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最後まで戦い抜いたドライバーの大団円——アブダビGP

フェルスタッペンがポール・トゥ・ウィンの完勝で、自身の持つ年間最多勝記録を「15」に伸ばした。焦点となったドライバーズランキング2位争いはルクレールがハードタイヤで58周レースの後半37周を走り切り、2ストップ作戦を採ったペレスの追い上げを際どく阻止した。メルセデスは振るわずチームランキング3位にとどまり、ハミルトンはキャリア初の年間勝利ゼロに。ベッテルは作戦ミスにより苦しい戦いを強いられたが、引退レースを10位入賞で締めくくった。

王座決定後の消化レースとは思えないバトルや駆け引きがあちこちで見られたレース。フェラーリも今回ばかりは「俺たち」を封印し、引き締まった最終戦となった。

フェルスタッペン快走も、ペレスへの直接介入はせず

予選はフェルスタッペンとペレスが1-2となり、4年ぶりにレッドブル勢がグリッド最前列を独占した。スタートでフェルスタッペンの加速が若干鈍ったが、ペレスの追い抜きは許さず、トップで1コーナーを駆け抜けた。

表彰台は年間ランキング上位3人と同じ顔ぶれ、同じ順番となった

前戦サンパウロでチームオーダーにまつわる軋轢があった2人だが、週末を通して2人が会話する場面も多く見られた。若干ペレスの表情がぎごちないように邪推してしまうが、人間関係のしこりは杞憂かと思われた。

ただ、コース上でフェルスタッペンが能動的にペレスを助けるシーンはなかった。レース序盤やタイヤ交換後に2秒前後の間隔で隊列走行したのはペレスにトゥを与えて引っ張るサポートと取れなくもないし、無線で自身のタイヤの状況を伝え、「チェコ(ペレス)にも全力で攻めろと伝えてくれ!」とゲキを送る言葉も飛んだが、ペレスのために2位ルクレールのアタマを押さえる、などの行動はしなかった。

今年のマシンでブロックをしても、ルクレール相手では隙を突かれて抜かれるだけかもしれないし、フェルスタッペンにしてみれば「ランキング2位が欲しければ自力で取れ」との意識の表れなのかもしれない。もっとも、ペレスは「それなら去年のアブダビは一体何だったんだ?」と言いたいだろうが。

フェラーリ、ルクレールの1ストップで腹を括る

レース33周目。3位ルクレールは2回目のタイヤ交換による2位ペレスのアンダーカットを狙ったが、その動きはレッドブルに筒抜けで、ペレスにタイヤ交換の先手を取られた。(フジNEXT解説の川井一仁氏は「ピットイン指示の無線のタイミングが早すぎる」とダメ出ししていた) ペレスはルクレールの19秒後方から、残り25周を使っての追い上げを開始した。

各車のタイヤ交換戦略

今年のフェラーリはこのような状況で、ルクレールに新品タイヤを履かせるかそのまま走らせるかで優柔不断に陥り、結局タイヤを潰すレースが多かった。

しかし、今回のフェラーリはペレスのタイヤ交換を許したタイミングで、ルクレールを最後まで走らせると腹を括った。ルクレールもチームの期待に応え、ペレスの追い上げを1周あたり0.7秒前後に抑える熟練の走りを見せた。ゴール時のタイム差は1秒3。計算はピタリと合った。

今年のルクレールは作戦ミスや不運に散々足を引っ張られてきたが、最後にチームとの歯車が噛み合い、ドライバーズランキング2位が舞い込んだ。1ストップで腹を括る判断もそうだが、ライバルより履歴の浅いタイヤでも積極的にアンダーカットを試みること自体、今シーズンでは珍しい動きだ。優勝ではないものの、フェラーリが久々に引き締まった戦いをみせたことで、来季に向けた一筋の光明が見えた気がする。

(追記:ルクレールはレース後、「無線はペレスにピットストップさせるための陽動作戦だった」と語ったらしいが、本当かね!?)

レース残り2周、ピットストップ1回分のタイム差を追い上げたペレス(奥)

3位に終わったペレスは悔しさでやや目が潤んでいるよう。要所でハミルトンやバトル中の周回遅れに前を塞がれ、不運といえば不運だったが、このレースに関してはルクレールとフェラーリが一枚上だった。レッドブルはドライバーズランキング2位を逃し、今シーズンの完全制覇はならなかった。

ベッテル、好バトルも1回交換作戦が足を引っ張る

このレースでタイヤ1回交換作成が成功したのは、フェルスタッペンとルクレールの2台だけ。同様に1ストップを狙ったハミルトンは縁石によるフロア損傷も影響してハンドリングに苦労し、のちにギヤシフトに問題を抱えてリタイア。9位リカルドもレース終盤になるにつれてペースが落ちていった。

(※11/21訂正:1ストップ成功は2台だけ、と思ったが、ハミルトンはトラブル発生前までサインツとラッセルに先行していたし、リカルドも14番グリッドからの9位入賞なら作戦成功と考えてよさそうだ。ベッテルの追い上げを受けたため誤解したが、リカルドのペースは安定していた)

そして、引退レースという人生の花道で、最も作戦ミスの割を食ったのがベッテルだった。序盤は10位アロンソを後ろに従えてオコンとの壮絶な8位争いを繰り広げたが、ミディアムタイヤでの25周スティントは引っ張りすぎで、2ストップの上位勢に抜かれる一方となった。

レース前、ベッテルのマシンにやってきて握手するアロンソ

レース終盤は同様に1回交換作戦を採ったリカルドとの9位争いとなったが、追い抜きの決め手に欠け10位でゴール。ハミルトンのリタイヤで入賞圏に繰り上がったのはラッキーだが、序盤にバトルをしたオコンが7位、2回交換作戦を採った同僚ストロールが8位に入っているので、ベッテルが2回交換なら7位の可能性は十分あった。

燃え尽き症候群も同然でサーキットを去ったドライバーや、苦しみながらも引退レースで最後の見せ場を作ったドライバー、最後まで不運に泣かされたドライバーなど、これまで十人十色の引退模様を見てきたが、「ドライバーもマシンも実力がありながら、チーム側の作戦ミスで不完全燃焼を余儀なくされる」パターンは初めて見た。

レース後のベッテルは笑顔ではあるものの、表情には物足りなさがありありと浮かび、「戦術に苦しんだ」と語った。いいように書けば、オフェンスからディフェンスまで、フェルスタッペンとルクレールを除くほとんどのドライバーと絡みがあったレース、となるかもしれないが、う〜む。

ベッテルには不完全燃焼の思いをどこかで晴らしてほしい気がする。来年の日本GPのスポット参戦でもいいし、なんならスーパーGTやスーパーフォーミュラでもいいのだが。

花火とともにアブダビの夜は更けて。。。

フェルスタッペンのチェッカーの際に派手な花火が吹き上がり、ホームストレートではランキング上位3人が最終戦恒例のドーナツターンを披露した。

ほぼ周回遅れのタイム差でゴールしたベッテルは、真打ち登場とばかりに最後にホームストレートに戻ってきた。4回チャンピオンにふさわしい、美しいドーナツターンを見せる。

ベッテルのドーナツターン

チャンピオン経験者のアロンソとハミルトンがともにリタイアし、王者の共演が実現しなかったのが残念だが、ソロだからこそ気品があり、過去のアブダビで出色の出来と言っていいほど美しいドーナツターンだ。

いったんF1のレギュラー参戦を離れるリカルドやシューマッハも、無線でチームへの感謝を伝え、チームも彼らに労いの言葉をかけた。リカルドのステアリングのダッシュボードには、昨年イタリアGPで優勝したときの集合写真が映し出された。そんな機能があるんだ!

画面に映る派手な花火よりも、彼らのおごそかな無線の方が印象に残った。

今年全力で戦ったドライバーたちの大団円——。と思ったが、アロンソは最終戦に至ってもアルピーヌのPUトラブルが出たことで愛想を尽かし、レース中にサーキットを出たようだ(※というツイートが流れたように見えたが、真偽不明)。それが本当ならアロンソは良くも悪くもアロンソで、本記事の表題も『大団円マイナス1』が正確な表現、ということになる。

(※11/22訂正:アロンソはサーキットを退出しておらず、レース後にオコンやクルーらと記念撮影をしたようです。失礼しました)


ウィリアムズは育成ドライバーのサージェント昇格が確定とみられ、来季ドライバー全20人のラインアップが出そろった。来年がどのようなシーズンになるか楽しみだ。


筆者より

今年からブログにレースレポートを書き溜めましたが、それが1年続くとは思いませんでした。レースを見るたびに、書きたいことがたくさん出てくるような、濃密な1年でした。日本GPのコース巡りの記事など、書きかけで放置したものがたくさんありますが、いったんお休みにしたいと思います。今シーズン、ご覧いただきありがとうございます。


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