取材という仕事
取材の重要ポイント、話の引き出し方
『月刊総務』の編集長、これが私の本籍地。それ以外にも年間80本くらいの講演、数多くの原稿を寄稿している。その講演、寄稿、その原点が取材である。取材を通じて数多くの総務のプロ、その世界の専門家にお話を聞き、それが熟成されて講演のネタ、機構のネタとなっていく。
とすれば、取材とは、相手との良好なコミュニケーションを通じてコンテンツをいかに収集するか、そのように思われるかもしれない。しかし、ことはそう単純ではない。そこには一工夫が必要なのだ。取材対象者の本音、経験から得られたナレッジ、その最も「美味しい」ところを引き出さないと意味が無い。
『月刊総務』の読者の満足のために、明日からすぐ使えるナレッジ、横展開できるスキル、ベンチマーク先となる事例、そのような美味しいところをいかに引き出すか、その工夫が取材では最も重要となる。年間100本程度の取材を通じて得た、その引き出し方を言語化してみよう。
まずは人となりの把握
取材の場合はほとんどが初対面。毎月必ずあるのが、経営者の取材。キレキレの外資系戦略コンサルティング会社出身のベンチャー経営者、有名大企業の経営者、その世界のプロフェッショナル。事前準備は相当しておくのだが、名刺交換の挨拶をするまでは、かなり緊張するものだ。
この名刺交換が一つの確認ポイント。その渡し方で、最初の入りの姿勢が変わってくる。少し警戒しながら様子見で取材を進めるのか、いきなりフランクに始めるのか。始めに見極めるのが、話の終わらせ方だ。取材は質問をしていく仕事、なので、どのタイミングで質問を挟み込めるか、その間合いを見極めるのである。
なぜなら、美味しいところを引き出そうと思ったら、対象者に「ノリノリ」になってもらわないと困る。気持ちよく、楽しい状態になってもらわないと、本音やら、真剣な意見は到底出てこない。いやいやながら、しょうがなしに対応、そんな状態は作ってはいけない。
皆さんも経験があると思うが、これから本音を話そうと思ったところに質問されて、つまり、話の腰を折られると、「ガクッ」とくることはあると思う。なので、この人は、どのタイミングで一通りの話を終わらせるのか、その間合いの確認が重要となるのだ。そのタイミングで質問をしていくと、相手は気持ちよく話を続けてくれる。
派生的な質問で進める
その間合いが把握できたら、次は質問の仕方が重要となる。私が意識しているのは、スムーズな質問の展開である。ある質問をして回答をもらったら、その次の質問は、その回答に関係する質問、あるいは、前の質問に関係する派生的な質問である。
いきなり、違う角度の質問をされると、そこで「ウッ」と詰まるケースがある。いままで作ってきた流れが、雰囲気が途絶えるケースがある。一方、関係する質問を続けざまに浴びせると、相手はスムーズに話を続けてくれる。これが成功するとよく言われる誉め言葉、「豊田さんには、話をどんどんと引き出されてしまう」。
話の流れに乗って、その派生的な質問で、さらに話の流れを強いものにしていく。相手も、次に来る質問がイメージできるので、準備ができる。そうなると、流れがさらに強いものになり、ますます興に乗って話をしてくれる。まさに芋ずる式に美味しいところを引っこ抜く感じだ。
気づきの提供と本音の引き出し方
その流れが構築できたら、いよいよ取材の醍醐味である、相手に気づきを与え、本音を引き出すフェーズへの突入である。この流れの中で、相手が考えたことのない質問を浴びせるのだ。
「あなたにとって総務の楽しさって?」
「何を軸として判断していますか?」
「何がモチベーションの源泉ですか?」
あくまでも話の流れの中で、その中で、普段考えたことのない質問を交えると、本音が出てくる。本質的な質問、根源的な質問を投げかけるのだ。しばしの沈黙のあと本音が語られる。これ美味しいところである。その場で真剣に考えてくれた、まさに本震が垣間見れる。
これが成功すると、「こんなこと考えたことなかったなあ」、「自分でも初めて気づきました」。そんな言葉が頂ける。ある意味、これが取材時での最高の誉め言葉。あるコンサル会社の社長は、「この取材原稿、家宝にしますね。自分の本音を引き出し、整理してもらえたので」、そんな嬉しい言葉を発してくれた。
もう一人の自分
取材の場を数多く経験してくると、もう一人の自分が表れてくる。正確には、同時に四人出現している状態だ。
1. 相手の話を理解している自分
2. タイムキーパーとしての自分
3. 月刊総務の読者を意識しながら起承転結を意識している自分
4. 次の質問を考えている自分
普通に行っているコミュニケーションでは到底表れてこない役割の自分が必要となる。相手の話を聞きながら、次の質問を考え、その答えを聞きながら、これで原稿として成立するか考え、時間も気にしながら進める。この一人四役ができてくると、ほぼ一人前の取材者となれる。
一人四役。だから、取材は相当疲れる。限られた時間の中での真剣勝負。でもこの真剣勝負が面白い。そんな仕事が、私の本籍地、取材という仕事なのだ。
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