始めては見たものの、すぐに「あかん!就職したほうがいい!!正社員の仕事を探せ!!」と、無理難題を押し付ける。
ジャイアンか!!
私がWEBライターを始めた当初、我が家は狂っていた。
自宅をマンション業者に売却する、その交渉の最中で、家の大黒柱である夫氏は運命の決断を迫られていた。
生まれてからこの方、建て替えを経てはいたものの、ずっとすみ続けてきた我が家だ。
歴史ある家柄で本家の長男として産まれ、遺産相続やらなんやらのいざこざでさんざん苦労して、義母が守り抜いてきた土地でもある。
そのこだわりは常人に推し量れるものではなく、かといって時代の流れには逆らえないのもまた事実。
さらに、そのプレッシャーに耐えられなくなった義母の腰椎が折れた。
診断は圧迫骨折だったが、これはもう自宅のいざこざが義母の腰骨を叩いたのだと思う。
つまり、二年前、私達は間違いなく狂っていた。
運命の歯車が私達を狂気に陥れ、逃れられない試練をこれでもかと与えてきた。
自宅の売却と新築。
義母の介護と入院。
はっきり言って、ハチャメチャだ。
日常生活なんか、どこかに吹っ飛んでしまった。
自宅の売却が決まったのと義母の入院はほぼ同時だったので、そこから三ヶ月は義母の見舞いと新居の打ち合わせ。
義母が退院して、再入院。
新居の着工。
引っ越し準備からの引っ越し。
自宅は狭くなったので、引っ越したら荷物が収まりきらず。
新居にうず高く積み上がったダンボールたちを見て、絶望感しか無かった。
そんなこんな、ビッグイベントだらけだった2018年。
その裏で、私はWEBライター業をほそぼそと続けていた。
我が家に起きた天変地異で頭が常に噴火状態の夫氏には、WEBライターを続けていることはナイショだった。
その代わり、スマホ一つで隠れてやるしかなかった。
みんなが寝静まってから、一人黙々と作業する。
日中、寝不足で不機嫌な日が続いたこともある。
でも、やらねばならぬのだ。
私がクソ意地っ張りなのは、今に始まったことではない。
怒涛の2018年を切り抜け、迎えた2019年。
義母が新居に慣れ、引っ越しのゴタゴタも落ち着き始めて、私達は徐々に正気を取り戻していった。
2018年、引っ越しが決まってから一年間くらいは、掴み合いの夫婦喧嘩を幾度と無く繰り広げたものだ。
そのくらい、狂っていた。
でも、私達夫婦がケンカをするのはある意味仕方のないことなんだ。
私は細かくて口うるさい夫が嫌いだし、夫は大雑把でガサツな私が嫌いだと言う。
相入れないのは一目瞭然だ。
ところが、私達には家族がいた。
パパとママを愛して止まない子どもたちがいる。
長男とその嫁の手助け無くしては暮らしていけない義母がいる。
私達夫婦がどんなにケンカをしても、お互いを憎いと思っても、私達には家族がいた。
家族がいなければ、ここまでケンカをしなかったかも知れないが。
そんなことはどうでもいい。
私達夫婦に唯一共通していたのは、家族を守る思い。
子供と義母を守っていくのだという思い。
元は他人である義母のオムツ替えから入院の手続きの一切は私がやったし、夫氏はなんだかんだいいながらも子供の将来のために自宅の売却と新居建築を決意した。
ここ二年間の間、私達は常に家族を優先してきた。
そして、気づいた。
夫婦とは運命共同体であると。
家族を支えていくために、私達は互いを必要としていた。
欠けてはならないと、理解していた。
だからどんなに相入れなくても、一緒にいたのだ。
2020年を迎え、確定申告の時期がやってきた。
新居に住んで一年が過ぎ、さすがの夫氏も「自宅ロス」がおさまりつつあった。
そう、正気に戻ったのだ。
ここ半年、掴み合いの夫婦喧嘩はしなくなった。
子どもたちが小学校に行っている時間は、穏やかに過ごす時間が増えた。
そして、夫氏は前々から私が隠れてライター業を続けているのではないかと疑っていた。
税務署からいらん詮索を受ける前に、とうとう夫氏の追求を受けて、私はライター収入があることを白状した。
結論から言うと、私の収入は年収にして100万円にも満たないので、大した話ではない。
ただ、隠れて仕事をしていたことは紛れもない事実で。
「もう辞めろ」
「隠れて仕事なんかしやがって」
そう、罵られることも覚悟した。
しかし、ようやく月収10万円に届くようになった今、私も自信を持てるようになってきていた。
まだまだ未熟者だけど、未熟なりにやっていける算段はあった。
想像よりはるかに落ち着いた状態で、話し合いをした。
そこは、これからの我が家の未来を語る場だ。
夫氏はネット取引や個人間取引について、やはりいい顔をしなかったけれど、私のやっていることに対しては「わかった」と頷いた。
「在宅で働いて、一定の収入を得ることができるなら、続けていい」と、言ってくれた。
この瞬間、家族にナイショでライターを続けてきた背徳心から、ようやく解放された。
私はようやく「ライターです」と、胸を張って言えるようになった。
長かった。
とんでもなく長かったけど、続けて良かったと思う。
そのうち個人事業主の届けをだして、仕事をするようになると思う。
ノートパソコンが欲しいという、ささやかな望みも叶う日が来る。
何より、家族の前で堂々と仕事ができる。
それだけで、私は幸せなのだ。
私は私の居場所を確立することができた。
私は夫が嫌いだけど、夫も私が嫌いだけど、互いに思うのは「この人じゃなかったら今も一緒にいることはなかっただろう」という思い。
私達は、結婚したその時から運命共同体なんだ。
結婚してから、12年ほどが経つ。
子供が産まれて、成長して、義母の介護やら引っ越しやらを乗り越えてきた。
私達はいつも同じ方向を向いてきた。
だから、わかる。
この人じゃなかったら、同じ道を歩むことはなかった。
このnoteも、いつか夫氏は気づくだろう。
びっくりするかも知れないし、散々な言われように怒り狂うかも知れない。
それでも、私は書かずにいられない。
運命共同体であるあなたと出会えた。
それは何よりも誇らしいことだから。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?