FE-NVシリーズ開発話 その2
ハトメは取ってしまおう
前モデルには、"ハトメ"と呼ばれる小さい部品が振動板の表面に付いていました。これはスピーカーユニットではよく使用される構造です。
FE83EnとFE83NVを例にとってご説明します。
左) FE83En 右) FE83NV
FE83Enには振動板の表面に2つの白い点が見えるかと思います。これがハトメです。
側面からみてみましょう。
左) FE83En 右) FE83NV
ボイスコイルのコイル線と端子に接続されている錦糸線がハトメ部分を介して中継されています。ハトメを使用したスピーカーは弊社でも販売していますが、今回のFE-NVシリーズでは全機種取ってしまいました。
今回のリニューアルにともない、振動板の材料と重量を変更しています。実際には少し軽くなっているのですが、軽くなった振動板とハトメの相性が非常に悪く、中音域で大きな歪を発生させてしまいました。この歪の原因がHPにも記載されている、不等分割共振です。
振動板を軽くした分、ハトメの重量の影響が大きく出てしまいます。対策としては、振動板の重量を増やしてハトメの影響を軽減する。または、振動板の形状を変更して共振を分散させる。などの方法がありますが、どちらも"FEらしさ"を損ねてしまいます。そもそも振動板の形状を変えるとFEですら無くなってしまいますしね。
軽い振動板が強い力で押し出されるがゆえに生まれる"音のスピード感"を維持しながら、どのようにして歪を低減させるかを考えた結果、ハトメ自体を取ってしまう選択をしました。
ハトメを取り除いた効果は、振動板の振幅測定でも観察することができます。下の図は、FE103EnとFE103NVの振幅測定結果です。どちらも1kHz付近の振動板の振幅を表しています。
レーザードップラー振動計で測定した振動板の変位データ
左) FE103En 右) FE103NV
FE103NVの振動板(右)は全面が一様に振幅していますが、FE103Enの振動板(左)はハトメの近傍で振幅が乱れています。ハトメの影響はFE83En,FE103En等の小口径で顕著に表れ、口径が大きくなるにつれて影響は減少します。
振動板の材料を少し変えるだけで音が別物に…
続いて振動板の材料についてです。スピーカーユニットを良い音に仕上げるにはとても重要な部分です。開発に時間をかけてこだわりました。振動板の材料は非木材パルプをはじめとして、異なる素材を混ぜて作りました。その中には化学繊維や鉱石も含まれています。振動板の表面をよく見ると、キラキラと光っています。それはマイカと呼ばれる鉱石の粒子です。
振動板の材料をちょっと変更するだけで、音の印象は大きく変わります。言葉で説明するのは非常に難しいのですが…
キャベツとレタスくらい違います。キャベツとレタスって、見た目はよく似ていますが、味はもちろんのこと、その繊維感や食感が違いますよね?振動板も同じように、材料が変わると音の印象も変わります。
配合する材料の種類や比率を少しずつ決めて、音作りをしました。これが商品開発の面白いところですね。
最後まで悩み続けた周波数特性
FE-NVシリーズを弊社のHPでご覧になった方で、周波数特性に疑問に思われた方がいらっしゃったかもしれません。FE83NVとFE103NVの “ 中音域のディップ ” です。これには最後まで悩みました。どうしてなのかをご説明します。
取扱説明書に記載しているFE-NVシリーズの周波数特性は、半無響室(無限大バッフル)でユニット中心軸上マイク距離1mで測定した結果です。スピーカーユニットの測定には半無響室が使用されることが多いですが、皆様がスピーカーボックスに取り付けて使用する環境とは違います。
実は、FE-NVシリーズのユニットはスピーカーボックスの容積によって周波数特性が変化します。FE-NVシリーズで使用しているエッジは、コーティングされた布を使用しています。この材料は非常に柔らかく、振動板の動きを制限をしないように設計し、低音域の振動特性に大きく影響することを確認しています。ただ、この柔らかいエッジは中音域の周波数帯で振動板との逆共振により、振動板から発生する音と、エッジから発生する音が打ち消し合い、大きなディップを生じます。これが周波数特性のディップの原因です。
振動板の重量やエッジの材質・重量の変更で調整はできます。実際に重量のみ変更したユニットでは周波数特性のディップをある程度軽減することができます。じゃあ、重量を変更すればいいじゃないか!?と思うかもしれませんが、伝統の"FEシリーズの音"を継承するためには採用はできませんでした。"FEシリーズの音"は軽量な振動板と布エッジが重要なファクターだということです。
布エッジはその柔軟さゆえに、スピーカーボックスの容積によって変化する空気のバネ成分に影響されます。
実際に取り付けるスピーカーボックスを変えて測定した周波数特性がこちらです。
特に振動板の面積に対してエッジの面積が大きい、小口径の結果を公開しましたが、大口径でも同様の結果が得られます。
ちょっと長くなってしまいましたが、周波数特性について説明を致しました。
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