高知グランプリ(仮)──ハルウララを追跡せよ/高知遠征24日目

ピンクプリメーラは熟考していた。

先程から岡山駅で買った駅弁と、車窓を楽しんでいるセルシオとは対象的に、眉間に大きく皺を作り、時折顎を撫でながら持参したタブレットの画面を睨んでいる。
久しぶりの遠征ということもあり、小旅行気分を味わっていたいセルシオは、そんなプリメーラの姿にチラリと視線を向けた後、弁当の唐揚げに箸を伸ばした。

「プリちゃん、ずいぶんと考え込んでいるようだけれど一体どうしたの?」

プリメーラが見ているのは、過去にウララが走ったレース映像だ。プリメーラは時折画面をタップしつつ、画面から目を離さないまま答えた。
「いや......考えていたというか、不思議に感じていたことがあるだけなんだが」
「なにが?」
「うん──ちょっと待って。喉が渇いたな」
プリメーラはそう言うと、丁度通りかかった車内販売のカートを呼び止め、にんじん生ジュースを2つ注文した。
「ガムシロ4つもらえますか?あと生クリームも」
まだジュースを注いでいる販売員に対し、セルシオが掌を差し出してそれらを催促する。やや戸惑いながらそれらを手渡した販売員を見送った後、プリメーラはセルシオに向かって小声で囁いた。
「なあ、こんなところでそのイかれた飲み方をするのはやめてくれないか」
「別にいいでしょう?私は甘党なんだから」
「だったら、せめて偶数で頼むのはよしてくれ。私まで同類だと思われるじゃないか」
「それもそうね。次が来たら、両方とも5個にするわ」
セルシオは、澄ました顔をしながらそれらの中身をジュースに全て投入していく。全てが空になったところで、まるで齧り付くようにコップを口に寄せた。
「美味い!この美味さはG1級だよ!」
嬉々とするセルシオ。しかし、その様子を眺めるプリメーラの視線はどこまでも冷たかった。
「おい──それ、混ぜないのか?」
「何を言ってるの?コレが最高なんだよ。カフェラテみたいに上に溜まったクリームを常に味わいながら、最後の最後、底にたっぷり溜まったガムシロを一気に全部流し込む──これがまた、天国にでも昇るような至高の瞬間なんだから」
「やれやれ、全く信じられないよ。そのうち本物の天使がお迎えに来るんじゃないのか?」
しかし、そんなウンザリ顔のプリメーラに、今度はセルシオから苦言が入った。
「私を変だというなら、君こそ変だと思うけど?君が今入れているのは、さっきの唐揚げ弁当に付いてきたスパイスパウダーなんじゃないの?」
「私はスパイシーなヤツが好みなんだ。トマトジュースにブラックペッパーを入れて飲んだことはないか?あれも堪えられないね」
「ないよ」
「あっそ」

そうして2人が二口、三口とそれぞれの味を楽しんだ後、今思い出したかのようにプリメーラは言った。

「ハルウララはどうして勝てないんだと思う?」

プリメーラのその言葉は、セルシオに一時とはいえ箸を置かせた。
「多分、運が悪すぎるのよ」
「運が?」
「そう。高知で2戦、中央で1戦。そのどちらもが攻めっ気に溢れる走りで、特に高知の前走なんかは、映像がなければ信じられないくらいの大逃げを見せてるわよね。でもさ、結局はそれでも負けた。それは別に不思議なことじゃないよ」
「そうかな?」
「そうだよ。頑張っても頑張っても、相手の方が早かったら勝てないんだ、レースってのはさ。ウララがどれだけ頑張っているのかはわからないけど、ウララの相手は常にウララよりも強かった。そういうもんなんじゃないの?」
セルシオはそう自論を語って聞かせるが、プリメーラの眉間の皺は解けないままだ。
「それは私もそう思う。でも、それだけの理由で何十もの黒星が出来上がると思うか?改めて考えてみると、妙な気がしないか?中央のOPクラスならまだしも、ウララは未勝利なんだぞ?上から下まで猛者揃いという環境じゃないんだし、原則として勝った者同士、負けた者同士のレース作りをしているんだからな」
「いや......そう言われても」
そんなセルシオに、プリメーラは上に立てた人差し指を顔に寄せ、言った。
「なあ、ちょっと考えてみてくれないか。自分より弱い相手に負ける時ってのは、どんな時だと思う?」
「な、何の話なのさ?それに、なんだかウララが強い前提で話をしているような気がするんだけど?」
「ウララのことは想像しなくていい。とりあえず君の場合の、君の意見を聞きたい。で、どうなんだ?」
「ちょ、ちょっと待って──」
セルシオは慌てたように弁当をかき込むと、全てを平らげてから包みを畳んだ。ジュースを喉に流し込んだ後、口を手の甲で拭う。
「えーと、まずはアレだよ。油断ってやつ?あと、自分の調子がメチャ下がっているのにレースしなきゃいけないとしたら、負ける」
「他には?」
「え?......あ、例えば作戦を見誤ったり、自分の脚質を無視したレース登録をしたら、それは負けるかな。上がる土俵を間違えたりしたら絶対そうなる」
プリメーラはその時初めて頷き、言った。
「それは確かにそうだ。私だって勝ち負けを争うとなれば、有馬記念の推薦が来ても蹴るだろうな」
「うん、まあ......いろいろ考えてみても、そんなところなんじゃないかな」
「まだ、あるとしたら?」
「え?えーと......途中で諦めたら、そりゃあ負ける──っていう考えもあるけど、それはちょっと違う気がするかな」
「そうだな。ウララは走りを妥協してないからな」
「そうそれ。おまけに、ウララの程の脚があればただ走っただけでも掲示板は間違いないよ」
「まあ、ライブ入りはともかく、掲示板となればそこそこ入ってはいるようだが──でも、勝ててはいない」
プリメーラは一つため息を吐くと、タブレットの動画を止めた。

「わからない......何故、高知はウララを手放したんだ?」

この数日、ずっと頭にこびりついていた疑問が思わずプリメーラの口を突いて出た。その疑問に答えられる者はここにはいない。プリメーラはタブレットを再び操作すると、ある映像を検索し、それをセルシオに手渡した。
「この鹿毛の彼女は?」
画面の中で微笑んでいるのは、高知トレセンの制服に身を包んだウマ娘だった。それを指差し、プリメーラは言った。
「これが高知の現生徒会長、オリジナルステップだよ」
「へぇ、可愛いじゃない」
セルシオは見たままの感想を伝えてみたが、両膝に肘を置き、指を組んで話すプリメーラの表情は険しい。
「この生徒会長が、ウララを使って高知の経営を立て直したんだよ。なんでも、まだレースにも出ていない時期からウララに目を付けていたとか」
「へえ、相当敏腕なのかしら?」
「敏腕というか、ゴリ押しに近いよ。彼女はウララが走れば金になると知ると、常にギリギリのスパンで無理矢理走らせていたらしいからな」
「なんだか嫌な話ねぇ」
そう言いながら眉を顰めるセルシオの方は見ようともせず、プリメーラは腕を組み、首を捻った。
「でも、そこがわからないんだよ。当時のウララは、例えるなら金の成る木か、金の卵を産むニワトリだったはずだ。そんなウマ娘を高知は何故手放したのか。それが全くわからない。金になるのならいつまでも手元に置いておけば良いじゃないか」
プリメーラの物言いが酷く明け透けだったので、セルシオは少し戸惑った。そして戸惑いつつ、自分でも『それはないだろう』とは思いながらプリメーラに言ってみた。
「あー......もしかしてスカウトなんじゃない?」
しかしというか、やはりプリメーラは即刻否定した。
「それはないだろう。中央にいる今ならまだしも、高知ではグダグダの走りしか出来なかったような奴なんだぞ」
「シンボリルドルフが、そこに隠れた素質を見抜いたとか?」
「君は当時のウララのレース映像を見たことがないのか?下の下もいいところだ。ウチの広報にいる事務員だって、あの当時のウララ相手なら軽く勝てそうな気がしてくるくらいなんだぞ」
「......」
「何故、高知はウララを手放したのか。何故、中央に行けたのか。何故、走りが豹変したのか。何故、高知では勝てなかったのか。何故、今も勝てないのか......全く、考えれば考える程、わからなくなってくるよ」

──ねぇ、ちょっといいかしら。

小さな咳払いの後、そう前置いてセルシオは言った。

「それを何回考えてもわからなかったから、私たちは今からその謎を解き明かしに行くんでしょうが。そうでしょう?」

そう言われたプリメーラはしばらくの間黙っていたが、やがてバツが悪そうにこめかみを掻くと、それでも首を捻りながら言った。
「まあ、そうなんだけどさぁ」
「でしょ?だから、今になって高知グランプリの招待を受ける気になったんでしょ?」
「まあ......うん」
「ハルウララが今高知に来ている。グランプリの企画を動かせば、アイツは必ず出走してくるって言ったのは、他の誰でもない君のはずだよ?」
セルシオはスマホを取り出すと、LINEの画面を呼び出し、それをプリメーラに見せつけるようにしながら言った。その画面の中では、先程セルシオが話していた通りの内容を、プリメーラが喋っていた。
「私はね、ウララが東京で初めて走った時のアーカイブを見た時から、もうコイツとはいつか勝負しなくちゃいけないような、そんな気がしていたのよ。結果は3着でも、ゴマシオみたいにちっちゃな未勝利のウマ娘が、その成績にも関わらず、あの時の会場全体を自分の走りで束ねていたのよ。その時にね、私は確信したの。ウララには絶対に他とは違う何かがある。ハルウララっていうウマ娘には、考えているだけでは決して理解も納得もできないような、めっちゃくちゃ大きな、底知れない謎と力に溢れているに違いない、ってね」

だから今、高知行きの電車に乗ってるんでしょうが。

セルシオはそう言いながら、残っていたにんじん生ジュースを一気飲みし、喉を焼く甘露な衝撃を全身で受け止めた。


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一方その頃。

ティレルジッピーとブラバムジッピーは、先に連絡を取り付けていたマルカイッキュウの仲介を受けて、高知競馬場1000mコースの下見に来ていた。

「砂、入れ替えたのね」

ティレルは、真夏の日差しを照り返すダートを眺め、目を細めた。
「いつだったかな。一カ月にはなると思う。大分馴染んではいるよ」
ティレルと同じ方向を向き、やはり目を刺してくる日差しに耐えながら、イッキュウは言った。
その後ろに立ち、大きな日傘の中からコースを眺めているのはブラバムだ。色白の肌を気遣っているのか、薄手とはいえ首元まで閉じたブラウスが少し窮屈そうに見せている。手にしていたオペラグラスで第四コーナーの奥を見つめていた彼女だったが、2人の会話が途切れたのを見て、言った。
「じゃあ2人とも、どうする?歩く?」
それに答えたのはイッキュウだった。
「ハロー車で行こう。私が運転するから、2人は後ろからコースを見ていてくれないか」

こうして3人はコースへと乗り出した。

イッキュウの操作するハロー車に揺られながら、ブラバムは自身初となる高知のダートを眺めていた。
「小回りとは聞いていたけど、第三、第四コーナーは結構緩いのね」
ここでもオペラグラスを使いながら、ブラバムはコースの要所を目ざとく見つけては、短く感想を述べている。それはレース前のブラバムが見せる、いつものルーティンだった。
「ねえティレル?私、さっきから見てるんだけど......坂道らしい坂道はないのねぇ?」
どこか残念そうなブラバムの呟きに、高知が古巣であるティレルは頷きながら答えた。
「第一第二コーナーが緩い上りに、第三第四コーナーは緩い下りになっているのよ。向こう正面とホームのストレートの中には勾配はないわ。ここの1000mは第二コーナーのポケットから始まる訳だから、君の自慢の登坂力を披露する機会は、残念ながらないかもしれないわね」
「まあ悔しい。どうせだったら、京都でやればいいのに」
その手の冗談は聞きなれているティレルだったが、やはりクスリと笑いが漏れる。高知のグランプリを京都でやれとでも言っているのだとしたら、滅茶苦茶にも程がある。
ティレルが進行方向に目を移すと、車は丁度第三コーナーに差し掛かろうとしていた。
ティレルは言った。
「ここのコーナーは気をつけた方がいいわ。内ラチ側の砂がやたらと深いの。緩いコーナーだからアウトインアウトで行きたくなる気持ちもわかるけど、それは我慢した方がいいと思う。特に雨の不良馬場となったら酷く厄介よ」
「そう。当日の天気予報は?」
「雨の予報は出てなかった気はするけど、何しろこの暑さだからね。夕立はあるかもしれない。ここの水捌けは決して良いとは言えないから、万が一馬場が不良になんかなったら全ての目論見がひっくり返るわよ」
「そんなに酷いの?」ブラバムは日傘の中で微笑んだ。「それも面白いわね」
その微笑みを見つけたティレルもまた、同じように笑った。

「もう一周まわるからな」

運転席からそんなイッキュウの声が届いた。車がゴール板を抜け、第一コーナーのいかにも小回りなカーブを抜けている時、ブラバムはティレルに聞いた。

「ティレル?貴女が高知にいた時、ステップはまだ走ってたんでしょう?彼女はどんな走りをするレーサーなの?」
するとティレルは、答えを迷ったかのように『あー』とか『うー』とか唸った後、突然ガックリと肩を落とし、忌々しげに髪をかき乱した。
「それはねぇ......もう、どうもこうもないのよ。最凶の最悪なのよ。ステップの走りは。思い出しただけで身震いがするわ。唯一良かったのは、あの時にいた地方喰いの連中を全員叩き出せたことかしら。でもねぇ......それよりも酷い走りを身内にやられちゃった日にはねぇ」
「まあ」
ティレルは大きなため息を吐くと、今度は荷台の上に座り込んでしまった。
「とにかくもう、コテンパンだとかフルボッコだとか、そんな言葉じゃ到底言い表せないような走りをしてくるの。私も何度か手を合わせた事はあるけれど、ことごとく煮湯を飲まされたわ。大井に移籍した時には、まるで亡命したみたいな気分だったもの」
「そんなに強いの?」
ティレルは何も言わずに頷いた。
「まあ、ごめんなさい。なんだか嫌なこと思い出させちゃったかしら?」
ブラバムが少しだけすまなそうに言うと、ティレルは構わないとでも言うように、顔の前で掌を踊らせた。
「まあ......当時の自分が未熟だっただけだよ。結果的には大井への亡命は大成功したんだし。今となっては、あの時にここを出てよかったと思ってるわ。こうしてジッピーにも入れわけだしさ」
自分をそう納得させるように何度か頷きながら、ティレルはそう言う。ブラバムがそれに答えることはなかったが、オペラグラスの下に見える両頬が、さも愉快そうにつり上がった。

「さあ、これできっかり2周したぞ?どうだった?特にそっちのお嬢さん、高知は初めてだもんな」

車を止め、運転席から飛び降りたイッキュウは、まだ荷台にいる2人に右手を差し出た。
ブラバムはイッキュウの手を借りながら砂の上に足を下ろすと、イッキュウの顔をまじまじと見つめながら不思議そうに尋ねた。
「ハルウララの姿が見えなかったのが残念だわ」
その呟きに、イッキュウは目を丸くし、笑った。
「なんだって?アンタ、そんなものを使ってまで一体何を見ているのかと思ったら、ウララを探していたのか?」
イッキュウはコースの外ラチ、さらにその外側を指さすと、笑いながらブラバムに言った。
「多分だけど、今ウララは皇帝塾に行ってるんじゃないかな」
「皇帝塾?」
「ウマ娘の私塾だよ。いい選手を何人も出している。どうやらそこの塾長と中央の連中にはずいぶんと太いパイプがあったらしくてね。最近はもっぱら、向こうでトレーニングしているみたいなんだ」
ブラバムはイッキュウの指さす方向へオペラグラスを向けながら、ポツリと呟いた。
「本当、残念ねぇ」
「そんなに残念なら、行ってみましょうか?聞いた感じ、そう遠くもなさそうだし。何か面白いこともあるかもしれないわ」
しかしティレルのその提案には、ブラバムは首を横に振るのだった。
「いえ、寮で一休みしてから追い切りに入りましょうか。私も貴女も、スロースタートなエンジンしか載せてないんですものね。さあ──寮に行きますよ」
1人歩き出した日傘の後ろ姿を見送りながら、イッキュウは困ったように腰に手を当て、首を傾げた。
「さあ──って言っても、寮はそっちじゃないんだけどなぁ」
「ごめんね。ちょっとだけ彼女のペースに付き合ってあげて?あんな風な不思議ちゃんだけど、悪い子じゃないのよ」
顔の前で手を合わせるティレルを、イッキュウは笑いながら諭した。
「それくらい構わないさ。で?どうするんだ?ティレルもこの後、走るんだろ?」
「そうね。久しぶりに一勝負してみる?」
「お?いいのかよ?『大井のスレイブニル』がこんなところで本気なんか出して?」
「『破戒僧イッキュウ』相手に手を抜くわけにもいかないでしょ?1時間後でいい?」
「いや、2時間後だ」
「あはっ、本当にガチじゃん」

結局、2人の追い切りを兼ねた数年ぶりの勝負は、ダートの熱が抜ける夜を待ってという運びになり、一休みと言ったはずのブラバムは、既にネグリジェに着替えていたこともあって、その日はそれで終わった。

グランプリ3日前のことである。

[newpage]


"さて──木本さん。今週末のメインレースは『高知グランプリ(仮)』となっておりますが、まずはメンバーをご覧になって気になるところはありますか?"

"そうですね、夏のスプリントシリーズに加わった新レース。後々には交流重賞を目指して、という前提を置いた上でのプレオープンですから、今回の招待選手たちがその辺りをどう意識して、どう動いてくるのかは気になりますね。先んじて爪痕を残すのか、下見に留めて来季に備えるのか。そういう選択もうかがえますからね"

"なるほど。今回の招待選手は4会場と中央からの計5名。その中でも現在特に注目を集めているのは、船橋のブラバムジッピーですが......まず彼女から考察をお願いします。では木本さんどうぞ"

"そうですね、過去には地方、中央を問わず数々のダート重賞を戴冠しています。追い切りを見た感じ、コンディションはかなり良いみたいですね。これがメイチの仕上がりではないでしょうけれど、このレースに合わせてしっかり身体を仕上げてきているのがわかりますね。それがファンにも伝わった結果の人気、ということなんじゃないでしょうか。ただまあ、そもそもは船橋のマイラーで、戴冠した重賞も全てマイルの距離なんですよね。その人気を受けて......ということなんでしょうから、この人気は、ちょっと鵜呑みには出来ないかもしれませんよ"

"名古屋からはレクサス。こちらはどうでしょう"

"はい、名古屋短距離戦の大ベテランが来てくれましたね。近走順位は若手にやや押されている感はありますが、過去の実績は素晴らしいものがあります。戦績を見ましても、900、920mのレースではライブ入りが続いていますからね。期待値は高いですよ"

"金沢からはピンクプリメーラ。高知初参戦です"

"現役生活は全て金沢一筋。まさに生え抜きの選手ですね。随所に経験値を活かした堅実な走りからは『職人』『仕事師』という評価が多く聞こえてきます。ゲート解放直後から目立つ選手ではないのですが、四角手前ではいつのまにか2着、3着という位置にいて、最後にはあっさり勝ってしまう、というのが必勝パターンですね。しかし追い切りの印象はといいますと、正直、もう一絞り出来たんじゃないかなという感じはあります。そこをどう埋めてくるかが鍵と言えば鍵なんですが、その辺りを十分にフォローする技術もしっかり持ち合わせた選手ですからね。怖い存在には違いありませんね"

"そしてジッピー一門からはもう1人、大井のティレルジッピー。彼女はいかがですか?"

"中央から高知、そして大井へという遍歴の持ち主なので、高知のファンの中では懐かしいと思われる方も多いのではないでしょうか。大井に行ってからの肉体改造が実を結んで、勝ち筋に差しを選ぶようになってからは、大井のメインイベンターとしてすっかり定着しています。馴染みの顔がまた違った魅力をぶら下げて来てくれたと思うと、とても楽しみになってしまいますね。昨年度のリーディングは2位と、成績も申し分なし。まさに故郷に錦を飾る凱旋と言っていいでしょう。ただね、今回は距離が短いので、自慢の差し脚をどれだけ使えるかという不安はあるんじゃないかと思います。重ねて言うならば、メンバー中では最年長という点もですね、頭の片隅に入れておくべきでしょう。古巣という地の利を引き出しつつ、その辺が噛み合えば、ライブ入りとなっても全然驚けない選手ではありますね"

"招待選手最後になります。アキツテイオー、中央からの緊急参戦です"

"本来なら芝のレーサーですが、ハルウララの前走、あのミニライブで見せた走りは確かに素晴らしいものではありましたね。あのシーンでダートに明確な適正を見せていたのはハルウララだけでしたが、そのハルウララの走りと比べても、異質ながら遜色のない走りを見せていたのは事実です。しかしながら、そもそもあのレース自体がライブ上の演出であったわけですし、あれをそのまま勝負目線での評価することは難しいですね。この短期間で高知のダートにどこまで適応することが出来ているのか、その辺が凡走と進撃とを分ける鍵となるのではないでしょうか。偶然にも今ここにいた事を運営サイドが見逃さず、アキツテイオーとしてもウララと共にエキジビジョンに華を添える形で、という参加理由も見えてきていますしね。まあ無理はしてこないでしょう"

"以上が招待選手の紹介でした。それでは高知のメンバーをお願いします"

"まずは我らがハルウララちゃんですね"

"我らがて(笑)"

"いやいや(笑)"

"私らはあくまで中立な立場を取りませんと、中の偉い人から怒られますよ(笑)""

"ははは。それもそうですね......ご存知の通り、この高知でも前走、前々走と非常に際どい走りを見せてくれています。もう誰にとっても楽な相手とは言えないでしょう。エキジビジョンとしても、これ以上に相応しい人選はないと思います。しかしまあ、勝負目線で考察いたしますと──今回は正直、相手関係が悪すぎますよ。招待選手は各重賞のタイトルホルダーばかりですし、高知を見ても久しぶりの参戦となるオリジナルステップがいますから。未勝利戦を続けていたい彼女にとっては、かなり苦しい環境とはなっています。とはいえ、ここでまた経験を増やしてもらいたいですね"

"経験値だけなら誰にも負けてないんですけどね "

"そんなこと言ったら炎上しますよ(笑)"

"多分もう家燃えてます(笑)"

"炎上ってそっち?そっちなの?(笑)"

"いやそれは勘弁していただきたいんですが(笑)。そのオリジナルステップは事前集計で10番人気。追い切りの印象はどう見られてますか?"

"決して悪くはないと思います。脚の運び、姿勢にも一切の不安は見られません。長いブランクがありますが、その間にもトレーニングをキチンと積み重ねていたのが十分に伝わる走りをしていますね。そもそもですね、この娘評価をよく見せるということをしてこないんですよ。ミステリアスと言えば魅力的ですが、そう受け取らないのが高知ファン、という事なんじゃないでしょうか。過去に連勝記録を打ち立てた実力がこの外敵相手にどこまで通じるのかは非常に気になるところです。が──、まあ、一方的な展開にはならないでしょうね。そうなれば競り合いになるのは必然なわけですから、そこで彼女の新しい魅力が引き出されることを願っております"

"お次に紹介しますのはワイルドボンゴ。昨年デビューの中等部レーサーです"

"はい。これは大抜擢ですね。いち早く本格化を迎えた走りは現在の中等部の中でも群を抜いています。得意の短距離、ということでもありますから、今後に繋がる走りをして欲しいです。まあ、まだまだ勉強中の彼女ですから、このレースはそういった視線と取り組みが正解なんじゃないでしょうか"

"次です。マルカイッキュウ。高知県知事賞連覇の実績を買われての出走と思われます"

"そうですね。同賞の連覇に加えて、近走でも好成績が目立ちます。そもそもはマイラーで、幅広い活躍を見せる彼女ですが、1200m以下の成績はというと正直芳しいものではありません。この距離での勝ち星は中央時代まで遡る事になりますので、このギャップを埋められているのかどうか、という話になってきますね。彼女も単純な比較はできないところにいるという、そういう事なんじゃないでしょうか"

"最後マーキュリーネオです。こちらはどうでしょう"

"中央からの移籍間もなく、というタイミングでの登用ですね。1400m以下の距離には非常に高い適正を見せていますから、この距離、このメンバーの中でも、いつも通りの伸びやかな走りを見せてくれると思いますよ。移籍直前の中央での成績は4連対。もちろん高知でのデビュー戦も白星で飾るなど、今まさに本格化の1番いい時期にいると言えるんじゃないでしょうか。勝負度胸もあり、馬場や天候といったようなレースコンディションによるブレも少ない。そういった点まで含めて考察しますと、この高知のメンバーの中では、まあ......トップなのかな、と思いますよ"

"今『まあ』っていいませんでした?"

"言いましたね(笑)"

"その辺りの、思わず歯切れの悪くなる理由となるところを、ズバリお願いしてもよろしいですか?"

"そうですねぇ......何しろこのマーキュリーネオを含めて、高知所属のレーサーの戦績には、オリジナルステップとゲートを並べた経験があるのはマルカイッキュウだけなんですよ。高知に所属しているレーサーの成績は、「オリジナルステップ以前/オリジナルステップ以降」という風に分ける事ができます。タラレバの話にはなりますが、ステップがセミリタイアの状態でなければ連勝記録は更に伸びたでしょう。言い換えれば、今の高知のリーディング上位は、ステップの不在の上に成り立っているようなものなんです。イッキュウが高知県知事賞の連覇に成功したのは、まあ、距離適正の違いが産んだものではあるんですが"

"確かにそれはありますねぇ"

"タラレバという言い方が問題あるようであれば、可能性と言い換えてもいいでしょう"

"可能性ですか?"

"はい。彼女にはですね、とにかく謎が多いんですよ。あれだけの走りをしておきながら、他の地方や中央開催のレースには参戦もせず、スカウトも遮断し、高知競馬場に拘り続けました。そして『強すぎる』という強烈なバッシングを受けて、レースから身を引いたんです。その当時、彼女の実力には一切の衰えはありませんでした。あの時点で実力は間違いなく地方競馬の最上位。しかも伸び代さえあった。あの走りが帝王賞で見られたら。南部杯で見られたら......そう思っていたファンもいるはずなんですよ。長いブランクをさしおいてもなお、彼女にはそんな可能性を感じますよ。そう考えると、この開催で1番怖いのは、彼女なのかもしれません"

"展開としてはどうでしょう?"

"第二コーナー奥にあるポケットからスタートして、長くなったストレートをクリアした後に、緩い第三第四コーナーを駆け抜けてのゴールという事になりますから、逃げ先行に有利なコースとなるでしょう。となりますと、まず前に出るのはブラバムジッピー、そしてオリジナルステップでしょうね。次に続くのはレクサスで、アキツテイオーと、ハルウララ──は、どうかなぁ......それよりはマーキュリーネオ、という感じでしょうね。で、ゴール前までにピンクプリメーラがどの辺にいるか、それが各自の思惑を左右することになると思いますよ。エキジビジョンということにはなってますが、何しろステップが企画し、しかもステップが参戦しているという点を考えればですね、いかにもな予定調和の中で穏やかに、という走りはしてこないと思いますよ。そこら辺はもう不文律としてですね、このレースの根底にあると、そう見てもいいんじゃないでしょうか"

"ガチンコ上等、真剣勝負は全員の望むところ、ということでしょうか"

"そうですね。メンバー探しに難航したという裏話があることを踏まえますと、そういった雰囲気を嫌った選手が多かったから、という理由も、薄々ながら見えてきますからね。ギャラリーとしては嬉しい限りですが、全メンバーが無事に完走される事を願っております"

"なるほど──詳しいお話ありがとうございます。全選手の考察はここまでといたしまして、一旦お知らせを挟みます。以降は各選手とトレーナーのインタビューの内容をお送りしていきます。番組まだまだ続きます"




地方ウマ娘特番配信
『高知グランプリ前夜祭』
全選手考察編より抜粋






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