「求人が豊富な有望資格」の罠 ~後編・解答編~
「求人が豊富な有望資格」の罠についての記事を先日、公開しました。
今回は「後編・解答編」です。
まず、問題の内容をおさらいしましょう。
【問題】
あなたは「○○××士」資格取得のための学校に通い、見事、資格を取得しました。学校への求人数は300件あり、学生数40名の7.5倍です。
40名全員が無事に資格を取得したにもかかわらず、就職が決まったのは30名だけでした。
就職が決まらなかった人は、「就職活動に出遅れた」とか「面接で大失敗した」とかいうわけではありません。
年齢等に関して、何らかの不利な条件を抱えていたわけでもありません。
また、在学中に求人市場の状況が急変したわけでもありません。
Q1. 7倍以上の求人倍率のはずなのに、40名中30名しか就職できないという事態はなぜ生じたのでしょうか?
Q2. A校の宣伝パンフレットには嘘が書かれていたのでしょうか?
~解答~
A1. 市場全体で見た時の求人倍率は1倍未満であったから。
A2. 嘘は書かれていない。
~解説~
Q1の解説
7倍以上の求人があるはずなのに、就職率は40名中30名、75%にとどまったというのは変ですね。まず、学校が求人数を水増ししていた可能性が考えられます。
しかしさすがに、あちこちの学校で求人数を水増ししているということも考えにくいです。そんなことをすれば、不正な学校とみなされ、資格の指定コースから外されてしまうでしょう。
ここで、前回はあえて示さなかった、就職市場の全体像を示します。
①求人を行っている組織は150あり、いずれも2名の募集をかけています。合計300人分の求人があります。
②学校は10校あり、定員はいずれも40名です。400名全員が卒業し、国家資格を取得しました。
③求人を行っている組織すべて(150)が、学校すべて(10)に対して求人情報を送っています。
市場全体で見た時の求人数は300。就職希望者は400人。求人倍率は0.75倍です。なかなか厳しいですね。A校卒業者40名中30名しか就職できなかったのは不思議ではないことになります。
採用を行う組織が複数の学校に求人票を送るのは当然ですね。この当然の過程で必然的に「学校が算出する求人倍率」は水増しされてしまうのです。
Q2の解説
A校に300件の求人が寄せられたことは事実です。求人倍率が7.5倍となることも事実です。A校の宣伝パンフレットにはなんら嘘は書かれていません。大学受験予備校における合格実績の水増しのような問題はありません。
それでは、何の問題もないかというと、そんなことはないですね。市場全体の求人倍率は0.75倍しかないわけですから。
確かに、A校の立場では市場全体の求人状況や他校の学生数・合格状況などを正確に把握することはできません。
また、繰り返しになりますが、「A校に300件の求人が寄せられたこと」も、「求人倍率が7.5倍となること」も事実です。
しかし、就職市場全体の求人倍率が7.5倍よりもはるかに低いことは当然、把握しているでしょう。把握していないとしたら、就職サポート能力が皆無ということになります。
A校は嘘をついてはいないが過剰な期待をもたせたことになりますね。誠実性の点で疑問符が付きます。
「賢い消費者」にならないと判断を誤るという一例ですね。
~最後にもう一度~
政府機関等が公表する(全体像としての)求人倍率と、学校単位で求人数と学生数を比較して算出する求人倍率は全くの別物です。
後者が1~2倍程度であれば「十分な求人がある」のではなく、むしろ就職は非常に厳しいと考えるべき場合が多いでしょう。
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