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個性ある服が売れるのは、リアル店舗かインターネットか|大丸松坂屋 西村恵美子さん 【出版記念企画 第三回】

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前回お話を聞いたWWDの村上さんにご紹介いただいたのは、株式会社大丸松坂屋百貨店・営業本部の西村恵美子さん。時代の変化に加えコロナによる買い物客減のせいで、苦境に立たされている百貨店で働く人たちは、どのように時代を捉え、どのように変わろうとしているのでしょうか。リアルな店舗とインターネット、それぞれの良いところや、いま悪くなってしまっているところを考えながら、お話しました。

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【PROFILE】1990年入社。1998年から2001年パリ大丸勤務。のち本社にて売場開発や主に靴バック、婦人洋品、アクセサリー、化粧品、webのバイヤーとして各店の改装に携わる。2020年より本社営業本部 MD戦略推進第1統括部 婦人服・婦人雑貨・アクセサリー担当部長。

若い人を取り込み続けるより、今いるお客さんが何度も来たくなる店へ

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コウサカ:百貨店が大変だという噂はよく耳にしますが、コロナによって、また取り巻く環境は変化しましたか?

西村:かなり大きく変わりましたよ。取引先の各ブランドさんでは、もうセールをしないような方向に動いていたりとか、オンラインでの売上が2〜3倍になったとか。デジタル化も一気に進みました。そうじゃなくても、今はみなさん、服を買うといったらセレクトショップやモールに行かれますよね。百貨店で服を買うことって、とくに20代ぐらいの若い方はあんまりないんじゃないかと思います。

コウサカ:僕より下の世代になると、そもそもメゾンやデザイナーズブランドなどの、ハイエンドな服を知らない人も多いです。

西村:若い世代の人にどうアプローチするのかということが課題です。大丸松坂屋百貨店としては、「未来定番研究所」という活動を始めたり、母体のJ.フロント リテイリングとしては、「PARCO」や「GINZA SIX」などの多様な店舗で、それぞれお客さんに新しく提案できることを探っています。

コウサカ:そうそう、そういえば、「未来定番研究所」が運営されている「F.I.N.」(Future Is Now)というメディアに、先日取材を受けたんですよ、僕。

西村:そうですよね!ありがとうございました。

コウサカ:その記事のテーマが「未来の百貨店」ということで、何でも自由に空想してくださいって言うので、本当に勝手気ままに考えさせてもらいました。そこで僕が空想したのが、「病院と一緒になった百貨店」。先ほど「若い人へどうアプローチするか」というお話がありましたが、僕は、むしろ百貨店はミセスに振り切ったほうがいいのでは?と思っているんです。

https://fin.miraiteiban.jp/kuusou10

西村:病院!たしかにミセスやシニアの方々は定期的に行く場所ですよね。

コウサカ:変に若い人向けにと焦るよりも、同じ年齢層を相手にし続けることで、その人が成長した時に「お母さんおばあちゃんが買っていたから行ってみよう」ってなるんじゃないかと思うんです。病院の先生はミセスたちから圧倒的な信頼を得ていますから、おすすめしたら、最強の販売員なんじゃないかとか(笑)。

西村:おもしろい!これまでファッションブランドは、常に「どうやってお客様を入れ替えていくか」を考えていましたが、これからはむしろ既存の顧客の方が何度でも来たくなるようなお店づくりだったり、あるいはライブ配信で「お元気でしたか〜?」とコミュニケーションしながら服を紹介したり、というようなことが大事になりそうですね。

狭めてこそファッション

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コウサカ:foufouも今いるお客さんが第一優先です。だから、百貨店さんやファッションビルから「ポップアップ出店しませんか」とお誘いいただいても、恐縮ながらお断りしています。インターネットと比べて、店頭で偶然通りかかった人にこちらからあれこれ説明するのが大変すぎる。だったらすでにいるお客さんに時間を使いたいんです。

西村:本来は「狭めてこそファッション」だと、私も思っています。昔は、それがファッションの王道だったのに、ここ20年くらいで、どんどん大勢に売れるものをたくさん売るという方向になってしまっていました。

コウサカ:僕は、インターネット上でも、「意図せず売れる」ことが怖いんです。知らないところでバズってしまったりすると、空気が変わっちゃう。きちんと、SNSやブログを読んでブランドを理解してから買ってもらいたいんです。

西村:お取引先と話していると、ちょっと敷居が高かったり距離感があったとしても、お客様を選びたいと考えているブランドさんも多いです。それも、よくわかります。

コウサカ:お客さんを選ばないと、今の顧客の方が不幸になっちゃうんじゃないかって思うんです。お客さん第一主義を貫けば、結果として、新しいお客さんも僕らの姿勢を見て、自分も大切にしてもらえるんだということが分かるはず。だから、なかなかポップアップを出店する意味は見いだせていないんです。

西村:でも、知らなかったっていう方も多いと思います。大丸でもネット中心のブランドさんに出店してもらうこともありますが、思ってもなかったようなお客様にも意外にすぐ良さを分かってもらえた、ということも。百貨店って、こんなものもあるんだ、という発見を求めて来ている人も多いんです。全く新たな出会いを生み出すっていう意味では、有効かもしれないですよ。

コウサカ:たしかに。それが百貨店の良さですよね。

「アクのある服」と、それを提案できる「人」

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西村:とはいえ、不特定なマスマーケットに向けてトレンドものを並べるような商売は、もう回らなくなっています。プレーンで、アクもないけれど、記憶にも残らないみたいな。特に百貨店では、そんな服が多くなってしまっていました。

コウサカ:それはなぜなんでしょう。

西村:売れるボリュームゾーンにみんなが集中して、同質化していくからですよね。でも今や、百貨店で高級な服を買う人は本当に服が好きな人だけになっていると思いますから、人を選ぶけれど個性のある服が売れる売り場をつくりたいなと思います。ブランドの「世界観」を、インテリアも含めて伝える。それが、リアルなお買い物の楽しさに繋がるはずです。

コウサカ:お店って「面」で見ているので、カラーバリエーションがあったり世界観を見せていくことが大事ですよね。逆に、インターネットは「点」で見ているから、単品のディティールをしっかり伝える必要があります。

西村:foufouは、普通インターネットだと相談しづらかったり分かりにくいようなところを、ひとつひとつ丁寧な方法で埋めていますよね。他では、なかなか真似できないと思います。それに、SNSを見ていると、単品の説明だけでなく、コウサカさんの思いやスタイルもちゃんと伝わってきます。

コウサカ:ありがとうございます(照)。たしかに、世界観はインターネットでも大事ですね。でも僕、カラー展開はほぼやっていません。今って情報量が多すぎて、「選ぶ」っていうことがすごく大変。結局何着たらいいんだ!っていう方も多いと思います。だから、このデザインはこの色が一番いいっていうのを、デザイナー側から提案してあげるべきかなと。

西村:提案は今後さらに必要になりそうですよね。大丸・松坂屋では「ファッションナビ プレミアム」といって、プロのスタイリストにファッションを相談できるサービスをやっています。これが大人気で、ひと月の予約が一瞬で埋まるんですよ。

コウサカ:すごい、それいいですね。お店のスタッフも、ひとりひとりが相当理解していて語れないといけないですよね。foufouにも「店長」として販売専任のスタッフがひとりいるのですが、彼女はfoufouのいちファンとして、お客さんと同じ目線で話せるんです。あとは、Instagramにあげる写真のトンマナも肌で分かるというのが大事なポイント。そのあたりは、言葉で教えようがないので。

「雑さ」や「余白」も大切

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西村:今ってスタッフの方が写真撮って、どんどんアップするのも普通ですよね。私も以前、ECの担当をしていたんです。そしたら、すべての写真をプロのカメラマンが撮らなければという固定概念があって、お金をかけすぎだし、スピーディーじゃない。もっとさくさく撮って回していくほうがいいのに・・・と歯がゆい思いをしていました。

コウサカ:そうだったんですね。SNSも、ちゃんとやりすぎるとおもしろくないんですよ。整理整頓されすぎているとハプニングがない。ある程度、雑さや余白も必要です。それはお店や街でも同じで、効率よく合理的に区画をつくっていると、どこも似てきて、個性がなくなってしまう。

西村:そうですね。“ヤング”とか“ミセス”とか、年代切りのフロア分けもマッチしなくなってきています。「私ってニューミセス?」なんて、考えないですよね。

コウサカ:情報のタッチポイントが年齢別じゃなくなってきていますからね。テレビとか雑誌は年齢層で分けられてきたけど、インターネットは別け隔てなく自分から好きな情報を見に行っているわけで。

西村:まさに。年代やトレンドではなく、その人らしさとか、居心地の良さとか、そういったことを大事にする人やブランドが増えてきています。それに、服だけではなく、料理やスポーツなど、人それぞれの好きなことや関心事を含め、全体をライフスタイルとして捉えていく必要性を感じています。

コウサカ:いま僕が興味があるのは「街」。その街のらしさも、余白があってこそだと思うんです。たとえば、歌舞伎町とか下北沢とかって、合理的じゃないし怪しい場所とかもあって、それが街をおもしろくしてる。けど、今はどこも同じようなお店が並ぶようになっちゃって。だから、逆にひとつひとつの街にフォーカスすることが、カウンターカルチャーとしてのインターネットっぽいなあと。

西村:つまり、路面にお店をつくるっていうことですか?

コウサカ:はい、構想してます。街に遊びに来たくなるような、ブティックみたいなお店をつくりたいなあって。ファッション業界がどんどんインターネットに移行してきているので、みんなが来るなら僕は逆張りしたい。天邪鬼なんです(笑)。

西村:路地裏のすごいところとかにお店つくりそうですね(笑)。こんなところにあったの!?みたいな。

コウサカ:既存のシステムを否定するっていうことではなくて、こういうファッションっておもしろいなって思ってもらいたい。だから、百貨店もシナジーがあれば、いつかなにかやりたいと思っています。

西村:ぜひぜひ。

コウサカ:僕、百貨店とかでいつかやりたいと思っていることがあって。これ話すとだいたい苦笑いされるだけなんですが(笑)。百貨店って階段の踊り場みたいなところあるじゃないですか。そこで、電話ボックスみたいな試着室を置くっていうポップアップをやりたいんです。踊り場なら賃料も安そうだし、お客さんも楽しんでくれるかもしれないなと思って。

西村:楽しそう(笑)。そういえば昔は、最上階でやっている催事で人気すぎて、階段にとぐろを巻いて2階まで並ぶような時とかもあったんですよ。そういう列ができたらおもしろいですよね。

コウサカ:そう。フロア貸切の催事みたいな規模は無理だけど、電話ボックスは一人ずつだから行列にならざるを得ないので。

西村:是非、いつか叶えてください!

ーー対談後に。

僕が服屋を始めた時には「D2C」という言葉でさえ日本ではほぼ使われていなかった。いつの間にか時代が変わって今はそのワードが持て囃されて「お金儲け」に使われているように感じる。お金儲けをするなら服屋なんかやるよりよっぽど確率の高いことがありそうだが、踊らされているのかすすんで踊っているのか今じゃどこもかしこも「D2C」だ。

foufouがある種、その先駆け的にカテゴライズされることに対して僕は特に否定も肯定もしない。「そう見えてるんだね」としか思わない。ただアパレル業界に対してのディスラプターのようにポジショントークをしたい人に例としてあげられることに関しては複雑な気持ちだ。

僕はD2Cがやりたいわけでもないし、業界を破壊して再構築したいわけでもない。純粋に楽しくなるべく心地よく服を作り続けたいだけだよ(笑)。

だから百貨店もセレクトショップも古着もファストファッションも僕は好きだし、そもそも同じアパレル業界にいるのだから来たる大不況に備えて少しでも「ファッション」そのものにファンを増やした方がいいじゃんと思っている。

今回、伝統ある百貨店で誇りを持って仕事をする西村さんに出会えて、お話を伺って「百貨店が持つ顧客への愛」をしっかり感じた。きっとこういうお店は規模は変わっても残るし、お客さんにも伝わっていくと思う。僕も長く続ける上で顧客の方と一緒に時代を経てファッションを楽しんでいきたい。

(写真:今井駿介、文:若尾真実、編集:角田貴広)




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