病院薬剤師が語るアンサングシンデレラの舞台裏(第7巻)
皆さん、こんにちわ。病院薬剤師だまさんと申します。
本ブログ(note)にアクセスしていただき、ありがとうございます。
このコンテンツは月刊コミックゼノンで連載中の「アンサングシンデレラ 病院薬剤師葵みどり」を10倍楽しむための動画です。
ここで少し宣伝です。
以前、私は「薬剤師が主役のドラマはアンサングシンデレラが最初で最後」みたいなことを述べましたが・・・撤回します。
TVドラマの放映開始とほぼ同時期に『月刊!スピリッツ』で連載開始となった「処方箋上のアリア」(三浦えりか作)のクオリティが凄い!
この分だと、近いうちに薬局薬剤師が主役のドラマも十分に有り得ます。
そんな訳で、そっちの「舞台裏」も書き始めてます(既に第2巻に突入)。
よろしければ本ブログとあわせてご覧ください(薬学生、勉強になるよ)。
Rp.30 薬は商品で薬剤師は社員!?~ドラッグストアのしきたり~
今回より舞台は小野塚の勤めるナカノドラッグへと移ります。
前回ママ友薬剤師に「(薬剤師の)役目を放棄するなら、薬剤師を名乗る資格はないと思います」とタンカを切ったみどり。
しかし、今回小野塚が挑むのは個人ではなく巨大組織(しかも雇用主)。
「ドラッグストアで薬剤師が本来の役割を果たすための道筋とは?」
この難題に、小野塚がどのように対峙していくのか?
予防接種編といい、今回といい、気づけばテーマが社会問題へとシフトチェンジしてますね~(新章突入!)。
エリアマネージャーは薬剤師に対してもネチネチと口を挟んできます。
とりわけ売上に直結することに関しては・・・。
まあ、ノルマを達成するのがエリアマネージャーの役割ですし、ある程度はやむを得ないこととは思いますが、さすがにこのシーンは・・・。
・・・薬剤師の職能って全然尊重されてませんよね?(奴隷かっ)
逆らったところで無意味だということをとっくに悟っている小野塚は、自らの感情を押し殺し即座に詫びるのでした(元々そんなキャラですし)。
※ここでパッと微笑み機嫌が直るマネージャーにもムカつきました(笑)。
今回の舞台裏は「ドラッグストアの歴史」です。
小さい頃の私は薬局に行くのが大好きでした。
なぜなら薬剤師のおばさんはいつも優しく迎えてくれるし、毎回おもちゃやシールをプレゼントしてくれたからです。
病院に行く程ではない軽微な症状は、薬局で相談すれば粗方解決しました。
そして歳月は流れ、個人経営の薬局は次々と姿を消していき、替わって大型のドラッグストアが進出してきました。
※私が社会人になった頃からと記憶しています。
大量仕入れゆえの強み。
薬・化粧品・食品・酒etc、品揃えが豊富でディスカウントが売りのドラッグストアが人気化するのに時間はかかりませんでした。
特に私の住んでいる所は車が欠かせないため、週末には広い駐車場のある郊外のドラッグストアでまとめ買いするのが習慣化していました。
恐らく同様のことが全国各地で起こったのでしょう。
今やどの街を訪れても、ドラッグストアを見ないことはありません。
作中でも述べられていますが、今やドラッグストア業界の売り上げはコンビニの7割にも迫る勢いとのこと。
着実に業績を積み上げてきたドラッグストア各社は続々と株式上場を果たし、今や群雄割拠の時代になっています。
東証一部上場企業だけでもこんなにありました(カッコ内は証券コード)。
ドラッグストア勢力図(世界コンビニ・スーパー名鑑(仮)より引用)
「喰うか喰われるか」の局面となり、覇権争いは更に激化しています。
手始めは調剤業務への参入、更には異業種(家電量販店・コンビニ・電鉄会社等)との提携、そしてM&A(合併や買収)です。
ナカノドラッグのような24時間営業はまだまだ少数派だと思います。
しかし裏を返せば、そこまでして差別化を図らなければならない程、追い詰められていると見ることもできます。
アイデンティティを主張しない薬剤師を批判するのは簡単です。
しかし、皆さんはこの物語を読んで「しきたり」を破れると思えますか?
さて、会話の横で大量の風邪薬を買い物かごに放り込む若者。
「感性」を働かせその様子をとらえた小野塚が次に取った行動とは?
次回の展開も目が離せません。
Rp.31 死の商人にならないために~勘違いしてるのはどっち?~
小野塚が主人公の「ドラッグストア編」。
後編は、薬剤師に馴染みのない一般の方に是非読んでもらいたい話です。
「アンサングシンデレラ」がドラマ化されたことで幾分「まし」になったとは言え、薬剤師に対する一般人の認識は依然としてこんな感じです。
「薬を渡す(だけの)人」
しかしこの誤った認識が「毒」となり、薬剤師自身を蝕みつつある。
そんなドラッグストア業界の「闇」を伝えてくれています。
不適正使用を疑った小野塚は、若者に対して以下の行動に出ます。
これに対し、若者(織部)とエリアマネージャーの本心はこうでした。
なぜこんなにウザがっているのでしょうか?
背景には「薬剤師=薬を渡す人」「市販薬=安全な薬」との誤解があります。
織部が購入した薬には下記の成分が含まれていました。
「ええっ!麻薬?覚醒剤?そんなもん売るなよ」
そう訝る方は「薬の本質」を見誤っています。
薬は正しく使ってこそ「薬」なのです。
誤った使い方をすれば、「どんな」薬でも「毒」と化します。
なので、特にリスクの高い薬は薬剤師の説明が義務付けられています。
過剰服用(OD)が進み、お金に困った織部はナカノドラッグで万引きを働き、小野塚に見つかります。
穏便に済ませようとするエリアマネージャーをよそに、小野塚は織部に薬物依存症の治療を勧めます。
反発する織部にODの恐ろしさを丁寧に説明する小野塚。
しかし、エリアマネージャーだけは頑として納得しません。
そこで普段は温厚な小野塚が一閃、こう言い放ちます。
捨て台詞を残し、立ち去るエリアマネージャー。
同僚の槙本に慰留されていた小野塚でしたが、これで退職は決定的となってしまいました。
ここで薬学生さんに質問です。
このシチュエーションであなたはどちらを選択しますか?
どちらも嫌と言うのなら、こんな「究極の選択」を回避する方法を今のうちから考えておいてくださいね(^^♪
今回の舞台裏は「カフェイン過剰摂取」です。
織部が市販薬を過剰服用した動機は「眠気防止」でした。
今回はドラッグストアが舞台だったこともあり、エナドリ(エナジードリンク)は脇役でしたが、実際はこちらの方がもっと問題となっています。
ブランドの高さ、飲みやすさ、そして何よりもコンビニに行けば24時間いつでも買える手軽さがあるからです(当然ながら注意喚起もありません)。
エナドリ等を通じたカフェイン過剰摂取は、特に若者の間で蔓延しており、中毒110番への相談件数も年々増加する一方です。
我々にとってより身近になったカフェインですが、れっきとした薬物です。
正しく使わなければ「毒」と化す。
繰り返し強調しますが、「薬の本質」を忘れてはいけません。
※カフェインについてはこちらの記事もご覧ください。
今回のお話はここまで。
Rp.32 いつだって時代を変えるのは「浮いた人」~厭離穢土・欣求浄土~
何なんでしょうかね?
前回・前々回のドラッグストア編に続き「業界の闇」シリーズ(笑)。
今回の舞台は病院薬局で、主人公は久々の瀬野です。
今回は薬剤科という組織の「常識(≒慣習)」と薬剤師の「常識」が対比して描かれています。
念のために断っておきますが、これはあくまで昔の話であって、現在では「常識」と「非常識」は逆転しています。
しかし、それは陳さんのような「先駆者」がいたからこそ実現したという事実を我々は忘れてはなりません。
イレッサ事件について詳しく知りたい方はこちら。
今回の舞台裏はサブタイトルにもある「厭離穢土・欣求浄土」です。
随分と「攻めた」フレーズをチョイスしてしまいましたが、日本史好きの方ならばご存知の筈。
そう、徳川家康が旗印としたキャッチフレーズ(!?)です。
元々は浄土思想から生まれた考え方ですが、この言葉は当時の世情の不安を救う教えとして人々の心をとらえました。
さて、ここで私が何を皆さんに伝えたかったかを説明します。
病院薬局もドラッグストアも、どんな業界でも言えることですが、往々にして理想と現実は異なっているものです。
仮にそのギャップに矛盾を感じ抗ったとしても、組織からつまはじきにされるのがオチです(結局、小野塚も陳も職場を追われることとなりました)。
かといって、今何もしなければ、未来が変わることは永久にありません。
なので、歩みを止めず今やれることをやりましょう、と言いたいのです。
これまで私は、いわゆる「来世信仰」を消極的にとらえていました。
しかし、薬剤師、そして人間の寿命は思った以上に短いのです。
もっと長いスパンで未来を見据えるべきなのでは?
種蒔き(教育)の重要性を再認識させられた回となりました。
今回はここまで。
次回も「闇」シリーズは続くのでしょうか?
第7巻はここまで。
これ以降は、このブログ共々「第8巻」へと移ります。
病院薬剤師って素晴らしい!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。