#29.【無料記事】DI業務の衰退原因は改訂コアカリの「誤作動」説
(このブログは2024年8月31日に更新しました)
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#27より「図解 医薬品情報学 改訂5版」(南山堂;2023年)からDI業務の未来を読み解く試みをしています。
▼前回(#28)のおさらい動画
本稿は【無料記事】としてお届けしています♪
理由は一人でも多くの薬剤師さんにご意見をうかがいたい内容だからです。
今回のテーマは改訂コアカリの「知られざる」問題点です。
事前に関連記事(#0)を読まれておくことをお勧めします。
浮上した新たな「仮説」
#0で私はDI業務の衰退原因を次のように考察しました。
今更ですが「削除」という表現はあまり正確ではなかったかもしれません。
まずは旧コアカリと改訂コアカリを対比してみましょう。
ご覧のように、DI実習に関するカリキュラムはほぼ原型のまま改訂コアカリでも踏襲されているのです。
であれば、つじつまが合わないことがあります。
それは「ゆとり世代」、つまり「我々はDI業務を習っていない」と主張する薬学生・薬剤師が量産されている現状です。
はて?
カリキュラムは変わらないのになぜそんなことになるのでしょうか?
その理由を探った時、新たな仮説が浮上してきます。
それこそがタイトルにもある改訂コアカリの「誤作動」説です。
教え手の「経験値不足」
前回(#28)でご紹介したDI実習に関するこの考え方は、改訂コアカリでも見事に貫かれています。
ただ、理念自体は大変素晴らしく私も賛同するところですが、実効性については大いに疑問が残ります。
最も憂慮するのが「教え手の経験値不足」です。
改訂コアカリでは、DI業務の「教え手」はDI担当薬剤師から病棟薬剤師へとバトンタッチされました。
しかし、病棟薬剤師のDI業務への熟練度は施設によって大きく異なり、当然ながら個人差もあります。
バトンタッチは時期尚早だったのではないでしょうか?
その根拠が、この「大変革」に対する病院薬剤師の反応の薄さです。
「大変だ、この難局をどう乗り切ろう?」とはならず、「自らのDI経験を実習生に伝えれば良いだろう」といった「ゆるい」空気感です。
ただ、「ゆとり世代」がそれをやってしまうとDI業務の先細りは必至です。
「DI業務の衰退原因」として最も有力な仮説と考えます。
「ゆとり世代」が「ゆとり世代」を教える!?
もちろん、病棟薬剤業務の時代が到来したことで、薬剤師一人一人がDI業務を担うことがスタンダードになりつつあることは承知してます。
しかし、実際には10年以上前から病棟薬剤業務を実践している施設もあれば、未着手の施設もあります(前職場も令和4年度からでした)。
実務実習受け入れ施設だからといって、DI実習を担える薬剤師が豊富にいるとは限らないのです(大学もまた然りです)。
例えば添付文書やインタビューフォームの扱いに留まるかもしれません。
しかし、これではDI担当薬剤師が教えていた頃とは雲泥の差です。
先進施設を除く多くの施設において、DI教育が当初の思惑通りには機能していなかった(=誤作動していた)可能性が高い、と疑わざるを得ません。
もしそうであれば、DI実習は事実上「削除」されたも同然です。
事実、私の前の職場では薬剤師不足の影響で、経験の浅い若手薬剤師でも病棟担当や実習生の指導を行うのが普通でした。
しかし、現在28歳以下の薬剤師は「ゆとり」世代に属しています。
そんな彼らにDI教育を丸投げするのは無理があります。
これを放置すれば、向こう6年間も同じことが繰り返されることでしょう。
誰一人気づけなかった「神経毒」
このような隠れた問題(神経毒)にもっと早く気づいていれば、DI実習の担当者を適任者に交代させることも可能だった筈です。
しかし、その毒は薬剤師たちの神経をじわじわと侵していきました・・・、
気づくことのできるチャンスは唯一、薬科大学が主催する「改訂コアカリに関する実務実習連絡会」だけでした。
かく言う私も5年前に参加したのですが・・・
話題の中心は「8疾患」と「ルーブリック評価」であり、DI実習に関する変更点は印象に残っていません(残っていたら動画に反映させた筈です)。
当時、大学側も参加者側も、改訂コアカリがDI業務の衰退を招くとは誰一人予測できなかったのです。
「状況証拠」は数知れず・・・
DI業務衰退の「状況証拠」は枚挙に暇がありません。
❶「DI業務は習っていない」という証言
実務実習生や若手薬剤師に「大学や実務実習でDI業務について習ったか?」と訊くと、ほぼ例外なく「Not much(あんまり)」と回答します。
私には病院薬剤師から大学教員に転身した知人が沢山いますが、DI経験が豊富な薬剤師はおらず、当時は医薬品情報も今ほど多くありませんでした。このことからも、大学でのDI教育が不十分であることは驚くには当たらず、尚更のこと臨床現場でその不足分を補うことが期待されたのだと思います。
❷本投稿に対する反応が皆無
#0(DI業務は「瀕死」の状態!?)を投稿したのは2024.5.12。
「コアカリ削除」の指摘に対し、反論や訂正を求める声はゼロでした。
投稿自体を知らないのか、本トピックに関して理解不足なのか、DI業務自体に関心がないのかのいずれかでしょう。
❸DI関連の学会演題数の激減
昨年本県で開催された学会(第62回日本薬学会・日本薬剤師会・日本病院薬剤師会)において、DI関連の演題は弊社分を除くとわずか1題でした。
一方、それに先立ち、私は近県(徳島・香川・愛媛・岡山・広島・鳥取・島根)の病院薬剤師会事務局にメールを送付しておきました。
内容は「「医薬品情報業務の進め方2018」で提唱されているDI情報網の構築方法に関する発表をするので、来高される理事の方に伝えて欲しい」。
しかし、いずれの県からも反応はなく、学会当日は7時間ずっとポスターの前で立ち続けましたが、他県の理事が来訪された気配もありませんでした。
病院薬剤師にとって、DI業務はもはや関心事ではないのかもしれません。
❹厚労省(MEDISO)や県薬務衛生課の反応
DI業務の衰退懸念について相談してみましたが「初耳」とのこと。結論としては「薬剤師自体が動かなければ支援は困難」というスタンスでした。
❺まるで他職種のような発言
DI業務の衰退は他職種には関心のない話です。「薬の専門家なのだから」「情報化社会なのだから」「生成AIの時代が来ているから」何とかしなさい、以上の助言は得られません。まさにその通りなのですが、不思議なことに、薬剤師自らも他職種と似た発言をします(自分で動く気配なし)。
❻DI関連データベースや書籍の乱立
「FINDAT」「CloseDi」「AI-PHARMA」といったDI関連プラットフォームが新設され、医薬品情報学の関連書籍も過去10年間で8冊刊行されています。
いずれも盛り上がりは今ひとつですが、「DI業務の衰退」に対する危機感の現われと考えられます(本道場も想いは同じです)。
❼国がよもやの意欲喪失!?
先日「1489NET(株式会社医歯薬ネット)」というYouTubeチャンネルを見つけました。1489NETとはクリニック開業コンサルティングを営む企業で、医療業界の裏事情を赤裸々に発信しています。
2年程前シリーズ「壊れだした医療業界の末路」(全9回)が投稿されており、以下はその一部を書き起こしたものです。
ゾッとする話ですが、近年離職者が続出している厚労省のブラックぶりだと、あながち不思議ではありません(DI業務をテコ入れする気もなし?)。
【まとめ】3つのアクションプラン
改訂コアカリの「誤作動」は現在も進行中であり、このままでは新コアカリを履修した薬剤師が誕生する令和12年度まで持たないかもしれません。
かと言って、現時点では「DI業務を学び直そう」という機運は皆無であり、危機感は極めて限定的です(涙)。
以下に示すのは、現状を打破するためのアクションプランです。
皆さんのご意見・ご感想をいただけますと幸いです。
1.「DI業務」の重要性を理解する
何と言ってもこれ抜きには始まりません。幸いなことに「DI業務はもう不要?」と質問すると、薬剤師は例外なく「No」と回答してくれます。ここに至ってはそう言ってくれる薬剤師を信じるしか術はありません。
2.「ゆとり世代」に寄り添った解決策
DI業務の重要性は認識しているのに危機感が湧かず、行動にも移せないのは、大学や実務実習で経験した「ゆとり教育」が元凶です。ただ、彼らは解決策を考えようにも闘い方も武器も知りません。本道場が提案する闘い方は「メタ知識」というスキル、武器は「フォーミュラリー4.0」という情報インフラです。これならば失われた8年間を取り戻せるかもしれません。
3.デジタル技術の活用
近年急速に進化しているデジタル技術は、薬剤師にとっても追い風となっています。効果的に活用すれば膨大な医薬品情報にも十分対応できる筈です。
もちろん選択肢はこれだけではありません。
個人的には今年度から適用される新コアカリにも期待しています。
新コアカリでは「C基礎薬学」「B社会と薬学」「D医療薬学」の内容を関連付けた「F臨床薬学>F-3-2医薬品情報の管理と活用」が新設されました。
「誤作動」を顧みてのことかどうかはわかりせんが、病棟薬剤師のみに依存した改訂コアカリからの脱却と見ることもできます。
この件に関する活発な議論が望まれます(私が存命のうちに…)。
今回はここまで。
次回は「「図解 医薬品情報学 改訂5版」から読み解くDI業務の未来」に戻ります。
お楽しみに。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
病院薬剤師って素晴らしい!
ではまた次回にお目にかかりましょう。
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