私の逃げ出す先
海は表面だけを見ていると、ただ青い海原がどこまでも広がっているが
ひとたび水面下に潜るとまったく別の世界が展開している。
そこには無数の魚が泳いでいて、海藻が生えていて、さまざまな海の生物が生きていて、それらはみんな地上の世界とは全く違う暮らしをしていた。
そのことが私には新鮮な驚きだった。
海中には地上とは違う世界があって、私たちには普段それがみえていないだけなのだ。
○o。.🐠 🐡 🐟 🦈 🐬 🐳
海の生物も流れに乗り、たゆたい、絶えず動きながら生きている。
そうだ、私が生きている世界はごく小さな社会のなかであって、そこだけが世界では決してない。こうして水面下に数メートル潜るだけで、別の世界が展開している。
今あるところが全てだと思い、自分は汲々として生きているけれども
知らないだけでもっと別の世界がいくらでも大きく、うようよと、際限なく広がっているのだ。
海中を泳いでいると、海の水は冷たく透明で、流れがあって、重さがある。
背中に背負ったタンクから絶えず空気を吸うことで、自分は常に呼吸していることを知った。それらは映像でみているだけでは決して体感できない、生の感覚だった。
日によって場所によって海中の透明度は異なり、数十メートル先まで澄み切っている時もあれば
濁ったお味噌汁のなかを泳いでいるような時もある。
海底の砂にもぐる魚の行動を何十分も観察することもあるし、海藻がゆらめく洞窟を抜けて鮮やかな宮殿を探検することもある。
さまざまな魚たちや、ウミガメやネズミフグ達と遊ぶこともある。
頭上を仰ぎ見ると、小さな魚の大群が鱗を光らせながら泳ぎ去っていくのが見える。
そのさらに上には光の差し込む海面が見えていて、遠くで白く波を立てているのがわかる。
その波打つ海面が今いる世界へのふたのように思えた。
私は海という自然に放り込まれることで救われたのだ。
地上に存在する様々な国へ、さまざまな店へ行くことも旅だが
私にとってダイビングとは、海という別世界へのはるかなる旅であった。
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