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「生まれなかったし、死ぬこともない」 George Harrison 『All Things Must Pass』

「生まれなかったし、死ぬこともない」とは、ジョージ・ハリスンの遺作となった「Brainwashed」に収録されている「Any Road」という曲の一節だ。ここには、人間という存在に対するジョージの深い眼差しがうかがえる。ジョージが亡くなってから今年で20年。もうそんなに経ったのかと思う。ディランが追悼の言葉で、「彼は太陽、花、そして月のような存在だった」と述べていたのが印象的だった。その通りだと思った。

 当時、遺作となった『Brainwashed』を、ふと立ち寄った新宿の高島屋のテラスで聴いたのを憶えている。大学を卒業間近だったこともあり、色んな感慨を覚えながら、一心に耳を傾けた。

神よ神よ神よ
荒野にひとつの声が響きわたる
神よ神よ神よ
いちばん長い夜のことだった
神よ神よ神よ
とこしえの闇
神よ神よ神よ
だれかが魂の灯りをつけてくれた
(George Harrison 「Brainwashed」)

 ジョージは生涯に渡って神を敬い、信仰を大切にしてきたことでも知られる。その一方で、モンティ・パイソンをこよなく愛し、ラトルズによるビートルズのパロディ映画にも嬉々として参加するなど、いつでもユーモアを忘れなかった。そんなところに、ジョージの人柄の良さを強く感じるのだ。 

 先日、ジョージのファースト・ソロ作である『All Things Must Pass』の50周年記念盤のリリースが発表された。ずっと心待ちにしていたので、本当に楽しみだ。当時リリースされた邦盤LPの帯にある、「ロック界に不滅の金字塔」の惹句は伊達じゃない。まさにロックの永遠の金字塔だろう。僕の生涯のベスト・アルバムの一つだ。

『ストレンジ・デイズ』2016年4月号のジョージ・ハリスン特集でも書かせて頂いたが、マーティン・スコセッシ監督によるジョージのドキュメンタリー映画『George Harrison/Living In The Material World』(2011年)は、本作を中心にジョージの実像を浮かび上がらせていたが、それは本作にこそジョージのすべてが凝縮されているとスコセッシ監督が考えた所以ではないかと思う。

「Ballad Of Sir Frankie Crisp(Let It Roll)」の"Handkerchiefs to match your tie(ネクタイに合うハンカチを)"という一節が昔から好きだ。ジャム・セッションを集めた「Apple Jam」の部分はおまけ的な収録らしいが、あえて散漫になりそうなそれを加えることで、全体をかちっと固めず、「遊び」の部分を作っているのがジョージらしい。


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