“水に流せない”水ビジネスのはなし| グローバルウォータージャパン 吉村和就 第1話
取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)
2018年12月6日、人口減少に伴う水の需要の減少や、水道周りの人材不足、水道管等の老朽化などの課題に対応するため、水道法の一部を改正する法律(以下、「改正水道法」といいます)が成立しました。
(出典:改正法の概要について1,2)
これを受けて、日本における「水」の問題が急に世間から注目を集めるようになりました。
蛇口をひねれば常に安全な水道水が出てくる、衛生的に下水が処理される。
これらの恩恵を「当たり前」に受けられる、まさに「水偏差値」の高い日本。
クオリティーが高いのが当たり前すぎて、過去にあまり取り上げられることはなく、
「21世紀に水がバズるなんて、予想もしてなかった」
と感じる人は多いかもしれません。
さて、この当たり前は、今後も続くのでしょうか?
この改正水道法によって、私たちの暮らしはどう変わっていくのでしょうか?
水問題の専門家として、あちこちのメディアに引っ張りだこな、吉村和就さんにお話を伺いました。
吉村和就(よしむら・かずなり)
グローバルウォータージャパン代表。
大手エンジニアリング会社にて営業、経営企画などに携わり、ゼロエミッション(廃棄物からエネルギーと資源創出)構想を日本に広げた。また、国の要請により国連ニューヨーク本部に勤務、環境審議官として発展途上国の水インフラの指導を行う。日本を代表する水環境問題の専門家の一人として、メディアに数多く出演。また日本の環境技術を世界に広める努力を続けている。主な著作物『最新水ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本』(秀和システム)他多数。
「水偏差値」の高い日本は、いつまで続くのか?
ここのところ、世の中が本当に水ビジネスに注目しているんだな、と感じていますが、水博士の吉村さんはどう思われていますか?
吉村和就氏(以下、吉村氏):
「今日(2018年12月18日)も、朝から3本のワイドショーに出演してきました。
これは長年、水問題にたずさわってきた者としてはうれしいかぎりです。なんといっても水は社会の基盤、生命の源ですからね。
話題になるのはいいことなのですが、テレビやインターネットを通じて、いろいろな話が飛び交っていますね。
『水道料金が何倍にも跳ね上がる?』
『民間企業が水道?そんなの信用できるのか?』
『外国の会社が日本のインフラを牛耳ろうとしているのでは?』
というような、まるで陰謀説のような話までありますよね」
吉村先生、何が本当で何が嘘か、素人にはわかりづらい印象です。
吉村氏:
「さまざまな情報が飛び交っていますが、正しいものもあれば、間違っているものもあります。
そこで水環境問題や水ビジネスに長年携わってきた私が、情報の『ろ過』をしてみたいと思っています。
不純物が混じっていると、一般の方々には情報の正誤が判断できませんからね。
それと合わせて、皆さんにビジネスのタネを見つけられるようなヒントもお伝えしたいと思います。言い換えるなら『水商売のタネ』ですね(笑)。
なぜ日本では水道水が飲めるのか?
海外旅行をするといつも感じるのは、日本の上水道の安全さです。
水道の水が飲めるというありがたさは海外に行くと痛感しますよね」
日本の水道水はなぜ飲めるのか?
吉村氏:
「皆さん、どこまでご存じかわかりませんが、日本の水道というのは世界で大変に評価されています。
私は国連に勤務した経験があり、発展途上国を含め、だいたい85カ国の水事情を見てきました。
それぞれの国に行くとき、事前情報を得るためにガイドブックを読むんですが、多くの国のガイドブックを見ても『水道の水は飲まないでください』って記してある。
蛇口から直接安全安心な水を飲むことができる率を表す『直飲率』という指標があるのですが、国連に加盟している193カ国のうち、100%なのは16カ国しかないといわれています。
もちろん日本はそのうちの一つです」
なぜ日本は全国どこでも安全な水道水が飲めることが、当たり前になったのですか?
吉村氏:
「まず、日本は水源が良質です。
国土のほとんどがアジアモンスーン気候に区分されていますが、乾季雨季がなく、年中雨が降り、そのうえ〈梅雨〉や〈積雪〉といった水をためるには絶好の気象現象があります。
また、国土が狭い上に70%が山岳地帯なので、傾斜が強い。そのおかげで、水循環〈蒸発した水が雨となり、山や平地を潤し、川を下って海に流れるまで〉が素晴らしい。
欧州なら2週間必要なところを、1泊2日で終えてしまう。
つまり汚染物質にさらされる危険性が低い。
よって、豊富に、新鮮な水があるというわけです。
それだけじゃありません。日本は、制度が素晴らしかったんですね。
1887(明治20)年に横浜で国内初の近代水道が始まって以来、日本では真面目にコツコツと上水道の整備を行ってきました。
とくに戦後の1957(昭和32)年に水道法、翌年に下水道法が制定され、
『水道事業は、原則として市町村が経営する』
と定められて以降は、自治体の人たちが一生懸命仕事をしました。
高度経済成長期と重なったのもあり、上下水道の普及が一気に進んだのです。
2014(平成26)年に厚生労働省が発表している上水道普及率97.8%、下水道普及率77.6%、そして直飲率100%というのは、アジアだけでなく、世界でも稀有な数字なんです」
日本の水道水が飲めるのは…
・良質な水源
・水循環が短い
・水道の整備をコツコツしてきた
地理的な要因や環境的な要因、そして日本人の特徴の一つともいうべき
『真面目にコツコツ』で整備された水道インフラ。
これらが『水道から安全安心でおいしい水』を実現させたんですね」
世界でも優秀な日本の水道は、なぜ今大変なことになっているのでしょうか?
次回はその辺りをお聞きしたいと思います。
次回に続きます。
第1話 “水に流せない”水ビジネスのはなし
第2話 日本の水は”背水の陣”なのか?
第3話 日本は他国と“魚と水”の関係になれるか?
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