病院薬剤師が語る処方箋上のアリアの舞台裏(第1巻)
皆さん、こんにちわ。病院薬剤師だまさんと申します。
本ブログ(note)にアクセスしていただき、ありがとうございます。
本ブログは、2020年8月より小学館『月刊!スピリッツ』で連載されている「処方箋上のアリア」(三浦えりか作)を10倍楽しむためのブログです。
※原作(第1巻)を読んでみたい方はこちら。
さて、昨年連ドラ史上初となる、病院薬剤師を主人公にした医療ドラマ「アンサングシンデレラ 病院薬剤師の処方箋」の放映開始とほぼ同時期に連載開始となったこの作品。
実は、昨日まで全く知りませんでした(苦笑)。
しかし、作者の三浦えりか先生のこのTweetで知るところとなりました。
何と今日(2/20)から国試なんですね(薬学生ガンバレ!)。
これもセレンディピティ。
本作品のブログも書いてみることにした、という訳です。
アンサングシンデレラと本作品の違いを、私なりにまとめてみました。
≪アンサングシンデレラ≫
舞台:病院(萬津総合病院)
主人公:病院薬剤師(葵みどり;女性)
ストーリー:患者が主体のヒューマンドラマ
作者:荒井ママレ(薬剤師ではない)
≪処方箋上のアリア≫
舞台:薬局(亜理亜薬局)
主人公:薬局薬剤師(麻生葛;男性)
ストーリー:薬が主体のサスペンスドラマ?
作者:三浦えりか(元薬剤師?)
本稿ではアンサングシンデレラと同様、「舞台裏」を紹介していきます。
Rp.1 疑え何もかも ~薬は使い方次第で毒になる~
(あらすじ)
ある日の亜理亜薬局。挙動不審の若い男が睡眠薬の処方箋を持ち込んだ。「一体何に困っている?」不審に思った麻生が問い質すと、「俺は誰かに監視されている!」と訴える男。他に何も説明せず、監視カメラを貸して自宅に設置するよう促す麻生。するとそこに映っていたのは・・・!?
第1話「真夜中の侵入者」のテーマは「睡眠薬の副作用」です。
※原作(第1話)を読んでみたい方はこちら。
Chapter1:デートレイプドラッグ
冒頭で、男性がフルニトラゼパムを混入したカクテル(チャイナブルー)を女性に飲ませようとするのを麻生が阻止するシーンが描かれています。
フルニトラゼパムは代表的なデートレイプドラッグです。
デートレイプドラッグ(date rape drug)とは
飲料に混入させ、服用した相手の意識や抵抗力を奪って性的暴行に及ぶ目的で使われる、睡眠薬や抗不安薬である。
睡眠導入剤フルニトラゼパムがよく用いられており、多くの国々が厳しい規制をかけている。向精神薬γ-ヒドロキシ酪酸(GHB)、解離性麻酔薬ケタミンなども使用される。(Wikipediaより一部引用)
※現在、γ-ヒドロキシ酪酸は販売中止、ケタミンは麻薬指定されています
元々白色の錠剤でしたが現在は青色です。
犯罪行為に使用される事例が絶えないため、悪用防止策の一環として2015年に厚労省が製剤の着色を命じた、という訳です。
しかし、麻生も言っているように「色のつかない薬はごまんとある」訳ですし、医療上の必要性があっても、米国やカナダへの持ち込みが禁止されているような薬を特別扱いする必要があったのかな?と少々疑問です。
Chapter2:市販の睡眠薬と病院の睡眠薬
二日酔いの麻生が天然ボケボケ新米薬剤師の同僚・浜菱に睡眠薬のレクチャーするシーンです。
≪市販の睡眠薬≫
・抗ヒスタミン薬ジフェンヒドラミン(商品名:ドリエルなど)
≪病院の睡眠薬≫
❶体内時計を調節する薬(商品名:ロゼレムなど)
❷覚醒物資の作用を抑制する薬(商品名:ベルソムラなど)
❸神経伝達物質GABAの作用を強める薬(商品名:ゾルピデムなど)
副作用で眠らせようとするドリエルの登場(2003年)には薬剤師の私も衝撃を覚えました(病院ではそんな使い方しませんから;アタP位かな?)。
ひと頃までは、睡眠薬と言えば❸一辺倒でした。
しかし、近年ではデメリット(不穏・転倒・悪用など)が忌み嫌われるようになり、より安全性の高い❶❷へのシフトが加速しています。
※睡眠薬とその弊害の歴史については、下記のブログもご覧ください。
Chapter3:一過性前向性健忘
「俺は誰かに監視されている!」と訴える男(槙)に貸した監視カメラに映っていたのは、何のことはない槙本人でした。
部屋を荒らされたり、食糧を食べ散らされた原因は自分自身だったのです。
槙が服用していた睡眠薬ゾルピデムの副作用「一過性前向性健忘」(服薬後入眠までの出来事を覚えていない、途中覚醒時の出来事を覚えていない)が原因でした。
ゾルピデムの使用上の注意より
本剤を投与する場合、就寝の直前に服用させること。また、服用して就寝した後、患者が起床して活動を開始するまでに十分な睡眠時間がとれなかった場合、又は睡眠途中において一時的に起床して仕事等を行った場合などにおいて健忘があらわれたとの報告があるので、薬効が消失する前に活動を開始する可能性があるときは服用させないこと。
麻生の解説通り、一過性前向性健忘は作用時間が短い睡眠薬で起こりやすいとされています(にしても、25歳の若者に起こるかなぁ?)
だからこそ麻生は疑義照会をかけ、より作用時間の長いブロチゾラムへの変更を提案したのです。
≪消失半減期(t1/2)≫
・ゾルピデム:1.78〜2.30時間
・ブロチゾラム:約7時間
※各添付文書より
Chapter4:処方箋がなくても来ていい場所
無事泥棒退治(!?)となり、槙の目から鱗が落ちます。
「薬剤師は・・・ただ薬を渡すだけの人だとばかり・・・」
で、麻生の名言集がスタートします(笑)。
「・・・まあ、困った時はいつでも来いよ・・・」
「薬局っつうのは処方箋がなくても来ていい場所だ」
「俺たちは薬局(ここ)にいるからよ・・・」
一方、浜菱も今回の一件で自分の「質問力」のなさを反省します。
ここでも麻生節が炸裂。
「人間を疑え」
「これ(処方箋)を書いた医者も、これを持ってきた患者も・・・」
「処方箋の情報なんつうのはほんの上っ面でしかねぇ・・・」
「ここに載ってる薬なんて使い方次第で毒にもなっちまう」
「ほとんどの患者はそんなこと知らずにその薬を飲むんだ・・・」
「これを使っただけで患者の問題は解説すんのか?」
「患者にとって薬になるのか?」
「疑え何もかも」
「自分のことだけは信じられるように勉強しろ」
「薬剤師(おれたち)自身が薬になるんだ」
特に最後の一節がシビレましたね~(その直後リバースしますけど)。
それにしても、浜菱は最後に何と言いたかったのでしょうかねぇ?
「・・・麻生さんて本当は・・・」(❶総理の孫❷瀬野さん❸パラノイア)
今回はここまで。
次回はEDに悩む夫婦の物語です。
Rp.2 心の毒を取り除け ~患者には情報を知る権利がある~
(あらすじ)
亜理亜薬局に出入りする卸業者の営業・宇倍。仕事柄物腰の柔らかい人物だが、見栄を張る一面もあった。子どもが欲しい妻・夏菜子はED(勃起障害)の治療を勧めるが、宇倍は聞く耳を持たない。ようやく入手したバイアグラを試す夫婦だったが…。
第2話「仮面の中身」のテーマは「情報提供」です。
※原作(第2話)を読んでみたい方はこちら。
Chapter1:ED治療薬は正規品を
冒頭で前回登場した槇が、ネットで購入したバイアグラを誇らしげに麻生に見せるシーンがあります。
麻生は一瞬で偽物と見破り没収(泥棒!※これはフィクションです)。
更には出身大学の研究室に忍び込み、UV分析で「裏」も取ります。
(泥棒!※これはフィクションです)
麻生が説明した通り、バイアグラは処方箋医薬品です。
処方箋医薬品とは
医師の処方箋を必要とし、薬剤師による調剤によって処方される医薬品のこと。よって、病院・クリニック等で受診しなければ入手できない。
・・・・ただ、そのために病院行くのって、メッチャ抵抗感ありますよね?
だからこそネット流通品が横行し、今回の槙のような憂き目に遭うのです(高かったろうに、成分=乳糖とかボッタクリ)。
悩んでる方、せめてクリニックを受診するくらいの勇気は持ちましょう。
向こうは手慣れたものですから、テキパキ手続きしてあっという間に薬を出してくれます(馬鹿にしたりしないのでご安心を)。
個人的なおすすめはココ(各薬剤の特徴も詳しく解説されています)。
「随分と詳しいわね」
「お、俺は別の薬でお世話になってるだけ」
「別の薬?何の薬よ?」
「ん~、りゅうけんくんと同じ薬(笑)」
「誰それ?」
Chapter2:魔が差した妻
EDのことを多言した夏菜子に、宇倍は激怒して手を挙げてしまいます。
ふと、亜理亜薬局でもらってきたパンフレット「バイアグラの飲み方」を目にした夏菜子に、「良からぬ考え」が浮かびます。
やや難解だったかもしれないので、夏菜子の思考過程を追って解説します。
1.バイアグラと硝酸薬(狭心症の薬)が併用禁忌であることを知った
併用禁忌の理由は下記の通りです(※専門的な内容が含まれます)。
バイアグラも硝酸薬も血管拡張作用があるので、併用すると極端に血圧が下がり危険だからです(死亡例もあるほどです)。
私なんか、硝酸薬が出た男性の患者さんには、80歳であろうが90歳であろうが、「おちんちんが硬くなる薬は飲んじゃダメですよ」と説明してますから(大抵の患者さんは「そんなもん飲まん」と全否定します(笑))。
2.夫に狭心症の兆候があることに気づいた
時々胸に手を当ててましたからね(労作性狭心症、しかもメタボだし)。
3.完全犯罪の手口がひらめいた
殴られた直後だけあって、夏菜子に殺意が生まれます。
「バイアグラを飲んだ後に夫が狭心症で倒れたらチャンス!」
バイアグラの服用を隠せば、無防備で硝酸薬が使用されてしまうのです。
Chapter3:情報は害悪か?
最終的には夫婦はお互いの非を認め、ハッピーエンドとなりました。
しかし、もう少しこじれていればどうなっていたかわかりません。
単純に考えれば、夏菜子があのパンフレットを見なければ、亜理亜薬局があんなパンフレットを作らなければ、「こんなことにはならなかった」とおっしゃる読者の方もいるかもしれません。
しかし、それでは「アンパンチ論争」と同じではないでしょうか?
アンパンチ論争とは
アニメ「それいけ!アンパンマン」で、アンパンマンがバイキンマンへアンパンチを繰り出し、めでたしめでたしとなる展開の是非を巡る論争。反対派からは「暴力で解決」との考えを植え付けないか?との意見が出ている。
情報狩り、言葉狩りをしたところで、心に毒がある限り意味はありません。
「患者には情報を知る権利がある。すべての真実を知る権利が…」
我々薬剤師は、すべての情報を開示したうえで患者と接する仕事なのです。
今回はここまで。
次回は風邪薬の依存症になった女子大生の物語です。
Rp.3 2人に1人が誤解!?~身近なのに知らない風邪薬の正体~
(あらすじ)
風邪予防のための処方箋を亜理亜薬局に持ち込んだ女子大生の茜。しかし、麻生はそこに記載された薬の必要性をことごとく否定し、「全部いらねえなコレ」と処方箋を突き返す。薬局を出ようとする茜だったが、踵を返して「今、バカって言ったでしょ」と麻生に噛みつく。
第3話「いらないという選択肢」のテーマは「風邪薬」です。
※原作(第3話)を読んでみたい方はこちら。
Chapter1:風邪薬の存在意義
風邪薬の存在意義は「症状緩和」です。
ウイルス性疾患である風邪の治療は、基本的に対症療法(表面化している症状を緩和させ、苦痛を和らげるための治療法)で凌ぎながら自然治癒するのを待つほかありません。
風邪とは
原因の80 - 90 %がウイルス性の上気道感染症であり、主な影響は鼻に現れる。咽喉、副鼻腔、喉頭も影響を受ける可能性がある。症状はたいてい感染後2日以内に発生する。症状としては、咳、咽頭痛、くしゃみ、鼻水、鼻閉、頭痛、発熱、嗄声などが現れる。患者の多くは回復まで大抵7 - 10日間を要し、一部の症状は3週間まで継続し得る。他に健康に問題がある患者は、肺炎に進行する可能性がある。(Wikipediaより一部引用)
症状があれば、それを緩和する薬は服用して構いませんが、風邪自体を治す薬は存在しないのです(そんな薬ができたらノーベル賞ものです)。
病院の薬だと必要な成分だけに絞れるのでまだましと言えますが、市販薬となると、不要な成分まで服用することになるのでむしろ厄介です。
「でも…抗菌薬(抗生物質)なら効くでしょ?」
そんな声も聞きますが、大きな誤解です。
実は、風邪に抗菌薬は効きません。
しかし、アンケートを取ると国民の約半数は「効く」と答えるのです。
根深い「誤解」ですが、この機会に是非考えを改めてください。
「何もすんな」
「普通の石けんで手を洗い、水でうがいし、よく寝ろ。以上」
医学的には、麻生のこのアドバイスが最も的を得ています。
※抗菌薬の不適正使用に関しては、下記のブログもご覧ください。
Chapter2:薬物乱用のワナ
茜が親友・柚香と喧嘩した原因は、何と風邪薬による幻聴でした。
麻薬・覚醒剤・大麻・コカイン・・・。
薬物依存が問題となり得るのは、そんな違法薬物だけとは限りません。
風邪薬や咳止めの中には、覚醒剤の原料であるエフェドリンや麻薬の成分であるリン酸ジヒドロコデイン、興奮作用をもつカフェインなどが含まれている場合があります。
これらは、咳や頭痛を抑える一方で、飲み過ぎると眠気・疲労感がなくなり、多幸感や頭がさえたような感覚などの覚醒作用があります。
そのため、市販薬を違法薬物の「代替品」として使用される事例が多発し、拡大が懸念されているのです。
「薬っつうのは、必要なものを必要な量だけ摂るから有用なんだ」
「いらねぇもんを身体に入れると、思わぬ不幸に見舞われることがある」
麻生のこの言葉を聞き、自らの思い込みを反省する茜でした。
にしても、浜菱の頭の痛い天然ボケも、時には薬になるんだなぁ、って。
(かといって、依存症にはご用心)
今回はここまで。
次回は痴呆症の妻を介護する夫の物語です。
Rp.4 治せなくても救える~薬剤師ができること~
(あらすじ)
痴呆症の妻・幸子に導かれ亜理亜薬局を訪れた夫・八手。認知症の薬が苦くて飲めていないことを知った麻生は飲みやすい剤型への変更を提案するが、八手は「この薬を飲んでも治るわけじゃない!」と感情を爆発させる。後日、妻がここに来たがる理由が判明。その時、八手の気持ちに変化が…。
さて、「神回」と名高い第4話「忘れたくないこと」。
今回のテーマは「ジェネリック医薬品」です。
※原作(第4話)を読んでみたい方はこちら。
Chapter1:問診と薬薬連携
問診を「前にも病院で書いた」と拒否する八手に、麻生はこう言います。
「こんなクソつまんねぇこと、誰が用もなく聞くんだよ…」
麻生は問診が必要な理由を(クソ)丁寧に解説します。
・アレルギー・副作用歴
・食事の回数やタイミング
・今までにした病気(既往歴)
・車の運転・機械の操作
・アルコール・タバコ・牛乳・カフェイン・グレープフルーツジュース
・他に使ってる薬・健康食品
「そんなの…医者が出したんだから大丈夫だろ…」
八手はそう言い返しますが、それは「幻想」です。
短い診察時間で医師がチェックできることは限られていますし、疑義照会で処方変更となるケースは思った以上に多いのです。
「それ(問診)を拒否するとは、かわいそうなのは患者本人だなぁ…」
麻生のこの(嫌味な!?)言葉で八手は沈黙します。
・・・とは言え、とは言えですよ!(※ここからが舞台裏)
新しい薬局に行くたびに問診票を書かされるって、患者にとってはたまったもんじゃありませんよね?
まして体調が悪い時に、漏れなく記入できるとも思えません。
こんな「超」アナログな手続き、いつまで続けるつもりでしょうか?
そんな訳で、近年では「薬薬連携」の必要性が叫ばれています。
薬薬連携とは
病院・診療所と保険薬局の薬剤師が情報を共有し、患者さんが入院してからも、退院してからも安全で充実した医療を受けることができるように連携することです。 つまり、患者さんの情報をお互い交換しあって共有し、同じチームとしてより質の高い薬物療法を提供しようということです。
※高知県薬剤師会ホームページより
まだまだ地域差はあるものの、ネット上で患者情報を共有するシステムも整備されつつあります。
医療の質と安全性を担保するため、「ムリ・ムダ・ムラ」のない体制作りが急務となっているのです。
Chapter2:ジェネリック医薬品の本質
突然ですが質問です。
先発医薬品とジェネリック医薬品(後発医薬品)の有効性・安全性は・・・
1.同じである
2.先発医薬品が優れている
3.ジェネリック医薬品が優れている
煙に巻くようで申し訳ありませんが、正解は「ケースバイケース」です。
その証拠に今回のエピソードを振り返ってみましょう。
・先発医薬品にはない飲みやすい剤型のジェネリック ⇒ 3
・ジェネリックの添加物が合わなかった ⇒ 2
・オーソライズドジェネリック(AG) ⇒ 1
ね?一律に2(先発医薬品が優れている)という訳ではありませんよね。
「薬の有効性・安全性を落とさずに安価に治療ができる」
これこそが薬剤師がジェネリックに関わるメリットです。
米国で薬剤師が「国民から最も信頼される職業ランキング」で上位をキープしている理由がまさにコレです(詳しくは下記の記事をご覧ください)。
しかし残念なことに、「ジェネリックを容認しない医師」や「ジェネリックの提案に及び腰の薬剤師」が多いのが実状です。
個人的意見としては、観念論にとらわれ過ぎて、ジェネリック医薬品の本質を理解する努力が不足しているように感じています。
「患者ファースト」で、ジェネリックを適切に活用して欲しいと思います。
Chapter3:認知症の薬を飲む理由
認知症の薬(今回はドネペジル)には、病気の進行を抑える効果はありますが、認知症そのものを治すことはできません。
「薬なんか…意味あんのかよ、こんなもん!」
「治してくれよ…なんとかしてくれよ…!?」
悲痛な叫びを上げる八手を麻生が救います(感動の結末はご自身で)。
今回のエピソードで改めて実感できたことが二つありました。
一つ目は、認知症の薬は患者と家族を救うことができること
当初は「あの頃のお前はもうどこにもいない」と嘆いた八手ですが、「現状維持でもいい、ずっとこいつといたいんだ」と思い直すことができました。
二つ目は、薬剤師の資質は「感性」「知性」「根性」であること
別ブログ「アンサングシンデレラの舞台裏」でも述べた「感性」「知性」「根性」を、麻生も見事に兼ね備えていました。
感性 ⇒ 幸子が亜理亜薬局に来たがる理由に関心を持った
知性 ⇒ 認知症の薬とジェネリック医薬品に精通していた
根性 ⇒ 亜理亜薬局の場所は30年前まで米屋だったことを調べた
麻生は一体何者なのか?
毎回少しずつ伏線が敷かれていきますが、さて…!?
あと、もう1点だけ気になることが(長いな、今回は…)。
浜菱の持ってるコレ、何?(アメリカンドッグ?きりたんぽ?)
誰かおせえてぇ~(気になって眠れん…ウソ)。
今回はここまで。
次回はカフェインの落とし穴に関する話です。
Rp.5 薬を飲んで悪化したんだな?~薬と飲食物の相互作用~
(あらすじ)
婚約者の豹変に悩みを抱える苗美が亜理亜薬局へ相談に訪れた。抗うつ薬を飲み始めてから症状が悪化したことを知った麻生は、家宅捜索や張り込みを開始する。調査の結果、明らかとなった犯人とは…?
第5話「身近に潜む毒」のテーマは「カフェイン中毒」です。
※原作(第5話)を読んでみたい方はこちら。
Chapter1:飲食物との相互作用
「薬を飲んで悪化したんだな?」
麻生は持ち前の「感性」で相互作用の可能性に気づきます。
そして、恐らくは「知性」を発動し次の仮説を立てた筈です。
フルボキサミンを飲んで症状が悪化
↓
市販薬も含め、他に薬は飲んでいない
↓
フルボキサミンの作用が増強する「飲食物」を摂取しているのでは?
↓
怪しいのは「セント・ジョーンズ・ワート」か「アルコール」
もしくは「CYP1A2かCYP2C19で代謝される飲食物」
薬と相互作用のある(とわかっている)飲食物の種類はごく僅かです。
しかし、知らないと無防備に摂取されてしまう点で薬より厄介です。
知らずに併用して苦しんだり薬を止めてしまっている人は多いと思います。
さあ、そうとわかったら、あとは「根性」です。
家宅捜索 ⇒ 張り込み ⇒ 指紋鑑定
原因を突き止めるまで、飽くなき捜査が展開されます。
Chapter2:カフェイン中毒
導き出された犯人は「カフェイン中毒」でした。
エナジードリンクの過剰摂取に加え、抗うつ剤フルボキサミンがカフェインの分解を阻害して血中濃度を上昇させていたのです。
カフェインの主な作用は次の通りです。
1.興奮(覚醒)作用 ⇒ 眠気・だるさを取る
2.鎮痛補助作用 ⇒ 痛み止めに配合される
3.強心利尿作用 ⇒ 尿量が増えたり動悸を起こすことも…
4.呼吸中枢刺激作用 ⇒ 未熟児無呼吸発作の治療に使用される
近年、急性カフェイン中毒で救急搬送される若者が急増しています。
最大の原因は、コンビニコーヒーやエナジードリンクなど、カフェインを過剰摂取しやすい環境が整ったことと、カフェインに関する知識不足です。
カフェイン中毒から身を守るために知っておくべき点は次の2つです。
1.カフェイン含有量と摂取量の上限
≪主な飲料のカフェイン含有量≫
コーヒー:60mg/100mL(コーヒー豆10gを熱湯150mLで抽出)
インスタントコーヒー:57mg/100mL (2gを熱湯140mLに溶解)
紅茶:30mg/100mL(茶5gを熱湯360mLで1.5~4分間抽出)
煎茶:20mg/100mL (茶10gを90℃430mLで1分間抽出)
コカ・コーラ:35mg/350mL
(エナジードリンク)
・レッドブル(2006年~;80mg/250mL/本)
・モンスターエナジー(2012年~;142mg/355mL/本)
・コカ・コーラ エナジー(2019年;80mg/250mL/本)
≪健康を維持するために望ましいカフェイン摂取量≫
(成人;体重70kgとして)1日当たり400 mg(妊婦の場合200mg)
(小児)1日当たり3 mg/kg
※欧州食品安全機関(EFSA)より
※カフェイン400mgはコーヒー3~4杯分の量に当たります。
≪致死量≫ 1日当たり5~10g
2.グレープフルーツジュースやアルコールとの併用はなるべく避ける
これは意外だったかもしれませんが、実はあまり良くありません。
カフェインは想像以上に相互作用が多い「薬」なのです。
理由を詳しく知りたい方は下記のブログをご覧ください。
第1巻はここまで。
これ以降は、このブログ共々「第2巻」へと移ります。
次回は生活習慣病と向き合う親子の物語です。
病院薬剤師って素晴らしい!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。