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FE108SS-HP特集 その1

2022年2月25日(金)に発売いたします、「FE108SS-HP」について商品について詳しくご紹介します。評論家の炭山アキラさんと、FOSTEXのメンバーで(技術部 乙訓と営業部 仲前) 対談させて頂きました。

仲前 2022年2月25日に、10cm 口径の限定フルレンジユニット、FE108SS-HP が発売されます。こちらは昨年発売された FE168SS-HP の 10cm バージョンと言えます。

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炭山 FE168SS-HP は我が家でも 4wayで使っています。FE168EΣ から交換しましたが、完全に別物の音になりました。4way のシステムでは 250Hz〜1kHz のミッドバスで使っています。低域はFW208N を2発、高域は FT48D と FT7RP(全てフォステクス)です。


仲前 炭山さんは 16cm ユニットを 4way でお使いとのことですが、今回は口径が 16cm から 10cm になるということで、フルレンジとしてユニット一つで使うことが多いと思います。FE168SS-HP でも使われた技術であるセルロースナノファイバーコーティングが振動板に使われています。


炭山 FE168SS-HP の外観からして、かつての「ES-R(FE208ES-R<20cmフルレンジ> / FE138ES-R<13cmフルレンジ>)」の振動板を使っているのではないかと考える人がいますが全くの別物ということですね? FE168SS-HP が発売された時は、みなさん「ES-R の16cm 版が出た」と言っていました。

FE208ES-R


乙訓 全く違います。作る側は前よりも良くしようと考えて開発していますが、一般の人は形や色など印象で判断するしかありませんからそのような見方になってしまうのかもしれません。

振動板の色と素材

炭山 色もよく見るとだいぶ違います。色はなぜこのような色なのでしょうか?


乙訓 振動板材料には当然ながら素材そのものの色があります。そのまま使って美しいこともあれば、あまりそうでないこともあります。今回は素材そのものの色に若干染色しています。昔の ES-R の色は少し意識しました。ナノファイバーコーティングなど素材が違いますし、製法も異なりますので同じ色にはなりません。


炭山 ES-R の時よりも若干青みがかっていてキラキラしています。


乙訓 今回は素材の色自体はあまり美しくなかったので少し変えています。音響状態の調整をした上で見た目にも少し配慮しているという感じです。

FE108SS-HP振動板拡大


炭山 うちの場合は FE168SS-HP が入ったことによって外観は引き締まったように思います。音のイメージもそちらに近づいていますから、外観も含めてのプロデュースとして成功していると思いました。


炭山 磁気回路が2枚重ねの10cmフルレンジとなるといつ以来ですか?

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乙訓 FE108ESII 以来ほぼ20年ぶりです。


炭山 振動板がキラキラしているのは?


乙訓 キラキラしているのはマイカです。

FE108SS-HP-2振動板拡大


炭山 セルロースナノファイバーは「ナノ」というくらいですからかなり細い繊維なのでしょうか。バイオセルロースよりも細いわけですね。


乙訓 そうですね。バイオセルロースも十分細かい繊維ですので桁違いに細かいとわけではありませんが。セルロースナノファイバーはお米を炊いたときにフチのところでパリパリになっているものに似ています。表面にコーティングされて下の素材との組み合わせでうまく働いている状態です。膜状のものが表面にあるので、振動板が少しぼやけて見えるようになります。それだとあまり綺麗に見えないのですが、そこにマイカがあることでキラキラしますし、内部損失の低下を招かずにヤング率、比曲げ剛性、音速を向上させるなど、音質へのメリットも得ることができます。


乙訓 密度を上げると普通は内部損失は失われていきます。


炭山 ハードプレスよりノンプレスがいいとかそういう話ですね。


乙訓 プレスしなければプレスしてピチピチにした時の良さは無くなります。どちらにもそれぞれの良さがありまして、どちらも欲張りたいと考えてしまいます。(FE-NSシリーズなど)一部のモデルで採用している二層抄紙(基層と表層で異なる状態の材料を抄紙した振動板)はまさにそういうことを目指したものと言えます。今回は表面を薄くコーティングしているわけですがやろうとしていることは同じです。


仲前 今回の振動板のようにでこぼこしている形状だとコーティングが難しそうなイメージなのですがどのようにコーティングしているのでしょうか?


乙訓 これはスプレーなのでデコボコでも平面でも同じです。


炭山 これは繊維をスプレーしているということなのでしょうか?


乙訓 そうです。繊維が非常に短いので。「長繊維」だったとしてもスプレーのノズルから出すことができるくらいの繊維です。


仲前 スプレーと言ってもこの形状だと溝の部分に溜まってしまったりしないのでしょうか。


乙訓 平らであったとしても溜まってしまうことはありますので、そうならないようにするのは製造の技術によります。

炭山 自信を持ってそれを言えるのは御社の技術力ということだと思います。

仲前 フォスター電機はスピーカーを振動板から作る技術がある会社です。そこは他社にはない部分ですから営業担当としては強みだと考えています。

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炭山 それは絶対的なアドバンテージですね。


仲前 振動板の仕様の変化で音がどのように音が変わるかということを知っているので緻密な音作りができます。

炭山 それが共同開発だったとしてもドライバーを他社に頼んでいるところ、もっと言えば出来合いのユニットを購入してキャビネットやネットワークで勝負せざるを得ないところでは超えられない谷があると思います。Gシリーズ(フォステクスブランドの完成品スピーカーシステム)が出た時はおそらく色々なメーカーさんが驚愕したと思います。「こんなことをされてはどうしようもない」と。

仲前 Gシリーズのようなラインナップもありましたけれどもフルレンジスピーカーもフォステクスの大きな特徴の一つです。


炭山 フルレンジは最近でこそいくつかのメーカーから出てきましたけれども一時期は絶滅危惧種でした。それをずっとやってきてくれて、私のようなフルレンジがないと生きていけないような人間はもうフォステクスにすがってきたわけです。

HP形状の振動板

仲前 今回はHP形状を採用しました。フルレンジならではの反応が良くてキレの良い音、充実した中低域と明るくはりのある中域、自然な響きの中高域とよく伸びた高域を実現しています。(リリースから)


炭山 振動板は稜線の数が増えました。


乙訓 これまで 10cm フルレンジの HP 振動板の稜線は3本でした、今回は稜線が5本にしました。彫りも深くなっています。

左がFE108SS-HP、右がFE108EΣ


炭山 16cm なみの深さですね。これは色が違うから深く見えるわけではなくて本当に深いわけですね。これまでと全く違います。これは剛性も上がっているのでしょうか?


乙訓 剛性は上がっています。


炭山 これで上がらないということはなさそうです。M0はどうなのでしょうか?


乙訓 Mms、M0は振動板材料の質量だけで決まるものではありませんが、振動板材料の質量は下がっています。形状剛性が上がるわけなので。


炭山 これだけ彫りが深くなると紙の量が増えそうな気がしますが。


乙訓 深くすれば紙の量は増えます。厚みで調整して、「ここまで軽くしてもいける、これ以上軽くするとダメ」というギリギリのところを狙います。振動板製造側からすると「そんなにギリギリを攻めないでください」ということになるわけですが、そのギリギリのところが音響的に優れているのです。


炭山 そういうエッジ感がフォステクスだなぁという感じです。


乙訓 限定品であればそこは攻めなければいけないと思います。レギュラー商品であればもっと安全なところを狙うかもしれません。FE108SS-HP は限定品ですので。「ここが良い」というポイントを探し当てるのが音作りする上で大きなウェイトを占めます。


乙訓 一方で振動板の質量は軽ければ良いというものでもありません。ただ重くなればやはり失われるものが出てくるわけで、問題が出てきてしまいます。いかに安定して良いところを探して使うかということになります。

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乙訓 重さだけではなく、材料も十分検討しています。16cm の FE168SS-HP で使った材料と素材は同じです。ただそのままの配合で 10cm もという訳にはいきませんので配合は調整しています。16cm でちょうど良い剛性と質量と音色が得られたのと同じ配合のまま 10cm で使ってしまうと硬い感じが出てしまいます。もう少ししなやかにしたくなります。しなやかにするためには材料の調整が必要になります。弱くするわけではありません。口径を変えた場合は振動板材料の配合は調整しないとうまくマッチしません。調整してのその口径に適した状態に仕上げていくわけです。


炭山 ドライバーの調整を全てできるメーカーでしかできませんね。


乙訓 そうかもしれません。


炭山 たとえ共同開発でも他社にドライバーの設計開発を委ねてしまったら今お話して頂いたようなことはできません。


乙訓 振動板の質量は FE108SS-HP では 0.5g としています。FE108EΣ、FE108ESII は 0.55g 、FE108NS は 0.53g、FE108-Solは 0.57g です。FE103NV は 0.45g でこれは意図的に下げています。FE-NV ではあえて軽くしているわけですが、これを重くしてしまうとつまらなくなってきます。FE103NVの場合はこの形状でこの磁気回路なので 0.45g まで軽くできるわけです。これが例えば FE108-Sol くらいの磁力になると振動板が負けてきます。材質も質量も NV 用の最適値になっています。このままで単純にマグネットを大きくしてしまうとバランスが崩れてきます。マグネットを大きくするのであればそれに合わせた振動板にしていく必要があります。それでグレードが上がっていく訳ですね。


炭山 大変わかりやすいです。

<続く>

炭山 アキラ プロフィール

1964年、兵庫県生まれ。1990年、バブル期の人手不足に乗じて共同通信社AV FRONT編集部へバイトとして潜り込み、いつの間にか隣のFMfan編集部で故・長岡鉄男氏の担当編集者となる。2000年、長岡氏の急逝により慌ててライターへ転身し、現在に至る。

乙訓 克之 プロフィール

フォスター電機株式会社
フォステクス カンパニー スピーカー設計
1986年フォスター電機株式会社入社。フォステクス株式会社
(当時)に出向・転籍。FOSTEXではFE166Σ,FE166S,FE108S, FE208S, BC10, S100, FW-7シリーズ, FT27D, R100T, P45などの開発を担当。その後フォスター電機に戻り、ホームオーディオやテレビ用スピーカーのOEM開発を担当。その後海外赴任先で引き続きOEM開発を行うとともに、PMシリーズや T250D などを開発する。2008年、フォステクス カンパニーに復帰。以降、HiFiスピーカーシステム Gシリーズ、GXシリーズなどを開発。近年はW160A-HR,T250A,FE168SS-HPを開発する。振動板などの材料、ユニット、システムまで一貫して開発するフォステクスのスピーカー開発の中心的人物。(2022年現在)

FE108SS-HP 限定発売! (2022年2月25日)

FE108SS-HP特集 その1
・FE108SS-HPの紹介
・振動板の色と素材
・HP形状の振動板
FE108SS-HP特集 その2
・測定値と設計の狙い
・ボトムプレートとポールピース
・ダイキャストフレーム
FE108SS-HP特集 その3
・エッジ
・ダンパー
・センターキャップ/ボイスコイルとボビン
・ダンプ剤
・ハトメレス
FE108SS-HP特集 その4
・FE108SS-HP の試聴
・D-101S(スーパースワン) で聴く FE108SS-HP
・Application Sheet のバックロードホーン

第一回:フルレンジスピーカーのススメ
第二回:バックロードホーンエンクロージャーのススメ
第三回:スーパーツイーターのススメ
第四回:バックロードホーンに好適なフルレンジ


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