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病院薬剤師が語る気になるクスリの話 第5話「痔疾用薬」

人に言えない「身近な」病気

今回は何と何と「痔の薬」を取り上げます。


ある日のこと、交番に落とし物を受け取りに来たうら若き少女。

少女「あの~、黄色い箱の・・・」

警官「はっ、黄色い箱の・・・あ、届いてますよ」

黄色い箱の「ハイボラギノールS坐剤」を取り出す警官。

警官「はい、ボラギノールSでしょ。早く治しなさいよ」

この少女が痔なのだと驚き、岡持ちを落とす出前持ち。

少女「ええ~、やっだー、お父さんのっ」


この「懐かCM」のように、「おじさんの病気」というイメージのある痔ですが、果たして本当にそうなのでしょうか?

父親をダシにしましたが、案外自分の薬だったのではないでしょうか?

なぜそう思うのか?

それは下記のCMをご覧ください。

ほ~ら、痔の薬って、女性が主人公のCMが結構多いでしょ?

統計上には現れなくても、性別を問わず人知れず痔で苦しんでいる方は相当数存在していると思われます。


痔とは、肛門付近の炎症や潰瘍、静脈瘤、化膿などの病気の総称です。

そのタイプは大きく次の3種類に分類されます。

・痔核(いぼ痔)
・裂肛(切れ痔)
・痔瘻(あな痔)

この中で市販薬による治療が向いているのは、「歯状線」と呼ばれる直腸と皮膚が合わさる部分よりも下側にある外痔核裂肛、それと歯状線より上に位置するGoligher分類(下図参照;ブログ「医療関係資格試験マニア」より転載)で第Ⅱ度以下の内痔核となります。

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第Ⅲ度以上の内痔核、一定期間薬を使用しても症状が改善しない場合は、早めに医療機関を受診するようにしましょう。

がん炎症性疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)などの恐ろしい病気が隠れている可能性もありますし、仮にそうでなくともあなた自身が決断しなければずっと一人で苦しむことになってしまいます。

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【経験者からのアドバイス】
かく言う私も、これまでに何度も痔核に苦しんだクチです。一番最初は中学生の頃だったと記憶しています。違和感と痛みのため集中力がなくなり、勉強どころではなくなっていました(恐らくⅢ度以上にはなっていたと思います)。その後も良くなったり悪くなったりを繰り返した訳ですが、恥ずかしくて自分の中では「病院にかかる」という選択肢はありませんでした。しかし大学生の頃、叔父が大腸がんで亡くなったことで肛門科を受診する決心がつきました。実際に行ってみると患者さんは沢山いるし、先生(美人な女医さんで恥ずかしかったですが、また来たくなりました(笑))や看護師さんも優しくて、「何でもっと早く来なかったのだろう」と後悔したことでした(異常は見つかりませんでした)。受診する勇気、大切ですよ。


主な痔疾用薬の種類と特徴

痔の薬の剤形には次の5種類があります。

❶坐剤 ❷注入軟膏 ❸軟膏 ❹内服薬 ❺注射薬(硬化療法)

❶~❹は、痔のタイプによって下記のように使い分けられます。

剤形別使い分け


痔の薬の成分は「お決まり」のパターンがあります。

まるでピザのように、抗炎症成分をベースに様々な成分がトッピングされているのです(*印は医療用医薬品)。

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A.抗炎症成分
炎症・腫れ・かゆみを鎮める成分です。比較的弱いタイプのステロイド成分か非ステロイド成分が配合されます。非ステロイド成分はともかく、ステロイド成分に関しては市販薬も病院の薬も大差はなく、「病院の薬が良く効く」という訳ではありません。

≪ステロイド成分≫
・プレドニゾロン酢酸エステル:ボラギノールA
・ジフルコルトロン吉草酸エステル:*ネリプロクト
・ヒドロコルチゾン酢酸エステル
 :プリザ、*プロクトセディル、*ポステリザン
≪非ステロイド成分≫
・グリチルレチン酸:ボラギノールM
・クロルフェニラミンマレイン酸塩:プリザエース軟膏
・ジフェンヒドラミン塩酸塩:プリザS軟膏
・大腸菌死菌浮遊液:*ポステリザン
・トリベノシド:*ボラザ、*【内服】ヘモクロン
・ メリロートエキス:*【内服】タカベンス
・静脈血管叢エキス:【舌下】ヘモリンド、*【舌下】ヘモリンガル
・ブロメライン:*【内服】ヘモナーゼ


【コラム】新しいタイプの薬「ヘモリンド」
昔は痔の薬と言えば外用薬(坐剤・軟膏)が主流。内服薬もあるにはありましたが、あまり効かない印象でした。そんな中、舌下錠という剤形で売り出し中の痔核治療薬が「ヘモリンド舌下錠」です。有効成分が舌の下(裏)から吸収され、血流にのって患部に直接届き、いぼ痔の原因となるうっ血を改善することでいぼそのものを小さくしていきます。元々は1963年から発売されていたのですが、2017年にリニューアルしたしたところ爆発的なヒットとなりました。舌下投与できるという手軽さ(飲み込むと効果はありません)や症状に応じて用法・用量を調節できる点が人気の秘密だと考えられます。

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B.局所麻酔成分
患部の感覚を一時的に麻痺させ、痛みやかゆみを鎮めます。

・リドカイン
 :ボラギノール、プリザエース、*ネリプロクト、*ボラザ、*ヘルミチン
・ジブカイン塩酸塩:プリザS軟膏、*プロクトセディル
・アミノ安息香酸エチル:*ヘルミチン

C.血管収縮成分
血管を収縮して出血を抑えるとともに、血液の流れを滞らせて有効成分を患部に留めます。

・テトラヒドロゾリン塩酸塩:フリザエース
・フェニレフリン塩酸塩:プリザS軟膏

D.殺菌成分
患部を殺菌し、細菌の感染を防ぎます。

・フラジオマイシン硫酸塩:*プロクトセディル
・クロルヘキシジン塩酸塩:プリザ

E.止血成分
様々な働きで出血を防ぎます。

・エスクロシド:*プロクトセディル
・次没食子酸ビスマス:*ヘルミチン

上記以外に傷の修復を助けるアラントイン、血液循環を良くするトコフェロール酢酸エステル(ビタミンE)、爽快感を与えるl-メントールなどの成分が配合される場合もあります。


【コラム】「オシリア軟膏」のマーケティング戦略
肛門のかゆみに特化した「オシリア軟膏」という薬が2014年に発売され、人気を博しています。このCM動画、この記事を執筆している時点で再生回数が何と400万回超!肛門のかゆみに悩んでいる方、我々の想像以上に多いようですね。ただ、その成分を確認すると、何のことはない痔の薬と大差ありません。痔の薬を買うのって、女性には結構ハードルが高いもの。ところがそれを「かゆみの薬」として発売することで、購買層のすそ野を広げるとは、「ヘモリンド」然り、さすがはマーケティング上手な小林製薬です。

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【コラム】「ぢ」の看板で有名なあのお店

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何だか今回はコラムが多くて申し訳ありません。しかし、痔の薬と言えばこれを外すわけにはいきません。そう、「ぢ」の看板で有名なヒサヤ大国堂「不思議膏」「金鵄丸」です。400年余の伝統を誇る痔疾用薬のパイオニア。しかし、その実態は秘密のベールに包まれており、薬剤師でも説明することはかないません。上述した通り薬物療法には限界があるため、過信は禁物ですが、長年積み重ねてきた研究と実績は確かなものだと思います。

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内痔核硬化療法(ALTA療法)
従来までは重症の痔疾のは手術しか方法がありませんでしたが、近年では内痔核硬化療法(ALTA療法)という選択肢が加わりました。ジオン注という薬を痔核内に投与することにより痔核を硬化・退縮させる方法です。手術適応である「脱出する内痔核」にも有効であり、内痔核を切らずに脱出と出血を治療できるようになりました。詳しくは次の動画をご覧ください。


痔との上手な付き合い方

痔のつらさは実際に経験した人にしかわかりません。

最後に痔を悪化させない、そして早く治すための秘訣を紹介します。


便秘・下痢に注意する

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痔の最大の原因は便通異常です。食物繊維の多い食事を摂って便秘を予防する、暴飲暴食を避けて下痢を防ぐようにするなど、日頃から規則正しい排便を心がけるようにしましょう。


トイレで長時間いきまない

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痔を予防する上で最も大切なのは、いきむ時間をなるべく短くすることです。目安は3分以内。トイレは便意を感じてから行くようにし、無理に出そうとしないことです。


排便後はお尻を清潔にする

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排便後のケアは、排便方法と並んで最も重要なポイントです。ご存知の通りしわだらけです。紙で拭くだけでは、そのしわに便をこすりつけているのとあまり変わりありません。便の中には刺激物質が含まれていますから、それでは痔をかえって悪化させることになりかねません。ウォシュレットがあれば理想的ですが、なければシャワーで洗い流す。あるいは、濡れティッシュや洗浄綿紙などでやさしく拭き取ることをお勧めします。


毎日入浴する

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入浴することによって体が温まり、肛門周辺の血行が良くなります。また、肛門も清潔に保たれることになります。お風呂以外でもカイロなどを使って腰を冷やさないようにしましょう。


長く同じ姿勢でいない

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長い時間座っていたり、立ったままでいると肛門がうっ血するようになります。時々軽い体操をするなど、適度な運動も心がけましょう。


アルコールや刺激物は控えめに

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コショウや唐辛子など香辛料の大部分は体内に吸収されず便として排泄されるので、肛門が刺激されます。また、アルコールを大量に摂取するとうっ血や下痢を起こし易くなるので、肛門に負担がかかります。


【経験者からのアドバイス】
先述の通り、私は頑固な痔核で何度も苦しみました。もしかしたら薬でどうにかできるレベルを超えていたかもしれませんが、この機会にそれをどうやって乗り切ったかを伝授しておこうと思います(注:個人の見解です)。

STEP1.最優先されるべきは「便秘の解消」
硬い便が貯まった状態では何をやろうと排便の都度悪化させてしまいます。酸化マグネシウムを多めに服用し、便をとことん軟らかくして出し切るようにします(最近では出口で固まった便を生薬由来のオイルでつるんっと出す便秘薬オイルデルなんてのもありますね・・・うわっ、また小林製薬か!)。便秘が解消すれば肛門への圧迫も軽減しますし、排便もいきむ回数も減少しますので、後々の治療にも好影響が期待できます。

STEP2.
「痛み」には鎮痛薬と軟膏の合わせ技
何せ痛いので集中力はなくなるわ、(経験者にしかわからないでしょうが)挙動不審となります(笑)。なので仕事をする上で痛みのコントロールは最重要課題です。私の場合、ロキソニンを内服し、肛門には軟膏(お気に入りは爽快感のあるプリザエース軟膏)を塗って乗り切っていました。内服薬はともかく外用薬はサボるとなかなか治りません。少し良くなったからと油断せず、当分は毎日欠かさず続けることです。

STEP3.お風呂で「押し込み」チャレンジ!?
毎日入浴すべきなのは言うまでもありませんが、腫れが引いてきたら湯船の中で痔核を押し込んでみます。もちろん肛門を傷付けてばい菌が入ったら元も子もありません。やさしく、やさしく。上手くいけば引っ込んだままとなり、翌朝には嘘のように原状復帰している筈です。


・・・とまあ、経験談を交えてお話してきましたが、やはり硬便とそれをいきんで出そうとする行為が一番マズいようですね。二度の大腸がん手術を経て、大腸の長さが生まれた頃の半分となった今では硬便になることも減り、それに伴い痔で苦しむこともなくなりましたが、今回の記事が少しでも皆さんのお役に立てば幸いです。


まとめ動画を作ってみました。おさらい用にどうぞ。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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