なぜ、施設より里親の方が良いのでしょうか? ~その1~
いろいろな方とお話していると児童養護施設や乳児院はご存じでも、里親についてご存じない方が多いこともあって、なぜ施設ではいけないのでしょうかと質問を受けることが多くあります。
また社会的養護でご自分が施設で育った方々の中にも施設で良かったと思っている方もいらっしゃいます。施設をすべて否定することではありませんし、こうしたお子さんを受け入れる施設であってほしいという理想もありますので、少し書いていこうと思います。
特に乳幼児期の里親養育に期待されること
今社会が養護しなければならない児童の多くは、虐待を受けたり貧困であったり、ゴミ屋敷で生活していたり、精神的疾患や病気の親御さんのケアをしながら生活していたり、心も身体も傷ついている子どもが多くいます。施設の集団生活ではひとりになることが出来ず、落ち着くことができないということもあるでしょう。また、職員の入れ替えは1日の間にも3交代などありますし、異動や退職などもあるので子どもたちの精神的な支柱が失われることもあります。
愛着障害(アタッチメント障害)とは
「愛着障害」という言葉をご存じでしょうか。子どもは成長の過程で、主に母親を安全基地としてとらえて、安心して過ごすことができます。そして安全基地があることにより外界に興味を持ち、一歩踏み出すようになっていくのです。赤ちゃんがハイハイして母親から離れる時、親の顔を振り返っていることを確認します。歩けるようになっても、親の顔を見て見守っていることがわかると安心するのです。 いつも同じ大人、主に母親がいることで子どもは安心するわけです。赤ちゃんでも匂いや感覚で同じ大人と認識するといわれています。
「愛着」は「アタッチメント」ともいわれます。まさに不安や恐怖にあった時に、お母さんにくっつくということで心理的な安心感を得ることができますので、心理的な結びつきは、最初は実際にくっつくことから得られるようになるのです。
もし安全基地が不安定な場合はどうなるのでしょうか?子どもは親から離れて外界に踏み出すことができなくなります。こうした子どもは自尊心が低く、自立心が育たず、社会性などを身に着けることが難しくなります。大人になってからも他人とのコミュニケーションが上手にできず、自己肯定感が低くなり、社会の中で自立することが難しく就職しても長続きしなかったり、閉じこもったりするケースがでてきてしまいます。症状の出方は他にも、何かに依存しないといけなくなり、薬物依存やアルコール依存、性的依存などの症状が出るケースもあります。
以前ネグレクトされていた子どもの海外の実験映像を見せていただいたことがあります。
部屋の中にはネグレクトしている母親と3歳ぐらいに女児が1人いて、女児はブロックで遊んでいます。この部屋に初めて会う第3者が入室します。ですが女児は全く興味を持たずにブロックで遊び続け、その後室内を走り回っていました。そこで母親が「静かにしなさい」など言ったのでしょう(音声は聞こえませんでした)、今度は母親の隣に直立して全く動かなくなってしまいました。第3者が部屋を出るまで10分から15分ぐらい動かなかったのではと思います。
同じような状況を普通の母子で行ったところ、第3者が入室してくると母親の陰に隠れてしまいます。この時、母親の背中にちょっと触れていました。不安な気持ちから母親に触れることで安心しようとしている行為です。母と第3者が話しているのを見ることで安心し、女児も母から離れることができるようになりました。
ネグレクトされていた女児は愛着障害になっていることで、不安な状況になっても安心を得る行為が出来ず、また母から叱責されたことで今度は動くことができなくなってしまったのです。
愛着障害の2つのタイプ
専門的にいうと愛着障害は、「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」と「脱抑制型愛着障害」に診断が分けられます。この2つの愛着障害はまるで反対のような症状を見せるのでちょっと驚くのではないでしょうか。
①「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」は、他人に対して過度に警戒するようになります。でもある時は攻撃的であったり、ある時はビクビクしたり、反対の行動をとることもあります。
無表情で笑顔が少ない傾向があり、養育者に抱きついたり、泣きついたりすることが殆どないということです。
②「脱抑制型愛着障害」は、過度になれなれしくなり、知らない大人にもためらいなく近づいて、誰にでもしがみついたりすることがあります。
落ち着きがなく乱暴な面も見られるようです。
愛着形成に重要なのは乳幼児期
愛着障害はいつ起きるのでしょうか?赤ちゃんは3か月ぐらいから、いつも世話をしてくれる親と時々世話をする人との違いがわかるようになるといわれています。乳児院でも生後3か月の赤ちゃんが来た時に、それまでの環境から変わったことがわかるようで最初のうちは夜泣きが止まなかったなど聞いたことがありますので、生後3か月ごろからは人を認識するようになるということですね。
5歳ぐらいまでの乳幼児期にネグレクトや虐待、親との死別、離別などがあるとこうした愛着障害になることがあるといわれています。また、施設などで世話を焼いてくれる養育者の大人が複数いて、頻繁に変わる場合も愛着障害が起きると言われています。いつも同じ大人であることが大切で、安全基地になるということです。
働く親やシングルマザー、シングルファーザーで保育園に預けていても、毎日夜は一緒にいることで安全基地にしっかりなることができますので、毎日しっかり赤ちゃんや子どもに話しかけながらギュッと抱きしめてあげることが大切なのだとわかります。
特に乳幼児には、施設より里親が良い!
このようなことから大人になってからも愛着障害を引きずって自立するのが難しくなることもありますから、特に5歳までの乳幼児については施設よりも里親のもとで暮らすことで、いつも同じ大人が養育して愛着障害を起きにくくすることが大切だということです。
子どもは既に実親との離別や死別、虐待などで愛着障害になる原因の環境に置かれているので、ここからは愛着障害の要因を除外して治るような方向にもっていかないといけないということです。
2017年 里親委託率の目標値を初めて作成公表
2016年(平成28年)の児童福祉法改正で、子どもが権利の主体であることが明確になり、「家庭養育優先」の理念が規定されました。そして実親による養育が困難であれば、特別養子縁組による永続的解決(パーマネンシー保障)や里親による養育を推進することを明確にしました。
そして翌2017年(平成29年)8月に塩崎泰久厚生労働大臣の下で発表された「新しい社会的養育ビジョン」では、数値目標が初めて発表になりました。
しかし現在2024年、残念ながら殆ど実現できていません。厚労省が、そして今は子ども家庭庁が旗を振っても、児童相談所を管轄する自治体が腰を上げて真面目に取り組まないと実現できないということなのです。ちょっと驚きですが、自治体の行政の皆さんには子どもの未来のため、それはつまり日本の未来のために必要で喫緊の課題であることを改めて認識していただきたいですね。
目標に遠く及ばず、再度、里親委託率の目標値を!
そして、子ども家庭庁によると、
東京都の里親委託率は?
ちなみに2021年度(令和3年度)の里親委託率になりますが、全国が23.5%なのに対して東京都は16.8%。3歳未満は17.4%となっていて、全国でも下から数えた方が、、、という位置になってます。最高は福岡市の59.3%、最低は金沢市の8.6%です。
里親に登録してもなかなか子どもを委託されないという声もよく伺います。児童相談所はつい施設に送れば安心と思ってしまうのでしょうか?また、いつもの里親さんに任せれば安心と思ってしまうのでしょうか?せっかく里親に登録してくださった方々は研修も受けて意欲もある若い方も多いようですから、しっかりと候補者を選定してマッチングしてほしいなと思います。
今後育てられないのであれば、特別養子縁組制度もあります。傷ついた子どもがこれ以上傷つかないように。いつ出ていかなければいけないのかと心配することなく成長できるので、実親のところに戻る可能性が低ければ、養子縁組は子どもにとっては最善でしょう。また実親のところに戻って劣悪な環境になったり、収入を家に入れるために働くことを強要されるのであれば、里親や養子縁組することも良いかもとも思います。
いずれにしろ子どもが安全に、そして将来自立できるように養育されるようにと願ってやみません。
今回は、施設よりも里親が良いのか?という問いに対して、「乳幼児にとっては、里親が良い」ということを書いてきました。
長くなってしまいましたので、次回は子どもが大きくなってからはどうなのか、考えてみます。また施設の重要性、必要性についても考えていきます。
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