お姉さんはロングスカートをさっと翻し、「あら、素敵なお花ね」と言わんばかりに数本花を摘み取った。そして、満足そうに去っていった。
アルプスの大自然で花を愛でるハイジのような世界であれば、あら、すてきなワンシーンねでときめいたのだろうが、ちょっと違うシチュエーションでの出来事。
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空は快晴、よく晴れた昼さがり。何かいいことでも起きそうな天気である。街に出て買い物をした帰り道、地下鉄の入口に入ろうとしている30代くらいのおしゃれお姉さんを見かけた。
福岡市には市が主体となった「一人一花運動」なんてボランティア活動もあり、街中に花壇がたくさんある。地下鉄の入口にも花壇があり、色とりどりの可愛らしいお花が咲いているのが遠くからでも見てわかった。
見慣れた街、見慣れた道をぼーっと歩く私。何となく視界に入るお姉さん。
「ん?今、お姉さんが花盗ってった!?」
その何気なく私の視界に入っていたお姉さんは、まさに冒頭のハイジのような無邪気さで、公共に植えてある花壇の花を盗っていったのである。
私はその光景に目を奪われた。なぜならば、お姉さんは少女漫画の主人公のようにキラキラしていたのだ。少女漫画の大ゴマのように、背景はキラキラでまさに花を背負ってるようなそんな光景。
ロングスカートを翻して膝をくっつけながら上品にしゃがみ、花壇に対してちょっと斜めにポーズを決めつつ片手で花を優しく摘む。そして軽く香りを楽しみながらスッと立ち上がり、「あのガラスの花瓶が似合うかしら」と思いつつ家路に着く…。
そんな妄想が脳内再生されつつ、「見てはいけないものを見てしまった…」と思った。
一見、普通の人(普通の定義はさておき)だと思った人の“明るいところと暗いところ”を一瞬で垣間見てしまった…。塩と砂糖を同時に舐めたような、そんな複雑な気分だった。
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「あんなおしゃれに花を盗む人見たことない」
この衝撃だけがこの記事を書くエネルギーになっている。
特に何か教訓があるわけでもなく、主張があるわけでもない。
ただただ目の前の光景に驚いた話。