R6予備試験 民法 再現答案
第1 設問1(1)
1 CはDに対して、所有権に基づき、乙土地の明渡請求をしているところ、これが認められるためには①乙土地のC所有、②D占有が認められる必要がある。
2(1)まず、Dは現在も乙土地を占有しているのであるから、②は認められる。
(2)そして、乙土地をCに相続させる旨のAの遺言書があり、Aが失踪宣告によって「死亡したとみな」されたため(民法(以下略)31条)、乙土地はCの所有に属することとなったといえる(①充足)。
3 もっとも、Dは177条の「第三者」に当たると反論することが考えられる。ではDは「第三者」に当たるか。
(1)この点について、177条の第三者とは、当事者及びその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当な利益を有するものを指すと解する。
(2)Dは、遺産分割協議書等を偽造したBから、乙土地を代金2000万円で購入した者であり、契約によって乙土地を所有することになったから、正当な利益を有する者であるといえる。
(3)よって、Dは177条の「第三者」にあたり、Dの反論は認められる。
4 したがって、Cの相続分を超える部分については請求が認められないが、Cの相続分については899条の2第1項によって、Cの請求は認められる。
第2 設問1(2)
1 Aは、Fに対し、所有権に基づき乙土地の明渡請求をしているところ、これが認められるためには①乙土地のA所有、②F占有が認められる必要がある。
2 (1)まず、Fは現在乙土地を占有しているため①は認められる。
(2)また、Aは失踪宣言を受け死亡したとみなされていたが、取り消されたため(32条1項前段)、相続の効果がなくなり再び乙土地はAの所有に属することになり①も認められる。
3 もっとも、Fは「取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない」(32条1項後段)ため、BE間の売買契約は有効であり、Eから購入したFが乙土地の所有者であると反論することが考えられる。ではBE間の契約は有効か。
(1)この点について、取引安全の見地から、相手方が悪意・有過失でない限り取消前に行った行為は有効であると考える。
(2)本件では、EはAの生存を知らなかったのであるから「善意」といえる。
(3)よってBE間の契約は有効であり、Fの反論が認められる。
4 だとしても、Aの生存に悪意のBとFはCという善意者を取引に介在させることによって32条後段の「善意」の要件を回避したといえないか。
(1)この点について、法律関係の早期安定の観点から、取引に善意者を意図的に介入させたなどの特段の事情がない限り、善意者が介在した時点で法律関係が確定すると考える。
(2)たしかに、BはEに乙土地を売る際、1割り増しで買うものが現れる可能性がある旨を述べて乙土地を他の人に売らないように誘導しているとも見えなくはない。しかし、これが意図的に善意者を介入させたと言い切ることはできないし、特段の事情には当たらない。
(3)よって、改めてFの反論は認められる。
5 したがって、Aの請求は認められない。
第3 設問2(1)
1 Gの、Jに対する500万円の不当利得返還請求(703条)は認められるか。
2 まず、Gの本件誤振込みのよってJは500万円の「利益」が、Gは500万円の「損失」が認められ、因果関係も認められる。
3 (1)次に、「法律上の原因なく」とは、正義の観念から、利益の移転が正当なものといえるかという観点から判断する。
(2)本件で、JはG及びHとは何ら関係のない人物であり、ただ本件誤振込みという事務上のミスでたまたま500万円を手に入れたに過ぎない。そして、Jは銀行からの組み戻しの依頼に対して、承諾するかどうかはよく考えたいと答えているが、Jにはそもそも承諾を拒否する権限はなく、承諾しなければならない立場である。そうだとすれば利益の移転が正当なものといえない。
(3)よって法律上の原因がないといえる。
4 したがって、Gの請求は認められる。
第4 設問2(2)
1 GのLに対する不当利得返還請求(703条)は認められるか。
2 反論①について
(1)Lは、Lの利得はJの一般財産からの弁済であるからGの損失との間に因果関係がないと主張しているが認められるか。
(2)本件で、Jはここ数年残高が0円であって、入出金も全く行われてなかった。にもかかわらず、Gからの500万円の誤振込み後、同口座から500万円払い戻しを受けており、同日にLに対し突然弁済をしているのであるから、Lの利得はGがJに誤振込みをした500万円によるものといえる。
(3)したがって、Gの損失とLの利得との間に因果関係が認められるから、反論①は認められない。
3 反論②について
(1)Lの利得は「法律上の原因なく」といえるか。
(2)この点、「法律上の原因なく」とは、正義の観念から、利益の移転が正当なものといえるかという観点から判断する。そして、債権の弁済の場合、債権者が誤振込みによるものであることについて悪意・重過失がある場合には法律上の原因なくといえると考える。
(3)本件で、LはJに対し弁済金の出所を尋ねたところ、Jは、自分の口座に誤って振り込まれた金額である旨説明しており、Lは弁済金が誤振込によるものであることについて悪意があったといえる。
(4)そうだとすれば、法律上の原因がないといえ、反論②は認められない。
4 よって、Gの請求は認められる。
以上