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ユーザーに喜ばれるキャラ作りのヒント|楽天株式会社 山岡まどか 中編
前回は、ヒット企画の裏側で組織がどう動いているのか?という部分にフォーカスを当て、今大人気の「お買いものパンダ」誕生の裏側についてお聞きしました。
今回は、その続きをお聞きしたいと思います。前回と同様、楽天株式会社の山岡まどかさんにお話をうかがいました。
山岡まどか(やまおか・まどか)
楽天株式会社 プラットフォーム戦略統括部 インキュベーション部 ジェネラルマネージャー
2003年に新卒で大手情報出版会社へ入社。新規事業開発やメディアプロデュースに携わった後、 インターネット業界のスピード感と可能性に惹かれて 2010年に楽天へ入社。現在ではグループ横断のブランディングやキャラクタープロデュースを担う。
クリエイティブとどうかかわるか
ーー前回のお話の続きを聞かせてください。
キャラクターのベースとなる動物が決まり、そこからデザインやキャラクター設定に落とし込んでいきますよね。
デザイナーとどう連携したか教えていただけませんか?
山岡まどか氏(以下、山岡):
「今の日本において、多くの人が『こうありたい』とちょっと羨ましくなるような性格にしていこうと話し合い、『全身全力』『感情ダダ漏れ』『四季の行事を大切にする」などのコンセプトを決めていきました。
その上で『お買いものパンダ』の日々として描かれる具体的な行動の多くは、実はデザイナー自身の原体験からきています。
例えば、デザイナーが子供の頃に家族で交わされた心温まる会話だったり、四季折々で体験した行事やイベントの原風景をベースに表現されています。
キャラクターは作り手の人格が大いに反映されるものだと思いますので、デザイナーには個人的な体験や記憶をどんどん出してもらいたいと思っています」
ーーということは、組織で動きながら、デザイナーのパーソナリティも重視しつつ、企画を練り上げていく、という手法でビルドアップしていったのですね。
山岡:
「その通りです。基本的にデザイナーには、大枠のコンセプトだけを決めて、あとはその枠内で自由にやってください、というディレクションをします。
たとえば昨年の夏には表参道で、『お買いものパンダ』のカフェをオープンするという企画を初めて実施しました。
ですが、カフェの外装や内装デザインの検討を依頼する際、デザイナーに『何かかわいいものをデザインしてください』とだけ言っても、あまりに漠然としたディレクションだからどうすればいいのか分からないという話になりますよね(笑)。
ですからデザインに取りかかってもらう前に、まずはストーリーを作りました。
たとえば、昨年は『お買いものパンダ』が登場して5周年だったので、『お買いものパンダ』たちの家(カフェ)にお客様が遊びに行き、みんなで5周年を祝う、というコンセプトを設定したんです」
企画で大切なのはストーリー作り
ーーなるほど、デザインの具体的なイメージを膨らませるために、コンセプトの部分を決めて、そこから作り上げていったんですね。
山岡:
「はい。そのようなコンセプトのもとで、『お買いものパンダ』たちが来場してくださるお客様のために、自宅の庭で野菜を一生懸命育て、収穫して提供する、というような色々な伏線ストーリーも考えていきました。
そういう大まかなストーリーがあると、自由にデザイナーの発想が膨らんでいくので、アイデアを生み出し具体化していく上での役割分担は意識しています。
どちらかと言うと、コンセプトやストーリーを作るのが主に私で、そこから細部までの緻密な設計や、人間味のあるクリエイティブを考えていくのがデザイナーという役割分担が多いかと思います」
ーー少々話は変わりますが、キャラクターを多くの人に認知してもらい、ファンになってもらうのはとても大変だと思うのですが、このキャラクターを広める自信は最初からあったのでしょうか?
山岡:
「初めから自信があったわけではありませんでした。
最初はLINEスタンプのイラストとしてのみの企画でしたから、キャラクターの設定もすごく曖昧でした。しかし、LINEスタンプを出して最初の一週間で、約500万もダウンロードされたのです。
これには驚きました。すごくポテンシャルのある企画だと感じましたね」
キャラクターをどう設計するか?
ーー途中で「小パンダ」というキャラクターも追加されました。この背景について詳しく教えてください。
山岡:
「日本人がキャラクターを好きになるとき、キャラクター同士の関係性やストーリーに共感することが重要な役割を果たすと考えています。
それは仲間との友情だったり、悪に対する正義だったり、実はその悪役も悲しい過去を持っていたということもありますね。
ですので、関係性を生み出せるキャラクターをもう一つ作った方がいいのではないか?ということになりまして、生まれたのが『小パンダ」でした。
『小パンダ」は、『お買いものパンダ』の同級生という設定で、『お買いものパンダ』の登場の翌年にLINEスタンプで登場させました。するとまた一段とスタンプのダウンロード数が上がり、『お買いものパンダ』派と『小パンダ』派に分かれたりしました。
前述のTwitterで配信されている日常の一コマでは、『小パンダ』がいつもいたずらを仕掛けて、『お買いものパンダ』が全力で引っかかるなど、その関係性が微笑ましいという声もあがり、どんどんコメントも増えていきました」
ーー去年「お買いものパンダ」が、企業のキャラクター人気投票でナンバーワンになりましたね。人気を高めるために、プロジェクトをどう動かしていき、組織をコントロールしたのですか?その辺りのコツを教えてください。
山岡:
『お買いものパンダ』の施策は3つのスコープで考えています。
1つ目は、『お買いものパンダ』というアセットの価値を高めること。つまり、『お買いものパンダ』のキャラクター表現をとがらせたり、2次元から3次元に出ることでより愛着を持ってもらいやすくするなどで、市場価値を高めると言い換えてもいいかもしれません。
2つ目が、しっかりとファンを作って、ファンとの間にエンゲージメントを結ぶこと。『お買いものパンダが好き』と言っていただける方を増やし、深く愛着を持っていただくことが大切です。
そして3つ目が、アセットのパワーを活かし、収益を上げていくことです。収益が上がることで、またお買いものパンダの活動にも投資ができ、ファンの方にたくさん喜んでいただくことができます。
私はこの3つのバランスを意識しながら運営しています。たとえば、あんまりビジネス寄りにしすぎると、お客様は敏感ですから、離れていってしまうリスクがあります」
大切なのはお客様との距離を縮めること
ーーなるほど、だからお客様にできるだけ寄り添うことが大切なんですね
山岡:
「はい。たとえば『お買いものパンダ』が『楽天スーパーセールだ!みんな買おう!』とか言い出すと、企業側に立った発言になってしまい、どうしても宣伝感が強いですよね。
逆に、単に『お買いものパンダってかわいいよね』という存在だけですと、社内から多くの予算を獲得しづらい。大切なのは、先ほど申し上げた3つのバランスを取りながら回していくことなんです。
前述の『お買いものパンダカフェ』を例にとると、ファンに喜んでいただきエンゲージメントを深める役割だけ、と思われるかもしれませんが、実はあのカフェは、決済や予約のシステムなど、全て楽天グループのサービスで成り立っているんです。
『楽天チケット』というサービスを使ってカフェの座席予約ができたり、『楽天学割』というプログラムに加入している方は早期に申し込みができたり、決済はキャッシュレス対応で、スマホアプリ決済サービスの『楽天ペイ』や『楽天Edy』、『楽天カード』といった手段を揃えました」
ーーつまり、全てのインフラを楽天グループのサービスで完結させているということですね。
山岡:
「はい、あらゆるインフラを楽天グループのサービスで提供することにより、自然とお客様に弊社のサービスを使ってもらうような仕組みになっています。
ほかにも飲食メニュー作りでは、『楽天市場』に出店してくださっている店舗様であるパティスリー銀座千疋屋様にご協力いただきました。
また、『パンダフルライフコレクション』というマーケティングプログラムを一昨年に立ち上げたのですが、これはお客様がまだ使ったことのない楽天グループのサービス、例えば電子書籍サービス『楽天Kobo』や『楽天銀行』、『楽天生命』などをご利用いただくと、それぞれのサービスを模したデザインの『お買いものパンダ』のぬいぐるみをプレゼントする、というものです。
このぬいぐるみが大人気。1つ1つのデザインが異なり、とてもかわいいので、お客様にもコレクションしたいと思っていただけますし、弊社としてもこれをきっかけに、楽天のサービスの利用者を増やせます。
また、多くの人にとって、『お買いものパンダ』はLINEスタンプ上での二次元のイラストとして印象付けられていますが、それがぬいぐるみという三次元になると、ユーザーの生活空間の中に実体として入っていきますので、心理的な距離がぐんと縮まります。
その意義はとても大きいので、もっと広げていきたいなと思っています」
ーーなるほど、いわゆる「キャラクター」というのは、そのキャラの可愛い部分は特徴を推すだけで可愛がってもらえる場合がありますよね。でも会社のキャラクターというのは、可愛いだけではだめで、その3つのポイントのバランスを取ることが大切というのが面白いですね。
山岡:「そうですね。また、一般的なキャラクター市場というのは、飽和状態にあり、次から次へと色々なキャラクターが出てきますよね。
ですから、そういう流れに乗ってしまって摩耗されないことを意識しました」
ーー企業キャラクターならではの工夫というものもあったのでしょうか?
山岡:
「そうですね。弊社には70を超えるサービスがあり、お客様の生活のほとんどの時間、空間に浸透していますので、そのサービスとコラボレーションをすることで、普通のキャラクターの会社はできない施策をやれていると思います。
たとえば、街中にある『楽天ポイント』の加盟店様で『お買いものパンダ』のグッズがもらえるキャンペーンを実施していますし、『楽天カード』の『お買いものパンダ』デザインを作成し、テレビCMで訴求をしています。
『お買いものパンダ』からすると、活用できるメディアやファンコミュニティ、パートナーシップというのが社内にたくさんあるので、ありがたいことに、キャラクターとしての立ち上がりはすごく早かったと思いますね」
見た目は癒しにあふれた「お買いものパンダ」ですが、その裏には、丁寧な設定と企業努力があることを知りました。
次回はいよいよ最終回です。
・組織をハンドリングして人気企画を生み出す方法とは?|楽天株式会社 山岡まどか 前編
・ユーザーに喜ばれるキャラ作りのヒント|楽天株式会社 山岡まどか 中編
・組織で結果を出すためにこだわり続けていること|楽天株式会社 山岡まどか 後編
取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)
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