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【和訳】 "OD" - Earl Sweatshirt
はじめに
個人的にFOT最大の問題作だと思われる"OD"。Apple Musicのエディターノーツには「小さな挫折から俺を引き揚げてくれる一番の曲」と言う本人からのコメントがあります。また歌詞は南アフリカに赴いた際に書き、ビートはロサンゼルスで作成したとのこと。ビートは他に2つ候補があったようですが、彼曰く「俺は俺が何を欲しているか知っていた」。彼にとっては最終的に選ばれたこのビートこそが欲しているものだったのでしょう。とりあえず歌詞を訳して曲の全貌を把握したいと思います。
和訳
(イントロ)
Give it up, we-
諦めろよ、俺ら、、、
(バース)
Somebody tooted in the student commons
誰かが学生コモン*で口笛を吹いた
The bell rang
ベルがなった
He went home then argued in the comments
彼は家に帰りそしてコメント欄で言い争いをした
I watched the doppler move
俺はドップラー効果*を観測した
I watched a child get introduced to violence
俺は子供が暴力の手ほどきを受けるのを見た
I beat you to the point
俺はお前を適切にぶちのめす
My noose id golden
俺の輪縄*は金色
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*会話や飲食が可能な自習スペース、集会所。大学の図書館に付随していることが多い
*救急車のことと思われる。次の行と合わせて、ストリートの現状を描写している。ちなみに「ドップラー効果」は"Doppler effect" もしくは "Doppler shift" と言うのが一般的で "Doppler move" と言う表現が存在するのかは不明。
*首吊り縄。Earlの付けている金のネックレスには首吊り縄があしらわれたチャームがついている。Genius.comの該当箇所に付随するアノテーションで画像が確認できる。
True and livin'
純粋で自然な生き方
Lonesome
孤独
Pugilistic moments
ボクサーの時間*
Riveting
魅力的*だろ
Come get to know me at my innermost
俺をもっと深いところで知ってくれないか
My family business anguished, now I need atonement
俺の家業*は苦しみを引き起こした。今俺は償いを必要としてる
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*苦しみと戦った時間
*Earlはラッパーとしてのキャリアの中で二度表舞台から姿を消している。一度目は母親による自宅軟禁を受け、サモアのボーディングスクールに通っていた時期。二度目は 2015年から2018年 "Nowhere2go"のドロップまで(この時期に関してはSoundCloudなどで作品の発表あり)。彼はこの間、自身の問題と格闘してきたが、メディアやファンは何があったのか、何をしていたのかを詮索したがる。加えて"rivet(ing)"は「リベット打ち」の意味もあり、ダブルミーニングになっている。(リベット打ちは、ネジを使わず、両側から特殊な部品で挟み込むようにして二つの板材を留める手法=かしめ。取り外しを想定しておらず、高い強度で半永久的に板材を結合させることができる。Earlはうつ状態との格闘の日々を経て、さらなる精神的な強度を手に入れた。)
*家族との問題。(6歳の時に父はEarlの元を去り、彼の心に大きな傷を残した。母親はOdd FutureとしてデビューしたEarlの薬物中毒、アルコール中毒を案じ、自宅軟禁に踏み切った)
I set the goals
俺は目標を設定した
Half my wings is broken
片方の翼は壊れてるから
I spread the other for my brodie OD
もう片方の翼を広げて、ブラザー*のオーバードーズに捧げるよ
Tiptoeing too much love
愛を丁重に扱いすぎて
My sister showed in a rut
俺の姉貴*はマンネリ化しているように見える
We getting over sinning up
俺ら罪を乗り越えようとしてる
Living in the moment, you been corrupt
瞬間を生きてるんだ。お前は堕落していた
Have some ginabut
ギナーボット*を食う
Since a jit I figure what's the use in giving up
俺は子供の頃から、諦めがなんの役にも*たたないことを理解してる
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*Mac Miller。Earlと親交が深かったが、2018年に他界。オーバードーズが原因と見られている。
*彼には音楽ライターとして活動している異母姉Ipeleng Kgositsileがいる。"sister" はMac Millerの元交際相手であるアリアナグランデのことを指していると取れないこともないが、ここでわざわざディスを加える必要は見当たらない。
*豚の皮や腸を揚げた、セブ島のローカルフード。ginabotと綴ることも。(Earlはジーナバットと発音している)なんの暗喩なのかは不明だが、、、
*Mac Millerの”What's the use?”を意識したラインと思われる。(自身の薬物中毒との格闘を歌う楽曲で、「ドラッグなんて何の役に立つんだ?」という意味で"What's the use?"という歌詞が登場する。)
I can't give enough
シッピーカップ*に入ったシラジット*を
Shilajit in my sippy cup
出してやることはできないよ
Healing cuts
傷を癒すためのな。
But willingly I'm refilling the pump
でも俺はまたガソリンを補充する*つもりなんだ
No concealing it
隠したりしない
*幼児がミルクなどを飲む時に使うマグ。(いいフリー素材が見つからなかったのでシッピーカップのレビュー動画を埋め込んでおきます)
*自然由来の健康食品。ヒマラヤ山脈で採取される腐植土から作られ、錠剤として服用したり、粉末を湯に溶かして飲むなどして摂取する。効果は数えきれないほどあるようだが、信憑性は、、、
*ショットガンのリロードという意味もある。また、ガソリンタンクのモチーフは"Some Rap Songs"収録の”Azucar"にも見られる
"Lost footin', it was sugar in my gas tank"
(足場を失った。俺のガスタンクには砂糖が入ってるんだ)
ー "Azucar" - Earl Sweatshirt
ガソリンタンクに砂糖を入れるとエンジンが焼け付き故障する。実際には何も起こらないとも言われるが、「(車を故障させるために)ガソリンタンクに砂糖を入れる」という悪戯は古くから存在する。ここでは誤った食生活、特に酒(糖質を多く含む)の飲み過ぎがEarlの生活に及ぼしてきた悪影響を暗喩している。
Enemy up in arms bearing snubs
臨戦態勢の敵は鼻*であしらわれる
They just freakin' see the cub
奴らただ新米と対峙するのみだ*
My memory really leaking blood
俺の思い出はマジで血を流してる
It's congealing, stuck
それが固まってこびりついてる
Pieces in slums
スラム街の断片
One
その一つが
Peaking in the dust, weaving
塵の中*にそびえて、ラップを紡いでる
*"snub" は冷遇、冷たい態度などを指す語。また単に「短い」という意味もあり、銃身の短いリボルバーを、"Snubnosed-revolver"もしくは"Snubby"と呼ぶ。直前の "refilling the pump" (ショットガンの再装填)との対比させている可能性がある。
*"freakin'"は「マジで、すごく」という意味合いの俗語。"f**kin'"の代わりに使えるらしい。
*"in the dust” には「屈辱を受けて」などの意味合いがあるほか、"leave someone in the dust" で「相手を遥かに凌ぐ」と言う意味合いもある。日本語にも「後塵を拝する」と言う表現があるが、ここでの"dust"も地位の低さや惨めな状況などを喩える目的で用いられていると考えられる。
I remember woods
俺はビリーウッド*のことを覚えてる
I remember endo when he wasn't remembering much
彼があんまり思い出せないでいる時にも"endo"*のことを覚えてる
I remember love
愛を覚えてるよ
Healing the ruptures
不和を癒す愛を
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*ラッパー Billy Woods のことを指しているかと思われる。現時点で共演は見られないが、EarlはBilly Woodsのファンらしく、ツイートでたびたび言及している。
billy woods has very good t shirts
— thebe kgositsile (@earlxsweat) April 8, 2020
*マリファナのうち、乾燥させた際に結晶や樹脂がより多く採れる部分のことを指す隠語。もしくは室内で育てた高品質なマリファナのこと。後者は"indo"と表記する場合もあり、Snoop Doggの "Gin and Juice" にも登場する
Rollin' down the street, smokin' indo, Sippin' on Gin and Juice
(ストリートを歩いて、"indo"を吸って、ジン&ジュースを飲む)
ー"Gin and Juice" - Snoop Dogg
Snoopの代表曲であるのみならず、G-Funkを代表する一曲、西海岸HIPHOPを代表する一曲である。
Feeling rushed, grew up quick
急かされてる気分がするよ、急に成長したんだ
Trip around the sun, this my 25th, give it up
太陽の周りを回る、これで25回目だぜ* 諦めてくれよ
Gin and rum
ジンとラム*
We wasn't supposed to be alive, no funny shit
俺らまだ生きてるなんて思われてなかったんだぜ、冗談よしてくれよ*
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*太陽の周りを地球が一周するのに一年かかる。リリース当時Earlは25歳。
*"Gin and Juice" に関連か
*カニエウエストの "We Don't Care" ("The College Dropout" 収録)を意識したと見られる。
"We wasn't supposed to make it past twenty-five
Joke's on you, we still alive"
(俺ら25年も生きれると思われてなかったんだ / 冗談だぜ、だって俺らまだ生きてる。
ー"We Don't Care" - Kanye West
黒人コミュニティの現状をラップした楽曲で、ここでは若くして命を落とすことの多い貧困地域の黒人について言及している。
(アウトロ)
Yeah,
Give it up
諦めな
終わりに
例によって話題が転々と移り変わる楽曲ですが、少なくともタイトルの"OD"はオーバードーズ、特にMac Millerの死に言及していたのだということが判明しました。難しいのは曲のキーフレーズ "Give it up" の解釈です。誰に何を諦めろと諭しているのか。今回の楽曲はGenius.comのアノテーションがまだ乏しかったため、自力での解釈を求められる部分が多く、訳にあまり自信はありません。何かしら情報持ってる方いたら教えてください。
(参考) Earl Sweatshirt - OD Lyrics | Genius Lyrics