立位前屈動作のバイオメカニクスと動作分析
立位前屈動作の評価意義
立位前屈動作は、臨床において多用されます。
主な目的としては、下肢後面(ハムストリングスなど)の柔軟性評価、脊柱の可動性評価¹⁾、腰背部痛の疼痛再現などが挙げられます。
評価手段として、指先と床との距離を測定する指床間距離(finger floor distance;以下FFD)が挙げられますが、疼痛との関連や機能障害の直接的評価としては不十分です。
そこで、立位前屈動作の評価では動作分析が必須となります。
動作分析をする上では、立位前屈動作のバイオメカニクスを理解する必要があります。
腰椎の可動域
脊柱は、32〜34個の椎骨が上下に連結し、7個の頸椎、12個の胸椎、5個の腰椎、5個の仙椎(1個の仙骨)、3〜5個の尾椎(尾骨)で構成²⁾されます。
腰椎全体では、生理的前弯をしています。
腰椎全体の可動域は、屈曲40〜50°、伸展15〜20°、側屈20°、回旋5〜7°²⁾³⁾とされています(図1)。
図1 腰椎全体の可動域
ユジカワ@整形Drイラストレーターより
腰椎の可動域は、各椎間関節間で異なります(図2)。
図2 脊柱の各椎間関節間の可動域
(CERVICAL:頸椎、THORACIC:胸椎、LUMBAR:腰椎、Combined flexion/extention:複合屈曲/伸展、One side lateral bending:片側側屈、One side axial rotation:片側軸回旋)
4)より画像引用
図2より、腰椎の屈曲・伸展可動域は下位になるほど大きく、側屈可動域はL3ーL4で最大、L5ーS1では最小、さらに回旋可動域は、頸椎や胸椎と比較してとても小さいことがわかります。
腰椎骨盤リズム(lumbopelvic rhythm)
体幹の前後屈に関与する腰椎と骨盤の動きの相関は腰椎骨盤リズム(lumbopelvic rhythm)²⁾⁵⁾⁶⁾⁷⁾⁸⁾と呼ばれています。
腰椎と骨盤が同じ方向に回転する動きを同方向性腰椎骨盤リズム、腰椎と骨盤が反対方向に回転する動きを対方向性腰椎骨盤リズム⁸⁾と言います(図3)。
図3 同方向性腰椎骨盤リズムと対方向性腰椎骨盤リズム
前屈動作の例では、骨盤前傾ー腰椎屈曲は同方向性腰椎骨盤リズム、骨盤前傾ー腰椎伸展(生理的前弯の保持)は対方向性腰椎骨盤リズムとなります。同方向性腰椎骨盤リズムは、下肢に対する脊柱全体の角度を最大限に変位させます⁸⁾。
立位前屈動作のバイオメカニクスと動作パターン
立位から前屈最終域まで
健常な成人では、約60°の股関節屈曲とほぼ同時に約45°の腰椎屈曲が生じる⁸⁾⁹⁾とされています。
【腰椎骨盤リズムのバリエーション】
腰椎骨盤リズムのバリエーションとして3パターンが挙げられています(図4)。
図4 立位前屈動作中の腰椎骨盤リズム3パターン
8)より画像引用
図4のBは、股関節屈曲制限(ハムストリングスの緊張)によって腰椎および下位胸椎に過度の屈曲が生じています。
図4のCは、腰椎屈曲制限によって過度の骨盤前傾が生じています。
【前屈動作中の腰椎骨盤リズム】
前屈運動開始から25%は腰部の屈曲がわずかに多く、最終域の25%の間に股関節屈曲がわずかに多い⁸⁾⁹⁾とされています(図5)。
図5 前屈運動中の腰椎骨盤リズム
【頭頸部および胸椎の運動パターン】
頭頸部および胸椎は、運動初期に腰椎屈曲および骨盤前傾とほぼ同時に屈曲するパターンと、運動を通してほとんど胸椎屈曲が起こらないパターン¹⁰⁾の2パターン挙げられています(図6)。両者(2者)の比較では、頭頸部および胸椎の屈曲がみられる症例の方が前屈の可動域が大きい結果となっています。
頸椎や胸椎などに制限が生じると、全脊柱の可動性は低下し、全脊柱の可動性を維持するために、腰椎の過剰運動が生じると指摘されています。
図6 前屈動作における頭頸部・胸椎の運動2パターン
【骨盤の並進運動】
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