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誰かの写真を真似ても作品にならない

見たことあるような写真

こんにちは。写真の先生してます、大野朋美です。

昨今、写真コンテストは、雑誌や新聞だけでなく、ネットでも開催されているため、ずいぶんと増えました。そんななか、昔も今も変わらないのは、有名になった写真家の作品と似たような写真を目にすることです。でもそういった写真のほとんどが、元となった作品には一歩及ばないと感じてしまいます。

コンテストに出さないまでも、素敵な写真を真似て撮ってみたことって、誰にでもあるでしょう。でもどこか違う。で、こう言ったりするわけです。

「やっぱり写真家の撮る作品は違うよね。」

でもこう言っているかぎりは、いつまで経ってもそこから抜け出せません。

じゃあいったいどこが違うのか。どうすれば作品といえるクオリティになるのか。そこのところについて、写真学校を卒業したばかりの、たくさん失敗を重ねてきた私の経験を例に話します。

作品撮りの経験から得たもの

写真学校に通っていた頃、仕事をもらうためのアドバイスとして、多くの先生たちが言われていたのが、「まずはブック(作品集)を作りなさい」でした。そこで私は、学校に通っていた頃から作品撮りを始め、毎月ファッションやビューティー(ヘアメイク)写真を撮っていました。

撮影までの工程はこんな風です。まずは海外のファッション雑誌から、撮りたいイメージの写真を見つけ、それに近い服を探してきます。次にモデルさんを、付き合いのあった外国人モデル事務所のファイルから探します。ヘアメイクさんも探して声を掛け、話が合えば協力いただいて、撮影にのぞみます。場所はたいてい学校のスタジオ教室でした。ちなみにファッション写真のお手本にするなら『VOGUE』がメジャーなところですが、私は『ELLE』が好きでした。アメリカ、イタリア、ドイツ、様々な国の『ELLE』を参考にしていました。

結果から言うと、手本とした海外のファッション雑誌さながらに撮影できたことはありませんでした。もちろん全く同じものになるとは思っていませんでしたが、撮影前にイメージしていたより、ずっと違ったものになっていました。背面モニターを見つめながら、どうしたらいいのかと途方にくれていたのです。

モデルさんも真剣に、お手本とした写真のポーズや表情を再現しようとしてくれていましたし、ヘアメイクさんも、私が見せた写真にかなり近いものを作ってくれました。

やはり、ファッション雑誌に載っているブランド服や、数十万のギャラを払って、一流のモデルさんに来てもらわないとダメなのかな。そう思ったりもしました。でもそういうことではなかったんです。

毎回、撮影には、かなり真剣にのぞんでいました。なぜなら「今回は失敗だった」では終わらせられないからです。モデルさんやヘアメイクさんには、上がった写真を渡さなければなりません。ある程度のクオリティーを担保しなければ、モデル事務所やヘアメイクさんからの信用を失います。ダメな写真を渡したら、次はない。そう思っていました。それに1回の撮影には、どうしても数万円は必要になります。私にはそれなりに痛いもので、自分としても結果が出なかったでは済ませられませんでした。

いったい何がいけなかったのか。真剣に考え抜いて、ようやく気付いたのが、似たものじゃダメなんだということです。お手本とした雑誌のあの写真は、全てに理由があったのだと気づきました。そのファッションスタイルには、そのモデルで、その背景でなくてはならない。そのポージング、その表情でなくてはならなかったのです。全てが統一されたイメージに向けて揃えられているのだと気づきました。

私の選択は全てが妥協の連続でした。どれ1つを取っても、「そのもの」でなく、「近いもの」を準備し、それらを組み合わせています。結果が大きく違ってくるのは当然といえば当然です。最初の頃は、そのことに気づけませんでした。

何年かのち、実際のファッション写真の現場を知るのですが、事前にかなり細かい部分まで追い込んでイメージを作っていました。どんなファッションスタイルを撮影するのか、それに合わせた撮影場所やスタジオのセッティング、モデルさんのポーズ、光、などなど、その撮影に関わる多くの人の間で、細部にいたるまで打ち合わせがされます。モデルさんはオーディションで選んだりすることもあります。(ファッション撮影の現場がどこもこのようだとは限らないことを、いちおうお断りしておきます。)

ここまでするのは、些細なことでも、それが写真に大きく影響すると知っているからです。プロの仕事では、イメージの統一感という部分で完成度が高いのです。

愛はあったのか

じゃあ、作品撮りをしていた私は、そもそもどうすればよかったのか。

それは、雑誌で見たファッションスタイルそのものを写さないのなら、自分で用意したスタイリングのどこをどう伝えたいのかを、どうすればその魅力さを最大限に伝えられるのかを、あらためて考えてみる必要がありました。最初のきっかけとしてファッション雑誌を参考にするのはいいとしても、そのもの自体を写さないのなら、少し頭を切り替える必要があったのです。自分の用意した服、モデルさんをよく見て、その魅力は何なのかについて考えることが抜けていました。言ってみれば、そのときの私には、自分で用意した服やモデルさんへのリスペクトが、いや愛が足らなかったのです。

こんな風に撮ってみたいと思う写真があったら、まずその写真のどういう部分に心を動かされるのか、じっくり見てみることです。一番のポイントとなっているところだけでなく、写っているものの隅々まで観察し、それぞれが、伝わってくるものに、どのように影響しているのかを考えてみる必要があります。

たとえば夕日の写真でとても感動する写真があったら、感動を生んでいるのは、夕日や茜色の空だけではないはずです。他の部分についてもよく見ることです。なぜその海だったのか。なぜその地点からの眺めだったのか。写っているもので、他にも印象に影響しているものはないか、などをよく見てみます。おそらくその写真家は、なんとなくではなく、全てを計算して写しているはずです。インスピレーションは最初だけのはずです。

こんな風に撮ってみたいと思える写真にトライするとき、実際目の前にある風景や被写体にもちゃんと向き合っているのか、今いちど自分に問うてみることが大事なのです。


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