元・トレーナーが語る「あの時のハルウララ」/ある熱心なファンの記録

まあ......今となっては、さ。
苦い思い出なわけで。

あのハルウララが俺の教え子だった、俺がハルウララの担当だったっていうのは、本当の事だよ。
そんな事を言ってしまうと、自慢してるみたいに聞こえるかもしれないけどね。実際はそんな事にはなりゃしないんだ。あのクインナルビーと違って、俺の場合は、あの娘に何もしてない訳だからね。

あの娘が入学してきたのは、丁度今くらいの、暑い盛りの時期だった。うん、中途採用。あの頃の高知ではね、4月入学より、そんな感じの娘たちが多かったよ。

うーん、見どころ?

そんなものはなかったよ。人よりも少しは足が速いっていうくらいの、それだけが特徴のウマ娘さ。凡庸どころか、それ以下だよ。誰も見向きもしなかった。

俺さ、一度理事長に聞いたことがあるんだ。なんであんなの入れたんだって。そしたらさ、いや義理があって仕方なく、なんて言いやがるんだよ。今時さあ、落語家の弟子入りじゃないんだから。
呆れた話じゃないか。

風当たりも強かった。よくいじめられてたよ、うん。
授業の模擬レースも選考会も最下位でさ。何で、っていうくらいに走りは遅い。フォームもめちゃくちゃ。でもやる気と元気は一人前。でもやってる事も言ってる事もめちゃくちゃ。終始そんな感じだったもん。指差して笑うヤツも多かったよ。
放課後になるとさ、よく一人で走ってるところを見たよ。いや全然トレーニングなんて雰囲気じゃないんだよ。そうしてる間に苦手ないじめっ子が帰って、学校からいなくなるのを待ってんの。休憩も入れないで、腕と脚、一生懸命に動かしてさ。でも顔はずっと下向いてんの。

泣いてたんじゃないのかね、アレは。

それでね──そう、結局は俺がトレーナーになるんだけどね。

ある時にね──

あ、グラスが空だね。
何か飲みます?ビール?
え、飽きた?じゃ、カクテルは?

──うん。それでね。

あの娘は、学園に来てからもずっとデビューなんか出来なかった。でもね、不思議な人気があったんだ。何だろう、負けっぷりの良さっていうのかな。やる気と実績のギャップ?そんな「ギャップ萌え」があったんだろうな。
中央なんかに比べるとね、地方はは狭いよ。特にこの高知なんかはその中でも特別さ。ウマ娘も人も少ないんだ。だからね、噂話はすぐに広まる。高知に面白いヤツがいるぞっていう話題が持ち上がって、地元新聞が小さなコラムにそれを書き起こすと、デビューもしていないハルウララにファンがついた。それが伝説の始まりさ。
平日の昼間でも、ハルウララが走ってるとなると、どこからかその情報を仕入れた奴らがフェンスの向こう側に軒を連ねたんだ。

多分、あのめちゃくちゃな走り方が、何故か一生懸命に見えたんだろうね。一生懸命な姿ってのは、どんな時代でも人の胸を熱くさせる、そういうもんなんだ。きっと、そういう事なんだろうなぁ。

マラソン大会って、やったことあるだろう?町や区が運営してるのもあるけど、学校行事なんかでもよくあるよな。学年全体とかクラス全体とかでやる、持久走の大会。
アレ系の事をやると、最後尾でゴールに入ってきたヤツに対しては拍手喝采でお出迎えするのが常だろう?そんな風潮を、アンタも感じた事があるんじゃないか?

ハルウララの人気の原点はね、ズバリそこなんだよ。
勝ち負けなんか関係ない。
やり遂げる事が素晴らしい。
挑戦する事が美しい。
ハルウララを見に来た連中はね、そんな『勝ち負けよりも大事な何か』を走りの中に期待してたんだと思うよ。

それにしたって、罪な話だと思わないかい?
何がって、学園に通うウマ娘っていうのは、競走しに来てるんだから。いや「競走」っていうより、「競争」だな。シノギを削って、命を削って。他人よりも前へ前へ......それが彼女達の生き様なんだ。みんなそうなんだ。
あの時のハルウララだって、勝ちたいと思って走っていたはずなんだよ。それなのに、誰一人としてハルウララが勝つ事を期待していないんだ。頑張ってくれるだけでいい、不可能に挑戦してくれる姿を見せて欲しい、とか言いやがるんだ。
不可能だなんて──そんな事をウマ娘に言うもんじゃないんだよ。それだけで気が済むウマ娘なんて、この世にいる訳がないんだから。

とは言うものの......

かく言う俺もね。
そこら辺は全然、わかってなかったんだけどねぇ......

授業のギャラリーは日を重ねる度に増えていた。そんな奇妙な人気に、生徒会が目を付けたのさ。試しにオープンキャンパスで案内役を任せてみたら、ウララの後ろには誰よりも長い行列が出来た。それだけ人気があったのさ。あの娘はレースに出ないのか、なんていう問い合わせの電話が毎日かかってくるようになった時、生徒会は『これだ』と思ったに違いないよ。
何しろ当時の高知は危機的状況にあった。レースは盛り上がらない、映えるウマ娘はいない、スタッフも客もいないっていうような、ね。閉鎖閉校はいつになるんだろう、なんて、よく指折り数えていたもんだった。
だから、じゃあ走らせようかって事になる迄には、それ程時間はかからなかったよ。

驚いたのはトレーナー陣営だ。誰があんなのの面倒を見ろって?特別ボーナスでも貰えるなら話は別だが、当然そんなものは出ない。そもそもトレーナーの数が足りてないし、誰にも余裕なんてない。

だから俺に白羽の矢が立った。
俺はね、その時はまだ候補生だったんだ。君でいいから面倒を見てくれないか、とさ。

嫌だったよ。確かにトレーナーにはなりたかったけど。ハルウララは嫌だった。
でもトレーナーバッジを今すぐ用意するっていう、超法規的措置に、俺は目が眩んだんだよ。文房具屋から三文判を買ってきて、すぐさま書類にサインしてしまった。

それにね。

俺はハルウララに期待なんかしてなかった。俺自身も生徒会から期待されてなかった。無理矢理レースに出す為に用意された、形だけの存在。形だけのトレーナー。マスコットキャラクターの、そのまたマスコット。それが俺なワケだからね。やる気なんかなかった。走るハルウララをぼんやり眺めながら、いつもハルウララの次の事を考えてたよ。

そして俺は思いついた。
辞めさせればいいんだ、って。
そうすれば、俺の手元にはトレーナーバッジだけが残る。
名案だと思った。

そのカクテル、気に入った?
もう一杯どう?俺も飲むから。

それでね。

俺とハルウララの学園生活が始まるんだけど、いやもう──これが酷くて。
俺が言うのも変だけど、本当に酷いことをしたもんさ。外道そのものだよ。
生徒会は、とにかくハルウララをレースに出せって言う。俺はハルウララを辞めさせたい。それぞれの思惑は妙な具合に歯車が噛み合って、俺たちはハルウララをとことんまで追い詰めた。連戦に次ぐ連戦は、高知の連続出走記録を瞬く間に塗り替えた。過酷なトレーニングメニューを渡し、練習はほぼ自主練だけで済ませた。オフの日にも、ミニライブに参加させられていたよ。

──酷いだろう?
本当に外道なんだよ、俺たちは。

さっきも言ったけど、観客だって大概なもんだよ。どう考えても勝つ見込みのないウマ娘が、常にゲートを一つ占領している事を、誰も異常とは思わなかったし、それどころか、ハルウララが3位になんかなろうもんなら、皆、逆に怪訝な顔をしやがるんだ。全員ってワケじゃないけど、ファンを自称する奴らさえ、ハルウララが勝つ事を期待していなかったっていう、確たる証拠じゃないか。

失礼な話だろ?

でもね。

それでもあの娘は辞めないんだ。毎日グランドで会う度に、何で、って思ったよ。こんなにキツいのに、こんなに遅いのに、誰も期待してないのに、ハルウララは辞めなかったんだよ。
目の下に分厚いクマを作っても、椅子に座った瞬間に寝てしまうような状態でも、お客さんの前にいざ立つと、あの娘は笑顔をキラキラと輝かせていた。レースも、ライブも、その他のイベントも全てこなし、見てくれる人全員に、声と、笑顔と、元気を届けた。
その隙間を縫うように、隠れるようにして筋トレをしてたよ。舞台袖でさえね。何でそこまでって......本当、不思議だったよ。

かくしてハルウララはレースに出る。ミニライブにも出る。辞めないからまたレースに出る。
その繰り返し。
結果的に人気は爆上がりした。

生徒会は喜んだ。ハルウララが走る日は常に客が押し寄せ、入学案内のパンフレットさえ増版しなければならないという、未曾有のハルウララブームが始まった。12月の時点で来期は既に安泰の気配となり、いつの間にか、誰も心配顔を晒さなくなっていた。
一方のハルウララといえば、俺が押し付けるシゴキのメニューを、どういう訳か栄養分か何かのように吸収し、いつまで経っても辞める気配はない。
おまけに生徒会は、俺に今後のハルウララを専属的に任せると言ってきた。運営状況を改善させたハルウララの功績を、どこでどう履き違えたか、この俺の指導力の賜物という評価をしやがったんだ。
冗談じゃない。こいつは辞めないんだ。これからも走り続けるに違いない。そんな事になったら俺のトレーナー人生はハルウララ一色で終わってしまう。確かに非正規の道筋で俺は学園にいたワケだけど、それはハルウララの次があると信じていたからだ。そんな簡単な事さえ、連中は一欠片もわかっちゃいなかったんだ。

正直、泣いたよ。

だからね。

俺はハルウララに、中央入りを進めた。

──そう。

ハルウララに中央っていう進路がある事を教えたのは、この俺なんだ。

当時、頭がお気楽極楽のお花畑になっていた生徒会は、俺とハルウララに一週間の完全オフをくれた。さらに報奨として十万の現金。俺はそれを神の啓示と見た。

『東京見物にいかないか?ネズミーランドにも行けるぞ。今回のご褒美さ』

いかにもそれっぽい文句を並べて、俺はハルウララを中央へと連れ出した。

目指したのは、中山。

有馬記念だよ。


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「トレーナー!有馬記念凄かったね!」
「シンボリクリスエスかい?」
「うん!周りが止まって見えるくらいのスピードって、本当にあるんだね!」

12月28日。有馬記念。

メインレース終了後、俺とハルウララはそんな会話を繰り返していた。
ファインモーションとタップダンスシチーが激しくハナを争う中、シンボリクリスエスは息を顰めるようにして少しづつ、また少しづつと位置を上げ、最後は爆発的な末脚でタップダンスシチーを追い切り、1着となった。その走りの技術は完璧と言うより他はなく、俺たちは中央のレベルの高さに心酔し、その興奮も冷めやらぬまま、ウイニングライブを待っていた。

パドックを含めて、ウララは地上階の自由席に行きたがったが、俺はガラスに覆われた小型モニター付きの指定席にウララを座らせた。狭いし、寒いからね。

最初こそ不満気だったウララも、次第にその快適さに慣れて、今は焼き人参とキャロットピザを食べながら、モニターに流れているレースのリプレイに夢中になって見入っていた。凄いな、凄いなって、何度も繰り返してたよ。

「なあ、ウララ」

そんなタイミングを見計らって、俺は言ったんだ。

「中央って凄いよな」
俺の声に、ウララは大きく頷いた。
「うん!今日は来てみてよかったよ!中央のレースは前にテレビで見たことあるけど、近くで見ると、なんだろう?凄さが違うね!中央は凄いんだね!」
「ウララも、ここに立ってみたくないか?」
最初、ウララは固まっていた。俺の言った意味が意味がわからなかったんだろう。暫く考える仕草を見せた後、言った。
「えっと、これから、ゲート前で記念撮影とかができたりするのかな?」
俺は笑った。
「違う違う......ウララが中央に入ったら、ここでレースが出来るのにな、って言ってるんだ」
「えっと──え?」
キョトンとした目で俺を見て、焼き人参を口に運ぶ手が止まった。
「トレーナーは、わたしが中央に入れると思ってるの?」
俺は頷いた。

さあ、ウソの時間の始まりだ。俺は、昨日までの間に考え抜いた、ありとあらゆる口説き文句でウララを落としにかかった。

ウララは大器晩成型なんだ
今は出遅れているが、将来には凄いウマ娘になれる
結果や実績より大事なのは、やる気と元気と熱意だよ
ウララのライブを中央で見てみたい
ウララ以上に前向きなウマ娘は中央にもいない

まあ──我ながらよく思いついたもんだよ。

俺は全ての言葉を言い切った。合間に「絶対」や「必ず」、「確実」という単語を何度も織り交ぜて、煽って煽って煽りまくった。

「中央には、ウララが大好きなアキツテイオーがいる。テイオーだけじゃない。皆んながウララを待っているんだよ」

最終的にコレが効いた。ウララは身をワナワナと震わせ始め、見る見るうちに瞳の中に花が咲いた。
「わたし、やってみる!中央、行ってみる!」
「そうだ!そのいきだ!それでこそハルウララだよ!」
「うん!トレーナー、わたし、中央!行ってきます!」

......やれやれだろう?八百屋に行くんじゃないんだからさ。

「じゃあ、勉強もうんと頑張らないとな?」
「あ、うん。そっか」
「少しレースと練習を減らして、勉強時間を確保するようにしような」
「うん!そうだね!」

な?チョロいんだよ。マジで。

その後俺たちは、来た時よりも遥かにウキウキの気分で中山競馬場を後にした。

え?ネズミーランド?
ちゃんと行ったよ?

まあ、落ちると思ってたよ。当たり前だろう。ウララの学科の成績が悪いのは知っていたし、それが中央のボーダーには全く届いてない事も俺は知っていた。しかし、それはもうどうでもいい問題なんだ。ウララの走りの目標は、初白星から中央へと完全に切り替わったからね。多分、ウララは何度落ちようが諦めない。今年の受験で落ちれば、勉強不足を意識して来年度のレースと練習はもっと減る。年度後半には更に減るだろう。そうなったら、俺は次の生徒を探せるっていう寸法さ。後は毎年それを繰り返していくだけ。別に辞める訳でもないし、その状態でもミニライブにならいつでも出せる。そんな感じの、いい展開になると思っていたよ。

まあ......そう思っていたのは、結局俺だけだったってワケで......

悪いね──ここから先は飲んでないと喋れないよ。

全く、神の悪戯としか言いようがないが、ウララは合格した。詳細は分からない。どうやら面接で余程の事があったらしいな。完全に想定外だったが、もっと問題だったのは、次に起こった事。生徒会が俺のトレーナーバッジを剥奪したんだ。ハルウララの為に施した超法規的措置は、ハルウララがいなくなった事によって効力を失ったってワケ。しかも、ハルウララを中央へ流出させ、高知競馬場に損害を与えたその代償として、俺のトレーナー試験の受験資格まで永久的に剥奪しやがったんだ。

俺のトレーナー人生はそれでおしまい。
お先真っ暗どころか、正真正銘のジ・エンドさ。

[newpage]

そんな感じで、俺の人生からトレーナーという道は消えた。俺がまだ若く、全てが候補生の期間中に起こった出来事であった事が幸いし、人生をやり直すにはそれ程の苦労は必要なかった。まあ、楽でもなかったけどね。

ネクタイなんかを締めて満員電車に揺られている時、よく考えたもんさ。何でこんな事になってしまったのかな、ってね。そんな時は決まってハルウララの顔が浮かんできた。その度に、ああ、俺はコイツの為に人生を狂わされたんだな。コイツさえいなけりゃ、俺の人生はもう少しはまともだったはずなのに、って。そんな風に思ってた。

そんな逆恨みが続いた所為なんだろうな。不思議と、俺はハルウララから目が離せなくなっていた。どんな小さな記事や写真でも、ハルウララが掲載されている新聞や雑誌は手当たり次第に買ったもんさ。

ウララが中央デビューしてから間もなく、高知に戻って三戦したのは知っているかな?俺はね、それの全部を現地で見ていた。
ウララは生まれ変わっていたよ。めちゃくちゃなフォームはなりを潜め、爪の先まで洗練されていた。あんなに慌てていたコーナーも、まるで線が引かれているかのように、正解のラインを辿っていた。あまりの出来事に俺は自分の目が信じられず、何度も自分の頬を叩いたっけ。隣に立ってた奴が、変な顔してたなぁ。

「それでも......負けるのか」

二戦目の時だった。
初の大逃げを見せたハルウララは、ギガレンジャーが命懸けで繰り出した爆弾の様な差し足に阻まれ、2着に終わった。それまでの負けとは明らかに一線を画していたのは、その時計がレコードに迫るものだったという事。コレに尽きる。
いや、いやいや......だって、ギガレンジャーの勝ち時計がレコードまでコンマ2秒で、ハルウララとギガレンジャーの着差はアタマ一つしかなかったんだから、俺が彼女をそう表現してもおかしくなんかなんかないだろう。もし相手が違っていたら絶対に勝ってた。絶対に、だよ。間違いない。

俺はね、その時に思ったよ。
ウララは、もう一生勝てないのかもなって。ここまでの走りを現実のモノにしながら、それでも勝てないだなんて、運が悪すぎるとしか言いようがない。負けたという事実の前では、この信じ難いタイムだって意味を持たない。いつだってポツンと一人で最後尾を走っていた彼女が最高の形で叩き出した、ベストタイムだってのに。

ただね。
同時にこうも思ったんだ。

それでハルウララが諦めるだろうか?

アンタにも分かるだろう。
彼女は諦めないんだよ。

どれだけ運が悪かろうと、ツキに見放されようと、彼女は諦めない。往生際を知らず、兎に角しつこいんだ。何度でも立ち上がり、必ず立ち向かう。それは俺が1番よく知っている。あれだけの時計を出しておきながら、勝てなかったという不運に、そんな巨大で分厚い壁に、これからもアイツはお構いなしに立ち向かうんだ──勝つ事を目指して、ね。
あの日のハルウララは、そんな気持ちを大逃げという最高の方で体現したんだ。そしてこれからも、時に形を変えながら、勝ちを目指して走り続けるんだろう。

俺はね。
その時になって初めて、ハルウララに対して真摯に向き合ったんだと思うよ。全く、皮肉な話じゃないか。出会って、離れて、嫌って憎んで、もう二度と関われないようになってから、俺はハルウララとようやく繋がったんだよ。一人のファンとしてね。

そしてその日から、俺の中の何かが変わった。
アンタもウマ娘なら、一度は聞いたことがあるんじゃないのか。ハルウララの魔力について。『関わった相手の心を変えてしまう』という、その魔法の力を。

私設ファンクラブ同士の交流会に出た事はあるかい?あれに集まるメンバーの中にはね、人生の節目節目にハルウララの姿を見てきたっていう連中が多いんだ。死ぬ程追い詰められ、何かに負けそうな時。或いは、何かを決意し、闘う為に立ち上がった時。そういう時にハルウララに救われ、支えられたっていう奴は数知れない。俺も何度か行った事はあるが、皆一様に口を揃えて「ハルウララのように生きようと思った」って言うんだ。

俺も、そう思ったんだ。
それまで務めていた面白くもない会社を辞めて、子供の頃から好きだった料理の道に入った。元々根が真面目じゃない所為で、紆余曲折はあったがね。そして昨年ようやく、俺はこのバーを開いた。

今の嫁さんは、あまりウマ娘の事が好きじゃなくてね。だから店の看板は、こんな風にしか出せなかったが。

まあ──

どんなに筆舌を尽くしても、俺にとっては苦い思い出だよ。

いつか、いい思い出になる日が来るのかな。

そのカクテル、気に入ったろう?

『春麗』っていうんだ──


Dning &BAR
「Sakura-Saku」
Open:平日12:00〜14:00/
17:00〜21:00(ランチ/ダイナー営業のみ)
土・日・祝日:高知競馬場1R〜終電まで(終日ダイナー/バー営業)
火曜・水曜定休





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