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日本の鉄道業界のリアル|鉄道コンサルタント至道薫 前編
――鉄道は、日本人にとてもなじみ深い交通手段です。
とくに大都市圏に住んでいる人にとっては、鉄道なしの生活など考えられないでしょう。
また最近は趣味として「鉄道」を挙げる人が増えてきました。それも写真に撮ったり、ローカル線に乗ったり、時刻表を調べたりとさまざまです。
でも産業としての「鉄道」は案外知られていません。
今回は、多くの日本人の日常には欠かせない「鉄道」の業界事情&ビジネスについて、鉄道業界に造詣の深い至道薫さんにお話をうかがってきました。全3回の連載です。
至道薫(しどう・かおる)
鉄道業界に約30年間勤務し、技術系の仕事から駅業務を経て本社にて営業系や経営企画を担当。その後独立し、現在は日本で唯一の鉄道コンサルタントとして活動。仕事範囲は広く、鉄道業界への転職、就職サポートや、各種講演活動や鉄道ニュースコメンテーター、鉄道業界へ売り込みをしたい企業などへのアドバイスをしている。公式ブログ
「イロハの、イ」は「輸送人員」
――私も毎日鉄道に乗っていて、今日も鉄道を使ってここまで来ました。
ほとんど毎日鉄道に乗っていて、あまりに身近すぎて、鉄道業界のビジネス周りのことは全然わかりません。どこからお話をうかがったらいいですかね?
至道薫氏(以下、至道):
「そうですね。まず『イロハ』から説明しましょう。まず基本中の基本としておぼえていただきたいのは『輸送人員』という概念です。
1年でどれだけの人を運んでいるかという数字ですね。たとえばJR東日本は64億人、東京メトロ(正式には東京地下鉄)が27億人、JR西日本で25億人です。JR東海は6億人です」
――JR東海といえば東海道新幹線です。意外に少ないですね。
至道:
「ただし営業利益はJR東海のほうが多い。JR東日本が3,918億円、JR東海は6,677億円です(いずれも2019年3月期単体営業利益)。
東海道新幹線がいかにもうかっているかがわかると思います。
しかしよいことばかりではありません。JR東海は売上の9割が鉄道です。その9割が東海道新幹線。つまり総売上の8割強が東海道新幹線です。
たとえば新幹線の橋脚が一本だけ折れたとしても、8割の売上がすっ飛んでしまう。『一本足打法』なんです」
――JR東日本の場合、鉄道は何割ですか?
至道:
「7割程度です。鉄道会社にとって、この『鉄道割合』というのは低ければ低いほどいい。リスク分散ができるからです。
JR東日本は6割に下げようとしています」
――それ以外の3割、4割はどういうビジネスを?
至道:
「それは各社ともバラバラです。たとえばJR西日本は現在、ホテル事業に力を注いでいます。インバウンド目当てです。
そのあたりについては、これから徐々にお話します。JR東海はこの一本足打法をなんとか改善したい。だから、リニア新幹線で二本足打法にしようとしているんです。
そうしないと、南海トラフ巨大地震が起きて東海道新幹線が壊滅したら、会社ごとつぶれてしまうでしょう。
だからリニア新幹線は当面の売上が赤字か黒字かなどとは関係なく、JR東海がやらざるをえない事業なんです」
ダントツの鉄道大国、日本
――わかりました。鉄道業界を語るうえで一番大切なのは、この「輸送人員」ですね。
至道:
「この輸送人員は、運賃収入から国土交通省の定めた公式によって算出します。鉄道は本業がこの運賃収入、そして広告や売店賃料などは雑収入に当たります」
――今は自動改札機でわかるんじゃないですか?
至道:
「それは『乗降人員』です。なぜならまだ、自動改札機のない会社や駅があるからです。
この乗降人員の算出にはきまりがありません。よって各社が独自に出しています。
一方、輸送人員は決められた公式で算出されるので、各社を比較するための基準になります。
ちなみに輸送人員は世界中で算出されており、国別のランキングも発表されています。第1位はどこだと思いますか?」
――人口から考えると中国かインドじゃないですか?
至道:
「実は、日本なんです。しかも240億人でトップです。
これがすごい数字だというのは第2位の数字を見るとわかります。第2位はインドです。乗降人員は50億人。
日本は圧倒的です。1人当たり1年間で240回鉄道を利用する計算です。そんな国は他にありません」
――中国はどうなんでしょう?
至道:
「新しい路線が開通したりすると、中国も上位に顔を出しますが、それでも3位以下です。
鉄道の輸送人員は、国の人口によらないんです。フィリピンへ行くと街中にはたくさんのタクシーやジプニーが走っていますね。日本は鉄道なんです。
みなさんは普通に鉄道を利用していると思います。でも都市部など限られたエリアでなく、全域でこんなに鉄道を利用している国は少ないということです。
ご自身を振り返ってみると、年間240回鉄道に乗っていますか?」
――たぶん乗っています。通勤だけでも最低2回ですから。
至道:
「そうでしょう。こんな国は他にありません。
大きな話ですが、社会や経済が計画的に効率よく回る根幹は、鉄道が時間通り走ることだと私は思っています。
たとえば首都圏に雪が降ると、鉄道が止まって駅に人があふれる光景がニュースになりますね。
しかしあれは人々が困っている姿にニュースバリューがあるのでなく、計画的に動くはずの社会の機能が止まっている点にあるんです。日本はそれだけ『鉄道依存社会』なんです」
少子高齢化が鉄道業界をインバウンドに向かわせた
――輸送人員240億人というのは、日本の鉄道依存度の高さを示しているんですね?
至道:
「そういうことです。さらに240億人の内訳を見てみましょう。
これは『通勤・通学定期券を持つ人』と、『それ以外』に分けられます。現在両者の比率は『6対4』です。以前は『7対3』でした。
なぜ、定期券で鉄道を利用するヒトが減っているのでしょう?」
――人口が減っているからでしょうか?
至道:
「まずは少子高齢化の影響です。学生や生徒、そして労働人口が減っているから、定期券の需要も落ちたんですね。
では『その他』とされた4割はいったい何の需要でしょうか?
一言で言うと『観光』です。観光といっても、旅行だけでなく、街へ買い物に出かけるといったことも含む広い意味です。
さて、鉄道会社は定期券利用者が増えれば増えるほど、経営が安定します」
――出版でいう定期購読者みたいなものです。
至道:
「ところが少子高齢化で定期券利用者が減っている。鉄道会社の立場からすると、盤石であったはずの氷河が徐々に溶け落ちているようなものです。
そうなると、各社は『その他』つまり『観光』に頼るしかなくなります。そして現在、これを支えているのがインバウンドです。
訪日外国人は、2013年に1,036万人、2015年は1,973万人、2018年には3,119万人、東京オリンピックが開催される2020年には4,000万人を超えると予測されています。
2008年に設立された観光庁は、訪日外国人の目標を6,000万人と定めている。現在でも外国人観光客が多いと感じますが、まだ道半ばです」
――6,000万人ということは現在の倍です。
至道:
「しかも6,000万人というのは机上の空論ではありません。
たとえばフランスは観光立国の成功例です。年間7,000万人の観光客が訪れています。
どこへ行っても外国人観光客だらけです。フランスの国土面積は日本の1.5倍です。だから6,000万人という目標は妥当だと考えられる。
こうしたインバウンドの増加に対応するために各社が準備を進めています。たとえばJR東日本は羽田までトンネルを掘っています」
――それは羽田空港と在来線を直でつなげるということですか?
至道:
「そうです。インバウンドの目標値が達成されたら、浜松町駅から羽田に伸びるモノレールだけでは対応できません。
それでは観光客を京浜急行に持っていかれてしまう。だからトンネルを掘っているわけです。
このように、これからの鉄道業界を語るには、インバウンドは欠かせません」
日本の鉄道業界の未来には、外国人観光客の恩恵が欠かせない……。この業界にもインバウンドが重要視されているようです。
次回は各社のより詳しいインバウンド戦略についてお聞きしたいと思います。
・日本の鉄道業界のリアル|鉄道コンサルタント至道薫 前編
・日本の鉄道業界に必要なこと|鉄道コンサルタント至道薫 中編
・どうなる?日本の鉄道ビジネス|鉄道コンサルタント至道薫 後編
取材・文/鈴木俊之、取材・編集・撮影/設楽幸生(FOUND編集部)
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